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不朽の名作SF、これは命の剪定作業だ「T・Pぼん」レビュー

T・Pぼん SF
画像引用元:(C)Fujiko-Pro (C)2024 Netflix
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この記事を書いた人
笠希々

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評価 ★★★★☆(65点) 全24話

『T・Pぼん』予告編 – Netflix

あらすじ ある日、平凡な中学生・並平ぼん(なみひら ぼん)は、偶然T・P(タイムパトロール)隊員の少女、リーム・ストリームと出会った。リームのうっかりミスでT・Pに関する記憶が消去されなかったぼんはT・Pに消されそうになってしまう。引用- Wikipedia

不朽の名作SF、これは命の剪定作業だ

原作はドラえもんでおなじみの藤子不二雄による漫画作品。
監督は安藤真裕、制作はボンズ

原作

この作品の原作は1978年から連載され、
1986年に完結した作品だ。
数々の名作を生み出した藤子不二雄先生、
そんな巨匠の名作が令和の時代に蘇る。

昭和に1度アニメ化されているものの、たった1話しか制作されなかった。
しかし、今作はNetflixオリジナルアニメとして2クール、
全24話配信されている。
原作の、藤子不二雄先生の漫画を令和の時代にあえてアニメ化するからこそ
制作にも気合が入っていることを感じさせる。

キャラクターデザインはどこか懐かしさすら感じるテイストだ。
藤子不二雄先生らしい漫画的な表現の多い
デザインのキャラデザではあるものの、
古さを感じつつも、きちんと現代的に洗練されている。

そんなキャラデザで描かれる主人公は平凡な男だ。
「並平 凡」、名は体を表すではないが、平凡な中学生であり、
勉強も運動も平均的な男の子だ。特別ななにかがあるわけじゃない。
どこぞの少年のように未来からやってきた
青狸と同居しているわけではない。

平凡で平和に暮らす、そんな彼は
「タイムパトロール」のお姉さんと出会うことで、
平凡とは程遠い世界に巻き込まれていく。

改変

主人公である並平 凡は訪れた友人の家で、
友人がちょっとした事故でマンションの高層階から落下して死んでしまう。
だが、そんな死んだ事実が失くなる。

確かに目の前で友人が死んだはずなのに、なぜか
時間が巻き戻ったかのように、まるで夢を見たかのように、
見たはずの出来事が、起こったはずの事実が亡くなってしまう。
そうかと思えば謎の機械にまたがった瞬間に
目の前から自分が住んでいた街がなくなり、
時代劇のような世界観に迷い込む。

自分の周囲で何かが起きている、夢なんかでは決して無い。
彼は「時間の改変」に巻き込まれている。
彼が出会ったのは「タイムパトロールの隊員」だ。

ドラえもんでおなじみのタイムパトロール、
彼女たちは歴史を改変させないようにしながらも、
大きな歴史の流れに影響しない形で不幸に死んだ人たちを助けている。
主人公の友人もその一人だ。

タイムパトロールの存在は秘密だ。
タイムマシンの存在を知られれば悪い奴らによって
歴史がめちゃくちゃになってしまうかもしれない。

ゆえに、その秘密が知られれば存在自体を消す。
タイムパトロールは人を救いながらも、歴史を守るために、
彼らは人を殺す。単純に命を奪うわけではない。
「生まれる」という結果自体を改変する(笑)

最初から生まれなければ殺す殺さないの問題ではない。
秘密を知った主人公の存在が生まれなければいい。
タイムパトロールという組織の闇の深さに思わずニヤニヤしてしまう。

彼らは自身の「正義」に則って行動している、
ドラえもんの世界では頼もしい存在ではあったものの、
この作品ではその正義がどこか傲慢にさえ感じてしまう。

不幸な死から多くの人を助けている、それは事実だ。
しかし、その裏で生まれた結果自体をなくすというえぐいことをしている。
だが、タイムパトロールは主人公の存在を消すことはできない。

彼は「歴史」に関わる人物だ。
彼自身も知らない、大きな歴史の流れ、
平凡な男は自らも知らない未来の自分がなすことのおかげで助かり、
タイムパトロールに強制的に加入させられる。

1話からとんでもなく面白い。
目まぐるしく変わる状況、タイムパトロールという
ドラえもんではおなじみの組織、そんな組織の闇と真実を知り、
主人公がそんなタイムパトロールに入る。
テンポよく進むストーリーがたまらず、1話1話の引きも強い。

