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光輝け!令和のクラゲ達「夜のクラゲは泳げない」レビュー

©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会 青春
©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会
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評価 ★★★★☆(60点) 全12話

オリジナルTVアニメ「夜のクラゲは泳げない」本PV | 4月6日放送開始

あらすじ “私”も誰かみたいに輝きたい。明日話すべき話題も、今週買うべき洋服も、全部スマホ(トレンド)が教えてくれる。引用- Wikipedia

光輝け!令和のクラゲ達

本作品はTVアニメオリジナル作品。
監督は竹下良平、制作は動画工房

今どきJK

1話冒頭から「今どき」のJKの会話が繰り広げられる。
インフルエンサーが紹介する化粧品を使い、バズるネタを探し、
Tiktokやインスタグラムに自撮りや動画を上げる。
SNS全盛期に生きる今どきのJKなのが主人公だ。

だが、あくまで主人公は普通だ。量産型といってもいい。
どこにでもいる普通のJK、だが、唯一違うのは
彼女は子供のときにイラストレーターとして活動していたことだ。
とある出来事で絵を描くことをやめた少女は
「何者にもなれない」自分に悩んでいる。

右に倣えな今どきJKだ。なりたいものや好きなものがない。
みんなが好きなものが好きで、みんながなりたいものに憧れる、
しかし「これ」といったなにかがない。

SNSというものが流行ってしまったからこそ、
特別でない少女がある日、突然特別な存在になる可能性が
わずかながらにある、僅かな可能性であることは分かっている、
いくら自撮りを上げても、動画を上げてもバズることはないことは
分かっている。しかし、上げ続けるのがイマドキの子だ。

かつては特別だったかもしれない、しかし、それは過去のことだ。
過去に自分が書いた絵の前で歌って踊る少女に文句すら言えない。
だが、文句を言ってくれる少女に彼女は出会う。
ガール・ミーツ・ガール。
光り輝くことをやめてしまったクラゲは、光源で小さく輝き始める。

動画工房らしい可愛らしい女性キャラクターの描き方は
1話から目を引かれる。
何気ない日常、少女が朝の準備をして着替えをする、
そんなシーンですらフェチズムを感じる描写がしっかりとあり、
コロコロとコミカルなアニメ的に変わる表情が動画工房らしさを感じる。

主人公が出会ったのは元アイドルな少女だ。元イラストレーターと、元アイドル。
過去に1度は光り輝いた少女たちが出会うことで物語が動き出す。
1度は何者かになった少女が、もう1度光り輝くことに憧れる。
1度、味わってしまったからこそ、1度光ってしまったからこそ、
その輝きに少女たちは囚われている。

匿名少女

元アイドルな「山ノ内 花音」は過去に炎上した経験があり、
そんな経験があるからこそ素顔も本名も隠したまま
匿名アーティストになろうとしている。
自分をバカにした人たちを見返したい、
もう1度光り輝きたいのが彼女の思いだ。

そんな彼女が主人公に「イラスト」を依頼する。
彼女は主人公のファンであり、長年、彼女の絵に見惚れてきた。
だからこそ偶然の出会いをチャンスと思い、依頼する。

だが、肝心の主人公は断ってしまう。
主人公は特別になりたいという思いはあれど、
自分は特別な存在に離れないという自己否定をしている。

ある日、急に自分がバズってインフルエンサーになるわけでもない、
アイドルになんて慣れない、ある程度以上の年齢を積み重ねると
「自分」というものが客観的に見えてくるのが10代の少年少女だ。
過去に1度イラストレーターとして評判になったものの、
友達に自分の絵をバカにされたことで彼女はイラストを描くことをやめてしまっている。

1度の否定が、自分の可能性を見えなくする。
だが、「山ノ内 花音」という少女にであったことで、
自分と同じく1度は表舞台から姿を消してしまった彼女の今をみることで、
彼女はもう1度、自分の可能性を見定める。

仲間集め

そんな1話を過ぎると、悪く言えばテンプレ、
よく言えば王道の展開になる。「部員集め」という名の「仲間あつめ」だ。
歌は歌えるが曲も書けず絵もかけない、
絵はかけるが曲も作れる歌も歌えない、
そんな二人では匿名アーティストとしては未完成だ。

曲を作るための知識も機材もない。
そんな二人の前に現れるのは「山ノ内 花音」のファンである
「高梨・キム・アヌーク・めい」だ。
彼女は覆面をつけた「山ノ内 花音」を見つけ、
彼女のもとに押し入っている。

コミカルかつテンポの良い会話劇が心地よく、
展開としてはテンプレな部活系アニメのノリがあるのだが、
動画工房らしいキャラの可愛らしさの描き方と
コミカルな会話劇のおかげで、王道の面白さに仕上がっている。

そこに今、トレンディな要素が加わっている。
「高梨・キム・アヌーク・めい」は推しを神聖視している、
だが、肝心の「山ノ内 花音」はもうアイドルの「橘ののか」ではない。
黒髪は金髪になり、名前すら捨てている。

もう「橘ののか」は居ない、過去のものだ。
だが、そんな過去に「高梨・キム・アヌーク・めい」はすがりついている。
自分にはなかった好きなもの、憧れたものを彼女は求めている。
今の姿は彼女にとって解釈違いだ、しかし、それを彼女は受け入れる。
推しが変化しても、変わらぬ愛を捧げる、ファンの鏡だ。

それどころかファン時代よりも近い立場にいる「友達」だ。
推しと友達という状況も彼女にとっては解釈違いではあるものの、
そんな論理的な思考よりも、友だちになれた幸せな感情が
彼女を突き動かす。

丁寧なストーリー運びとキャラクター描写のお陰で
一人ひとりにしっかりと愛着を持てる。
非常に丁寧な作品だ。

VTuber

この作品はとにかくトレンディな要素を入れている。
匿名アーティスト、イラストレーター、推しやアイドル、
更に「VTuber」という要素も出てくる。
主人公の幼馴染であるVTuberは絵を動かし、リミックスし、
動画を作るスキルを持っている。

だからこそ、主人公が描いたイラストを動かしてもらおうとする。
主人公にとって彼女はヒーローだ、
子供の頃から自分というものに自信を持ち、
「キウイ」という変わった名前すら受け入れ、堂々としている。
だが、そんな彼女は「引きこもり」だ。

主人公にさえそんな事実を言えず、過去の自分のままの自分を演じ、
VTuberとしても同じように虚勢を張っている。
だが、そんな去勢がふとしたきっかけで主人公にバレてしまう。
彼女は過去の自分にすがっている、あの頃のように今も過ごせていたら。
そんな思いがあるからこそ幼馴染である主人公に嘘をつき続けている。

不登校になった原因も些細なことだ。
自分の好きなことを周囲が受け入れてくれず、
今までの自分と同じようにやっているはずなのに
高校生な同級生は大人になり、どこか子供じみている彼女を受け入れてくれない。
変われない自分、変わっていく周囲、それを彼女は受け入れきれなかっただけだ。

そんな閉じこもってしまった彼女、光を失ったクラゲを、
主人公は再び光らせようとする。
光を失った少女たちが、互いを照らすことで再び輝き出す。
序盤の段階できっちりとした方向性が見え、
一人ひとりの愛着をモテてしまう作品だ。

アイドル

「山ノ内 花音」は元アイドルだ、元々所属していたアイドルグループは
暴力沙汰で炎上しやめてしまっているものの、
元々所属していたアイドルグループは再始動しようとしている。
だからこそ、彼女には「焦り」がある。

自分がやめた場所が再び光り輝こうとしている、
自分から抜け出し、自分からやめた場所だが、
だからこそ気になってしまう。
やめたからこそ負けたくはない、負けたくはないからこそ焦る。

そんな気持ちを他の3人も分かってくれる。
腹を割って、自分たちの内情を過去をさらけだし、
4人が交流を深め、4人が仲良くなっていく。それが作品につながっていく。
丁寧なストーリーが本当に心地よく、
リズミカルな会話劇と動画工房らしい作画が会話劇を飽きさせない。

そんな4人の友情がバズりにつながる。

誹謗中傷

ネットで目立つことは現代では成功につながる。
バズることはそのきっかけにすぎない。
だが、同時に多くの人の目に晒されるからこそ「誹謗中傷」も出てくる。
8万再生された動画、5000RTされ広がったSNSの中での、
たった1つのツイート、それが刺さる。

