評価 ★★☆☆☆(39点) 全11話
あらすじ 元・伝説の殺し屋として裏社会で恐れられていた男、坂本太郎。しかし、彼はある女性に恋をしたことで殺し屋を辞め、普通の生活を選ぶ。引用- Wikipedia
原作再現度50%の凡作
原作は週刊少年ジャンプで連載中の漫画作品。
監督は渡辺正樹、制作はトムス・エンタテインメント
殺し屋
1話冒頭から主人公のかっこいい姿をしっかり見せてくる。
殺し屋としての日常、誰からも恐れられる殺し屋は
「恋」をした結果、殺し屋を引退し結婚し子供も生まれ、
結果的に主人公である坂本は激太りしてしまったという所から物語が始まる。
非常にわかりやすい導入であり、主人公のデザインが
スラムダンクの安西先生にしか見えないという欠点はあるものの、
シリアスな戦闘シーンとコミカルな日常を見せるという
この作品の方向性を1話冒頭からしっかり見せ、
VaundyによるOPソングとおしゃれなOP映像で風格すら感じさせてくれる。
そんなおしゃれなOPからコミカルな日常が描かれる。
元殺し屋である坂本ではあるものの、
彼はもはや引退した身だ、殺しは封じている。
だが日常の中の些細なところで彼の殺し屋としての実力が垣間見え、
そんな実力と見た目のギャップがギャグにもなっている。
組織を勝手に抜けた主人公は組織にとって裏切り者だ。
彼を狙って殺し屋が序盤はどんどんと訪れる。
シン
エスパーのシンにとって坂本は憧れの存在だ。
しかし、組織の一員として坂本を始末しなければならない。
相手の心を読めるのに、坂本の思考は読めず、
拳銃に対して「ただのお菓子」で圧倒されるほどの実力差がある。
メリハリのあるアクションシーンは一時停止や
スローモーションなどをきちんと意味のある入れ方をしており、
1話はきちんと「つかみ」を感じる構成になっている。
坂本のために組織を裏切ったシンも坂本の店で働くようになり、
2話ではどこかでみたようなチャイナ娘まで仲間に加わる。
序盤はややスロースタート気味であり
物語の方向性や目標が見えにくい。
あくまで主人公である坂本の目的は平和な日常を過ごすことだ。
そんな平和な日常が元殺し屋だからこそ崩れやすいものの、
平和な日常に影響を及ばさないように守ろうとしている。
序盤をすぎると坂本に懸賞金がかかり、
多くの殺し屋が彼を狙うことになる。
そんな中でギャグをやりつつ戦闘シーンを見せているのはわかるが、
最近のジャンプアニメと比べると、この序盤の
「目的」の見えなさ、方向性の見えなさが微妙な感覚になりやすい。
序盤はいわゆるギャグ路線であることはわかるのだが、
殺し屋という存在のシリアスさもあるため、
ギャグとシリアスのバランスが取れているとは言い切れない。
スロー
戦闘シーンにしても1話はきちんと効果的に
一時停止やスローといった演出を加えているのだが、
2話以降もバカの1ツ覚えでスローを多用している。
1話のスローは効果的だったからこそ戦闘シーンに
メリハリと外連味が生まれていたが、2話以降のスローは
ただただ戦闘シーンのテンポを悪くしているだけだ。
別にスローにしなくていいシーンまでスローにしてしまっている。
原作の漫画ならたった1コマのシーンを何秒も映す、
そのせいせ原作と同じようなアングルと絵なのに迫力を感じなくなってしまう。
原作の絵のクォリティが高く、印象的なコマが多いからこそ、
アニメでその絵をみせるためにスローで長回ししてるのかもしれないが、
本当にバカの1つ覚えのようにスローばかりを多発する。
作品全体で言えることだが妙に「色彩」がぼやけており、
キービジュアルなどと比較するとわかりやすいが、
なぜか作品全体が「暗く」なってしまっている印象だ。
室内のシーンだけならともかく、外のシーンでも、
この色彩の暗さのお陰でぼやけた印象がある。
最近のアニメの色彩は明るいものが多い、
だがこの作品はそういった最近の風潮とは違い、
2000年代前半くらいの夕方アニメを見ているような感覚になる。
5話
特にそれを感じるのは5話だ。
坂本に懸賞金がかかり多くの殺し屋が彼を狙う中で、
坂本は家族のために遊園地に行かねばならず、奥さんや子供にバレないように
殺し屋と戦うという展開がある。
雑魚の殺し屋ではなくプロの殺し屋と坂本との戦い、
1クールの中盤の盛り上がりどころだ。
坂本が「急激に痩せて」本来の力を取り戻すという
バトルシーン的にも盛りあがる展開だ。
太った主人公ではなく痩せている主人公という見た目でもかっこよさがある。
だが、戦闘シーンが駄目だ。
まるでスライドショーのように1枚絵と1枚絵をつなげていたり、
お得意のスロー演出も多発しており、せっかく盛りあがるシーンなのに
盛り上がりに欠けてしまっている。
痩せて本来の姿と実力を取り戻した坂本と殺し屋とは実力差がある。
原作では坂本の服は破けたりしていないのに、殺し屋は
ボロボで血まみれというコマなのに、アニメでは
殺し屋の服が破けてすら居ない。
原作のコマが印象的だからこそ、それをアニメで見せるための
止め絵の多さやスローモーションを多様しているのはわかるが、
それすらきちんとできていない。再現率が甘い。
世界観
そもそもの世界観もわかりにくい。
殺し屋といえば裏稼業でありダークなイメージだが、
そんな殺し屋と一般人の女性が普通に結婚してたり、
殺し屋の組織がやたらでかかったり、
憎めない感じの殺し屋が非常に多いのも気になるところだ。
殺し屋というのは人を殺して金を稼いでいる。
そういうインモラルな存在なのに坂本しかり、シンしかり、
殺し屋という雰囲気を一切感じさせず、
過去に彼らが見ず知らずの他人を金のために殺していたような
バックボーンを抱えているようなキャラには見えない。
中盤ででてくるスナイパーなど、
運動神経などはないものの狙撃能力だけは抜群で、
暗殺を請け負う企業に明るく入社し、暗殺を請け負っている。
「人を殺す」という行為に対する倫理観がどのキャラも薄い。
終盤になるとエスパーであるシンの過去なども
掘り下げられる展開になるが、
終盤になっても色彩の暗さ、スロー演出の多様なども多く、
物語の方向性もいまいちはっきりとしない。
ORDER
坂本がもともといたORDERという殺し屋が
でてくることで「不殺」ではない本物の殺し屋同士の
バトルシーンが描かれるのだが、そっちのほうが迫力もあり、
緊張感のあるバトルを展開している。
シンに関しても序盤は心を読めるくらいだったのだが、
終盤ではそんな彼が成長する展開もあり、
バトルアニメとして盛り上がりどころが彼のお陰で生まれている。
終盤はスロー演出などが少し減ったせいもあるのか、
戦闘シーンのテンポ感も上がっており、
特に電車の中での戦闘シーンはサカモトデイズという作品らしい
「電車の内」であることを活かしたギャグと
戦闘シーンの面白さを感じられるシーンも有る。
無駄にスローを多用しない、これだけできちんと戦闘シーンが盛りあがることを
この作品自体で証明してしまっているのはなんとも皮肉だ。
マフィア
終盤はチャイナ娘であるルーのエピソードになるが、
はっきりいってキャラクターとしての存在感も薄く、
別に殺し屋でもない、ただのマフィアの娘という微妙な立ち位置の
キャラであるがゆえに彼女関連のストーリーに特に面白さを感じない。
ヒロインという立ち位置なのかもしれないが、
特に恋愛事情が描かれるような作品でもなく、
かといってコメディとして必要なキャラなのかといえばそうでもなく、
そんな彼女を取り戻すためにマフィアがやってくるのが
終盤の展開なのだが、特に必要性を感じないストーリーだ。
スラーという謎の存在が動いていたり、
凶悪な死刑囚たちが坂本たちを狙うというところで
1クールが終っている。
分割2クールであるがゆえのストーリー構成なのはわかるが、
あまり区切りの良いストーリー構成ともいえず、
色々な殺し屋が出て、それを倒して、また殺し屋が出てと
同じような感じでストーリーが展開していくのも気になる作品だった。
総評:今のジャンプアニメに普通は許されない
全体的に見て、これが10年くらい前だったら
もっと高い評価を得ていた作品だったように思える。
ジャンプアニメの多くが夕方アニメとして放送され、
アニオリなどもありつつ4クール以上放送されてた時代だったら、
この作品のテンポ感や作画のクォリティなどなんの問題もなかった。
しかし、今は2025年だ。鬼滅の刃以降、TVアニメの水準は一気に上がり、
特に「ジャンプ原作アニメ」に対する視聴者のハードルは
とんでもなく高いものになっている。
呪術廻戦、スパイファミリー、ダンダダン、逃げ上手の若君、
チェンソーマン、作画のクォリティは一級品だ。
だが、この作品は一級品ではない。
作画崩壊しているわけでも作画が悪いというわけではない。
10年前ならハイレベルに感じる作画のクォリティではあるものの、
今の水準で言えば物足りない作画になってしまっている。
特に今作はアクションシーンが目玉の作品だ。
そんなアクションシーンが物足りない、原作のほうが
迫力があるなどと言われてしまっているようでは
通用しないのがいまだ。
原作のコマと比較している画像がネット上にも多くあるが、
原作の絵のクォリティが高いがゆえに、その絵を
そのままアニメに持ってこよう、そこを見せようとして
一時停止やスローモーションなどを多用してしまっており、
戦闘シーンのテンポ感もおちてしまっている。
漫画という媒体は静止画だ、そんな静止画の中で
動きを頭の中で読んでいる側が補完して読んでいる。
アニメはそんな読者が補完している部分を再現しなければならず、
その再現がうまく行っていないのが最大の原因だ。
ストーリー自体の方向性の定まらなさや、作品自体の目的に見えづらさ、
ギャグがしたいのかシリアスがしたいのか、どっちつかずな部分など、
1クール目はそういった部分でのブレも目立つ。
2クール目では本格的な闘いも始まるため、
アニメーションを含め色々とブラッシュアップしていることを
期待したい。
個人的感想:画力
かなりの余談ではあるものの、この作品をみて思ったのは
原作の画力が高い作品はアニメにするうえでハードルが高いのでは?
と感じたところだ。
例えば鬼滅の刃や進撃の巨人などは
連載当初は画力がないなどと言われることも多かったのだが、
逆にアニメではとんでもない作画で描かれている。
原作の画力が高いと読者が想像で補う余地があまりなく、
その余地を埋めるアニメと画力の高い漫画原作というのは
もしかしたら相性が悪いのかもしれない。
例えばベルセルクなども何度もアニメ化されているものの、
アニメが評価されることはほとんどない。
あくまでふと思っただけではあるものの、
サカモトデイズも原作の絵力がるだけにアニメにするうえでの
ハードルが高かったのかもしれない。
2クール目でどうなるかはわからないが、
このハードルを超えてくれることを期待したい。