評価 ★★★★☆(63点) 全13話
あらすじ 不登校の中学2年生夜守コウは、ある日、初めて誰にも言わずに、夜一人で外に出る。引用- Wikipedia
人類皆、社会不適合者
原作は漫画な本作品。
監督は板村智幸、制作はライデンフィルム
夜
この作品はタイトルの通り「よふかし」を描いている。
なんてことない普通の中学生男子である主人公は不登校になり、
「不眠症」になってしまう。
寝れないことへの苛立ち、明日への不安、夜が明けることに対する
どうしようもない焦燥感が彼を夜の帳へと足を運ばせる。
この夜の雰囲気は素晴らしい。余計なBGMもなく、静かで誰もいない。
自販機や街灯の眩しさを際立たせるような
「闇」の演出がどこか見る側の心の不安を掻き立てつつも
「夜」の魅力を感じさせる。
このあたりの演出は監督が「化物語シリーズ」を手掛けた人であり、
シャフトの人間だからこそのものだ。
いわゆる「シャフ度」などの構図もあったりと、
制作会社は違えど、作品全体でどこかシャフトの匂いを感じる。
そんな中で主人公は不思議な少女に出会うところから物語が始まる。
ボーイミーツガールだ。
何もない少年が特別な少女と出会うことで物語が始まる、
古今東西のアニメにおけるベタ中なベタな始まりではあるものの、
その舞台が「夜」だからこそ蠱惑的な雰囲気を生んでいる。
なにかいけないことをしている。なにか間違ってるのかもしれない。
「夜」の孤独が不安と期待を入り混ぜさせたような感覚をうみ、
その不思議な感覚をこの作品は常に漂わせている。
不思議な少女は「眠れない」人の相談に乗り、解決しようとしている。
彼女はなにものなのか、なにが目的なのか、
やたら露出のある「少女」の格好がいけないなにかを妄想させ、
フェチズムを感じるキャラクターデザインが余計に期待させる。
どこの誰とも知らない人についていってはいけない。
少女は「食事」のために眠れない人間の相談にのっている。
彼女は「吸血鬼」だ。
吸血鬼
唐突なファンタジーな設定ではあるものの、そこが重要ではない。
別に血を吸われてからといっても吸血鬼になるわけでもなく、
死ぬわけでもなく、操られるわけでもない。
人が吸血鬼になるためには吸血鬼に恋をし、血を吸われなければならない。
そんな吸血鬼と出会った少年は吸血鬼に憧れる。
普通であろうとし、まじめであろうとし、正しくあろうとした。
しかし、そんな自分を女子とのいざこざの中で否定され、
今までの自分の生き方そのものを否定されたような気分になっている少年は
「普通ではない」ことへのあこがれを持ち、吸血鬼になろうとする。
どこかポエミーな台詞回しとモラトリアム全開な
人間下院系の描写は気恥ずかしささえ感じる部分がある、
まさに「夜」を舞台にした作品だからこその気恥ずかしさだ。
深夜に書いてしまった自分の小説を読み返すように、
綴った詩を詠うようにこの作品は綴られている。
ハイセンスに描かれた「夜」の雰囲気、
怪しげに光る紫のライトと妖艶な「吸血鬼」の存在が、
そんな気恥ずかしさをうまくかくし、
最近の言葉で言えば「エモい」雰囲気を全開に描いている。
食欲と性欲
吸血鬼にとって「食事」である「吸血行為」そのものが「繁殖行為」だ。
食欲と性欲、吸血にとってはそれは同義だ。
誰かを食べてしまいたい、誰かの血を吸いたい、
その衝動は食欲であると同時に性欲でもある。
人間にとって本来は食欲と性欲は別物だ。
食事をしても子供ができるわけではない、
他人とまぐわっても腹がみたされるわけでもない。
そこが吸血鬼と人間の大きな違いだ。
だが、吸血鬼になるためには吸血鬼に恋をしなければならない。
人間との恋でさえ、よくわからない主人公にとって、
性別はおろか「種族」すら違う二人の間には
広くて深い溝がある。
主人公以外の血を吸う行為、それは吸血鬼にとってはあたりまえだ。
だが、人間の価値観で言えばそれは「浮気」という行為になる。
性別の違いだけでなく、種族の違いを徐々に、徐々に埋めていく。