主人公は特別になりたい、輝きたい少女だ。
何者かになりたい、そんな思いがある。
しかし、4人のうちの3人は自分以上に特別だ。
だからこそ「自分」がここにいる意味はあるのかと自問自答してしまう。

自分より特別な人、自分がやるよりうまくやる人は多くいる。
上には上がいる、それが世界だ。
SNS、インターネットの世界は広い、広いからこそ、
自分よりも特別な存在が多くいることを実感してしまう。

自分と他人、SNSやインターネットというものがなければ
比較しなくてもいい存在まで比較してしまう。
それがインターネットというものだ。

実際に目の前にいるわけでもないのに、比べる必要はないのに、
SNSでのつながりが人と人の距離を近くし、
リアルな世界よりも多くの人と「自分」を比べてしまう。
特にSNSの場合は「数字」でそれが現れる。
再生数、いいねやRTの数が物差しになり突き刺さる。

それでも主人公は負けない。
自分の絵を好きだと素直に言えるように、
3人に負けないように、他の誰でもない、
自らの輝きを強くしようと彼女は努力する。

ちょっとした誹謗中傷や百合要素なども在りつつ、
彼女たちの躍進は止まらない。

世界は難しい

中盤で彼女たちは自らの未来を考える。
光を失ったクラゲたちはインターネットの世界で
もう1度光り輝けた、100万再生も間もなくだ。
1度挫けてしまい、立ち上がったからこそ未来を考える。

今の自分を見定めて、将来どうなりたいのか。
「モラトリアム」を生きる彼女たちは未来を見ようとしている。
現実を、今をしっかりと見定められたからこその未来に
視線を向けられるようになっている。

行く道がはっきりと決まってるものもいればそうでもないものもいる。
それが若さであり、青春だ。だが、世界は度し難い。
匿名で活動しようとしている彼女たちを暴こうとするものも居る。

一歩間違えばとんでもなくシリアスになりそうな作品だ、
設定だけみても過去に暴行事件を起こしたアイドルや引きこもりなど
現代的なトレンディな要素を扱ってるだけに
シリアスな展開にもなりそうな部分がある。

しかし、この作品は重くなりすぎる一歩手前で
明るい展開へと切り替わる。ある意味ご都合主義ではある、
なんやかんやでうまくいく展開が多く、
そのあたりはご都合主義感はあるものの、
重くないからこそ肩の力を抜いて現代的な少女たちの日常を楽しめる

だが、それも中盤までだ。
踏み外しそうで踏み外さなかった一歩を終盤では踏み外す。

認められる

彼女たちは誰かに認められることを望んでいる。
誰かに、世界中のみんなに、顔の見えない誰かに。
だが、1番に認めてもらいたいのは身近にいる誰かだ。
「山ノ内 花音」にとっては母だ、
だが、暴行事件を起こした結果、母との関係性は悪化している。

その原因は元いたアイドルグループのメンバーが
「暴露系」のYouTuberを匿名でやってしまったことを
知ったことが原因だ。その末の暴行が母との関係性を悪化している。

そんな母と主人公が仕事をすることになる。
主人公もまた誰かに認められることを望んでいる、
大きな舞台での仕事、自らの絵を認めてくれた
「山ノ内 花音」の母は彼女の理解者だ。

それを「山ノ内 花音」を認めることができない。
自分が居たから主人公は絵を描くことができた、
自分が居なければ彼女は泳げないクラゲのままだった。
心の何処かで思っていた気持ちが、本音が漏れ出てしまう。

母のために、母に認めてもらうために彼女は歌っていた。
だが、母は自分を見放した。もう1度、自分を見つけてもらいたい。
それが彼女の歌う理由だ。
だが、彼女ではなく主人公のことを母は求めてしまった。

丁寧なストーリーの積み重ねが終盤のシリアスで生きてくる。
歌えなくなったクラゲ、多くの少女を導いた彼女が
光を失ってしまう。
だが、そんなクラゲに光を灯すのもまたクラゲだ。

