評価 ★★★★★(80点) 全4話
あらすじ クラシック三冠レース『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』 一生に一度だけ挑戦できるそのレースで勝つことは、すべてのウマ娘、すべてのトレーナーにとっての夢である。引用- Wikipedia
濃厚ウマ娘
本作品はウマ娘のWebアニメ作品。
全4話で配信された。
制作はCygames Picturtes、監督は廖程芝と
2期から変更されている。
レース
1話冒頭からレースシーンから描かれる。
ウマ娘らしいレースシーンの模様は1期でも2期でも
印象に残っているシーンも多く、
それぞれの制作会社の特徴を感じるところでも合った。
このWebアニメではCygames Picturesの変更されている。
あまり2期からの変化は大きくは感じないものの、
一人ひとりのキャラクターをしっかり見せるカメラワークは
やや特徴的であり、単純に下から上にカメラを動かすのではなく、
少し「円」を描くようにカメラを動かすことで
どこか「立体的」に感じる構図になっている
そのせいかレースシーンも1期や2期に比べると
多彩なカメラワークが目立つシーンが多く、
「光の演出」も意識的に取り入れることで、
場面ごとのキャラクターの表情の印象がつきやすくなっている。
たった4話のWebアニメだからといって手を抜かず、
きちんと面白いものにしようという制作側の心意気を
作画やカメラワークから感じることができる。
1期や2期で出てきたウマ娘たちもでてくるのだが、
キャラクターデザインと制作会社が違うせいか、
若干雰囲気は変わっているものの、そこまで違和感がない。
皐月賞
本作のメインキャラクターは3人だ。
「ナリタトップロード」「テイエムオペラオー」「アドマイヤベガ」、
この3人が「皐月賞」を争うことになっている。
ナリタトップロードはまっすぐな女の子だ。
もっと早く、前に走る人の背中に追いつきたい。
子供の頃から真面目に練習を重ね、大人になってもそれはかわらない。
誰かの応援が大好きで、ひたすら前に、前に走ってきた女の子だ。
トップロードの名にふさわしく、トップを常に目指している。
がむしゃらで元気が取り柄の女の子だ。
テイエムオペラオーはどこか男勝りでナルシズムを感じる女の子だ。
強さを目指し、速さを求め、栄光を求めている。
誰よりも早くゴールに辿り着き、栄冠を勝ち取る。
そこにまっすぐでひたむきだ。ナルシズムを感じるものの努力を重ねている。
自分に自信はあるものの同時にライバルの強さも知っているからこその不安が
練習にも現れている。
アドマイヤベガは無表情でクールな女の子だ。
誰かの前で努力をすることは魅せず、だが、こっそりと
夜の練習を重ねて誰よりも早くゴールに辿り着くことを目指している。
勝つことへの執着、そして「償い」を抱えた彼女の
過去を匂わせつつ、3人のレースが訪れる。
1話の短い時間の中できちんとメインキャラクターの3人を掘り下げており、
きちんと印象がつく。
3人とも応援したくなり、3人共かってほしい。
そんな感情移入を誘う丁寧なキャラクター描写は、
ウマ娘の魅力を制作会社が変わっても引き継いでいる。
雨のレース
最初のレースは雨のレースだ。
「雨粒」を切り裂きながらウマ娘たちが走る様子は
1話冒頭で描かれた構図の良さも生きており、
見ているこちらが固唾をのみ、息切れしそうなほどの
臨場感のあるレースシーンが描かれている。
3人のライバル達、それぞれが勝ちにこだわっている。
1歩でも前へ、1秒でも早く、
「ナリタトップロード」は多くの期待と思いを背負っている。
彼女が勝つかもしれない、そう思わせていた中で、
「テイエムオペラオー」が最後の最後であっさりと彼女たちを抜き去る。
結果はナリタトップロードの敗北だ。
だが、そこで悔やむ彼女ではない。
応援してくれるみんなのために、自分を信じてくれるみんなのために、
彼女はまさに主人公らしい主人公だ。
雨のレースシーンの臨場感も素晴らしく、
ウマ娘の魅力を序盤の1話で強く感じてしまう。
