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「やくならマグカップも」レビュー

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評価 ★★★☆☆(51点) 全12話

あらすじ 豊川姫乃は、脱サラした父と共に、幼少期に亡くなった母の故郷である岐阜県多治見市に引っ越してきた。引用- Wikipedia

地味面白い

原作はマンガな本作品。
監督は神谷純、制作は日本アニメーション

聖地

アニメに出てきた街や場所に訪れる、いわゆる「聖地巡礼」というものが
アニメの中に取り入れられる事は少なくない。
最近でも「ゆるキャン」など彼女たちが訪れた山に実際に
多くのファンがひとりキャンプをしにやってきた
聖地巡礼ビジネス、便乗商法に近いものもあるものの
自治体が協力し、アニメとともに成功を収めた作品も少なくない。

そんな中でこの作品の原作は最初から「多治見市」が関わっている。
アニメの制作側やマンガから持ちかけたのではなく、
2010年に治見市の有志や企業によって立ち上げられた
「街を元気にしよう」というプロジェクトがあり、
その中でこの作品の原作も生まれた。

そういった意味では最初から「聖地化」を狙ったという言い方をすると
聞こえは良くないかもしれないが、多治見市というものを
PRするためにこの作品は作られている。

そんなPR要素の強い作品であることを1話冒頭から感じさせてくれる。

「私はお父さんと2人で東京からこの街に引っ越してきました
焼き物とうなぎとかっぱの伝説があって、夏は暑いけど熱帯夜は少ない街、
岐阜県の多治見市です!」

お手本のような多治見氏のPRから作品は始まる(笑)

陶芸部

この作品は実質的に1話12分ほどの作品だ。
いわゆる15分アニメほどの尺しか無い。
30分枠で放送されているもののの残りの15分は声優さん達による
実写パートであり、実写パートでは声優さん達が多治見市をアピールしている。

ここまでゴリゴリに多治見市をアピールされると逆に清々しさすら感じるほど
多治見市押しだ。原作が出来るまでの流れを考えれば、
この押し具合も納得ではあるものの、
実写パートに関しては「YouTube」とかでやれと思うような内容であり、
中の人に興味がある人ならば楽しめるかもしれない。

アニメの内容は1話から分かりやすい。
主人公は陶芸家の母を持つものの、母は幼い頃に亡くなっている。
そんな彼女は母の地元に引っ越してきて、母の面影を感じつつ
「陶芸部」として陶芸を始めるという流れだ。

多治見市は「陶芸」が有名な街だ。
そんな街だからこそ陶芸を主軸に物語が展開していく。
1話12分ほどだからこそ非常にテンポが早いものの、
サクサクと進む小気味よいストーリーは分かりやすくシンプルだ。

主人公が初めて土に触れ、
お茶碗を作る過程を丁寧に描きつつ、失敗する。
はじめから上手くはできない、でも、陶芸というものに楽しさを感じ、
幼い頃の記憶しかない母の面影を彼女は土の香りとともに思い出し、
陶芸を始める。

1話はキレイに物語の始まりを感じさせてくれる。

知識

主人公の母は陶芸家だったものの、主人公自身は何も知らない。
陶芸に関する知識は0だ。
だからこそ、彼女は同じ部員に陶芸のことや焼き物のことを教わりながら
陶芸について学んでいく。

視聴者も陶芸の知識がない人が多いからこそ主人公を初心者にすることで、
主人公と同じように陶芸の知識を視聴者も学べるようになっている。
この手の作品としてはベタともいえる手法ではあるものの、
ベタだからこそわかりやすく、日本の文化ともいえる「陶芸」を
1つ1つしっかりと学ぶことが出来る。

特に「脚」で土を捏ねたりする作業など、
思わず「そんな作業もあるのか」と思える部分も多い。
ただ、1話15分のせいもあるのかナレーションベースで片付けることも多く
「これは○○」と言いながら作業を説明しただけでのシーンも序盤は多く、
その作業の結果もあっさりと描かれる。

確かに陶芸の知識は描かれてはいるものの、それに伴うSTORYが薄い。
それと同時に他のこの手の作品とは違い「多治見」要素がある。
多治見市の景色をしっかりと見せるシーンも多く、
「聖地巡礼」してほしいという多治見市側の熱意は伝わるものの、
露骨だ(笑)

かっぱ伝説の残る多治見市や所々にある陶器やお店など
実際にある場所を映しまくってはいるものの、
アピール感が強く、押しが強い。

「これ」という要素が序盤にはなくひたすら地味だ。
キャラクターも女の子ばかりだが強く惹かれるようなキャラはおらず、
ひたすらに陶芸に勤しむ姿にアニメーションとしての刺激もない。
まるで土からゆっくりと焼き物を片付くるように、
じっくりとじっくりとひたすらに土を捏ねているような序盤だ。

この作品の方向性、形といえるものが序盤は見えてこない。
土をろくろで回すようにこの作品はゆっくりとゆっくりと
徐々に作品としての形が見えてくる。

いつかは割れるもの

ある日、主人公は父の茶碗を割ってしまう。
それは亡き母が生前に作ったもので、父がずっと大切にしていたものだ。
父自身も妻が残したものだからこそ、愛用していた。

だからこそ、それを知ったからこそ彼女はより思いを込める。
30年前に母が作った茶碗、陶器はいつかは壊れるものだ。
どんなに大切にしていても、ふとしたきっかけで壊れる。
壊れるこその焼き物だ。

