映画青春

「時をかける少女」レビュー

4.0
映画
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評価 ★★★★☆(69点) 全98分

時をかける少女(DVD PV)

あらすじ 東京の下町にある倉野瀬高校2年生の紺野真琴は、医学部志望の津田功介、春に転校してきた間宮千昭という二人のクラスメイト男子と「遊び仲間」として親しく付き合っていた。引用- Wikipedia

走り出せ!

原作は小説な本作品。
1983年には実写映画化もされており、本作品とも繋がりがる。
監督は細田守、制作はマッドハウス。
本作品は東映を抜けフリーとなった細田守監督の初作品となる。

日常の中の非日常

細田守監督といえばデジモンの映画やおジャ魔女どれみなど、
「日常」の中にある非日常を描くことが非常にうまい演出家だ。
だからこそ、おジャ魔女どれみの彼が演出を手掛けた回は
どこか「異質」な雰囲気を感じることができる。

その異質さを冒頭から感じることができる。
普通の女子高生な主人公の日常、その日常の中で「時間」が計測され、
居ないはずの妹の声がふいに聞こえる。
ただのJKの日常なのにどこか不思議な雰囲気が漂う。

この雰囲気の作り方が細田守さんの真髄ともいえる。
なにか大きなフックがあるわけではない、
しかし、なぜか画面に引き込まれる空気感。

主人公も特に何か特徴があるわけでもない。
特別頭が悪いわけでもなく、スポーツも普通、美少女というほどでもない、
なにもかもが「普通」だ。
10年後、20年後に思い出すはずもないような夏の学校の日常。

日常に少しずつ不思議なことが起こる。
そんな中で彼女に「特別な能力」があることが発覚する。

タイムリープ

この作品はいわゆるタイムリープものだ。
最近ではジャンルの1つとして確立されたほど、
シュタインズゲートやRe:ゼロから始める異世界生活などが有名だが、
この作品はアニメにおけるその元祖とも言える作品だ
(正確に言えば少し違うが)

「今日がもしいつもの日だったら何も起きなかった」

彼女にとってはいつまでも続くと思う日常。
大きな変化なんて自分には起こらない、そんな特別なことは起こらないと
彼女自身が「自覚」している。しかし、あっけない。
まるで走馬灯を見るように彼女は「死」を体験する。

死んだはずの自分、死ぬ瞬間を味わったはずの自分、
しかし、彼女は死んでいない。
唐突に自分に目覚めたタイムリープ能力を彼女は試していく。

どんな条件で彼女はタイムリープできるのか?
過去を変えることはできるのか?

「飛べんじゃん、あたし、飛べんじゃん!」

特別ではないと思っていた自分が特別だったことの事実、
何もなかったと思った自分自身に「特別ななにか」があったと実感する。
タイムリープの能力を彼女は学生らしく利用していく、
テストやカラオケの時間、ちょっとした出来事のために
彼女は何度もジャンプする。

日常の中に現れた非日常を彼女が楽しむ様子は可愛らしい。
別に世界を救うわけでもない、誰かを救うわけでもない、
「普通」の女子高生がタイムリープ能力を手に入れられたら?という
非日常の中の日常の描写にニヤニヤさせてくれる。

変化

彼女はタイムリープを大きな変化には使わない。
ちょっとした出来事、過ごした時間自体をなかったコトにするくらいだ。
せいぜい、テストの結果で有利になるくらいだ。

それは彼女自身が「大きな変化」を恐れているからでもある。
この日常がこのまま続けば良い。
特別ではなかった彼女は特別になることを恐れている。
それゆえに親友からの「告白」すらも無かったことにしてしまう。
恋は大きな変化だ。

しかし、彼女が何度、時を戻しても時の流れは止まらない。
時の流れが止まらないからこそ変化も生まれる。
彼女へ告白するもの、彼女がタイムリープして結果を変えた結果、
不幸なことが起きたりもする。

自分のせいで誰かをなにかしようとは思わない。
だが、自分のせいで誰かが傷つくこともある。
本当は自分と付き合うはずだった男の子が別の女の子と付き合うこともある。
彼女は「変化」を極端に嫌っている。