新たなウマ娘が始まった、そう感じさせる完璧な1話だ。
同時にアドマイヤベガは敗北を噛み締めている。
ライバルだった二人にしがみつくことも出来なかった後悔、
レース前日に怪我をしてしまったせいもある、
だが、それを言い訳にはしない。もうあんな情けない走りはしない。
「妹」への思いが彼女を一歩前に踏み出させる。
勝利を掴んだテイエムオペラオー、一歩足りなかったナリタトップロード、
情けない走りをしてしまったアドマイヤベガ。
それぞれがそれぞれの思いを抱え次のレースに挑む。
思い
このWebアニメでは「トレーナー」の存在も目立っている。
1期ではトレーナーの存在感も在ったが、2期ではあまり存在感がない存在だった。
このWebアニメでは1期の雰囲気をどこか感じる部分もあり、
「ナリタトップロード」のトレーナーもしっかりと描かれている。
トレーナーのためにも1位になりたい、そんな思いが描かれている。
アドマイヤベガの過去は重い。彼女は一人で二人分の思いを抱えている。
彼女には双子の妹がいたものの、生まれたときに
彼女か妹かどちらかしか生きられない状態だった。
それゆえに彼女は妹の思いも抱えて走っている。
亡くなった妹に恥じない姉でありたい、そんな思いをかかえている。
自分が走ったときに沸き起こる感情、
それは血の繋がったもう一人の自分とも言える妹の存在が
彼女の中で生き続けているからだ。
そんな思いをきちんと描くことで、1話以上に
次のレースでは誰にも負けてほしくないと思ってしまう。
テイエムオペラオーも二人に負けていない。
二人をライバルと認め、3人が3人とも「勝利」を目指す。
真っ直ぐなそれぞれの思いがレースで活かされる。
1話でレースが描かれたかと思えば2話でもレースが描かれる。
たった4話しかない本作品だが、たった4話しかないからこそ
1話1話のストーリーに無駄がなく濃い。
「努力は必ず実る」
トレーナーに言われたようにナリタトップロードは
雪辱を果たすような走りを見せる。
テイエムオペラオーも負けていない、そしてアドマイヤベガも負けていない。
だが「努力の天才」たるナリタトップロードは
王道の走りで王道の勝利を掴む…と思いきや、
アドマイヤベガが一気に追い上げてくる(笑)
ウマ娘はスポ魂アニメだ。
見た目は競走馬の擬人化な萌えアニメに見えてしまうが、
根本にある「熱い」ドラマがウマ娘を萌えアニメにはしていない。
そして「史実」という歴史がある。
元になった競走馬たちが辿ってきた歴史、ウマである彼らが
実際に言葉に出したわけではない。
だが、そんな競走馬たちの思いを代弁するように
キャラクターたちが感情を爆発させる。
あんなに応援してくれたのに、あんなに努力したのに、
ナリタトップロードのそんな思いが実らない。
彼女の涙には見ている側の心もぎゅっと掴まれてしまう。
勝利を喜ぶ「アドマイヤベガ」にもドラマがある。
彼女はなくなった妹への思いを抱えて走っている、
だが、ライバルたちとのレースで妹の存在を忘れ
「自らの勝利」に執着してしまった。
そんな後悔が彼女にのしかかる
努力
何かを掴むためには努力が必要だ。
天才と言われる人たちでさえ日々練習をし、学び、多くのものを掴んでいる。
だが、そんな「努力」は呪いでもある。
努力したからこそ成し得たもの、そんな経験があるからこそ、
もっと努力すれば、もっといい結果が得られるのではないかという
思いに駆られる。
しかし、努力は必ず報われるものではない。
努力しても駄目になってしまうこと、失敗してしまうことはある。
努力すれば結果につながる、そんな思いが人を努力させ、
そんな努力が結果に繋がらない多くの人をもどかしさを抱えている。
努力という呪い、期待と応援という呪い。
それがナリタトップロードにのしかかっている。
努力したから勝てるはずだ、そんな努力してる姿を
多くの人に見てもらってるからこそ期待され、
自分が勝つことを周囲のみんなが応援してくれている。
だから「勝たない」といけない。だが、結果に繋がらない。
1話で魅せていた彼女のまっすぐな笑顔とは裏腹に、