「高梨・キム・アヌーク・めい」は歌わないクラゲだ。
音痴であるという自覚があり、曲だけを作っていた。
そんな彼女が歌い出す、誰かに光らせてもらってきた彼女が、
自ら光り輝く。決してうまいわけじゃない、
あまりにも下手くそな叫びが不器用な歌声が涙腺を刺激する。

終盤

ただ、この10話が1クールのピークだったようにも思える。
11話では不登校で引きこもりな「キウイ」の問題を描きつつ、
主人公が自分らしい絵を求めていく。

キウイの自分らしさへの追求は物語の中で描くべき
エピソードだったとは思うものの、10話でのピークは超えられず、
もう少し早い段階でやるエピソードだったのでは?と感じてしまった。

終盤の主人公が受けたイベントに彼女たちのユニットを
巻き込む流れになるのはやや強引だ。
何者にもなれず、何をしたいのかもわからなかった主人公が
「山ノ内 花音」という光り輝くクラゲに導きかれて、
イラストレーターになり、やりたいことが見つかる。

「山ノ内 花音」は母という縛りから抜け出せないまま、
歌う理由を見いだせなかった。
そんな彼女が「過去」という縛りから抜け出し、
多くの光り輝くクラゲに影響され、彼女ももう1度光りだす。
そして、そんな彼女を母も認めてくれる。

やりたいことはわかるものの、
終盤までに積み重ねた問題を一気に片付けすぎてしまっている感じも強く、
いまいち最後のライブに感動もできず、
主人公と「山ノ内 花音」の仲直りも、かなり「山ノ内 花音」が
強烈なことを言ったのにそれでいいのか?と思う部分もある。

物語を1クールという尺で片付けるために
色々と早急な感じや詰め込んだ感じもあり、
そのあたりがやや惜しいと思う印象は残るものの、
令和のトレンドを詰め込みまくった先鋭的な作品だった。

総評:これぞ令和のトレンディドラマ

全体的に見て現代的な女子なSNS的なつながり、
歌い手、VTuberなどのトレンドな要素を詰め込みまくった作品だ。
10年や20年前では在り得なかった作品であり、
暴露系Youtuberの存在など、ものすごくトレンドな作品だ。

そういった意味も込めて令和のトレンディドラマとも言える作品だ。
序盤から中盤はそんなトレンドな要素と
丁寧なキャラクター描写の積み重ねに浸りつつ、
百合な関係性や10話での彼女の叫ぶような歌声までは
盛り上がりをきちんと感じる作品だった。

しかし、8話くらいまでは丁寧にストーリーを積み重ねてた印象だったが、
9話くらいからは1クールで話をまとめるための展開になり、
シリアス一歩手前で踏み込んでいたストーリーが、
シリアスに踏み込むことで、1クールでストーリーを
まとめるための消化作業になっているのは気になるところだ。

全体的に見れば面白い作品であり、印象に残る作品なのだが、
名作と言うには1歩足りない。惜しい作品だ。
キウイのエピソードをもう少し早めに描き、
二人の主人公ともいえる存在の関係にももう1歩踏み込んでほしい、
そう感じてしまう部分がある。

喧嘩からの仲直りもあっさりしており、
百合要素も匂わせるだけに終わっている。そのあたりの
「ドライさ」というのもある種、トレンディなのかもしれないが
あくまで個人的にはもう1歩踏み込んでほしかった。

気になる部分はあるものの、エンタメ性に優れた作品であり
「今」の時代に「今」の若い子が見ると
刺さる作品だと感じる作品だった。

個人的な感想:バンドアニメ

2024年春アニメは妙にバンド系アニメが多く、
この作品もバンドというのは少し違うかもしれないが、そんな中の1作だ。
特に序盤は部活系アニメみたいなノリもあり楽しめた作品だったが、
終盤は盛り込んだ要素の消化に追われてしまった感も否めない。

動画工房らしい作画はさすがだ、
ただ、それを感じたのは序盤から中盤くらいまでで、
最終話のライブシーンなどはそれほど目を見張るものはなかったのは
やや残念なところだった

とにかくトレンディな要素を詰め込んだ先鋭的な作品だ。
歌い手、イラストレーター、VTuber、引きこもり、YouTuber、SNS。
そういった要素をうまく使いながらストーリーが描かれていたものの、
1クールで消化するには少し盛り込みすぎたのかもしれない。

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