評価 ★★★★☆(70点) 全94分
あらすじ アイドルになることを夢見る高校1年生の東ゆうは、「SNSはやらない」「彼氏は作らない」「学校では目立たない」「東西南北の美少女を仲間にする」という4つの条件を自らに課し、高校生活を送っている。引用- Wikipedia
狂気のアイドル青春物語
原作は元乃木坂46の高山一実による小説作品。
監督は篠原正寛、制作はCloverWorks
とっつくにくい
この作品の序盤はとにかくとっつきにくい。
原作からこうなのかはわからないが、映画の冒頭では
主人公が電車の中で音楽を聞いていて、どこかに向かっているだけだ。
そんな彼女が向かった先は「他校」だ。
なぜ彼女が他校に足を運んでいるのか、
彼女がどうしてそんなことをしているのか。
物語の導入部分があえて描かれていないせいも会って、
作品に対するとっつきにくさが生まれている。
これがTVアニメなら「わけがわからない」と1話切りされただろう。
だが、この作品は映画だ。
1度鑑賞料金を払って座席についてしまえば数奇な人以外は
開始して20分で映画館から出るということはない。
面白いにせよ、つまらないにせよ、劇場から出てしまう人はほとんどいないはずだ。
だからこそできたストーリー構成ともいえる。
序盤はかなりとっつきにくく、主人公の動機が見えない。
彼女は他校におもむき、そこにいる「美少女」を探している。
見つけた美少女とテニス対決を始めたかと思えば、
そんな美少女に気に入られ二人は友だちになる、
すると主人公は彼女を「南さん」と呼び出す。
彼女の本名は「華鳥蘭子」だ。みなみのみの字もない。
聖南テネリタクス女学院の生徒だから南というあだ名をつけたと
主人公はいうが、あまりにも唐突すぎて意味不明だ。
その後もとっつきにくさが続く。
南をゲットしたかと思えば、つぎは西をゲットしにいく(笑)
ちなみに主人公の名前は東であり、城州東高校の1年生だ。
彼女はなぜか「東西南北」の名前がつく高校の美少女をそれぞれ
集めようとしている。
アイドル
主人公が目指しているのはアイドルだ。彼女は子供時代にアイドルの
映像を目にし、アイドルに憧れている。
だからこそ、アイドルグループを作りたいと思っている。
そんな彼女の夢ややりたいことはわかるものの、
普通、アイドルになりたいと思ったらオーディションを受けるはずだ。
しかし、彼女は自らの手で「東西南北」の学校の美少女を集めて
アイドルを作ろうとしている。
なぜそうなったのかが明かされるのは中盤以降であるがゆえに、
主人公の行動理由もいまいちよくわからず、
言い方は悪いがどこかサイコパスじみてさえ居る。
無理やりなあだ名付け、打算的に美少女に気に入られようと行動をし、
自分の計画がうまくいくとニヤケ顔を浮かべたかと思えば、
自分の計画がうまくいかないと露骨に不機嫌な表情を浮かべる。
彼女はものすごく「打算的」な性格をしている。
3人の美少女と友だちになり、そんな3人とアイドルになりたい。
そんなことを3人の美少女に主人公は一切告げることはない。
あくまでもこっそり、秘密裏にアイドルになるための計画を
ひたすらに遂行している。
3人の美少女も別にアイドルになりたいわけじゃない。
ただ主人公という友達ができて、他の二人とも友達になれて、
楽しくボランティア活動をしたり、友達の文化祭に行っているだけだ。
だが、そんな3人と違い主人公だけが「自らの夢」のために
行動している。
しかも達がわるいのは彼女はそれが他の3人のとっても
最良なことだと思っていることだ。
可愛い子はアイドルになるべきだ、アイドルは多くの人を笑顔にする、
そんな職業は他にはない。そう信じて疑わず、
そんなアイドルになれることは自分以外の3人にとっても
幸せなことだと信じている。
他の3人を利用していることは主人公もわかっている。
だが、同時に利用しつつも3人にとってもいいことだと
主人公は疑っていない。
彼女は強烈な自己の世界を持っている。
他者の意見を受け入れず、彼女は自らの世界が全てだ。
他の3人にもそれぞれやりたいことがある、しかし、
そんなやりたいことよりも「アイドル」をするほうがいいと
主人公は思い込んでいて、他の3人の感情を理解しようとしない。
しかも、運良くそれがうまくいってしまう。
テレビ番組のADと知り合いになり、アピールした結果、
彼女たちはテレビ番組のミニコーナーに素人高校生として参加し、
人気が出た結果、アイドルとしてデビューすることになってしまう。
すべて主人公の計画通りだ。
序盤から中盤までは、主人公の行動理由のわからなさや、
とっつきにくさが半端なく、しかもトントン拍子に
アイドルデビューまでしてしまうため
「なんだこの作品?」という感情が生まれる。
だが、この作品で描きたいところはそこではない。
なにせアイドルアニメでありながら、
この作品はライブシーンは1回しかない(笑)
この作品で描きたいことは「アイドル」という職業そのものだ。
適正
アイドルには適正がある。
単純に可愛いだけじゃない、アイドルとして愛想を振りまいたり、
歌がうまかったり、ダンスがうまかったり、いろいろだ。
そしてアイドルになるためには「覚悟」もいる。
この作品の原作を手掛けたのは乃木坂46というアイドルだった
高山一実さんだ。アイドルがアイドルをモチーフに小説を書く、
そこには夢もあるが、同時に現実も描いている。
アイドルだったからこそ描ける「現実」はあまりにも生々しい。
それぞれがSNSを始めれば「人気の差」も生まれる。
そして、アイドルとして多くの人の目に晒されれば嫉妬も生まれ、
過去も暴かれる。
4人のメインキャラのうちの一人である
「亀井美嘉」は主人公とは小学校の頃の友達だ。
地味で目立たずいじめられていた彼女は、
「整形」をし、彼氏もいる。
そんな彼氏との写真がSNSに流出してしまう(笑)
あまりにも生々しいトラブルだが、そんなトラブルを前にしたときの
主人公のセリフがあまりにも強烈だ。
「彼氏がいるんだったら
友達にならなきゃよかった」
衝撃だ。別に友達に恋人が居ようが居まいが関係ない。
しかし、この作品の主人公にとって友達とは
アイドルを目指す同志であり、アイドルは恋愛禁止だという
当然の心構えが主人公の中にはある。だからこそ出てしまった言葉だ。
それを彼女は反省すらしない。本音だ。
「亀井美嘉」は別にアイドルになりたくてなったわけではない、
主人公に誘われて流されるままアイドルになっただけだ、
それ以前から彼氏がいただけに過ぎない。
だが、「亀井美嘉」にアイドルとしての適性はない。
いじめられた経験や彼氏を大切に思う気持ち、
アイドル活動よりも彼女にとっては「ボランティア」のほうが大切だ。
しかし、主人公という友達のためにも彼女は続けている。
それは彼女が主人公に感じている恩義もあるせいなのだが、
それを主人公は気づくこともなく、察することもない。
序盤から中盤のとっつきにくさを過ぎると、
この作品はまるで岡田麿里さんが手掛けたような
ドロドロとした青春模様に変わっていく。
崩壊
主人公は「可愛い女の子」は「多くの人を笑顔」にできるのだから
アイドルをやるべきだという考えを持っている。
だが、可愛い女の子だからといって人前が得意な子ばかりではない。
「大河くるみ」はまさにそんな女の子だ。
彼女はロボットコンテンストに参加したことをきっかけに
注目されてしまい、多くの人の視線を集めてトラウマになった経験がある。
しかし、そんな彼女も主人公が初めて同性の友だちになってくれたからこそ、
主人公の夢を叶えるためにもアイドル活動をしている。
だが、アイドル活動をしていく中で限界も感じていく。
自分が本来得意ではないこと、適正がないことを無理やり続けていく。
偽りの仮面を被り、笑顔を振りまき、人気もでる。
しかし、それは本来自分がやりたいことではない。
自分のやりたいこともアイドル活動のせいで満足にできず、
徐々に心がけずれていく。
話が進めば進むほど、アイドルをすればするほど、
彼女が「壊れていく」過程が如実に描かれている。
最初は友達同士でいろいろな場所に行き、いろいろなことをやるのが
楽しかった。しかし、そんな楽しさも刹那的だ。
「亀井美嘉」の彼氏が発覚し、主人公がそれに怒り、
徐々に「東西南北」というアイドルの雰囲気が悪くなってく。
そのせいで彼女の心も限界を迎えてしまう。
適正のない子がアイドルをやればどうなるのか。
精神が崩壊した子の姿はあまりにも生々しく、
そんな姿を目の前にしても主人公は彼女の事を考えず、
アイドルを続けさせようとする。
露骨にためいきをつき、露骨に顔をしかめ、露骨に舌打ちをする。
この作品の主人公は嫌味な主人公だ。
だが、別に彼女はそれを嫌味だと思っていない、
アイドルをやることが彼女にとって全てであり、
可愛い女の子にとってそれが最良だと終盤でも信じてやまない。
しかも、彼女の計画はここまで上手く行ってしまっている。
だが、偶然に偶然が重なり運もあったからこそアイドルとして
デビューできたものの、打算的な関係性を構築し、
他者を思いやらなかったからこそ限界を迎えてしまう。
人を笑顔にできるアイドルは輝いていて素晴らしい。
そんな彼女の考えにぐさりと友達の言葉が突き刺さる
「1番身近な人を笑顔にできないのに?」
打算的な関係性で築かれたアイドルは簡単に崩壊してしまう。
成長
終盤で主人公はすべてを失ってしまう。