3話では暗い表情を浮かべている。
周囲の期待を裏切ることへの恐怖、
努力が結果に繋がらない不安が彼女にのしかかっている。
丁寧なキャラクター描写が
「ナリタトップロード」というキャラクターに
深い感情移入と愛着を湧かせてくれる。
「トレーナー」のキャラクターも素晴らしい。
彼女を見つめ続けてきた彼は、彼女の努力を認め、
彼女の「諦めない」才能を認めている。
戦い続ける彼女を諦めない彼女を誰よりも認めてくれている。
「アドマイヤベガ」も自分の中の妹と対話を繰り返している。
「菊花賞」までしか持たないと妹に言われ、
そんな妹のために「菊花賞」を勝ち残ろうとする。
諦めないナリタトップロード、妹への勝利に執着するアドマイヤベガ、
覇道を貫かんとするテイエムオペラオー。
誰が菊花賞を掴むのか。
ライバル
3人はライバルで互いにとっての目標だ。
それをアドマイヤベガも痛いほどにわかっている、
だが、彼女が見ているのは自分の中の妹だ。
自分も他人も見ている余裕などない。
だがナリタトップロードはまっすぐに彼女に向き合っている。
誰よりも彼女を認め、彼女と走る喜びをまっすぐにぶつけてくる。
自分の中の妹と戦っていたアドマイヤベガにとって
彼女の存在はあまりにも眩しい。
レースでは3人がライバルであることを感じさせる。
3人が迫り合っている中で、3人が3人共互いを牽制しあい、
そんな中で「自分のできる限界」の走りを見つける。
レースのトップへの道筋、そんな道筋が己の努力の積み重ねと
声援によって「ナリタトップロード」は見つけ出す。
アドマイヤベガの心の叫びも痛いほどだ。
足の痛みを抱えながら「まだ走りたい」と叫ぶ、
亡き妹への思いはある。だが、自分のためには知りたい。
何よりもライバルとともに走りたい。
そんな思いが彼女を前へと進ませる。
覇道を貫かんとするテイエムオペラオーも負けていない。
誰が勝ってもおかしくない、頂点への道を駆け抜ける3人、
努力が「実る」瞬間にはおもわず涙をこぼしてしまった。
最後には「ウマ娘」らしいライブシーンも描かれ、
全4話の締めに相応しいレースとライブを見せてくれた。
3人のそれぞれの思いが1クールでまっすぐに描かれている作品だった。
総評:濃厚ウマ娘
全体的に見てたった4話とは思えないほど濃い作品だ。
3人のウマ娘をメインに据え、互いにライバルと認め合う3人が、
それぞれの思いを抱えながらレースへと挑む様子はまさにウマ娘であり、
1期や2期で描かれてきたウマ娘の魅力を
たった4話ではあるものの、いや、4話であるからこそ濃厚に
描かれている作品だった。
制作会社がかわったことでキャラデザに若干変更はあるものの、
カメラワークへのこだわりや演出、
ウマ娘たちのレースを盛り上げる構図へのこだわりは素晴らしく、
1期や2期とはまた違った魅力を秘めている。
また声優さんたちの演技も素晴らしく、
特にナリタトップロードを演じた中村カンナさんの演技には
おもわず涙腺を刺激されてしまった。
たった4話しかない作品ではあるものの、
濃厚なウマ娘の面白さをしっかりと感じることができる作品だった。
個人的な感想:4話
たった4話しかないとたかをくくっていたが、
いい意味で裏切られた作品だ。
短い尺だからこそ余計なシーンが一切なく、
必要なシーンだけをストーリーの中に盛り込み、
3人のキャラを掘り下げつつ、ストーリーが描かれていた。
制作会社が変わったことへの不安は合ったものの、
Cygame Picturesというウマ娘のソシャゲを運営する
サイゲームのアニメ制作会社だからこそ
ウマ娘というコンテンツへの愛を感じる妥協のない作品になっていた。
こうなってくると3期はどうなっているか気になるところだ。
映画化の情報も出てきており、ソシャゲの売上は
全盛期に比べて下がってきているようだが、
アニメにおけるウマ娘というコンテンツは
まだまだ終わらないコンテツになるのかもしれない
この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください