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「さよなら私のクラマー」レビュー

1.0
スポーツ
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評価 ★☆☆☆☆(13点) 全13話

あらすじ 川口伊狩中学3年の女子サッカー部の主将・周防すみれは、周囲に恵まれず最後の公式戦で敗れるが、ライバルの曽志崎緑から一緒のチームに行こうと誘いを受ける。引用- Wikipedia

失点まみれのサッカーアニメ

原作は4月は君の嘘でおなじみの新川直司によるマンガ作品。
監督は花井宏和、制作はライデンフィルム
ちなみに脚本は高橋ナツコ。前日譚がアニメ映画にもなっている。

残念ですが日本のサッカーは終わりました

この作品は「サッカー」を題材にした作品だ。
主人公は「女子」ではあるが、男子に混ざってサッカーをしていた。
だが、高校で男子に混ざってサッカーをするのは難しい。
そんな彼女が高校では「女子サッカー」をやることになるというところから
物語が始まる。

前日譚が映画で描かれてしまったせいで、彼女が
「中学で男子相手に活躍した」というシーンがざっくりとしか語られず、
彼女がどんな強い選手だったのかというイメージがまるでつかず、
主人公の魅力というのを感じない。

本来は1話で映画でやってしまった前日譚の内容が描かれていれば
印象は違ったかもしれないが、物語の始まりが描かれていないため、
この作品の世界に入りづらい印象だ。

視点

この作品の最大の欠点は視点の多さだ。
1話冒頭は「恩田 希」の視点で高校で女子サッカーに
入るまでの様子が描かれる、その後にOPが流れたかと思ったら
別のキャラの視点に変わり、なおかつ過去回想が始まる。

ナレーションをしているのも誰だかよくわからないキャラであり、
そんな誰だかよくわからないキャラが何故か知っている
「周防 すみれ」の過去回想が始まる。

物語の中や、スポーツアニメの場合は試合中にキャラの過去が
回想で語られることは多い。だが、1話のAパートで
いきなり過去回想が始まるのは異例だ。
まだ主人公の印象もろくについていないのにどこの誰とも知らないキャラの
過去回想が始まってしまう。

さすがは高橋ナツコといいたくなる脚本の悪さを
冒頭からビンビンに感じさせてくれる。
しかも、その過去回想がギスギスだ。

対戦相手は「クズ」と相手を罵るスポーツマンシップの欠片もないキャラであり、
「周防 すみれ」が孤高のストライカーであることを演出したいのは分るが、
キャラクターへの感情移入がしづらい。
この作品に明確な主人公は居ない、群像劇として描きたいのは分るものの
単純に物語の視点が代わりまくるだけで主軸が無いような印象だ。

原作では「恩田 希」は前作の「さよならフットボール」の主人公であり、
原作の1話の始まりは「周防 すみれ」の視点から始まっており、
そこで前作の主人公と同じチームで女子サッカーをやるという
流れになっている。

あえて1話の冒頭に「恩田 希」を出したことで
物語がごちゃごちゃした印象を受けやすくなってしまっており、
冒頭で彼女を出したことで1話の中盤でわざわざ彼女の顔を隠す意味も
まるでなくなってしまっている。

原作では「恩田 希」が出ることもわかっておらず、
1話の途中で顔を隠して出てきたかと思えば、
次のシーンで顔が描かれることで前作を読んでいる人への
サプライズな演出にもなっていたことは分る。
だが、アニメでは1話の冒頭で彼女を出したことで、
顔を隠す意味もなければサプライズの意味もない。

意味不明なことをしている。

作画

スポーツアニメにおいて「試合」のシーンは重要だ。
そのスポーツの魅力、そこにハマるキャラクターたちの活躍、
それがスポーツアニメの面白さに繋がっている。
だが、この作品は作画が死んでいる。

1話の段階で演出でごまかしまくりな試合のシーンはまるで面白さを感じず、
とにかく「背景」をなんとなく早く動かすことでスピード感を演出しているが、
まるで絵が動いていない。サッカーなのに動きを感じない。

そもそも、どんな「試合状況」なのかがまるでわからない。
アップばかりのカメラのせいで、試合全体が今どんな状況なのか
俯瞰的に把握することができない。
キャラクターの顔が金網を貫通しているような作画ミスも多く、
作画崩壊こそしないもののシンプルに作画が安っぽい。

11人、試合になると22人ものキャラが
同時に動くサッカーというスポーツだからこそ作画が重要だ。
しかし、この作品は止め絵ばかりで動きの面白さもなく、
アップでごまかしているのが見ていてひしひしと伝わってしまう。
一言で言えば躍動感がない。

試合の面白さや各キャラの動きが見ていて伝わってこない。
なぜかEDの映像だけは綺麗でよく動いているのが、皮肉のように
本編が動かないのが辛いところだ。

キャラの多さ

序盤からキャラの多さによる弊害が生まれている。
味方だけで11人、そこに顧問とコーチも加わり、
男子サッカー部のキャラまで居る。
敵チームを除いても15人以上のキャラが序盤から出てくる。

わかりやすい「お嬢様キャラ」などでキャラの味付けをしているものの、
その極端な味付け以上にキャラの魅力や掘り下げが行われず、
最終話になってもろくに名前覚えていないキャラのほうが多い。
作中のキャラの3分の1も覚えきれない。

2話になると相手チームとの練習試合なども始まり、
敵キャラ、ライバルキャラも出てくる。
相手チームの11人全てが描かれるわけではないが、
味方チーム以上に相手チームのキャラの印象が薄い。

掘り下げる時間が短い相手チームのキャラだからこそ
癖の強さや印象に残る何かがなければ試合への盛り上がりも生まれない。
この作品はそこができていないため、試合が盛り上がらない。

いわゆる「天才」が居ることは分るのだが、
そう言われているだけで天才であることが伝わるような
プレイは見せてくれない。
「天才なキャラです」という説明を他のキャラに言わせてるだけだ。

試合中の作画も悪ければキャラ描写もろくにできておらず、
試合を見ていても「面白さ」というのがまるで伝わってこない。
ギスギスしたシーンも多く、そのギスギスがキャラの掘り下げや
展開の面白さにつながるわけでもない。ただギスギスするだけだ。

専門用語

サッカーという試合の見せ方も「専門用語」をろくに解説せずに
描かれることも多い。
「グラウンダーによこせクズ!」「ダイレクトにアーリークロス!?」
とキャラの台詞で今描かれている技や状況がどういうことなのかを
説明するものの、サッカーを知らない人にとってはグラウンダーも
アーリークロスも意味不明でしか無い。

当然ご存知でしょ?といわんばかりの専門用語の說明をしない。
絵で試合運びを見せることも言葉で説明することもできていない。

「どっから打ったんだよ!ロベカルかよマジかよー」

というような台詞もあるが、そもそもロベカルという選手が
居ることは分るものの、10年以上前に現役だった海外の選手を
知っているのはよっぽどのサッカーファンぐらいだろう。
その選手がどういう選手でどういったプレイをする選手なのかというのを
知らないとキャラの台詞が伝わらない。

こういったサッカー用語やサッカー選手の名前などを
「当たり前」のように見せてくる。
サッカーファン以外はお断りですと言いたいような台詞が多い。

暴言

専門用語だけならともかく、キャラの口がとにかく悪い。
試合中に味方がミスれば怒り、相手チームを煽り、
そんな煽りに対してまた煽り返す。

「地獄に落ちる準備はできた?」
「どけのろま」
「てめぇはなにができるんだよ?」
「いかせねぇよクソブス!」

などと平然と言い散らかすのがこの作品だ。
サッカー選手は口が悪いですとも言いたいのかと思うほど
基本的にクチの悪いキャラしか居ない。

倒れた相手選手の上をあえてまたがり、見下ろし優越感に浸る。
そんなキャラに感情移入などできず、好感も持てない。
負けても勝っても相手に暴言を吐く。

これで1人か2人のキャラが暴言を吐く感じのキャラならば
嫌悪感は生まれなかったかもしれないが7割型のキャラが暴言を吐く。
現実の女子サッカーの環境は悪く、スポンサーも付きづらい。
そんな現状をこの作品でも描いてはいるが、
こんな暴言を吐く選手だらけのスポーツにスポンサーなどつかないだろう。

フットサル

中盤になるとフットサルをしだす。
サッカーもそうだが、フットサルに関してもろくに説明をしない。
「お金」のためにバイト感覚でのフットサルではあるものの、
ポジションを決めてきちんと試合も描かれる。

「ゴレイロ」「フィクソ」「アラ」「フィボ」など
ポジションを表す言葉も出てくるが、当然のように説明もしない。
フットサルとサッカーの違いなども解説があっても良さそうなものだが、
この作品は絶対に解説や説明をしない。

説明してほしい部分は説明してくれないのに、
「フットサルはサッカーより休めない」など
微妙な部分だけ説明するため余計にわかりづらくなってしまう。
ルールを知らない人は自分で調べろ、細かい専門用語も
自分でググれとも言わんばかりの作品だ。

せめてCパートあたりで軽く用語の説明があれば
印象が違ったかもしれないが、この作品は徹底的に用語や
ルールの説明を排除している。

故にフットサルの試合が描かれてもルールがわからないため
見てて楽しめず、サッカーの試合も専門用語で説明されても、
その専門用語の解説がないためわからない。

試合の描写が面白ければ自分で調べて理解する気持ちも生まれるかもしれないが、
つまらない試合の描写のせいで好奇心もわかない。

テンポの悪さ

この作品のテンポの悪さを1番感じるのは7話だ。
7話冒頭、公式試合の1試合目が終了したところから始まる。
コーチの実家でお好み焼きを食べながら反省会が始まり、
過去回想という形でどうして負けたのかが描かれる。

7話の冒頭で試合後の時系列がえがかれ、
どうして負けたのかが描かれるという構成自体は悪くない。
だが、その過去回想の中でいちいち試合後の時系列に戻り、
また過去回想に戻るというのを繰り返すために余計にテンポが悪くなっている

試合に負けた原因も才能のある選手の「寝不足」だ。
せっかくの公式戦の1試合目という大切な試合にも関わらず、
ダイジェストチックに描かれる試合なのもなんとも言えず、
負けた原因が寝不足というのも何がしたいのかよくわからなくなっている。

サッカーアニメの主人公が寝不足でオウンゴールで負けましたという
展開はある意味斬新ではあるが、この作品はギャグをやりたいのか
真面目に女子サッカーというものを描きたいのかよくわからない。

ライバル校に宣戦布告し、自信満々なはずのキャラが
寝不足でオウンゴール。真面目なのかふざけているのか。
シリアスとギャグのバランスが悪い。
寝不足でオウンゴールだけなら最悪飲み込めたが、
次の話では体育祭での野球で「足」でボールを蹴り、怪我をする。

しかも、怪我を隠して試合に出てる始末だ。
そんな状況に限らず彼女の活躍によりあっさり2試合目は勝つ。
ろくに試合も描かれない中でこういうふざけた展開が多いせいで
この作品は一体何がしたいんだろうと真剣に考えてしまう。

女子サッカーの未来という真剣な事を考えるシーンも多いのに
こんなふざけた展開は女子サッカーに対して失礼だ。
おバカなキャラのおバカっぷっりを強調させる展開なのは分るが
強調されすぎててドン引きしてしまう。

回想

この作品は前日譚を映画にしてる。
そんな映画のシーンを今作でも平然と回想シーンとして入れてくる。
どこの誰だかよくわからないキャラの過去回想をされてもよくわからず、
映画を見てる前提のようなストーリー構成は悪手でしか無い。
かといって「このシーンの回想が気になるから映画に行こう」ともならない。

スポーツアニメでは試合中に過去回想が入るのはありがちだが、
過去回想はストーリーのテンポが崩れる欠点でもある。
だが、その過去回想を描くからこそ敵チームや味方の掘り下げになり
試合が盛り上がるという利点がある。

しかし、この作品は欠点しか出ていない。
各キャラの掘り下げになるような回想ではなく、
ただテンポが崩れる回想シーンばかりだ。
その回想は果たして今、必要なんだろうか?と思うようなタイミングで
回想が入るためテンポが崩れるだけで盛り上がりにはつながらない。

決勝

序盤から中盤に比べて試合中の作画はやや持ち直す。
止め絵はあるものの、序盤のようなレベルの作画ではなく
ある程度まともな試合の描写になっているのは良いものの、
この作画のレベルで序盤の試合も見たかったと思ってしまう。

それでも「良くなった」だけで、迫力のあるシーン描写とは言い難い。
止め絵が少なくなり、動きが若干良くなり、カメラも俯瞰的になり
アップが減る。サッカーというジャンルのアニメを描く上で
「最低限」の見せ方がようやく終盤で見れる。

それでもやはり相変わらずの専門用語による解説で
試合を見せている部分が多く、アニメーションではなく、
試合を見ている外野の説明で試合運びや作戦を説明している。
アニメで「みせる」ということができていない。

終盤でようやく試合が試合らしくなり盛り上がりにはつながるものの、
ようやく盛り上がってきてるところで回想シーンの長さのせいで
テンポを崩す。スポーツアニメの欠点が目立ちまくりだ。

ナレーション

この作品はナレーションも多い。
主人公の幼馴染による視点で語られる部分があまりにも多く、
話によっては先の展開のネタバレになっていたり、
先の展開をわざわざ予告させる。

「まさかのんちゃんのあんなプレーを目撃するとは
 誰も想像していなかったのです」

わざわざ、主人公が後ですごいプレーをします!と
ナレーションで予告させる意味もわからない。
無駄にハードルを上げるだけで、ナレーションをする意味がない。

あくまで彼女目線でみたことのナレーションならばまだ理解できるが、
彼女が知らないであろう相手チームの過去回想のときも
彼女がナレーションをするため意味不明だ。
どの視線で彼女がナレーションをしているのか謎でしか無い。

終盤の12話など「前回までのあらすじ」が
ドラゴンボールレベルで描かれるのも謎だ。
尺調整をミスったのかもしれないが、「2分」以上も
11話のあらすじが12話で描かれるのは意味不明でしか無い。

真面目かギャグか

序盤から中盤までふざけた展開が多いが、
終盤は真面目にサッカーをしている。

そういった意味では終盤まで見ればこの作品の面白さが
垣間見えてくる部分はあるものの、あれだけふざけてたキャラが
いきなり真剣にサッカーをされても違和感が強く、
真剣な試合運びなのにギャグが挟まることも有り、
最後の最後までシリアスとギャグのバランスが悪さが際立っている。

真面目にサッカーを描き真面目に盛り上げる。
シンプルにそれができておらず、真面目にやってることがいきなり
恥ずかしくなってギャグを入れているような感覚だ。

本気で「女子サッカー」というものを描きたいならば
中途半端なギャグが必要ない。
試合の流れ自体は面白いのに、真面目にサッカーを描ききれない
制作側の気恥ずかしさのようなものがつねに漂ってしまう。

敵チームは真剣にサッカーというものに挑んでいる。
だからこそ彼女たちは負けた。そう感じてしまうほど、
ある意味で納得できる展開は描かれている。
敵チームのライバルは彼女たちに言い放つ

「あんた達なにやってるの?力のあるやつはたくさんの人の目に
 触れられないといけない。女子サッカーは特にそうだ。
 そんなに才能があるのになんで万年最下位の学校を選択するの?
 私達には女子サッカーの未来がかかっているのに」

正論だ。優秀な選手が才能を発揮できる場所で試合を盛り上げることで、
選手としての才能をアピールすることで
「スポーツ」というものが盛り上がる。
女子サッカーの未来、それがこの作品のテーマの1つだ。

ライバルチームは真剣に女子サッカーをやり、
女子サッカーというものを盛り上げようとしている。
それなのに才能のある選手が万年最下位の学校に入ってしまった
もどかしさと、才能を活かせていないことへのいらだちを感じている。

彼女に言われて、最終話で主人公たちも真剣に女子サッカーの
未来を背負うために強くなろうとする。
ここから彼女たちの物語が始まる、そう感じさせるラストであるのは
分るものの、ここからということで終わっている作品だ。

総評:サッカーファン以外はお断り?

全体的にみてスポーツアニメの欠点が如実に現れている作品だ。
キャラ数の多さ、そのキャラ数の多さをなんとかするための過去回想の多さ、
「スポーツ」という作画カロリーの高いジャンルと、
スポーツアニメで欠点になりやすい部分がこの作品ではそのまま欠点になっている

結局、最後まで名前すら覚えていないようなキャラクターも多く、
試合中でも唐突に入る過去回想やナレーションでのネタバレ、
止め絵の多すぎる試合の描写と1クールのアニメの中で
この作品を活かしきれていない。

それだけでなくキャラにも好感が持てない。
特に一応は主人公的な立ち位置な「恩田 希」は理解不能だ。
寝不足でオウンゴールするわ、体育で足を骨折するわ、本当にいらっと
来てしまうおバカなキャラであり、一応は才能がある設定なのだが
その才能が活かされるシーンのほうが少ない。

サッカーに関する知識がある程度求められる場面も多く、
「サッカーファン以外」お断りなスタンスで作られているのも
かなり気になるところだ。

ストーリー的にはまだまだ色々な意味で未熟な彼女たちが
チームとして形になり、自覚し、
これから強くなっていくというような形で終わっているのは分るが、
そこに至るまでの過程の描き方がいろいろな意味で悪い作品だった。

個人的な感想:五輪合わせ

さすがは高橋ナツコ先生だと感じる脚本のセンスを感じるものの、
最終話の展開自体は悪くないだけに、
もう少し早い段階で終盤の展開まで行き、そこから
主人公たちが強くなり勝つ試合がしっかり描かれれば
作品全体の印象は違ったかもしれない。

全体的なテンポも悪く、好きになれるキャラもおらず、
色々と突っ込みどころも多い。
最近、五輪にあわせたようなスポーツアニメは多いものの、
この作品もオリンピックに合わせた急ごしらえ感のある作品だった。

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