評価 ★★★★★(86点) 全112分
あらすじ 都立神津島高校の1年生・森嶋帆高(もりしま ほだか)は家出して東京本土にやってくるが、ネットカフェ暮らしも数日で残金が尽きてしまい引用- Wikipedia
これがセカイ系だっ!
本作品は劇場オリジナルアニメ作品。
監督は「君の名は」でおなじみの新海誠監督、
君の名はから3年ぶりの作品となる。
制作はコミックス・ウェーブ・フィルム。
本レビューはネタバレを含みますのでご注意ください。
雨
新海誠監督といえば病的なまでの背景の描き込みでおなじみだ。
前作の君の名はが大ヒットしてからは、異様に背景が描き込まれる
作品も多くなり、いわゆる「君の名は」風の作品も多く生まれていた。
しかし、そんな「君の名は」風の背景描写の数々を
この天気の子では「これが本家だ」と言わんばかりの描写で圧倒されせられる。
冒頭から雨の一粒一粒にまでこだわったような雨の描写、
異様なまでに描き込まれてもはや実写なのでは?といいたくなるような
東京の風景の数々はもはや笑ってしまうほどだ。
特に今作では「雨」が重要な要素になっている。
シーンによって滝のような雨を描いたかとも思えば、
「傘」に弾かれる雨、窓の縁に落ちる雨などの繊細な雨を描く。
雨1つでも色々な描き方を見せてくれる。
単純に空から落ちる水ではなく「雨」の表情を本当に繊細に描いている。
新海誠監督といえば雨の描写でもある。
「言の葉の庭」という作品ではそれが顕著に感じることができたが、
この作品は言の葉の庭の雨の描写から更にもう一歩、
進化した雨の描写になっている。
「雨」という要素1つでもここまでこだわるのかと思うほどの
病的なまでの「こだわり」を作品全体から感じることができる。
ただ、言の葉の庭であった雨の「音」のこだわりが
やや薄れてしまったのは残念だが、
作品の内容の方向性の違いもあるため仕方ない部分もある。
主人公
そんな雨が降り続く異常気象の東京に一人の少年がやって来る。
彼は島で暮らしていたが、
色々なことが重なりもやもやして家出した16歳の少年だ。
家出に関しては明確な理由は告げられない。
彼の親は居るようだが出てくることはなく、そこはぼやかして描いている。
そこはあまり重要ではない。少年特有の悩み、モヤモヤ、親への反抗、
そういった青春時代に誰もが感じたことのあるような
言葉にしがたい「迷い」を主人公である少年が持っている。
彼が家出のために持ち出した「本」はこの作品の核心をついている部分がある。
「ライ麦でつかまえて」
明確な理由がないからこそ、誰もが味わったことがある
「青春のモヤモヤ」がある。
そんな彼が東京でようやく見つけた仕事が、たまたま知り合った
年上の男性の会社の「ライター」だ。
しかも彼の会社は「ムー」に記事を寄稿している(笑)
世の中の超常現象や不思議な事、都市伝説を扱ってるムーの記事を
書くために主人公は「100%の晴れ女」の情報集めることになる
というところから物語が動き出す。
ダイジェスト
晴れ女を探すシーンはダイジェストだ。
前作の君の名はでも使われた手法ではあるが、今作では非常に上手く使っており
ダイジェストの中でコミカルなシーンや日常風景をさり気なく描くことで、
主人公や主人公が働く会社の「お姉さん」や年上の男性との生活を描き、
キャラクター描写を深めている。
彼の「モノローグ」も多用しており、
このモノローグはややくどく賛否が分かれる部分かもしれないが
終盤の展開を見るとこのモノローグにもきちんと意味が出てくる部分がありるものの、
いい意味でも悪い意味でも前作の「君の名は」より
「オタク向け」に作られている部分が非常に多い。
ヒロイン
ヒロインは主人公が探している「100%の晴れ女」だ。
彼女は母親が1年前に死んでしまい小学生の弟を二人暮らしをしているものの、
働いていたバイト先をクビになりお金に困り
風俗店で働こうとしようとしたところを主人公に止められている。
たった1度の関係だ。
主人公はヒロインの以前のバイト先で、
お金がないときにハンバーガーをおごってもらっている。
たったそれだけの関係だったが、彼女を助けようと主人公が行動する。
それは彼なりの恩義であり、恋愛感情はまだない。
主人公は漠然と家出をし、特に目標も夢もない。
離島を抜け出し、東京で生活をしたい。ただそれしかない。
そんな少年だからこそ、誰かを、「少女」を守ることで
自分自身の「アイデンティ」のようなものを確立しようとしているのかもしれない。
思春期だからこそ行動はめちゃくちゃだ。
後先考えず、ただがむしゃらに、