1話を見れば2話、2話を見れば3話、
どんどんと先の話を見てしまう。

みならいTP

序盤、主人公はみならいタイムパトロールとして活躍していく。
みならいであるがゆえに学ぶことも多い、
そこで役に立つのが「未来の道具」だ。

この作品には青い猫はでてこない、しかし、
タイムパトロールは遠い未来の組織だ。
だからこそドラえもんのような未来の道具も出てくる。

学ぶことを圧縮して直接脳内に叩き込む道具など
ドラえもんでも見たことがない道具が出てくるのは
どこか子ども心をくすぐられる要素だ。

そんな彼の最初の任務は昭和22年の日本で、とある人物を救うことだ。
第二次世界大戦が終わって2年、日本はまだ戦争の傷跡が残っている。
主人公が救おうをしているのは台風で死んでしまうお婆ちゃんだ。
戦争から帰ってくる息子を家でまち、その中で
台風による水害でなくなってしまう。

だが、タイムパトロールはなるべく
自然な方法で救出しなければならない。
声をかけることはできる、だが、抱きかかえて強制的に
連れ去ることはタイムパトロールのルール違反だ。

厳しいルールは歴史への影響、
タイムパトロールの存在がバレないためのものだ。
そんなルールの中で未来の道具を駆使しながら、
ときにルールの穴をつきながら人を救っていく。

だが、同じ時間軸への介入は何度もできない。
失敗したら二度と救えた命を救えない。
だからこそ必死に主人公たちは命を救おうとする。

序盤は丁寧にタイムパトロールとしての活躍を描きつつ、
同時に数百年前の世界の各地の歴史を知ることもできる。
まるで歴史の授業を受けているかのように、
過去の地球の歴史をタイムパトロールの仕事の過程で見ていく。

エジプトのピラミッドを作り上げた人や、古代の太平洋を渡る人、
魔女狩りにあう女性、自然と歴史が学べるのも
藤子不二雄さんらしいイズムを感じる。
1話1話起承転結スッキリとしたストーリーを描きながら
タイムパトロールの仕事を描いていく。

戦争

タイムパトロールの仕事は危険な仕事だ、
不幸な死から人を救う、そんな状況だからこそ、
主人公たちの前にも「死」は身近に存在する。

時間を巻き戻すことはできる、二人が死んでも、
その結果をなかったことにできるもののあっさりと死ぬこともある。
藤子不二雄さんが手掛けた作品のキャラクターが血を流し、死ぬ。
子供の頃から慣れ親しんだキャラデザだからこそ、死の表現が衝撃的だ。

歴史は多くの人の命、死の積み重ねだ。
それが人類の叡智、知恵となり、過去の歴史を、
過ちを繰り返さないようにしている。
そんな死の積み重ねを主人公は見続ける。

災害でなくなった人、生贄にされる人、火炙りにあう人。
序盤、主人公は多くの人を救っている。
成功体験を重ねている。
だが、救った人数は犠牲になった人数に比べて少ない。

タイムパトロールの仕事はどこか矛盾している、
歴史を変えるようなことをしてはならないはずなのに、
タイムパトロールのミスが歴史に少し影響していたり、
果物1つ食べただけで何百年先の生態系が変わるのに、
たった一人の命を救うことを任務としている。

そんな矛盾と向き合うのが8話だ。
太平洋戦争末期の沖縄、
戦争の真っ只中で多くの命が失われていく。

「みんな助けりゃいいんだ!一人ひとりに家族があるんだぞ!」

主人公はそう叫ぶものの、
あくまで救えるのは歴史に影響が出ない人だけだ。
数百人の命が失われていくのを見過ごし、たった一人の命だけを救う。
だが、救おうとした命ですら自ら無くそうとする。

当時の日本人、軍人の考えは刹那的だ。
自らの命よりも、お国のために。彼らは戦っていた。
だからこそ、せっかく救った命ですら戦いの中で燃やそうとする。

それでも残したものはある。
添い遂げるはずだった女性との思い出、
あり得たかもしれない未来、そんな希望が命を救う。
たった一人しか救えない、だが、そんな結果が誰かの未来につながる。

それは歴史を変えることなのかもしれない、
しかし、救える命は救いたい。
それがタイムパトロールが抱える矛盾でもあり、同時に道理だ。
ただ、このあたりは作品自体の矛盾でもありツッコミどころでもある。

未来

1クールの終盤になるとタイムマシンを利用して
犯罪行為を行うものも現れる。
主人公たちは本来、そんな時間犯罪者を取り締まる役割はない。
しかし、時間の流れを遮っている中で犯罪者に出会うこともある。
だが、犯罪者は時間犯罪者だけではない。現代にも犯罪者はいる。

主人公は2クール目で見習いから正式な
タイムパトロールになっている。
そんな彼が同級生を通り魔から救うために、
自身の秘密を全て喋ってしまう。
必死に一人を救ったのに、その代償に別の女性が死んでしまう。

正式にタイムパトロールになった主人公が、
新たなヒロインを見習いに迎え、1クール目で自分が
学んだことを改めて新たなヒロインに教えることで、
彼の成長と同時に、この作品の設定を深めている。