その相互理解という名の会話劇の中で、
二人の距離が近づいてゆく。
友達
主人公は別になにかしたわけじゃない。
ただ同級生の女子からの告白を断っただけだ。
たったそれだけのことで女子からちょっと攻撃され、
それが原因で「学校」という社会そのものに馴染めなくなってしまった。
彼はそもそも明るい人間ではない。
しかし、それでも「学校」という社会に馴染むために、
少しだけ無理をして明るい普通の人を装っていた。
無理があるからこそ、ちょっとしたきっかけでそれができなくなってしまう。
自分を偽っていたことはなんだったのか、
偽っていた自分の周囲に居た人間はなんだったのか。
「学校」とはなんなのか、「友達」とはなんなのか。
思春期だからこその悩みが彼の頭の中を回り続ける。
その中で彼の前に「友達」が現れる。
小学生のころに自分を友だちといってくれた彼女は、
今もなお自分のことを「友達」といってくれる。
しかし、彼には「友達」がなんなんのかがわからない。
吸血鬼と自分、二人だけの夜の世界に「友達」が混ざる。
彼女との会話の楽しさ、友達という存在への思いはあれど、
彼の中の「吸血鬼になりたい」という気持ちは変わらない。
学校とは「普通の人」を作り上げるのにはもってこいの場所だ。
社会から逸脱せず、普通の存在、普通の人、犯罪をおかさない人、
変なことを言わない人を作り上げるためのものでもある。
「教育」することで純真な子供は普通の人に、社会適合者を作り上げる。
だからこそ、そんな学校という社会で主人公は普通でいようとした。
しかし、彼は普通ではない。普通ではいられなかった。
友達も、恋も、異性も、彼にとってはわからない。
それなのに「わかる」ことを学校や社会という場所は強いる。
彼は社会不適合者だ。この社会では生きづらい、生きづらさを感じている。
たとえ自分のことを友達と呼び、そんな友達から学校においでと誘われても、
彼はその誘いには乗れない。
「吸血鬼」という普通とは違う、社会には馴染めていない存在と
出会ってしまったがために、そういう生き方も「できる」ことを
知ってしまったがために、彼は自らが「社会不適合者」という
「吸血鬼」へのあこがれを止められない。
だが、同時に「普通」への憧れもある。
吸血鬼である「七草ナズナ」という社会不適合者と、
友達である「朝井アキラ」という社会適合者の二人の間に
主人公である「夜守 コウ」が挟まれ、彼は揺れ動く。
吸血鬼にはなりたい、だが、恋という「普通」の感情が
自分の中に生まれるのが怖い。
このまま夜の帳にいていいのか、本当に吸血鬼になっていいのか。
14歳の少年の心は緩やかに変化していく。
夜の社会
中盤になると一気にキャラクターが増えてくる。
人間だけではなく「吸血鬼」もどんどん出てくる。
彼女たちは普通の人間とは違う暮らしをしている、
繁殖行為と食事のために人間の血を求め、それぞれのやり方で、
吸血行為をし、眷属を増やしている。
人間と吸血鬼では価値観は違う。
しかし小さいながらも「社会」は存在している。
そんな夜の社会の中で「七草ナズナ」という吸血鬼は異端児だ。
眷属を増やさずに、食事だけをしている。
彼女だけじゃなく他の吸血鬼とのかかわり合いの中で、
主人公も「夜の社会」を学んでいく。
吸血鬼になろうとしている少年が吸血鬼の社会を学ぶことで、
人間との社会の違いや価値観の違いを感じる。
面倒くさければ血を吸い付くして殺してしまえばいい。
吸血鬼にとって人間とは本来「食料」だ。
気に入ったものだけを、自分に好意を向けたものだけを眷属にする。
人間にとっては本来は敵とも言える存在なのかもしれない。
「騙されて」吸血鬼になったものもいる。
吸血鬼になりたくてなったわけではないものもいる。
美しく甘美な夜の世界を見たあとに、彼は夜の深淵に隠れている罪と悪も知る。
そんな夜の社会を垣間見ながら、自分が望むように
「吸血鬼」になった人間の姿も見つめながら彼は自分の中での
心の整理を続けている。
まだ友達も、恋も、吸血鬼も、人間もよくわからない。
それでも彼は少しずつ学び続けていく。
なぜ自分が「吸血鬼」になりたいのか。
もしかして、自分はこのままではいいんじゃないのか。
ずっと彼女のそばにいるのに恋愛感情を抱けないのは
そもそも、そういった感情が「欠落」しているからなのではないか。
そんな葛藤が彼の中に渦巻いていく。
中学生
やや大人びているものの主人公はまだ14歳だ。
夜へのあこがれ、普通ではないと思っている自分と、
それを肯定してくれる「彼女」の存在に酔いながら吸血鬼に想いを寄せている。
だが、話が進めば進んでくるほど現実が見えてくる。
吸血鬼は血を10年吸わなければ死に、悪い吸血鬼もいる。
吸血鬼を恨んでいる人間も多くいる。
人間と同じように吸血鬼の中にも悪いやつがいる。
そんな夜の社会の悪い部分を見てしまったからこそ、
彼は悩んでしまう。
しかし「夜の楽しさ」を彼は知ってしまった。
知ってしまったからこそ、普通ではない世界を知ったからこそ、
もう後戻りはできない。
1クールの区切りとしてはそういった決意表明的な感じで
終わっているのがやや残念ではあるものの、
シンプルにここから主人公がどう「恋心」を自覚するのかは
気になるところだ。
総評:夜の帳へようこそ
全体的に一言で言うなら「エモさ」を感じるような作品だ。
シャフトで数多くの作品を手掛けてきた「板村智幸」監督の
センスを感じる夜の雰囲気は素晴らしく、特に光の演出は印象的だ。
「夜」という本来は黒一色の世界にひかる人工的な光の数々を
場面ごとに使い分け、夜の帳をおしゃれなものに仕上げている。
そういった演出や「吸血鬼」という設定のせいもあるが、
どこか化物語を彷彿とさせる部分もある。
1期の時点ではそこまでバトル要素はないものの、
演出や設定が「化物語」っぽさを強く感じる部分がある。
しかし、化物語と違うのはこの作品は
「社会不適合者」というものを扱っている点だ。
やや無理をして社会に馴染もうとし、普通になろうとしていた主人公。
だが、ちょっとしたきっかけで無理ができなくなり、
「吸血鬼」と出会うことで自己肯定できるようになる。
だが夜の世界にも「社会」がある。
そんな夜の社会の中で主人公が少しずつ吸血鬼の少女と近づきながら、
自分の中の考えをまとめ、成長していく。そんな物語だ。
きちんとしたテーマ性と物語があり、基本的に会話劇で綴られているが、
フェチズムあふれるキャラクターデザインと、
フェチズムあふれるシーンの多さが刺激を呼び、
奇抜な演出とあいまって会話劇という画面に飽きがきやすいものを、
飽きさせないようにしている工夫がなされている。
ただ、中盤からキャラクターが増えすぎている感は否めない。
1度出るとしばらく出てこないキャラクターも多く、
基本的に会話劇で進む本作品において、
キャラの多さはやや欠点になっている部分もある。
このあたりは2期があれば彼らの再登場に期待したいところだ。
作品全体でシャフト作品のような癖はややあり、
「モラトリアム」を題材にしているからこそ、ややポエミーな部分もあって、
見る人によっては気恥ずかしさを感じる部分があるかもしれないが、
1話の時点で刺されば最終話までしっかりと楽しめる作品だ。
個人的な感想:厨二病
久しぶりに、いい意味での厨二病感を感じる作品だった。
明言してこそ無いにしろ「社会不適合者」のメタファーになっている
吸血鬼たちのキャラクターも魅力的で、
不登校や社会不適合者、自分を普通ではないと思っている考えを
緩やかに肯定している物語は刺さる人には刺さる作品だ。
個人的にはいっそのことライデンフィルムではなく、
シャフトに作ってほしかったと感じる作品ではあるものの、
ライデンフィルム制作だからこそ、いい意味でシャフト臭さのようなものが
抑えられたかもしれない。
この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください
自分も夜の光の演出に牽かれて
1クール見ていた感じです。