映画

傍迷惑「クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」レビュー

3.0
クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝 映画
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK2022
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評価 ★★★☆☆(50点) 全100分

【大ヒット上映中!】『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』アハハハハハニニニニーン笑撃映像

あらすじ ある日、野原家に妊婦の女性・屁祖隠ちよめと5才の少年・珍蔵が訪れた。彼女は5年前にみさえと同日に同じ病院で子供を産んだが、病院のミスで取り違えが起きてしまったと同行していた病院の医院長が言う。引用- Wikipedia

傍迷惑

本作品はクレヨンしんちゃんの映画作品。
監督は橋本昌和、制作はシンエイ動画。
クレヨンしんちゃんとしては30作目の映画作品となる。

誕生

映画冒頭「野原しんのすけ」が生まれるシーンから描かれる。
新生児のしんのすけを可愛がる両親の姿、
30作という記念すべき作品だからこそ、
クレヨンしんちゃんの1番最初に振り返るようなエピソードだ。

しんのすけの「名付け」エピソードに関しては原作通りだ。
父である「ひろし」が雨の中走ってきたせいで、
名前の候補一覧を書いた紙の文字が雨でにじみ、
「しんのすけ」という文字だけが残ったのが名付けの理由だ。

あえて原作からのストーリーを描くことで、
映画の冒頭の導入を自然と描きつつ、
同時に今作の事件が起こるきっかけにもなっている。

みさえが入院していた部屋と同室で同じ日に生まれた母と息子。
そんな母と息子は5年という月日が流れ、
とある事件に巻き込まれていたというところから
物語が始まる。

取り違え

野原家に「産婦人科」の先生と「屁祖隠ちよめ」と「屁祖隠ちんぞう」と
ともに訪れる。3人曰くしんのすけが生まれた日に
「赤ん坊の取り違え」が起きて居ることが明らかになる。

衝撃的な展開だ。
大人ならば「屁祖隠ちよめ」が嘘をついていることはわかるものの、
子ども目線からすれば自分の両親が本当の両親ではなかったという
衝撃的な展開だ。

子どもと一緒に映画を見に来ている両親も同じだ。
もし、自分の子が取り違えられていたら、
もし、自分の子が自分の子ではないとある日言われたら。

「5年間」という月日を共に過ごしている。
我が子と思いながら暮らしていたからこそ、いきなり離れることは出来ない。
「屁祖隠ちよめ」の提案により、野原家と「屁祖隠家」は
しばらく同居することになる。

しかも「屁祖隠ちよめ」は怪しげな術まで使う始末であり、
謎の「忍者達」に狙われている。
怪しげな忍術「傀儡」や「金縛りの術」を使いながら戦うアクションは
コミカルかつ軽快であり、今までのクレヨンしんちゃんでは無かった
忍者アクションは斬新だ。

そこに「クレヨンしんちゃん」らしいコミカルさも極まっている。
大人たちが真剣に闘っていても、しんのすけは我感せず、
「自撮りの術」で乱入する始末だ(笑)

「屁祖隠ちよめ」の息子と勘違いされた「しんのすけ」は
忍の里に連れされてしまい「屁祖隠ちんぞう」として
生きていくことになる。

へそ

忍の里は「地球のへそ」を守っている。
地球の中心につながる大きな穴、そんな穴を栓で防いでいる。
もし、栓が外れてしまえば地球は崩壊する。
とてつもなく壮大なストーリーだ(笑)

今までもクレヨンしんちゃんは映画で色々なストーリーを
展開してきたが「人類滅亡」という壮大なスケールの話は今作が初だろう。
そんな人類滅亡の危機を前にしても、野原しんのすけらしさは全開だ。
忍者の里が「地球のへそ」の栓が抜けないように努力している中で、
ふざけまくっている。

「屁祖隠家」しか使えない「もののけの術」を持っている。
「地球のへそ」を守る要であり、しんのすけは
「ちんぞう」の代わりとして忍者の里で忍者幼稚園に通うことになる。

「しんのすけ」は身代わりだ。
本来ならもののけ術を使えるはずの「ちんぞう」が
もののけの術を使えず、彼を守るために「取り違え」がおきたと
偽って、しんのすけを身代わりにしている。

見方を変えると「屁祖隠ちよめ」がやってることはえげつないのだが、
ストーリー自体は自然だ。
当たり前のように「しんのすけ」が
スマホを使っていることにも時代を感じる描写であり、
そんなスマホの位置情報を元に野原一家も忍者の里へと赴く。

しんのすけを取り戻そうとする野原一家に敵が襲いかかる、
その名も「辺賀久才蔵(へがくさいぞう)」だ(笑)
今回のクレヨンしんちゃん映画はいつも以上に、
くだらなく下品なギャグが非常に多く、
いい意味で、どこか初期の頃のとがったクレヨンしんちゃん映画の
雰囲気を感じる部分もある。

明らかに子供には伝わらないような「野球ネタ」だったり、
おならなどのネタも使いまくっている。
物凄くくだらないギャグがふんだんに盛り込まれていることにより、
地球滅亡の危機という壮大なスケールのストーリーとの
ギャップが生まれている。

忍者幼稚園に通いだしてもギャグ満載だ。
同級生の技を喰らえばほぼ全裸になり、
「けつだけ星人」で分身の術まで披露してくれる(笑)
クレヨンしんちゃんらしいギャグ満載な描写に思わず笑ってしまう。

家族

呑気に忍者の里での生活を楽しむ「しんのすけ」だが、
彼はまだ子供だ。ふとしたときに、母の面影を、父の面影を彼は求めてしまう。
自分がひろしとみさえの子供ではない、そんな会話をしてしまっているのを
聞いてしまったからこそ、彼の中にも不安がある。

それをあえてセリフとしては出していない。
「アニメーション」による芝居がこの作品は本当に美味い。
なにげない風景の描写で、なにげない表情で、
「野原しんのすけ」という五歳児が両親からはなされた寂しさを描いている。

彼は片時もスマホを手放さない。
充電が切れたことはわかっている、それでも、
唯一、両親と繋がれる手段だからこそ、片時も彼は離そうとしない。
もしかしたら、自分の両親は本当の両親じゃないかもしれない。
そんな不安と、そんなことはありえないという不安を抱えている。

みさえとひろしもまた「しんのすけ」の子供の頃を思い返している。
初めて自分たちの名前を読んでくれたこと、初めてだっこしたこと。
しんのすけと暮らした5年間を思い出す回想シーンは、
思わず涙腺を刺激されてしまう。

何度も自分の名前を読んでくれる両親、
誰になんと言われようと間違いなく「父ちゃん」と「母ちゃん」だ。
彼がこぼしたひと粒の涙、再開したときの涙の演出は
この作品を象徴するものだ。

えぇ…

ただ終盤の展開に関しては色々と突っ込みどころがある。
野原一家がしんのすけと再開し、「屁祖隠ちよめ」の事情も明らかになる。
あくまで彼女は我が子を守るために取り違えと嘘をついただけだ。
そのために野原一家を巻き込んでいる。はた迷惑な話だ。

そんな中で「地球のへそ」が抜けてしまう。
すると唐突に地球のへその研究をしている博士が現れる。
映画の尺的に残り30分という時点で新キャラだ。
地球のへそが抜けて、地球に残された時間は8時間しか無いということを
説明するためだけのキャラクターであり、必要性を一切感じない。

抜けた栓のかわりに大きな栓をはめるために、
「屁祖隠ちよめ」はひそかに「巨大な傀儡」を作っている。
終盤はまさかのロボットアニメだ、意味がわからない。
しかも、そんな大ピンチな最中に「屁祖隠ちよめ」は産気づいてしまい、
終盤の戦いには参加しない。

「屁祖隠ちよめ」というキャラの行動がとんでもなく迷惑だ。
他人の家を勝手に巻き込み、最後の最後は他人任せだ。
しかも、忍者の里は春日部とかなり近い場所だったらしく、
かすかべ防衛隊も無理矢理合流する。この終盤の展開はかなり強引だ。

序盤から中盤までのストーリーが悪くなかっただけに、
終盤のストーリー展開の強引さは雑に感じてしまう。

もののけの術

終盤は忍術のエネルギーであるニントルが吹き出していることで、
かすかべ防衛隊も「もののけの術」を使えるようになっている。
このあたりの展開も中盤くらいの展開ならともかく、
終盤で「かすかべ防衛隊」を活躍させるためだけの要素でしかない。

もののけの術で獣を召喚した「かすかべ防衛隊」が
地球のへそを運ぶ、コミカルなシーンになっているものの、
序盤や中盤ほどのアクションシーンやストーリーのインパクトは感じず、
地球がやばい!という状況なのに、なんとものほほんとした
解決方法になってしまっており、テンポ感も急に悪くなっている。

地球の危機という壮大な展開の割には、
こじんまりとした解決になってしまい、
なんとも言えない消化不良の残る作品になってしまっていた。

総評:風呂敷を広げすぎて畳めなかった

全体的に序盤から中盤まではしっかりと面白さのある作品だ。
初期のクレヨンしんちゃん映画を彷彿とさせる
ギャグ要素満載になっており、やや下品とも言えるギャグの数々と
コミカルな表現の数々は思わずクスクスと笑ってしまう。

ストーリーも親子愛を描いている。
「ひろし」と「みさえ」の本当の子供ではない事をしった
「しんのすけ」が忍者の里で生活している中で、
両親の愛と両親との日々を思い出すシーンは
思わず涙腺を刺激される描写だ。

余計なセリフもなく、アニメーションとして心象表現が
しっかりとされており、5才児の心理描写がしっかりとなされている。
ただ、問題は終盤だ。

「屁祖隠ちよめ」は自分の子供を守るために、
野原一家を強引に巻き込んでおり、野原一家を傷つけている。
そんなひどいことをした彼女は地球の危機が訪れた際には
産気づいてしまって野原一家に任せきりと、色々とひどい。

無理矢理かすかべ防衛隊を絡ませて、地球の危機を
なんとかしようとする展開もグダグダとした展開が続いてしまい、
せっかく序盤から中盤まで面白かったのに、
終盤でやらかしてしまった感のある作品だ。

地球の危機という壮大なストーリーの風呂敷を広げたはいいものの、
広げすぎて閉じ方が雑になってしまった、
そんな印象を受ける作品だった。

個人的な感想:悪くはないが…

クレヨンしんちゃん映画は感動要素をいれる風潮が
オトナ帝国の逆襲あたりから生まれており、
この作品も感動要素を入れている。
そのあたりの描写はしっかりとしており、思わず涙腺を刺激される。

ただ終盤の展開に関しては練り込みが浅すぎる。
序盤から中盤までしっかりとしていただけに、
雑な終盤に肩透かしを食らってしまった感覚だ。

しかし、これは大人目線で見た場合だ。
子ども目線で見ればギャグ満載でコミカルで、
ちょっとうるっと出来るストーリーに仕上がっており、
クレヨンしんちゃん映画として及第点な作品と言えるかもしれない。

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