それを知っても彼女はウジウジとは悩まない。
前向きに、がむしゃらに、作り続けて完成させる。
完成したそれはかつての母のように完璧なものではない。
それは彼女自身がよくわかっている。

だが、妻ではなく、娘が作った茶碗でお茶漬けを
幸せそうに食べる父と、それを見つめる娘。
2人の関係性、親子の絆と愛情がしっとりと描かれる4話は
この作品で描きたいことそのものだ。

母の面影を追う主人公の姿、もっとうまくなりたい。
もっと陶芸をしたい。そんな彼女のめざす先、目標と意欲が4話で描かれる。
本来のアニメなら2話で描かれるようなエピソードだ、
1話15分だからこそ中盤に差し掛かる辺りで描かれてしまうのは
やや残念ではあるものの、この作品の良さが中盤からにじみ出てくる

成長

主人公は悩む、偉大なる母の才能と自分の才能の違い、
同じ部員たちは子供の頃から多治見市で暮らしているからこそ
焼き物や陶芸の知識や技術がある。しかし、主人公は初心者だ。
母がやっていたからこそ興味を持って、自分も好きになった陶芸。
でも、母のようなすごい作品は作れない。

母はもう居ない、だが、母の作品の多くは彼女の家に、
多治見市に多く残っている。
今の自分と同じくらいの年で大きなものを作る母の凄さを
彼女は実感していく。

母の作品を見るたびに、同じ部員の作品を見るたびに、
「どうすればああできるんだろう」という興味と才能への嫉妬と
憧れを感じながら、彼女は自分の作りたいものを形作っていく。
話は淡々としていて地味だ。派手な展開はない。

コンテストまでの時間が迫る中で彼女は悩み、考える。
そんな中で彼女がたどり着くのが「座布団」だ(笑)
やくならマグカップもというタイトルなのに、
主人公は焼き物で座布団を作ろうとしている。

人が座ることを想定した陶芸による座布団づくり。
どうすれば人が座っても壊れず、座りやすいものが作れるのか。
彼女なりに試行錯誤しつつ、自分の中での答えを見つけていく。
母が居たから、友が居たから、彼女は答えにたどり着ける。

今は誰かのマネしかできない、だが、そこから彼女は学んでいく。

コンテスト

コンテストの結果は決して努力と結びつかない。
他の部員たちは結果を出すものの、彼女自身はまだ陶芸を始めたばかりだ。
だからこそ参加賞止まりで終わってしまう。
自分でも技術もセンスも足りていないことを自覚している。

しかし、それが必ずしも悪い結果とは言えない。
審査委員には確かに認められなかった、だが、彼女の作品は
父に響いた。父の心に、父が思わず座りたいと思うほどに
彼女の作品は父の心を動かせるものを作ることができた。
母のように思わず触れたくなる、
思わず座りたくなる作品を彼女は作ることができた。

自分の技術やセンス不足を感じていた彼女にとって
コンテストの結果よりも報われることだ。
焼き物はいつか壊れる、壊れるからこそ儚く、大切にされる。
彼女の作り上げた作品はたしかに壊されてしまった。
でも、それでいい。陶芸は割れ物を作るものだ。

彼女の中にずっとあった緊張の糸がほぐれる姿を見て、
思わず「よかったね」とほっこりしながら見負われる作品だった。

総評:地味な良作

全体的に見て作品全体の地味さは否めない。
特に序盤から中盤までは多治見や陶芸に関する説明描写が多く、
ナレーションベースでサクサクと物語が進んでいってしまい、
いまいちこの作品にのめり込めない。

しかし、中盤から主人公が父の茶碗を割ってしまったことで
本気で誰かに使われる、誰かに大切にされる、誰かに触れてもらえるものを
作りたいと思い、陶芸に挑むようになってから
この作品のらしさと方向性が見え、地味さは変わらないものの、
丁寧に主人公の心理描写と成長が1クールで描かれている作品だった。

ただ実写パートをのぞくと1話15分ほどということもあり、
メインキャラは少ないのに掘り下げ不足のキャラも多く、
物語の印象は残るものの、キャラクターの印象は薄い。

予算やスケジュールの問題は合ったかもしれないが、
1話15分ではなく、きちんと30分で作られていれば
作品全体の印象も変わったかもしれない。

すでに2期が決定しており、実質1クールの作品を1話15分にし、
実写パートにすることで1期と2期に無理やり分けたような
そんな大人の事情を感じる作品でもある。
「多治見」という場所と「陶芸」というものをアピールしたいのはわかるが、
やや露骨すぎるところは気になるところだ。

個人的な感想:4話から

1話の時点ではピンとこなかったものの、4話辺りから
この作品の面白さがしっかりと固まり、
最終的にはほっこりとした後味の残る作品だった。

普通の30分アニメならば2話から面白くなるのに、
この作品の場合は15分アニメゆえに4話からだ。
3話切りする人にとっては面白くなる前に切ってしまっている。
そういったもったいなさはあり、地味さも有り、
色々と気になるところはあるが、全体的には悪くない作品だった。

2期がどんな内容になるかはわからないものの、
期待している自分がいる。

「」は面白い?つまらない?

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