評価 ★★★★★(87点) 全12話
あらすじ 東西の間に鉄のカーテンが下りて十余年、隣り合う東国(オスタニア)と西国(ウェスタリス)の間には仮初の平和が成り立っていた。引用- Wikipedia
子はかすがい
本作品は少年ジャンプ+で連載中の漫画作品。
監督は 古橋一浩、制作はWIT STUDIO、CloverWorks。
分割2クールで制作されており、本作品は1クール目。
スパイ
1話冒頭からタイトル通りの「スパイ」活動が描かれる。
黄昏と呼ばれる主人公は優秀なスパイであり、
様々な顔を使い分け、あらゆるミッションをこなしている。
まるで「007」のごとく暗号で伝わるミッションや、
彼のスパイとしての活動が冒頭でさらっと描かれており、
彼の優秀さやスパイ活動という本来はシリアスな状況のはずなのに、
どこか「コミカルさ」を感じさせる描写が
すんなりとこの作品の世界観へと入り込むことができる。
なにせ、彼に課せられた新たなるミッションは
とある政治家と接触する任務だ。
これだけならまだいい、しかし、接触するためには
政治家の子供と接触するため、7日間で子供を拵えなければならない(笑)
思わず彼自身もコーヒーを吹き出してしまうほど
ぶっ飛んだミッションを課せられることで、
彼と同じように視聴者も衝撃を受けることで自然と彼に共感できる。
自然なキャラ描写で自然に作品の世界観とキャラへの共感を生む導入は
素晴らしく、この作品への期待感を強めてくれる。
超能力者
主人公である「ロイド」はミッションをこなすために、
孤児院から孤児を引き取ることになる。それが「アーニャ」だ。
「スパイ」という過酷な世界の中で、6歳(4~5歳)の少女が利用される。
本来ならシリアスではあるものの、
彼女の可愛さがそんなシリアスな状況を破壊する(笑)
なにせ彼女は超能力者だ。
人の心が読めてしまう彼女は「ロイド」がスパイであることも見破り、
スパイ活動にワクワクしている。
とある施設の実験で生まれた試験管ベイビーであり、
そんな施設から逃亡した孤独な少女。
この作品のキャラクターが抱える設定は重い。
一歩間違えば命のやり取りがあっさり行われ、
いつ死んでもおかしくない状況にそれぞれ行われている。
だが、そんな状況にも関わらず彼らはその状況をどこか楽しんでいる。
スパイであるロイドも、超能力者であるアーニャも。
ロイドがお父様と呼べと言っているのにも関わらず、
アーニャはそれをガン無視し「父」と呼ぶその姿も可愛らしく、
子供らしい子供のアーニャに愛おしさすら感じてしまう。
彼女が喋るたびに思わず笑ってしまうほど秀逸な台詞だ。
「ずっと前から父の子供のアーニャです」
「つまんない、スパイ思ってたのと違う、
アーニャ爆弾取り返したいのに。」
他人の心が読める超能力者ゆえか、どこかずれた感性を持つ
彼女の愛らしさがこの作品の魅力でもある。
ピーナッツが大好きで、スパイに憧れて、カリカリベーコンが好きな彼女。
そんな彼女に振り回される「ロイド」にも同時に微笑ましさを感じ、
2人の不器用な親子関係にニヤニヤしてしまう。
ロイドもアーニャも孤独だ。彼らの過去は普通ではない。
普通に生きて、普通に幸せをつかむことすらできない。
生まれゆえに、スパイゆえに、超能力者ゆえに。
孤独な2人が出会いロイドは自分自身がなぜスパイになったのかを思い出す。
「子供が泣かない世界を作るために俺はスパイになったんだ」
1話のたった30分ほどの尺で2時間ほどの映画のような
ストーリーを展開しており、思わず涙腺を少し刺激されてしまう。
父の優しい嘘、アーニャの真実を知る目、そんな嘘と真実が
優しく入り交じることでこの作品は笑えて、少しホロっとできて、
ほっこりできる作品に仕上がっている。
暗殺者
アーニャが学園に入学するためには「両親」の存在が不可欠だ。
父と娘だけでなく「母」もいなければ、ロイドはミッションを達成できない。
そんな中で出会うのが「暗殺者」であるヨルだ。
彼女は暗殺者として平穏に暮らしている。
離れて暮らす弟に婚期の心配をされながらも、
「暗殺者」としての日々に不満は感じていない。
彼女はロイドやアーニャほど孤独ではないが、「普通」ではない。
3人が3人とも「普通」ではない。
彼女はどこか「世間知らず」であり、天然だ。
彼氏もおらず、世間体を気にして「恋人」を探している。
利害の一致である(笑)
ロイドがスパイであることも、アーニャが超能力者であることも知らず、
彼女は自らの正体を隠したまま偽りの恋人と、偽りの妻を演ずることになる。
同時に「ヨル」の恋もこの作品の魅力だ。
世間知らずで男性と付き合ったこともない、
「普通」を求める彼女が偽りの嘘と任務のために彼女に近づいた
「ロイド」に恋心を抱きだす。
嘘まみれで、偽りまみれで、隠しごとだらけだ。
そんな真実を知るのは幼いアーニャのみだ(笑)
彼女がある意味で視聴者と同じ視点なため、
彼女に共感を生みやすく、シリアスな世界観の中での癒しになっている。
毎話のようにロイドのスパイ活動も描かれており、
単純なスパイの日常アニメでなく、
きちんと毎話アクションがあるのがいい刺激になる。
互いが互いの利益のために、そんな利己主義な関係性ではある。
だが、人間とは利己主義な生き物だ。
嘘にまみれていてもいい、偽りでもいい、そこに互いが利益になる
関係性があり「幸せ」があるならばそれでいい。
そこにある普通の日常に、日々の幸せに嘘はない。
彼らの嘘、欺瞞が全て明らかになってしまえば、
その日常も幸せも壊れてしまうかもしれない。
ならば「嘘」で塗り固められていようとも、
この平穏は続いたほうがいい。
見ている側にそう感じさせる「3人の幸せ」がそこにはある。
誰かに感謝される日常、家族のいる家の温かみ、
孤独で普通ではなかった彼らが日々の幸せを実感していく。
第三者
そんな特別かつ、偽りまみれの家族の3人。
3人はなるべく普通でいよう、正体がバレずにいようと勤しんでいる。
しかし、そんな3人を第三者の目でみれば「異様」でしかない(笑)
彼らはギャグアニメでいえば全員がボケだ。
そんなボケだらけな3人を第三者が見て突っ込むことで
華麗なボケとツッコミが成立している。
入学審査が始まり、動物が暴れ出せばヨルが華麗に止め、
動物の心を読んだアーニャは動物を鎮め、ロイドは華麗に着替えを用意する。
ある意味でずーっと嘘という名の「ボケ」が続いている状態だ。
そんなボケまくりな家族を第三者が突っ込むことで、
ギャグが成立し、くすくすと笑えてしまう。
そんなボケをWIT STUDIO、CloverWorksによる作画が盛り上げる。
全力で描かれるアクションがギャグを全開に盛り上げてくれる。
任務を成功させるための偽りの家族。
だが、そんな任務の成功よりも「家族」の心を、家族の平穏を
守るためにロイドは行動したりもする。
基本的にはコメディではあるものの、ハートフルなストーリーが
より、キャラクターの魅力につながっている。
何気ない日常が積み重ねれば積み重なるほど、
彼らの日常がかけがえのないものになっていく。
学園生活
中盤からはアーニャの学園生活が始まる。
父のミッションの成功のために政治家の息子と仲良くなる、
それがアーニャにとって最優先事項だ。
しかし、初日からそんな息子をぶん殴ってしまう(笑)
子供だからこその行動や台詞と、
父のためにミッション成功させないといけない思い、
超能力者ゆえに、人の考えていることがわかるがゆえに、
思った通りにはいかない。
そんな日常のドタバタコメディがアーニャのキャラの魅力を
中盤までにしっかりと築きあげたからこそ、
そんなドタバタコメディにくすくすと笑えてしまう。
中盤になっても同時にハートフルさは変わらない。
父のために任務の手伝いをしたいアーニャだが、
子供故にうまくいかない。
そのジレンマと、自分の任務のためにいろいろなことを強制している
「ロイド」のジレンマ、そんな事情を知らないヨルの優しさ。
偽りの家族が家族として徐々に形作っていく。
本当の親ではない2人、だが、血の繋がりは関係はない。
不器用な父と母が、普通を知らない父と母が、
娘のために「普通」を考え、「日常」と「家族」を形作っていく。
弟
話が進んでくるとサブキャラクターも増えてくる。
それはアーニャの学友だったり、ヨルの弟だったり。
彼らは偽りの家族だ、それがバレてはいけない。
スパイとしての任務を遂行するため、暗殺の仕事を続けるため、
この家族を守るため。
そんなバレてはいけない状況だからこそ、
キャラクターが増えれば増えるほど「バレてはいけない」という
危機感が増していく。
危機感が増せば増すほど、この作品の面白さも増していく。
そんなサブキャラクターにも秘密がある。
ヨルの弟はシスコンであり、同時に「国家秘密警察」の職員だ。
姉を守るための、姉が住む国を守るために、
彼もまた姉に嘘をついている。彼自身も嘘がバレたくない。
嘘と嘘のぶつかり合い、欺瞞を、嘘の暴き合いがたまらない。
メインストーリー
ただ、そんな日常描写が多いせいもあり、
なかなかメインストーリーという名のミッションは進まない。
アーニャが目的の人物と接近するためには、
学校で優秀な成績を収めたり、人命救助やボランティアで社会貢献をし、
学校からもらえる星をあつめないといけない。
1クールでは集めた星は1つだけだ。
そういったメインストーリーの進行の遅さはやや気になるものの、
1クールで3人のメインキャラに感情移入し愛着を持てるようになっており、
物語の序章として考えれば悪くない。
気になるのはロイドの仕事は毎話のように描かれているが、
ヨルの仕事はやってはいるようだが、絵としては殆ど描かれていない。
この作品の世界観は一歩間違えばとんでもなくシリアスになり、
特にヨルの仕事は「暗殺」なだけに描きづらい部分はあるかもしれないが、
そこがちょっと気になるところではあるものの、
2クール目が純粋に気になる作品だった。
総評:アーニャ、知ってる。このアニメおもしろい
全体的にみて完成されたホームコメディな作品だ。
3人が3人とも嘘をついており、各仕事がある。
そんな歪ともいえる偽りの「家族」ではあるものの、
全ての真実をしる「アーニャ」の存在がこの作品にほっこりとした
ハートフルなストーリーにつながっている。
世界観自体は殺伐としており、
1歩間違えばとんでもないシリアスな展開になる作品だ。
しかし、その一歩をなかなかふまない。
まるで綱渡りしているような状況で描かれるホームコメディが
緊張感と緩和の笑いを生んでおり、毎話毎話クスクスと笑えてしまう。
そんなコメディを全力の作画で描いている。
たかが子供がプールに飛び込む、そんなシーンでさえ、
この作品は「アニメーション」として面白く見せようとしている。
立体的なカメラワークで描かれるプールの飛び込み、
そんなガチなアニメーションがこの作品の笑いを後押ししている。
声優さんの演技も素晴らしく、特にアーニャを演ずる
「 種﨑敦美」さんの演技は特に素晴らしく、
子供らしい演技と声ではあるものの、そこに「あざとさ」がない。
「純粋に可愛い子供」がアーニャというキャラの魅力を
より感じさせてくれる。
メインストーリーの進行の遅さはやや気になるものの、
2クール目でどういう展開を見せてくれるのか
期待したいところだ。
個人的な感想:アーニャしってる、アーニャかわいい
アーニャの可愛さがとんでもない作品だった。
この作品の6割位はアーニャの魅力かもしれない。
彼女の視点、彼女が聞いている「声」が
キャラクターたちの感情や心理をわかりやすくしている部分があり、
そういった意味でも「今」らしい作品なのかもしれない。
超個人的な分割2クール形態なのがあまり好きではないところだが、
このクォリティを2クール目も維持するためと思えば、納得できる。
2クール目から参加する「犬」がどんな秘密があるのか
楽しみにしたいところだ。
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