理不尽な「社会」や「大人」に彼は彼なりに反抗しようとしている。
その結果、手にした「銃」を撃ってしまう。
少女もまた社会に反抗しようとしている。
まだ子供な弟と一緒に暮らしていくために、
彼女自身もまだ「子供」でありながら、
どうにか大人や社会に抗おうとしている。
状況は違えど「社会」や「大人」の抑圧に抗おうとしている
少年と少女が本作の主人公とヒロインだ。
晴れ女
ヒロインはお金がほしい、主人公はそれを理解し、
彼女のために彼女の「晴れ女」としての力を利用することにする。
異常気象で雨が降り続く東京では「晴れ女」の力は
多くの人に望まれている力だ。
しかも100%だ。
彼女が空に願えば短い時間ではあるが雨は止まり晴れになる。
感謝とお金とやりがいを彼女は感じ、一緒に晴れ女としての
仕事を手伝ってくれる主人公との関係性を深まっていく。
ものすごく自然なストーリー展開だ。
君の名はでは主人公とヒロインの「恋愛感情」が
いつ生まれたかわかりにくかったが、
今作では序盤から中盤まで非常に丁寧なストーリーを展開することで
きちんと二人の間に「恋愛感情」が生まれていくのを感じることができる。
微笑ましい日常が積み重なる序盤は
晴れと雨を繰り返しながら描かれる。
年上
少し話はそれてしまうが、新海誠監督というのは変態である。
前作の君の名はを見た方にはおわかりいただけると思うが、
「口噛み酒」という賛否両論の要素や男女の入れ替わりTSという要素と
一般向けのアニメ映画でありながらとんでもない要素をぶち込んだ監督だ。
しかし、今作ではその「フェチズム」的な変態性はかなり抑えられている。
ところどころ漏れ出るように「胸」や「脚」などのセクシーな描写は
少しあるものの、過去作に比べればかなり抑えられている方であり、
ヒロインの脚ばっかりさわってた「言の葉の庭」のような
フェチズム作品を作った監督とは思えないほどだ(笑)
しかし、それでも抑えきれない、ある意味、
新海誠監督の最後の牙城ともいうべき「年上」という要素は忘れない。
「君の名は」では時空を歪めてまでヒロインを年上に仕上げたくらいだ、
新海誠監督の年上のお姉さんに対する憧れは映画でひしひしと感じられる。
この作品でもそこは忘れない。
主人公がバイトをしている会社のお姉さんはおおらかな性格で
やや露出が多く、時折主人公をからかってくる。
ただ主人公の恋愛対象ではない。
童貞が想像する年上の都合のいいお姉さん的なキャラが
都合よく主人公に味方してくれる(笑)
そしてヒロインも「18歳」だ。しかし、私はここに引っかかりを感じた。
2個年上というやや中途半端さを感じる設定に引っかかってしまった、
年上だからこそ年上としてヒロインが主人公に接し、
主人公も年上としてヒロインを扱うものの、2歳差でいいのかと。
20代後半が新海誠監督の好みのはずだ。
しかし、そんな疑問は杞憂だったことが終盤でわかる。
年下
終盤で実はヒロインが主人公に「嘘」をついていたことがわかる。年齢だ。
彼女は年齢を偽ってバイトをしていたことが発覚し、
しかも主人公よりも年下であることもわかる。
主人公に対する態度や口調は、母親が亡くなり幼い弟と二人暮らしで
「生きていかなければならない」という彼女の強さと
大人や社会からの反抗心から来ているものだ。一言で言えば虚勢だ。
相手が年下の男子だからと虚勢を張る大人の女性ではなく、
年下の女性が虚勢を張って大人の女性ぶっている。
新海誠監督がここ最近描いてきたヒロイン像とはだいぶ違う。
この作品は新海誠監督があえて自分のフェチズムやこだわりを
逆手に取った描写になっている。
年上だと思っていたヒロインが実は年下だった。
言葉にすれば1行に過ぎない要素が作中では効果的に作用し、
それがよりヒロインの魅力にもつながっている。
サブキャラクター
本作品におけるサブキャラクターも魅力的だ。
主人公がバイトをする会社のCEOは悲哀に満ち溢れた良いキャラクターだ。
彼は妻を交通事故で失っている。その虚無感からかどこか本気にならず、
駄目な大人のような印象を受けるキャラだ。
しかし、そんな彼が主人公の真っ直ぐな姿、
ヒロインを思う姿を見て感化され主人公を助ける。
現実的な考えで主人公に立ちはだかったはずなのに、
感情的で理想的な考えの主人公に最終的には影響を受けてしまう。
更にヒロインの弟である「凪」
彼はイケメンな小学生で彼女も居る生意気な感じの小学生だが、
彼の存在が終盤のシリアスなシーンでの笑いにつながったり、
彼の意外な行動やまっすぐな言動が主人公に突き刺さる。