せっかく自らの手で築き上げたアイドルグループも解散し、
3人の友だちも事務所をやめてしまう。
すべてを失って初めて彼女は自分の間違いに気づく。
他者を理解しようとしなかったこと、自分勝手になってしまったこと。
誰しもが若い頃に1回は経験があるはずだ。
そんな間違いを彼女は噛みしめる。噛み締めても諦めないのが彼女だ。
アイドルの命は短く儚い。
特に女性のアイドルの多くは10代や20代でやめてしまう。
それは少女たちにとっての「青春の1ページ」だ。
3人の少女は青春の1ページとしてそれを受け止める、
しかし、主人公だけは青春で終わらせない。
彼女は何度だって立ち上がり続けてきた子だ。
多くのアイドルのオーディションに落ちてもめげず、
自らの手でアイドルグループを作ろうとし、
そんなアイドルグループが崩壊しても、
彼女は夢を諦めない。
打算的で自分勝手な主人公だ。しかし、そんな主人公には
天性のアイドル性がある。
だからこそ3人の、アイドルに興味がなかった女の子たちが
そんな彼女のキラメキに導かれてしまった。
しかし、3人の女の子も流されるままではいけないと自覚する。
自らの意志で、自らの道を進む、そのことの大切さを学んだ
「アイドル活動」であり、振り返ってみればそこに後悔はない。
4人の4人だけの4人による曲。
そんな曲と未来が描かれるラストは伏線回収も相まって
思わず涙腺を刺激されてしまう素晴らしい作品だった。
総評:まさに怪作、アイドルだからこそ描けた物語
全体的に見て完成度の高さに驚く作品だ。
CloverWorksが手掛けてるからこそ作画のクォリティも素晴らしく、
各キャラクターの生々しい表情の描き方はアイドルとしてのリアルを感じ、
同時にアイドルアニメらしい可愛い表情はアニメ的な魅力に溢れている。
特に1回しかないライブシーンは印象に強く残る。
CGと手書きの作画を切り分けながら引きの絵のときはCGで動きを見せ、
アップでは手描きで表情の可愛さを見せている。
頻繁にカット割りをすることで4人のメインキャラを平等に映し、
たった1回しかないライブシーンが強烈に印象に残る。
中盤からはシリアスなムードが漂うからこそ、
苛ついてる表情や鬱々とした表情も多い、
そんな表情も生々しく描くことでこの作品の面白さにつながっている。
ストーリーもそんなフィクションとノンフィクションを
織り交ぜたような印象だ。元アイドルが原作を手掛けたからこそ、
「高山一実」さんが実際に味わった出来事も混ぜられているのだろう。
実際、彼女が所属していたグループのメンバーがいわゆる
彼氏バレを食らっている。
そんな彼女がアイドル時代に感じた思いや出来事と、
「虚構」というファンタジーを描くことで、
この作品で伝えたいこと、描きたいことが鮮烈に味わえるようになっている。
序盤から中盤はとにかくとっつきにくい。
特に主人公がなにをしたいのかわからず、性格の悪さも感じる。
打算的に人と付き合い、それを利用しアイドルになる。
この過程もとんとん拍子で拍子抜けするのだが、
この作品で描きたいのはサクセスストーリーではないからこそだ。
この作品で描きたいのは若さゆえの視野という世界観の狭さ、
他人との関係性や距離感、夢を持ち、夢を追うということは
どういうことかを如実に描いている。
ときには打算的に他者を利用することも必要だ、
だが、それは自分に返ってくることもある。
それでも「夢」を諦めずに突き進むことができるのか。
ラストのエピローグ、4人の未来も4人のキャラらしいもので、
サブキャラである唯一の男性メインキャラの「シンジ」がそこに
絡むことで、伏線を綺麗に回収し、青春の1ページを描いている。
色々とSNSで変なふうに話題になってしまった作品だが、
たしかに人を選ぶ部分はあるものの、
刺さる人には強烈に刺さりそうな作品なだけに
ぜひ、この狂気のアイドル青春映画を劇場で味わっていただきたい
個人的な感想:予想外
SNSで妙に話題になって気になってしまい足を運んだ作品だったが、
そんな話題とは裏腹にとてもおもしろい作品だった。
前半はなんだこの作品?となったのだが、後半からまるで
岡田麿里さんが手掛けたような脚本になったことでニヤニヤしてしまった。
中盤のアイドルになる展開や、終盤の仲直りなど
若干ご都合主義を感じる部分はあるものの90分でストーリーも
きれいに終わっており、いい作品を見たなという余韻を感じられる。
好みは分かれる作品なのは間違いないが、
もしかしたら夢を目指すためにがむしゃらになっている
「あなた」に刺さる作品かもしれない。
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