評価 (90点) 全12話
あらすじ 主人公勝生勇利は23歳のフィギュアスケート特別強化選手。実力はあるが、初出場したグランプリファイナルで、メンタルの弱さからの大敗が響くなど、その後も大きな大会へも選抜されずに自身のシーズンが終了となる。ス引用- Wikipedia
氷に舞う愛の物語
本作品はTVアニメオリジナル作品。
監督は山本沙代、制作はMAPPA。
本作品のプロトタイプとして「日本アニメーター見本市」にて
ENDLESS NIGHTという作品も制作されていた。
2017年に劇場版が発表されたものの、2020年の段階で続報はない。
どこにでもいるフィギュアスケート選手
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 1話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
今作品の主人公である勇利は「どこにでもいるフィギュアスケート選手」だ(笑)
何処にでも居ないだろうというツッコミはさておいて、
彼は日本の田舎から世界に羽ばたこうとしていた選手だったものの、
メンタルが弱く、プレッシャーに負け、試合で結果を出せなかった。
そんな彼が落ち込んでる所にロシアの「ユーリ」が罵声を浴びせる。
憧れていた選手と対等な立場で試合を挑めると思ったのに挑めなかった。
スポーツアニメにありがちな「挫折」から始まる物語だ。
コーチとの契約も解消し、大学も卒業し、今後どうなるかわからない。
「未来」が見えないフィギュアスケート選手だ。
しかも、オフシーズンで太ってしまっている(笑)
こんな主人公がどう成長し、また氷の舞台の上に立つのか。
サクサクと小気味よく進むストーリーは王道であり、
王道であるからこそシンプルに先が気になる。
フィギュアスケート
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 1話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
この作品はフィギュアスケートを題材にしている、当然、滑るシーンが有る。
1話で衝撃を受ける作画だ。はっきりいっておかしい。
TVアニメの1話の「作画枚数」としてはありえないほどの枚数を使いまくり、
鳥肌がたつほどの演技を見せてくれる。
氷の上を滑る音、なめらかすぎる選手の動きは妖艶さすら感じさせ、
技を出せば氷が飛びちり、ライトに反射し、回転の印象を強く印象づけ、
あえて「カメラ」に角度をつけることで氷の上で滑ってることを際立たせ、
彼らの演技に虜になる。
「ENDLESS NIGHT」の時点では未完成だった。それが完成したと実感できる。
「フィギュアスケート」というものの表現を
アニメの中でここまでこだわっている作品は他にはないと断言できる。
挫折していた主人公もずっと挫折しているわけではない。
この作品はいい意味でテンポがいい、長い間落ち込むわけじゃない。
彼はあこがれの選手の演技を完コピし、そんな彼の演技とあこがれの選手である
ヴィクトルの演技を同時に見せることで彼の再起と未来を期待させる。
そして、そんな彼の憧れである「ヴィクトル」が
彼のコーチになるところから物語が動き出す。
ユーリ
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 3話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
ロシアのユーリはもうひとりの主人公と言える。
彼は勇利と同じく、ヴィクトリに憧れ、彼と約束をし、
ジュニアからシニアへと上がろうとしている。
そんな悩んでる中であこがれの人が大会で最下位になるような
日本人にご執心だからこそ気になって仕方ない。
ある意味で三角関係だ(笑)
ヴィクトルという選手をめぐる二人のユーリの争いといってもいいかもしれない。
そこに恋愛感情はないものの、「あこがれの選手」に対する思いは
二人とも変わらない。
比較されるからこそ主人公も悩む。
自分自身に自信がなく、自分よりも、もうひとりのユーリのほうが
ヴィクトルのコーチを受けるのがふさわしいんではないかと。
一方でもうひとりのユーリは自信満々だ。二人のユーリの対比が素晴らしく、
主人公も悩みはするものの、ウジウジとはしないからこそ話が重くならない。
1話1話、30分があっという間に終わる。
間延びさせないストーリー構成は見ていて爽快感すら感じるほどだ。
表現力
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 3話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
フィギュアスケートはスポーツではあるものの「演じる」という側面がある。
表現力という点数にしにくく、曖昧なものは時に
採点において素人から見ると分かりづらい部分もある。
この作品はそんな「表現力」を追求し描いている。
アニメだからこそ実写よりも「誇張」された表現だ。だからこそわかりやすく、
より見てる側にフィギュアスケートにおける「表現力」と
「演技」というものの感じさせてくれる。
曲で表現し、イメージしているものを自分の中に取り込み、
それを「自分なり」に解釈し、それを自分自身を使って表現する。
何度も何度も練習し、何度も何度も自分を見つめ直すことで
その「表現」という名の演技が彼らの動きや「表情」で伝わる。
練習シーンではそれは敢えて伝わらないようにしている、
本番のシーンで見ている側に彼らがたどり着いた表現を突き刺すように魅せる。
ときには完全に理解しきれず辿り着けないこともある。
辿り着けず、理解できないからこそ悔しさが走る。
実写の、本来のフィギュアスケートでは見えない選手たちの
「内面」もきちんと描くことで、より彼らの演技が伝わる。
3話における「エロス」を表現し踊る主人公。
普段の彼とは真逆とも言える表情はぞわっとするほどの感覚と、
そこからの演技はエロスの塊。
激しい動きの中での細かい表情の変化、ミスをした際の立ち直りと
演技の後の表情、最後まで「目が離せない」シーンだ。
目を開け、口すらも開け、魅入ってしまう。
やりたいことを
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 4話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
この作品はきちんとフィギュアに関しても説明してくれる。
採点方法や大会の仕組みなどを簡単にではあるものの、
説明してくれることで「フィギュア」というものを
知らない人にとってもわかりやすい。
そんな中でもきちんとストーリーを進める。
ヴィクトルに教えられ、アドバイスを受け、
自分自身のフィギュア選手人生を改めて見つめ直し、
今までしてこなかったことをする。
今まで他人に決められた曲で、振り付けで彼は挑んできた。
しかし、今回は違う。自分がやりたい曲で自分が考えてた振り付けで彼は挑む。
曲名は「YURI ON ICE」だ。
1度は諦めかけた舞台に、氷の上に勇利がまた舞い戻る。
再起にふさわしい曲はタイトルに繋がり、思わずにやけてしまう。
本番
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 5話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
選手として再起した1発目だ。だが、戸惑いやミスもある。
「技」を意識しすぎて演技を忘れる。
本番だからこそ「得点」があり、採点されるからこその焦りだ。
それが見ていて伝わる、痛いほど伝わってしまう。
点数は高いものの、本人もコーチであるヴィクトルも納得がいかない。
彼らが目指すのは90点ではない、100点だ。
そんな彼のファンも居る。同じ選手として彼に憧れ、
いきいきと舞う「南健次郎」は良いキャラクターだ。
「こんな自分にも」憧れてくれる人がいる。そんな「南健次郎」の
演技を見たからこそ、彼の中の選手魂のようなものも燃え上がる。
コーチに止められていた技なのに、彼は一人の男として、
誰かに憧れられる選手として、今自分にできる最大限に挑もうとする。
ミスをしても良い、点数が下がっても良い、
「負けず嫌い」な彼の演技には心を掴まれる。
地方大会の、たった1話しか出ないようなキャラクターもきっちりと印象が付き、
それなのに地方大会はたった1話しか描かれない。
テンポが1話から崩れず、そのテンポの速さが気にならないほど1話1話が濃い。
ヴィクトルを奪った男
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 6話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
勇利は世界的に有名な選手を「奪った」男だ。
彼はまだ現役でやれる、ヴィクトルにも悩みがあるとはいえ
選手だった彼をコーチにして独り占めしている。
世界的なライバルが集い、彼らの演技を見て、同じ大会にでるからこそ、
勇利はヴィクトルの「愛」に答えようとする。
誰もが選手復帰を願う男をコーチにした勇利は言う。
「ヴィクトルを求めてる人は僕がどんなふうに滑ったって納得しないだろう
僕を応援してる人だって今まで通りじゃ納得しない
それなら世界からヴィクトルを奪った男として思いっきり嫌われたい」
序盤から中盤まで彼は「カツ丼」に対する愛でエロスを表現していた。
しかし、中盤から違う。
フィギュアに対する、ヴィクトルという憧れの選手に対する
「自分自身」の中にある愛を彼は表現する。
「僕じゃなきゃヴィクトルは満足できない。
ヴィクトルの愛を知っているのは世界中で僕しかいない」
全く同じ曲だ。曲は変わらない。だが、表現力が違いすぎる。
表情には余裕が生まれ、動きは完璧、見ていて「気持ちがいい」と
感じるほどの快楽すら感じさせる演技に飲まれる。
緊張
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 7話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
思わず1位になってしまった勇利は思わぬプレッシャーを抱えてしまう(笑)
練習でも失敗し、精神的に追い込まれてしまう。
もともとはプレッシャーに弱い選手だ、それゆえに彼は実力を出しきれなかった。
そんな彼の緊張など他の選手は知らない。
他の選手も彼の愛に影響され、気合が入る。
完璧な演技を見せられた他の選手達はより完璧なものを、
彼に勝とうと本気で挑んでいる。ライバルの選手たちにも物語があり、
そんな彼らも「ヴィクトル」に対するあこがれと思いがある。
だからこそ勇利には負けていられない。
それが彼を余計に追い込む。
そんな追い込まれた彼をコーチである「ヴィクトル」は追い込む。
結果的にそれは失敗とも成功とも言える。
選手として完璧な彼もコーチとしては未熟だ。
互いが互いを成長させている。
プレッシャーに追い込まれてた勇利はどこへやら、
彼の「想像を超える演技」に思わずキスしたくなるほどだ。
勇利という主人公にヴィクトルと同じように
恋愛のような感情すら湧き上がってくる。
世界
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 7話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
大会が進んでいくと、キャラクターが非常に多くなる。
そんな多いキャラクターたちを有名男性声優さんたちがコミカルに演じることで、
出番がそこまで多くないキャラもきちんと印象づけており、
彼らの演技も、彼らのキャラ付けと個性になっている。
だからこそキャラの多さがそこまで気にならない。
あまり出番のないキャラでもきちんと演技を見せてくれる。
彼らの物語を、彼らの演技をもっと見たいと思わせるほど
癖の強すぎるキャラクターたちがあまりにも魅力的だ。
特に8話に出てくる「J.J」は会場を巻き込むほどの演技だ。
演じてる「宮野真守」さんのノリノリな演技もあいまって、
強烈すぎる印象を生む。
他にもクールな韓国人選手、妹大好きな選手、彼女に振られた選手etc…
どの選手も本当に魅力的だ。
短いながらも彼らの物語が描かれることで、
そんな選手たちとの戦いだからこそ大会が盛り上がる。
余談だが9話の「妹大好きな選手」の
愛の終わりの演技は何故か私は強烈に涙腺を刺激されてしまった。
美しさ
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 12話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
もうひとりのユーリは勇利のエロスとは違い、美しさを極めている。
大人へと移り変わる少年の体だからこその
しなやかさが美しさを生んでおり、そんな彼が無償の愛を舞う。
勇利だけじゃない、彼も成長している。
限界を超えた演技を終え、結果につながる彼の姿は微笑ましい。
憧れのヴィクトルに教わらなくても彼なりにたどり着いた結果だ。
ライバルの存在が、勇利が居たからこそ彼もここまで成長できた。
勇利もヴィクトルが居ない中で舞う。
いつもそばにいてくれた彼が居ない中で彼は彼のことを考える。
考え事をしているせいかミスは多い、だが、
彼が居ないからこその「切なさ」を感じる演技だ。
見ているときに見ている側も緊張して、終わったときに深い溜め息をついてしまう。
曲は変わらないのに、そのときの選手の技術やメンタルで
毎回本当に違った印象を与えてくれる。
GPファイナル
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 7話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
終盤、挑むのがGPファイナルだ。勇利とヴィクトルの二人の絆は愛を超えている。
ペアリングをして挑む彼の演技。だが、演技だけではライバルに勝てない。
ライバルに勝つために彼は難しい技に挑戦する。
自己満足ではない、選手として、勝つために、
なによりヴィクトルのために彼は飛ぶ。
ミスで悔しさに沈む彼の表情に胸を苦しめられる。
そんな彼にもっとも影響されるのがコーチである「ヴィクトル」だ。
彼は選手として迷い悩み、そんな中で勇利と出会った。
コーチとして一人の選手を育てる喜びを感じる中で、
自分にはこれから彼に何を教えられるのだろうと悩む。
もう一人のユーリはヴィクトルが居ない中でたどり着く、無償の愛。
挑戦的な表情ではない、少年の体を持つ彼のしなやかさと
愛の表現はGPファイナルにて完成する。
GPファイナルは魔物だ。それまで自信たっぷりでミスがなかった選手が
ミスをすることもある。
それぞれの選手の物語が終盤で極まってくる。
選手生命
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 12話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
最終話、勇利とヴィクトルは少し揉める。
勇利は選手としてのヴィクトルを求める気持ちが強い、憧れの彼だからだ。
「ずっと一緒に続けたい、でも競技者としてのヴィクトルを少しずつ殺している」
それと同時にこれで終わりにしようとも思っている。引退だ。
フィギュア選手の選手生命は短い。短いからこそ、儚く美しいのかもしれない。
人生の半分をヴィクトルにあこがれ、目指してきた彼が舞うファイナル。
静かで美しい演技はまさに集大成だ。
憧れが、彼への愛が演技の中で表現される。それは彼を超える結果を生み出す。
二人のユーリにヴィクトルは負ける。彼も選手だ、まだ枯れていない。
だが、同時にコーチで居たいという気持ちも捨てきれない。
二人が最後に選んだ答え、二人のエキシビジョン。
物語の結末は「いい最終回だった」と思わずこぼしてしまうほどの作品だった。
総評:氷のように透き通ったフィギュアスケートアニメ
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 12話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
全体的に見て素晴らしい完成度の作品だ。
選手として落ちこぼれてしまった主人公の再起の物語を描きつつ、
「ヴィクトル」との関係性を深めつつ描かれる物語は王道であり、まっすぐだ。
変にシリアスにならず、うだうだもせず、サクサクと描かれるテンポは心地よく
一人ひとりの選手の物語も際立っている。
作画も本当に素晴らしく、同じ曲で演技しているのにも関わらず
表情や技の描写、カメラアングルを巧みに使い分けることで
毎回印象が違い、心地の良い「氷の削れる音」とライトに反射する氷や
衣装、汗の輝きが美しく表現され、選手ごとの個性を感じる描写がされている。
キャラクター数は多いものの、ひとりひとりのキャラが
しっかりとキャラ立ちしており、やや終盤駆け足すぎる部分はあったものの、
1クールですっきりとまとまっており、
これからの二人を想像させるラストに仕上がっている。
まっすぐなフィギュアスケートアニメを、まっすぐに見せてくれた。
一本、貫き通した芯を感じる作品だった。
個人的な感想:BL?
画像引用元:ユーリ!!! on ICE 6話より
©はせつ町民会/ユーリ!!! on ICE 製作委員会
ややBL的なシーンはあり、そこが気になる人もいるかも知れないが、
精神的な意味合いが強く、別に同性愛者という感じでもない。
やけに裸のシーンは多いものの、そこはご愛嬌だろう(笑)
同性愛というよりも師弟愛に近い。
劇場版でどんなストーリーを、どんな演技を見せてくれるのか。
今から楽しみで仕方がない。
さて、公開はいつだだろうか(苦笑)
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