評価 ★☆☆☆☆(38点) 全5話
あらすじ 人類はヴァンパイアとの戦争に敗れ、地球上にほとんどの居住区を失った。
引用- Wikipedia
尺不足
本作品はNetflixオリジナル作品。
監督は牧原亮太郎、制作はWIT STUDIO
ヴァンパイア
乱して感じるのはやや懐かしい雰囲気だ。
癖のあるキャラクターデザインと作画のどこか暗く重苦しい雰囲気が
そう感じさせるのかもしれないが、最近のアニメというよりは
10年か20年くらいの深夜アニメのような雰囲気を感じさせる。
退廃的な空気感、ホコリ臭さやカビ臭さ。
ヴァンパイアが人から隠れ住み、人に狩られないように隠れ住んでいる場所の雰囲気が
この作品の世界観を表しており、
人と吸血鬼という相容れない関係性、決して交わることも共存することも出来ない
「世界」を説明せずとも感じさせてくれる。
疫病とともに突如現れた吸血鬼、そんな吸血鬼に対し人類は
「光の壁」に囲まれた街で暮らしており、
吸血鬼を退治しながら、人類は限られた生活圏を広げようとしている。
どこかディストピアな世界観も感じさせる。
主人公である「モモ」はナンバーで呼ばれている、
限られた生活圏で人類が生き残るための管理社会が形成されており、
長引く吸血鬼との戦争で人類はそんな社会でなければ
人類としての社会すら築けない状況だ。
モモは司令官である母に抑圧され、音楽すら禁止されるこの人間の社会に
嫌気が差している。
ここから逃げ出したい、しかし、逃げる場所などない。
その一方で吸血鬼たちは綺羅びやかな暮らしをしている。
優雅に宴を楽しみ、ヴァイオリンを楽しみつつも、どこか虚しさを感じている。
長引く戦争、だが人間の生き血を呑まなければ理性を保つことの出来ない吸血鬼と
人間は相容れない存在だ。
長引く戦争の末に「自らの死」と引き換えに身体能力を強化する薬まで使っている。
もう一人の主人公である「フィーネ」はヴァンパイアの女王でありながら、
長らく血を飲んでいない。いつ理性を保つことができなくなるのか、
彼女はなぜ血を呑まないのか。
しっとりと静かにキャラクターとストーリーを見せる導入は悪くなく、
どっしりと重い世界観の心地よさに浸れる。
長引く戦争は泥沼になり、吸血鬼も人間もこの抑圧された世界に嫌気が差している。
そんな中で出会った「モモ」と「フィーネ」。
2人が出会い、戦場から逃げ出すところから物語が動き出す。
交流
モモは何がしたいのかがわからない少女だ。
欲望の起因になるもの、映画や酒や音楽や花を慈しむことすら禁じられた。
司令官の母にそう育てられ、そういう人間にさせられている。
だが、そんな育てられ方をしたがゆえに抑圧からの欲望の意識は高い。
だからこそ彼女はヴァンパイアの姫の手を取った。
最初はヴァンパイアに対する嫌悪や恐怖がある。
それでも、「フィーネ」はモモを拒まずに、
彼女の心を解し、彼女との交流を図ろうとする。
音楽を聞かせ、花を見せ、ともに笑い、歌う。
人間としての本来あるはずの欲望を解き放つように。
人間と吸血鬼、本来なら相容れない存在だ。
しかし、そんないざこざなど関係ないように2人の関係性が構築されていく。
丁寧に描かれる日常と彼女たちの変化が表情や声優による演技で後押しされることで、
優しい世界観を感じさせる。
だが、この世界の中では「優しい世界」は儚いものだ。
モモとフィーネ以外の人間と吸血鬼は争い、憎み合っている、
2人はただ平和に暮らしたいだけなのに2人の生まれが、
因果が平和な暮らしの邪魔をする。
WITSTUDIOらしいぐりぐりを動く戦闘シーンは見ごたえがあり、
刀や銃を使う人間と、本能と自らの能力で戦う吸血鬼の
血で血を洗う戦闘シーンは思わず目を奪われる。
ロードムービー
どこかにあるはずの楽園、吸血鬼と人間がともに歌い暮らす楽園を求めて
二人の逃避行が始まる。いわゆるロードムービー要素だ。
退廃的な世界観を旅する様子はダイジェストではあるものの、
2人の「幸せな時間」の儚さにもつながっている。
本来は相容れない存在だ。
吸血鬼は人の血を呑まなければ理性を保てない、
モモも司令官の娘としての立場がある。
いつ追手に捕まるかわからない、いつ理性を抑えきれなくなるかわからない。
2人の「幸せな時間」は今だけの儚いものだ。
ただ、全5話という尺のせいもあるが、
意外とあっさりと彼女たちが求める「楽園」についてしまうのは
やや拍子抜け感が強い。
この作品は10年か20年くらいの深夜アニメのような雰囲気を漂わせているが、
あの頃なら2クール、もしくは4クールかけてもっと掘り下げて
もっと色々なキャラのドラマが描かれていただろうなと感じる部分が強く、
全5話という尺ゆえのテンポの速さと詰め混み具合や、唐突な展開もある。
更に言えば「BGM」の音量がシーンによって大きく
台詞が聞きづらいシーンも多いのは気になるところだ。
楽園
彼女たちの旅路の果ての楽園、だが、それもまやかしのものだ。
あるかもしれない理想郷、しかし、それはそこにある希望にすがっただけだ。
結局は自らで楽園は作るしかない、理想郷は誰かに作ってもらうものではない。
「許さない、あなた一人だけ逃げることは許さない」
モモの母の最後のセリフは彼女の心の声でもある。
人類側の司令官という立場でありながら彼女もまた逃げたかった。
争いのない何処かへ、酒を飲み、映画を見て、音楽を楽しみたかった。
そんな抑圧が娘への行動や態度につながっていた。
そんな母からの独り立ち。
フィーネと出会ったことでモモは自由になり、
何がしたかった分からなかった少女は「なすべきこと」を見つけ出す。
逃避行の末にたどり着いたその場所は終わりであり始まりだ。
視聴者の「想像」に委ねるラストはほどよい余韻を感じさせてくれる。
総評:惜しまれる全5話構成
全体的にみてかなり詰め込んでいることを感じさせる作品だ。
人間と吸血鬼が争っている世界、そんな世界で吸血鬼の女王と
人類の司令官の娘が自らの立場から逃げ開放される物語ではあるものの、
設定のツッコミどころや細かい部分の描写不足はかなり気になる。
本来ならせめて1クール、もしくは2クールくらいで描かれていれば
この作品にもっと深みが生まれたかもしれないが、
全5話という尺のせいでトントン拍子にいきすぎる部分や、
人間であるモモの行動が唐突な部分も多く、
尺の都合上で登場人物が唐突な行動をしているシーンが多い。
やりたいことや描きたいことはわかる、
作画や作品の持つ雰囲気は大変素晴らしいものの、
回想シーンや視聴者の「想像」に委ねるラストなど、
尺不足を作品全体からひしひしと感じてしまう。
特にラストのシーンもどう解釈していいやら…(苦笑)
2クールくらいの作品の総集編映画を見たような気持ちになる作品だった。
個人的な感想:惜しい…
1話の時点での期待感は素晴らしかったのだが、
2話以降はどんどん、その期待感とは裏腹に明らかに
尺不足を感じさせるつめ混み具合が激しく、
もう少しゆっくり丁寧に見たいのに見させてくれないもどかしさが生まれてしまった。
2022年ではなく2002年あたりにこの作品が作られていれば
隠れた名作になったかもしれない。
そういうニュアンスだけは感じる作品だった。
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