そんな大きな変化が自分に訪れないために、
彼女は何度も何度もタイムリープしてしまう。
タイムリープに残り回数があることも知らずに。
くだらないことに何度も何度もタイムリープを使ってしまった結果、
肝心な時に、重要な時に、その能力が使えない。

未来人

終盤になると「未来人」が現れる。
やや唐突ではあるものの、メインキャラの一人が
「未来人」であることが発覚する。
彼はただ「1枚の絵」をみるためだけにやってきた未来人だ。

未来では当たり前のように過去へ行く装置が開発されている。
だが、それを過去の誰かに言ってはいけない。
彼が過去に来て主人公と幼なじみと一緒に過ごした日々、
本来はありえなかったはずの「今」を3人は味わった。

主人公がタイムリープを何度もしながら、
ときおり不幸な出来事が起こってしまうように、
未来人である彼の「身勝手」ともいえる行動が、
主人公にタイムリープ能力を与え、未来を変えてしまった。

主人公に恋をしてしまった少年、そんな少年の恋心という名の
身勝手な思いがいろいろなことを変えてしまった。
時は決して巻き戻るものではない、起きてしまった出来事は変えられない。
「タイムリープ」という能力があったとしても、
変えることもなかったことにもできない。

その結果、彼は「絵」を見ることができなくなってしまう。
それは主人公が起こした結果でもあり、もう帰ることができない。
変化を嫌い、変わらないことを願った彼女は「走り出す」決意をする。

自分の気持ちに、他人の気持ちに逃げずに、彼女は変化を求める。
変化をなかった事にするために走り飛んで居た彼女が、
変化を起こすために走り出す。

本来は出会うはずもなかった二人が出会い恋をした。
そんな奇跡が許されるのは「1度」だけだ。
未来への希望、子供が大人になり自分のなすべきことを見つける物語だ。
少女は再び走り出す。
未来にはない絵を未来に残すために、もう1度、会うために。

総評:あの時ああしていれば…

全体的にみて素晴らしい青春アニメ映画だ。
「タイムリープ」という今でこそ当たり前に使われる要素、
そんな要素の元祖ともいえる作品だからこそ、
タイムリープの意味と過去と時間、そして未来を描いてると言ってもいい。

普通の女の子がタイムリープの能力を得る。
普通の女の子だからこそ、バカみたいな理由で何度もタイムリープしてしまうし、
普通の女の子だからこそ、取り返しがつかない自体も何度も起こる。
彼女はあくまで「普通」なのだ。等身大の高校生だ。

もし自分が高校生でタイムリープを持っていたら、
テストでいい結果を残すために使うかもしれない、
都合の悪い事実を結果をなかったことに使うかもしれない。
それが見ている側に共感を生む。

その結果、世界を救うわけでもない、誰かを守るためでもなく、
「恋心」を自覚し、その甘酸っぱい青春の叶わぬ恋心を叶えるために、
未来へ走り出す物語になっている。

日常の中にある非日常、そして、そんな非日常が日常になる。
「細田守節」といわんばかりの空気感の描写が、
夏の甘酸っぱい恋心をまっすぐに描いており、
気持ちのいい希望に満ち溢れたラストで終わっている作品だ。

個人的な感想:ポストジブリ

この作品を見返すと、日テレがポストジブリとして
細田守監督を推したのも納得できる作品になっている。
約100分の中で起承転結すっきりとしたストーリーが描かれ、
そこに細田守監督だからこその雰囲気づくりが活きており、
心地よい感覚を残してくれる。

上映規模も当時は21館と少なく、
それが3億近い興行収入になり、DVDも15万枚も売れている。
そんな売上になることも納得できるほどの出来栄えになっており、
後に「君の名は」につながる青春SFアニメ映画ブームの
きっかけになったのも実感できる作品だ。

今から約16年前の作品だが、色褪せない魅力と面白さを
2022年に再確認できると同時に、
今の細田守作品がなんでこうなってしまったんだと
頭を抱えてしまう作品でもあった(苦笑)

「時をかける少女」は面白い?つまらない?

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