評価 ★★★★☆(62点) 全12話
あらすじ 大学を卒業したものの職に就くことなく、フリーターとして特に目標もないまま過ごしているリクオ引用- Wikipedia
等身大の片思い
原作は1998年からビジネスジャンプで不定期連載され、
後にグラウンドジャンプに移籍し、2015年まで連載していた作品だ。
監督は藤原佳幸、製作は動画工房。
モラトリアム
画像引用元:イエスタデイをうたって1話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
1話冒頭、しんみりとした始まりだ。
コンビニでバイトをしている主人公が廃棄弁当をカラスにやっていると、
そこに「肩にカラス」を載せた美少女と出会うというところから物語が始まる。
馴れ馴れしく主人公に接し、馴れ馴れしく下の名前を呼ぶ。
最近のアニメだと感じない「独特な空気感」をただよわせている。
主人公なにか目的があるわけでもなく、やりたいこともない。
就活もせず、大学を卒業しコンビニでバイトをしている。
そんな中でかつての想い人にも再会する。
何かが起こりそうで起こらない。何かが進みそうで進まない。
このもどかしさこそが「モラトリアム」だといわんばかりの始まりだ。
「1990年代」の時代背景もそのままに、
ウォークマンを使いカセットで音楽を聞く。
どこか退廃としたあの頃の空気感を粛々と感じさせる。
主人公になぜかまっすぐ想いを寄せる少女、
主人公の想いを知っていながらも受け止めない女性、
わかりやすく、見事なまでの「三角関係」が1話から築かれている。
結果を曖昧にして自分の体裁を守っているだけなんだ。
画像引用元:イエスタデイをうたって1話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
カラスを載せた「 野中 晴」の一途さはたまらない可愛さがあり、
主人公の想い人である「森ノ目 榀子」も主人公が長年想うのもわかるほど
魅力的な女性だ。告白したら友達すら居られなくなってしまう。
そんな主人公の思いも痛いほどにわかり、
そんな「モラトリアム」な物語の雰囲気に飲み込まれる。
周囲の人間の気持ちや行動、言葉に彼は一歩を踏み出す。告白だ。
1話で主人公がまっすぐに長年の片思いの相手に告白する。
変に引き伸ばすわけでもなく、ただひたすらにまっすぐとした告白。
「モラトリアム」に酔っていた主人公が一歩を踏み出し、前に進む1話だ。
告白は断られてしまう。だが、それでも一歩踏み出した事には変わらない。
ヒロインだけではなく、主人公にも魅力がある。
誰しもが経験したことがあるような片思いとその結果に感情移入する。
彼らの「言葉」が1つ1つに重みがあり、突き刺さる。
台詞が作品の雰囲気を作り、その雰囲気に飲まれつつキャラクターに共感し
感情移入し、この作品のストーリーが気になる。
進んでるようで進まない
画像引用元:イエスタデイをうたって4話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
この作品はもどかしさの塊みたいな作品だ(笑)
主人公の告白は見事に断られたものの、「森ノ目 榀子」にも断る理由があり、
主人公とは前のままの友達で居たいと思っている。
だが、主人公は告白した以上、友だちでいる気まずさを感じる。
「森ノ目 榀子」には地元の年下の幼馴染がおり、
彼女に主人公と同じように思いを寄せていたり、
「 野中 晴」は彼女への思いを捨てきらない主人公に煮えきらなさを感じつつも
彼を一途に思うことは変わらない。
1話で状況は変わった。だが、その変化は劇的に起こるわけではない。
じっくりとじわじわとまるで染み渡るようにキャラクター同士が
変化した状況を受け入れ、そこからどうしたいのか、どう行動するのかを考え
キャラクター同士の会話の中で互いを理解し、より深い関係性になっていく。
作品に出てくるキャラクターたちの恋は報われない。一方通行だ。
そんな一方通行が物語の中でどうかわり、誰が報われるのか。
序盤の段階でキャラクターに感情移入をし、好感をもってるからこそ
誰もが報われてほしいと思いつつも、誰もが報われるわけではない状況に
見ている側ももどかしさとじれったさを感じる。
トレンディドラマ
画像引用元:イエスタデイをうたって5話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
誰もしもが悪くない。いい人だ。変に濁さず、変に隠さない。
「下心ありだけど、そう思っていてほしい」
友達にはなれない。だが彼女の気持ちの変化を待つことはできる。
それを包み隠さず伝える主人公のいじらしさにニヤニヤしてしまい、
そんな彼の言葉に安堵しつつ、そんな安堵してしまう自分に自己嫌悪する
彼女の心情もひしひしとわかってしまうほどのいじらしさを生んでいる。
そんな主人公の報われない片思いを見つめつつも、
「 野中 晴」もまっすぐに主人公を思い続ける。
電話をかけるのを戸惑ったり、映画に誘ったりする
彼女のけなげさがあまりにも真っ直ぐすぎて胸を締め付けられる。
自分勝手な恋愛に自分勝手とわかりつつも思いは止められない。
想いを寄せられる「森ノ目 榀子」も亡くなった想い人への
思いを断ち切れないでいる。忘れられない相手に対する想いは
他のキャラ以上に報われない恋であり、彼女の死者に対する思いの変化は
緩やかではあるものの、その緩やかな変化がまた彼女以外の人の今に影響する。
そんな彼女の想い人である弟も真っ直ぐだ。
兄の面影を追う彼女に長年恋をし、子供であると自覚しつつ
弟にしか見えないと彼女に言われても彼は諦めない。
等身大の、まっすぐなそれぞれの片思いが見てる側に深く突き刺さる。
ちょっと古いが「トレンディドラマ」を見ているような感覚だ。
誰もスマホも携帯を持っていなかった「あの時代」だからこそのシチュエーション、
あの時代だからこそ生まれるシーンがたまらない。
動画工房だからこその「細かい表情の変化」と台詞と台詞の間、
声優さん達の演技によってよりキャラの心理を描写し、
そのせいでよりキャラに感情移入してしまう。
きっかけ
画像引用元:イエスタデイをうたって6話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
それぞれの日常を過ごしながら彼らは少しずつ前に進む。
繰り返す日々の中でも本当に少しずつ、一歩ずつ、彼らは前に進んでいる。
そんな中で小さなきっかけが、その一歩を大きく進める。
それは元カノだったり、少女好きだった男だったり。
前に進む中で自分の気持がより明確になる「きっかけ」がある。
だが、きっかけがあっても明確に何かが起こるわけでもない。
じれったい(笑)
なにかが起こるようで起こらないストーリーがひたすら続く展開は
やや好みが分かれる部分であり、キャラクターたちのまどろっこしいさや、
めんどくささも好みが分かれるところだろう。
特に物語の中核たる「森ノ目 榀子」は最もめんどくさい。
別にキープをしてるわけでもなく、しっかりと主人公にも好きだった男の弟にも
お断りの言葉を告げている。だが、彼女は以前と同じようにそんな彼らと接する。
喧嘩しようとも、酷いことを言おうとも、
彼女はしばらくすると以前と同じように自分に接し、
たまに思わせぶりな言葉すら投げかけ、思わせぶりな行動もする。
見ようによってはとんでもなく計算高いずる賢い女性だ(笑)
しかし、彼女はそんな自分自身の行動や言葉に自己嫌悪してしまう。
そこが彼女の魅力ではあるものの、人によっては嫌悪感を抱くキャラかもしれない。
進展
画像引用元:イエスタデイをうたって10話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
終盤になると関係性にもいよいよ変化が起きそうになる。
「森ノ目 榀子」は過去の想いを整理し、今の想いに向き合おうとする。
当然、主人公と彼女の関係はいい感じになってくる。
だが、同時に「 野中 晴」の恋は進展しない。
この作品はみんなが片思いをしている。だからこそ報われない子も出てくる。
それがあまりにも辛い。
健気すぎる「野中 晴」はその健気さが可愛く、真っ直ぐな彼女の思いが
彼女の魅力そのものでも合った。
だが、それが報われないことがあまりにも見ていて辛い。
二人の仲が進展しているシーンと同時に彼女が一人でいるシーンを流すのも
本当に憎らしいまでの演出であり、一人ひとりのキャラに
報われてほしいと思ってしまったがために、じれったいまでのストーリーを
見せられただけに、いざ関係が進むと辛い。
進展してほしい、報われてほしい。だが、進展し報われると辛くなる。
とんでもないジレンマだ。見ているうちに思わず叫びたくなるようなほどだ。
遠回り
画像引用元:イエスタデイをうたって12話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
最終話の展開にはかなり度肝を抜かれる。
なにせびっくりするほど関係性がひっくり返る。
1クールここまで永遠と淡々とやってきて積み重ねてきたことを
一回崩してもう一回急いで積み重ねるような感覚だ。
もう全員めんどくさい(笑)
序盤から彼らはじれったくめんどくさかったものの、
最終話の「面倒臭さ」はとんでもなく、1クール見ていて
終盤にようやく関係性が落ち着いたかとおもったら、その関係性がなくなる。
あまりにも遠回りした結果だ。ゴール地点の真逆に突き進んで
最終話で踵を返してスタート地点に戻って別のゴール地点に一気にたどりつく。
めんどくさい上に遠回りだ。だが落ち着くところに落ち着いた。
進展してほしいが辛い、報われてほしいが辛い。
そんな思いが終盤にあったものの、
最終話は報われてよかったと思える結末になっている。
報われるべきヒロインが滑り台にならずに報われた。
見ている側が1番振り回されるようなそんな作品だ。
総評:じれったいまでの片思い
画像引用元:イエスタデイをうたって12話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
全体的に見てこの「じれったさ」を楽しめるかどうかが肝の作品だ。
90年代という時代を感じさせる背景をしっかりと描きつつ、
あの時代の若者たちの等身大の片思いを1クール遠回りしながら描いている。
進展しそうで進展しない展開、何かが変わりそうで変わらない展開。
この面倒くささを感じるまでの恋愛がどこか懐かしさを感じつつ、
そんな彼らの恋愛模様が1歩ずつ進むさまを見守りつつ、
魅力的なキャラクターに愛着が持てる。
だが、終盤、関係性がようやく変化したかと思えばその関係性がひっくり返る(笑)
ある意味で落ち着くところに落ち着き、収まるところに収まった話だ。
報われるべきヒロインが報われて、彼らも前に進めた。
納得の行くラストと言えるハッピーエンドだ。
ただ、見ている側が色々と振り回された感じが強く、
この振り回された感やキャラクターの面倒くささは好みが分かれる所だろう。
1クールのアニメではなく2時間位の映画でまとめられたら…と想うところは
あるものの、このじれったさや面倒くささもこの作品の魅力の1つだ。
恋愛とは面倒くさいものだ、そんなことを言われているような作品だ。
しかし、そんな面倒くささの果ての告白がたまらない。
トレンディドラマを見ているような懐かしさを感じつつ、
1クールたっぷりと彼らの恋愛模様に振り回されてほしい作品だ。
個人的な感想:演技力
画像引用元:イエスタデイをうたって12話より
©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
この作品の1番の見どころは演技力と言っても良いかもしれない。
特に主人公を演ずる「小林親弘」さんは声質の良さもさることながら、
微妙な感情の機微の演技、最終話における自問自答の演技は
震えるほどの演技を感じさせてくれた。
そこに花澤香菜さん演ずる面倒くさい女の面倒くささを
可愛く見せてくれる演技と声、 宮本侑芽さんの真っ直ぐで無邪気な
演技と声は本当に可愛らしく、キャラクターの魅力を声優さんが
より引き出している印象の強い作品だった。
「動画工房」という製作会社は割と萌えアニメを作っていた印象だったが、
過去作品でも感じたキャラクターのコロコロ変わる表情の描写を、
今作では引き継ぎつつ、それをキャラの可愛さではなく
心理描写として使っているのは素晴らしい限りだ。
じれったい部分で好みが分かれるところはあるものの、
このじれったさが好きな人は最後までじれったいまでの片思いを
楽しめる作品だった。
1クールにする上で色々とカットしたり改変したり刷るところもあるようで
原作も読んでみたいと思います。
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