彼の彼女たちもちょい役でありながら魅力的なヒロインだ(笑)
サブキャラクターの存在感が本当に素晴らしい。
君の名はと比較しても天気の子におけるサブキャラクターの使い方は
しっかりとしたものになっており、
「新海誠」監督の実力が上がってることが目に見えてわかる。
人柱
終盤にヒロインの力の謎が明かされる。
彼女の力は使えば使うほど代償が伴うものであり、
徐々に体が蝕まれ、最後には空に消えてしまう。
決して唐突な展開ではない。
序盤から「天候を操る力には代償が伴う」こともさりげなく
伏線としてセリフの中に出てきており、ムーの記事を書くための取材の中で
古くからヒロインと同じような力をもつ存在がいたことも明かされている。
そして、彼女たちは「人柱」だった。
空とつながり、本来は操ることのできない気候を操ることで
人間の暮らしを良くしてきた。
ときには豊作を、ときには住めなかった大地を住めるようにするために。
世界の人々のために一人が犠牲になり「人柱」になることで
世界を良くしてきた。そしてそれはヒロインも例外ではない。
異常気象ともいえる降り続けた雨はヒロインが「消える」ことで止む。
人柱が天に捧げられる。太古の昔からしてきたことだ。
序盤から終盤までのストーリー展開が本当に丁寧で
積み重ねて積み重ねて終盤の展開に持っていく。
「なんでそうなったのか」とは思わない、まっすぐなストーリー展開だ。
セカイ系
新海誠監督の作品の中に「ほしのこえ」という作品がある。
この作品は新海誠監督の初の劇場作品であり、
アニメにおける「セカイ系」というジャンルを
説明する際に必ず出てくる作品だ。
セカイ系というのを知らない方のために説明すると、
作品で言えば「涼宮ハルヒの憂鬱」「新世紀エヴァンゲリオン」なんかが
わかりやすい作品だろう。
主人公が「世界」か「ヒロインか」を選ぶような作品だ。
少ない登場人物のせいで少し間違えば世界が滅びかねない。
「涼宮ハルヒ」の機嫌を損ねれば世界がやばい。
そんな作品をセカイ系といい、この系統の作品は平成初期から
エヴァンゲリオンの影響もあり多く生まれた。
しかし、最近では減っている。
最近のアニメはあまりシリアスなものは好まれない、
さらに言えば1クールと言う制限の中でセカイ系というジャンルは難しく、
それゆえに「セカイ系」というジャンルは平
成時代を代表するようなジャンルだ。
そんなセカイ系に新海誠監督はこの作品でド直球で挑んでいる。
「君の名は」もセカイ系といえるのだが、
この作品はそれをさらに一歩進めている。
世界なんてもともと狂っている
主人公は失ったヒロインを取り戻すために行動する、
感情だけの彼の行動は真っ直ぐで純粋だ、
ただヒロインを取り戻したい、その一心だ。
警察に追われようが、拳銃を人に向けようが関係ない。
ただただ彼女を救いたい。
彼女を救うためならば「世界」がどうなっても構わない。
彼の真っ直ぐな思いは叶い、ヒロインを救出救い出すことができる。
しかし、それには代償が伴う。
本来は天に捧げられた存在だ、そんな存在を強制的に戻してしまったがゆえに、
セカイよりも「ヒロイン」を選んでしまったがために。
ラストで3年の月日が流れる。
その間にも雨は降り続くき、止むことはなく東京が沈む。
そこにかつての姿はない。
「セカイ系」というジャンルで主人公がセカイを選ばなかったラストだ。
シーンだけ見ればバッドエンドのようにも見えてしまう沈んだ東京、
降り続ける雨の描写は妙な達成感すら生まれる。
ヒロインを救うために世界を犠牲にした。
しかし誰も彼らを攻めることはない。誰も彼らのせいとは思っていない。
真実を知るのは主人公とヒロインとほんのわずかな関係者だけだ。
主人公とヒロインはハッピーエンドを迎える。
だが、二人には「罪悪感」が残る。
大人たちは彼らの罪悪感を薄めようと
「世界はもともと狂ってる」「東京はもともと海だった」と言ってくれる。
ある種の「免罪符」だ、そこに甘えれば罪悪感も薄くなる。
この世界がこうなってしまったのは「誰のせいでもない」と
思い込むこともできる。
「世界が君の小さな肩にのっているのが僕にだけは見えて泣き出しそう」
エンディングで流れる曲は彼らの罪悪感と罪を実感させるものだ。
少女は届かない祈りを捧げ続ける、しかし、二人はそこにいる。
だから「大丈夫」だと言える。
見終わった後に感動するのではない、感動ではなく満足感だ。
2時間の尺の中で「The新海誠」イズムを感じる要素の数々と、
平成を代表するセカイ系というジャンルをたっぷりと味わせてくれる作品だ
総評:これが新海誠だっ!