見習いなヒロインはかつての主人公のように感情的だ。
目の前で不幸に失われる命を見捨ててはおけない、
しかし、簡単に命を助けることは難しい。
歴史が大きく変わらないように、最大元に配慮しながら、
どう自然に救うのかを考えていく。

タイムパトロールである主人公たちが介入した事実そのものが
正しい歴史になることもある。
それが本当に正しいのか、間違っているのかはわからない。

多くの人が時代の中で死んでいく。
そのすべてを救うことはできない。それが歴史だ。
歴史という形作られた樹木、その樹木の成長を止めることはできず、
多くの葉という命は自然に堕ちていく、
それをすくい上げることはできない。

だが、形を少しだけかえることはできる。
その結果、落ちるはずだった葉がおちないこともある。
樹木自身を切り倒すことも、枝を切り落とすこともできない、
だが、ほんの少しの介入という剪定作業によって
形を少しだけきれいに整える。

これが彼らの仕事、命の剪定だ。

歴史の授業

ただ、2クールを通して言えることなのだが、
大きなメインとなるストーリーがあるわけではない。
基本的に1話完結で、様々な時代に訪れ、
その時代特有の事件や戦争、文化ともいえるものも描きつつ、
一人を救って次の話に行く。

基本的にはこの繰り返しだ。
自然にいろいろな時代の知識が学べる点は素晴らしいものの、
2クールそれが続くと、歴史の授業でもうけてるような気分になり、
ややマンネリを感じてしまう。
ただ、完全にマンネリになる前に、違った趣のエピソードが描かれる。

1クールの終盤で遠くの未来に行ったかと思えば、
2クールの中盤では犯罪犯したタイムパトロール員の
エピソードが描かれる。
タイムパトロールも人間だ、
自分が介入することで多くの命を救えるチャンスが有る。

多くの命を救えるのにタイムパトロールのルールで救えない、
その歯がゆさが道を違えることもある。
そんなエピソードが描かれつつ、物語は終盤を迎える。

時空が崩壊し、世界が終わりかねない事件、
そんな捜査の中で行方不明になった主人公の先輩、
タイムパトロールに止められても救いたいものが彼にはある。

ラストの展開は2クールの作品を 見終わった満足感を
しっかりと感じられる展開になっており、
令和に蘇る藤子不二雄さんの凄さを感じられる作品だった。

総評:藤子不二雄が描く命と時代の物語

全体的に見て2クール、どっしりとSFを味わった気分になる作品だ。
ドラえもんでもおなじみのタイムパトロール、
そんな彼らの仕事を2クールえがいており、
1話毎に様々な時代におもむき、大きな歴史の改変はしないものの、
歴史の流れの中で犠牲になった人を救っていく。

基本的に話の流れは2クール変わらず、
1話完結で色々な時代をえがいており、
それがまるで歴史の授業のような固さもあるものの、
1話完結だからこそ毎話、起承転結がすっきりとしており、
多くの命の上でなりたつ歴史の重みを感じることができる。

彼らがやってるのはほんの些細なことだ。
数万、数億人いる人間の一人を救うだけだ。
救ったところで歴史が大きく変わるわけではない、
だが、幸せな気持ちになれる人間が少しだけ増える。

そんな幸せの積み重ね、命の剪定作業の積み重ねが活きており、
2クール、芯の通った面白さを感じさせてくれる。

作画に関してもボンズらしいアクションシーンのキビキビとした
動きを藤子不二雄さんらしいキャラクターたちが行うことで、
シリアスではあるものの、どこかコミカルに見えるギャップがいきており、
様々な時代の背景美術まできちんと描きこまれているのは流石だ。

藤子不二雄さんが手掛けた時代、昭和の雰囲気を残しつつも、
主人公たちが済んでいるのは現代、令和の世界というギャップも
面白く、原作のテイストを残しつつも今のアニメにしあげている。
この絶妙なバランスがこの作品らしさを産んでいる作品だった。

個人的な感想:ツッコミどころ

個人的にツッコミどころは若干気になる部分でもある。
はるか昔に生えていた果物1つ食べたら生態系が大きく変わる、
それ自体は納得できる描写なのだが、
それならば彼らが救った命によってもっと色々と
影響が出そうな部分ではある。

そのあたりのツッコミどころはやや気になるものの、
そこさえ目をつぶれば2クールどっぷりと浸された作品だった。
Netflixらしいやや過激な表現と、尺の使い方の自由さは
アニメと言う媒体にとってありがたいのかもしれない。

特に最終話など地上波と違ってCMなどないのに、
30分以上も尺がある。
CMをのぞけば1話20分ほどというTVアニメの縛りを
自由に変えられる、それこそが配信アニメの魅力の1つだと
感じられる作品だった。

「T・Pぼん」に似てるアニメレビュー

「T・Pぼん」は面白い?つまらない?

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