実写映画

全方位忖度映画「リトル・マーメイド」実写化映画レビュー

3.0
リトル・マーメイド 実写映画
リトル・マーメイド
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評価 ★★★☆☆(50点) 全135分

『リトル・マーメイド』|9/20 MovieNEX発売|予告編

あらすじ トリトン王の娘の中で最も若く、最も反抗的なアリエルは、海の向こうの世界をもっと知りたいと願い、陸の上を訪れるうちに、勇敢なエリック王子と恋に落ちる。引用- Wikipedia

全方位忖度映画

本作品はリトルマーメイドの実写映画作品。
監督はロブ・マーシャル、制作はウォルト・ディズニー・ピクチャーズ

ポリコレ

本作品は上映後よりも上映前のほうが話題沸騰の作品だった。
リトルマーメイドの主人公であるアリエルが「黒人女優」を演じることになり、
いわゆるポリコレ的な改変として批判の声が大きく上がった。

最初にいってしまうとこの改変に関しては映画を見た限り
あまり良かったとはいい難い部分がある。
本作でアリエルを演じているハリー・ベイリーは
姉妹デュオ「クロイ&ハリー」という歌手として活動をしている。
つまり本業は歌手だ。

それだけに歌唱シーンは素晴らしいものがある。
特に序盤のパート・オブ・ユア・ワールドは
アリエルの人間世界、地上のあこがれを歌から感じることができるほど
歌唱による感情の表現は素晴らしいものがある。

しかし、実際のところ原作と言えるディズニー版リトルマーメイドでは
「アリエル」が歌っているシーンは少ない。パート・オブ・ユア・ワールドだけだ。
あとはカニであるセバスチャンの曲がほとんどであり、
アリエルの歌唱シーンと言えるのは本来は1曲だけである。

だが、この作品はそこも大胆に改変している。それが違和感の原因にもなってしまっている。
彼女が「黒人か?白人か?」というのはこの際どうでもいい。
彼女が白人でリトルマーメイドのアリエルそっくりの見た目だったとしても、
違和感が生まれる改変が行われている。

アンダーザーシー

わかりやすいのは「アンダーザーシー」だ。
リトルマーメイドの代表曲であるこの曲は「セバスチャン」が
海の仲間とともに「アリエル」に対して地上なんてろくな場所じゃない、
海のほうが素晴らしい、海こそ最高だ!と伝える曲だ。

この曲の映像表現は本当に素晴らしい。
海の世界の住人たちのきらびやかな描写、1匹1匹の動きまで
細かく描かれたディズニーらしい映像表現の魅力と、
見た目は完全なカニであるセバスチャンの歌声とあいまって
素晴らしいシーンになっている。

しかしながら、ここで問題がある。
アリエルがセバスチャンの「アンダーザーシー」という歌声にハモりだす。
意味がわからない。
アリエルは人間の世界に行きたくてしょうがない、魔女に魂を売り渡しても、
声を失っても彼女は人間の世界に行きたかったほどだ。

そんな彼女がセバスチャンのある種の説得のシーンで
「アンダーザーシー」とハモってしまうのは違和感しか無い。
「海って素晴らしいよね?地上は最悪だよ?」という歌に
アリエルは同調してはアリエルというキャラの行動原理が崩れてしまう。

彼女の「歌声」という武器を活かすために、
アンダーザーシーに参加させてしまっている。
彼女が白人だろうが、黒人だろうが、
アンダーザーシーでアリエルはハモってはいけないはずだ。

演じている人が歌手だからこそ、彼女の歌唱力を活かそうとして
意味がないどころか、意味不明になってしまう改変が行われている。

歌うんかい!

このアンダーザーシーのハモりだけなら、まだ飲み込めたが、
その後の展開もちょっと飲み込めないものがある。
アリエルがアースラに人間にしてもらう代償として声を奪われ、
3日の間にキスをしなければならないという部分は変わらないものの、
そこに「キスをする」という目的を忘れられる魔法までかけられてしまう。

これは必要だったのか?と感じるところだ。
人間の姿になったアリエルはのんきに王子とデートしたりと
このあたりは原作のリトルマーメイドと変わらないものの、
スカットルやフランダー、セバスチャンが
約束を忘れていることを嘆き、せかしたりもする。

別に忘れていなくても良かったはずだ。
ただでさえアースラは邪魔をしてきたりと厄介なキャラなのに、
約束を忘れる魔法まで賭けてしまうのはやり過ぎ感は否めない。
このあたりの改変はちょっと意味不明なものになっている。

この作品で1番意味不明なのは地上でも歌うことだ。
人間の姿になったアリエルは当然「声」を奪われて歌うことがデキない。
だが彼女は「心の中」で歌ってしまう。
地上にきた喜びや感情を歌うシーンなのだが、
これは原作では「表情」で見せていた部分だ。

アリエルを演じている人が歌手だからこそ
「演技」ではなく「歌」で感情表現をしようとしているのはわかるが、
声を奪われたアリエルが心の中とはいえ歌ってしまうのは
相当な違和感が生まれている。

物語終盤では鳥の「スカットル」も歌い出す。ラップだ(苦笑)
ちなみにスカットルを演じているオークワフィナさんはラッパーだ。
もう役者への忖度が過ごすぎる作品だ。
キャラクターに寄り添うのではなく、役者に寄り添ってしまい、
無理やり彼らが歌手だから歌わせている感じが凄まじい。

アリエルの心の中の歌声の歌といい、スカットルの歌といい、
この作品での新曲の印象まるで残らない。特に王子の歌は必要性を感じない。
映像的な面白さも他の曲のシーンと比べて一切ない。

アリエルの表情の演技に関してもあまり良いとはいえず、
そんな演技力のなさを心配して歌唱シーンを入れたのかもしれないが
それが違和感に繋がっている。

余談だが、彼女が王子様を助け海から見守っているシーンは
彼女の表情とあいまってややホラーに見えてしまった。
「まってろよ…かならず地上へ行くからな…」というような
セリフが聞こえてきそうなほどだ(苦笑)

フランダー

アニメ版のリトルマーメイドの
アリエルはお転婆で元気な女の子という感じだが、
実写版のリトルマーメイドのアリエルはどこか気だるそうな感じすら
見えるシーンも有り、アニメで描かれていた「表情」の豊かさはない。
それは彼女に限ったことではなく海の生物たちもだ。

セバスチャンとスカットルは蟹と鳥ではあるものの、
コミカルなシーンも多いせいか次第に見た目にもなれる部分がある。
特にセバスチャンはリアルすぎる蟹だからこそ、
歌唱シーンでは独特なシュールさすらうまれており、
「キス・ザ・ガール」の歌唱シーンはおもわず笑ってしまったほどだ。

ただ問題はフランダーだ。完全に魚である。
アニメ版は魚ではあるものの、そこに明確な顔があり、
そんな顔による感情表現が可愛らしいフランダーの魅力にもなっていたが、
実写版では海の生物たちの感情表現がセリフでしかできていないため、
歌わないフランダーは完全に魚にしか見えなかった。

トリトン王やアースラの演技は完璧であり、
特にアースラはこれぞ実写版という完璧な見た目をしている。
アニメ版よりも「恐ろしさ」というのを感じられる存在感が在り、
そんなアースラがいるからこそ余計にアリエルの演技力のなさが
際立って見えてしまう部分もある。

終盤ではアースラが人間の姿で地上に訪れるのだが、
この人間の姿を演じている「ジェシカ・アレクサンダー」さんが
本当に美しく、見た目で比較していけないことはわかるのだが、
「ハリー・ベイリー」さんではなく彼女がアリエルを
演じたほうが良かったのでは…とすら感じてしまった。

王子様

この作品である種、1番改変されているのが王子様だ。
アニメ版ではイケメンでいいやつな王子様という印象で、
そんな彼にアリエルが一目惚れするという流れだが、
今作は見た目に惚れただけじゃないことを強調する改変が行われている。

彼はこの国の王と王妃の本当の息子ではない。
王である父がなくなり、王妃は彼を後継者にしようとしているが、
彼は「海」に憧れを持っている。
狭い城に閉じこもるのではなく、どこまでもどこまでも、
誰もたどり着いたことがない場所に行きたいとすら思っている。

アリエルと似た境遇になっている。
アリエルも母を失っておりトリトンという海の王の娘として
厳しくしつけられている中で地上への憧れを持っている。
逆に王子様は父を失って王妃の息子として厳しく育てられ
海へのあこがれを持っている。

ただイケメンだからというのではなく、
アリエルと王子様が海と地上という場所は違えど、
似たような境遇ということに改変されている。
これは素晴らしい改変の1つだろう。

アニメ版は地上と人間へのあこがれは在りつつも、
イケメンだから惚れたという安易な展開であることは否めなかったが、
実写版はそこに同じ境遇という要素を付け足すことで、
王子のキャラクターにも深みが生まれ自然なストーリーになっている。

アニメ版は現代的な価値観でいえばルッキズムであり、
だからこそ現代の実写版では「イケメン」というキーワードを使わずに
二人が惹かれ合う様が丁寧に描かれている部分もある。

個人的に王子様がアリエルの名前を当てるシーンは1番いい改変だと感じた。
アニメ版では適当な名前を言っているなかで
セバスチャンが耳打ちするという展開だったが、
実写版では「星座」の話をしている中で名前をあてるシーンになり、
「アリエス」という名前の星座を言う中でアリエルが唇に指を当てて
自分の名前を言わせるシーンに改変されている

ものすごくロマンチックだ。
このシーンだけでいえばアニメ版を超えていると感じるほど
素晴らしい改変が行われていると個人的には感じる部分だった。

理解者と旅へ

大まかな流れはあまり変わっていない。
王子様といい感じになるものの結局キスはできず、
そこにアースラが人間に化けて現れて王子様を奪ってしまう。
そんな策略に気づいたアリエルたちがアースラと対峙し、
声を取り戻すものの時間が切れてしまい、アリエルは海へと連れされてしまう。

展開としては終盤までの流れはほぼ変わらない。
王子様の掘り下げや細かい改変などはありつつ、
そのあたりが素晴らしいと感じたり、ちょこちょこと蹴躓くように
気になるところはあるものの、無難な仕上がりだ。

ラストは大改変されている。
アニメ版ではアリエルは王子様と結婚し幸せに暮らしました、
めでたしめでたしという感じだが、
これは「女性を家に閉じ込める」と考えることもでき、
自立した一人の女性という現代的な価値観にそぐわない部分もある。

だからこそ王子様も家を出る。
アリエルとともに誰もたどり着いたことがない場所へと
船で旅立つラストは王子様を掘り下げたからこそできた
現代的なラストと言えるかもしれない。

アリエルと父の関係性もより深く描かれており、
だからこそ、二人の別れのシーンも感動的に描かれているが、
その一方で終盤で大量に海から顔を出す多種多様な人種の人魚たちの
絵面はどこかホラーじみたものを感じさせてくれるラストだった(苦笑)

総評:良い改変と悪い改変のごった煮

全体的に見て、見れば楽しめる作品であることは間違いない。
現代の技術で描かれる海の世界、アンダーザーシーの歌唱シーンは
とくにきらびやかなものになっており、リアルな蟹になってしまったセバスチャンだからこそ
どこかシュールな魅力も生まれており、アニメ版と同じく彼には愛着を持てる。

アニメ版ではイケメンだから惚れたという感じだったが、
実写版では似た境遇の王子様に改変されており、自然なストーリーになっており、
名前当てのシーンのロマンチックさはアニメ版にはないものだ。
ラストも改変したからこその展開になっており、納得のできる展開になっている。

その一方で気になるところもある。
アンダーザーシーにハモっちゃうアリエル、別にいらないスカットルと王子様の歌、
声を奪われたのに心のなかで歌うアリエルなど歌のシーンで気になるところも多く、
アリエルを演ずる「ハリー・ベイリー」さんの演技力も厳しいものがある。
アースラの人間の姿を演じていた「ジェシカ・アレクサンダー」さんの
演技力と美貌が素晴らしかっただけに余計に感じてしまうところだ。

良い改変もあるが悪い改変もある。
そんなごった煮状態で手放しに「素晴らしい実写化だ!これぞリトルマーメイド!」
と褒めることはかなり厳しい部分がある。
ポリコレ云々の前に気になってしまう改変も多く、
決して名作とは言えない。

だからといって駄作と切り捨てるほどでもない。
だからこその「50点」という点数だ。
せめてアンダーザーシーでハモラなければもう少し点数を上げられたのだが、
あそこでハモってしまったことは本当に納得がいかない部分だった。

個人的な感想:忖度

作品全体で色々な方面への忖度を感じる作品だった
ポリコレはもちろん、現代的な価値観への改変、
演じている俳優たちへの配慮からの曲数の増加など、
面白い部分もあることにはあるものの、
そのあたりの変化でちょこちょこと蹴躓くような作品だった。

今後、ディズニーの実写化では白雪姫が控えているが
果たしてどうなることやら…

「リトル・マーメイド」に似てるアニメレビュー

要約

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  1. 匿名 より:

    アンダー・ザ・シーのときのミル貝とかがデフォルメされていなかったのが少し気持ち悪かったが、そこ以外は良かった。特に木村昴