全体的に見てこれぞ新海誠といいたくなるような作品だった。
病的なまでに描き込まれた背景、そんな街並みに降り続ける雨の描写は
たかが雨、されど雨と言わんばかりの様々な描写で魅せ、
丁寧なストーリー展開を積み重ねる中でキャラクターを
きちんと掘り下げてラストを迎える。
「君の名は」で指摘されていた点や引っかかった点、
そういったマイナス部分をこの作品ではきちんと挽回し、
主人公とヒロインの恋愛感情の芽生えや魅力的な
サブキャラクターで、ストーリーを見せてくれる。
そして、そんな中でも「作家性」が失われていない。
やや性癖の部分では抑え気味ではあるものの、それでも
「セカイ系」というジャンルで新海誠らしいストーリーを見せてくれる。
おそらく批判の声もあるだろう。
終盤の展開や少年が銃を持つという展開は強引と言えば強引だ。
しかし、その強引さこそがセカイ系であり、
「感情」で動く主人公とその代償とも言うべきラストの現実的な
雨で沈んだ東京の姿が、そんな強引さを忘れさせてくれる。
セカイ系らしく考察しようと思えばいくらでもできる良さもあり、
あえて明確にしない部分もセカイ系らしい。
逆に言えば「セカイ系」というものがどういうものかわからない人は
しっくりとこないかもしれない。
しかし、そのしっくりと来ない部分ですら「絵力」でゴリ推している。
悪く言えばごまかされてるとも言えるのだが、そのごまかしに浸りたくなる。
最初はややうざく感じた主人公のモノローグが終盤で意味を成す。
彼のモノローグであっというまに「3年」の月日が流れ、
思わず「そう来たか!」と思うラストの沈んだ東京の姿は、
これぞセカイ系であり、新海誠監督らしいラストだ。
ハッピーエンドだがどこか煮え切らない、
こんなラストに思わずニヤつき満足してしまう。
この作品は新海誠監督作品が好きな方に、
この20年のアニメにおけるセカイ系アニメを楽しんだ方に向けた作品だ。
一般向けのアニメ映画に見えて実はすごくオタク的な天気の子、
ぜひ、このサイトを見ているオタクにこそ見てもらいたい。
個人的な感想:そーつぉーいじょうだった
私は本当に余計な心配をしていた。
君の名はが大ヒットしたことで次の作品は「新海誠監督らしさ」が
失われるのではないかと。
しかし、新海誠監督は違った。
君の名はの欠点だった部分、批判があった部分をきちんと見つめ直し
それを「天気の子」にしっかり反映しつつも、新海誠監督らしい
セカイ系という要素を突き詰めた作品だ。
本当に見終わった後に妙にニヤついてしまう作品だった(笑)
感動した!と言うような感情ではなく、監督がこの作品でやりたいことが
最大限に作品の中で描ききれていて、それが伝わってしまう。
素直に面白かった作品だった。
ただ1つ気になるのはややスポンサー商品が出てくることが多かったことだ。
露骨に「あー映画のタイアップスポンサーなんだな」と感じてしまう
商品の出方はちょっと残念な部分である一方で、
新海誠監督がこういう事をやりなれてない不器用さが出ているのも
個人的には面白かったのだが、次回作ではもう少し改善してほしいところだ。
そして、次回作がどうなるかだ。
君の名はでは大衆向けに落とし込みつつも性癖を捨てきれなかったが、
天気の子では自身の性癖を抑えつつも大衆向けから少しオタク向けになった。
さぁ、次はどうなる。これほど「次回作」が心待ちになる監督は滅多にいな
い。
私はこの作品はある種の「新海誠監督」自身のアンチテーゼのように
感じる作品だった。
年上のヒロインが年下だったり、
東京を舞台にした作品が多いのにそんな東京を海に沈めたり。
新海誠監督作品のココ最近の特徴でもあった「雨」を
あえて災害のように描いたり。
そんなアンチテーゼを感じる作品なだけに
次回作がどうなるか本当に楽しみだ。
余談だが新海誠監督は「ショタ」属性に目覚めたのだろうか?
年上のお姉さん要素を抑え込んだ反動か、「凪」というキャラに対する
愛情が彼の女装や描写に現れていた感じすらある。
私はそこまでショタ属性には興味はなかった、
今作でちょっと目覚めそうになった(笑)
この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください