評価 ★★★★☆(60点) 全8話
あらすじ 引用- Wikipedia
これは推しの子のリビルドだ!
本作品は推しの子の実写化作品。
AmazonPrime限定のドラマとして配信され、
12月に完結編が映画として上映される。
嘘
1話冒頭からおなじみのナレーションから始まる。
「この物語はフィクションである」
漫画が原作の実写化ドラマであるがゆえに、その言葉は余計に重い。
嘘で塗り固められた芸能界を描いた推しの子という作品、
その中で「実写化」というものにも焦点が当てられ、
原作改変は当たり前、顔だけで演技ができない役者のせいで
作品が台無しになることもあった。
そんなメタ的な作品の実写化だ、ハードルは富士山よりも高い。
「みんな愛してるよー!」
星野アイ演じる少女は「齋藤飛鳥」だ。
かつて乃木坂46というアイドルグループのアイドルだった彼女が
天性のアイドルである星野アイを演じている。
それが嘘というフィクションを作り上げるうえでのリアルを感じさせる。
漫画やアニメの実写化は非常に難しい。
アニメや漫画の実写化なら可能な表現も実写化になると
その表現の「嘘」っぽさが強調される部分がある。
推しの子も原作やアニメでは赤ん坊がサイリウムを振ったり、
赤ちゃんが言葉を喋ったりしていた。
しかし、実写化ではそこもうまく誤魔化している。
転生者であるアクアとルビーはあくまで赤ちゃん同士で
会話が通じるというだけの設定になっており、
原作やアニメのように斉藤 ミヤコの前で喋り、
彼女に言葉が通じるということもない。
創作という嘘を、アニメや漫画の中で許させていた嘘を
実写化というリアルでどう表現するのかというのを考えて
制作されていることが冒頭から感じると同時に、
ゴリゴリに「原作改変」されている(笑)
原作改変
アニメや原作ではアイドルである星野アイが妊娠し、
医者である主人公のもとに訪れ、
そんなアイドルのストーカーに主人公が殺され、
星野アイの子供として転生するという流れがあった。
しかし、この作品はそこをゴリゴリにカットしている(笑)
あまりにも大胆な原作改変に笑ってしまうほどだ、
原作のファイナルシーズンで制作された「15年の嘘」、
その映画の中でのインタビューを冒頭に持ってきている。
原作が最終章を迎える中で制作され、完結したからこその
ストーリー構成だ。
最後まで描かれた物語を、あらためて1から再構築して
ドラマの尺に落とし込んでいる。一歩間違えれば大批判される。
だが、この作品はかなりうまくやっている。
序盤からかなりテンポよく物語が描かれる中で、
物語で描く必要のない部分を大胆にカットすることで
原作やアニメになかった「テンポ感」が生まれている。
アクアの初演技のシーンもカットだ。
子供時代の主人公たちの物語を描きつつ、
同時に未来の「15年の嘘」のインタビューを差し込む。
過去と未来を交互に描きながら「何が起こったのか」を感じさせ、
「何が起こるのか」期待させる。
原作では10話ほど、アニメでは1話90分かけて描いた
転生からアイの死までの物語を、
ドラマではたった「40分」で描いている(笑)
星野アイ演ずる「齋藤飛鳥」さんの演技も
うまいというわけではないものの、
星野アイという嘘にまみれた少女だからこそ、
その嘘っぽさがいい意味で演技の完璧じゃない部分が
妙にリアルになっているようにすら感じる。
有馬かな
主人公たちが成長し、ルビーはアイドルになろうともがいている。
このあたりも原作やアニメと展開は同じだ。
推しの子らしい「芸能界の闇」にも触れているものの、
原作やアニメで感じていた説明のくどさはかなり薄れており、
自然に芸能界の裏側も解説している印象だ。
そんな中で出てくる「有馬かな」のインパクトが凄まじい。
彼女らしい本性丸出しの口調、
よく口が回るなと思うほど怒涛のセリフ量をぶつけてくる。
元天才子役という役を子役でデビューした女優が演ずる、
自然と見てる側が演じている役者の過去を役柄に投影してみてしまう。
2話になると、そんな有馬かなや、アクアが出演するドラマに出てくる
メルトだけでなく、「今日あま」の作者である吉祥寺頼子や、
アビ子先生まで出てくる(笑)
たった8話しかないドラマだからこそ、怒涛の展開だ。
詰めに詰め込んでいるものの、それが気にならない。
抑えるべき箇所を押さえ、ドラマとして、実写化として
推しの子という作品を表現しようとしているのを感じる。
漫画やアニメという「嘘」を実写化という「リアル」に落とし込む、
嘘とリアル、その狭間をどう表現するのか。
モノローグ、キャラクターの心理描写も「役者」の表情にかかっている。
顔だけの、所作だけの細かい演技、目線で、瞳で、感情を訴える。
それをライティングや演出でフォローし、見せ場をもり立てている。
1人の少女が1人の少年に恋をする。
そんな「表情」ですら演技で見てくれる。
そうかと思えば「有馬かな」の心理表現に
漫画的な演出を加えるなど「嘘」も交えることで、
リアルと嘘の境界線を反復横とびしている。
個人的な意見を言えばアニメや原作よりも
実写ドラマの有馬かなのほうが魅力的に見える。
新生B小町でのライブシーンの表情もあまりにも秀逸だ、
自分を観てほしい、そんな彼女の思いを表情で見せ、
その前にはヲタ芸を披露する「アクア」がいる。
恋愛リアリティショー
3話になると恋愛リアリティショーが始まる。
アニメや原作以上に「若手芸能人」を演ずる「若手俳優」が
恋愛リアリティショーを撮影する風景はかなりリアルだ。
SNSの声もリアルであり、生々しい。
「黒川あかね」という少女は恋愛リアリティショーの中で
目立たずあせり、その焦りがより、SNSからの攻撃につながる。
生々しい攻撃の声が少女を追い詰める。
顔なきネットの声のリアルさ、生々しさがドラマではより強調されている。
アニメでは恋愛リアリティショーにおける
「黒川あかね」の覚醒は印象的だった。
アニメだからこその表現を詰め込んだシーンは
推しの子という作品をより印象付けるものだった。
だが、それはリアルではない嘘の表現ができる漫画やアニメという
フィクションだからだ、ドラマで、実写でそれをどう見せるのか。
この部分に関してはやや期待外れな部分がある。
黒川あかねの姿と星野アイの姿を重ねて、「瞳」を演出しているものの、
この「嘘」を「リアル」に落とし込めきれていない。
「黒川あかね」というキャラクターに感じた狂気、
それがドラマでは表現しきれていない。
そこが非常にもったいなくもあるが同時に難しいポイントだったのだろう。
印象的な瞳の演出を安易に使えば嘘っぽさが増してしまう、
それをできるだけ使わずにあのシーンを
再現しようとした結果なのは理解できる。
新生B小町
ただ、このテンポ感だけは素晴らしい。
1話ごとでシチュエーションが変わり、
1話ごとに復讐劇も進んでいく。
原作やアニメで感じていたテンポの悪さが実写ドラマにはない。
各話の主題歌が変わるという手法も斬新であり、
そのエンディング曲と映像の中で、
各話のメインキャラの掘り下げを補完しているような印象だ。
アニメや漫画ではB小町の活躍が少なかったりするのも
気になるところだっが、テンポよく、
細かいシーンをカットしているがゆえに、それも気にならない。
「有馬かな」の毒舌っぷりが、コメディリーフとして機能しており、
彼女が喋るたびに画面が明るく彩られる。
毒舌という名のセリフとひねくれた有馬かなというキャラクター性を
原菜乃華という女優が120%演じあげることで、
強烈なキャラクター像につながっている。
MEMちょも「あのちゃん」が演じているが、これもナイスな配役だ。
きちんとMEMちょというキャラの存在感を醸し出している。
実写化ドラマ
この作品で最大の原作改変は「東京ブレイド編」だ。
原作やアニメでは2.5次元舞台だったが、
ドラマでは「実写化ドラマ」になっている。
しかも、新生B小町のライブと同時進行で
東京ブレイドの物語も描かれている。
こうすることでアニメや漫画では東京ブレイド編で
鳴りを潜めていたB小町の存在感が薄まるということもない。
原作改変をしつつ、カットもしつつ、圧縮した
ストーリー構成にはなっているものの、
その結果生まれたテンポ感ゆえに推しの子の欠点がかなり薄れている。
推しの子の魅力と欠点は「キャラ立ての良さ」だ。
メインキャラもサブキャラも、キャラクターがしっかりと立ち、
魅力的に描かれており、キャラクターの存在感があるからこそ、
その存在感に見合うドラマも描かれる。
そのせいもあって尺がとられ、テンポが悪くなり、
メインストーリーの進行の遅さが気になってくる。
2.5次元舞台を実写化ドラマにすることで、アビ子先生の
キャラクターを描写しつつも、スピーディーに物語が進んでいく。
更に同時に新生B小町の新曲の制作も進む。
3つの場面が同時進行だ。
余計な場面転換も時系列の変化もおこさず、
同じシーンで、同じ場面で原作のセリフやストーリーを
消化することでテンポ感が生まれる。
もはやこれは原作改変ではなく再構築だ。
単純に原作をそのままドラマにするのではなく、
推しの子を構成する要素を意識し、ストーリーの流れや
キャラクター性は変えずにコンパクトにまとめ上げる。
原作にあった芸能界の闇や裏側の解説のくどさ、
キャラクターが立ってるからこそのテンポの悪さや
メインキャラの陰が薄れてしまう問題、
復讐劇というメインストーリーの進行の遅さ、
このあたりの問題点が一気に解決している。
原作の2.5次元舞台編は2.5次元というものの裏側を描いていたが、
ドラマでは、ドラマの裏側を描いている。
各話の視聴率という生々しい指数、それにおわれる制作陣。
原作者と脚本家、その間にたつプロデューサーという板挟みを描いている。
ただ、その一方で「メルト」は東京ブレイドには
出演していないというのは
原作やアニメのファンならば気になるところだろう。
たしかに彼はメインである復讐劇に関係ないキャラだ、
アニメではまるまる1話、東京ブレイドの彼が描かれた。
推しの子という作品を削ぎ落とし圧縮する中で
メルトの成長と変化が削られてしまったのは残念ではあるものの、
納得できる部分もある。
彼はメインストーリーを描くうえでは
必要がないキャラだからこそのカットだ。
ゴロー
原作やアニメではアクアの前世として描かれるゴローだが、
ドラマでは序盤から中盤までがっつりと、
医者としての前世のエピソードはカットされている。
終盤になるとゴローとサリナの過去が描かれたりするものの、
これは原作やアニメを見ていればアクアの前世の姿として
認識できるが、ドラマだと若干、そのあたりが説明不足な感じがある。
しかも、前世のシーンではゴローとサリナがタイムカプセルを埋めるという
原作にないシーンが挿入されている(笑)
アニメや原作では「ツクヨミ」がルビーに対して
いろいろな情報を提供していたが、
ドラマではツクヨミの存在自体もカットしており、
ゴローの死体発見の流れもかなり自然なものになっている。
原作でも異質な存在でありファンタジー感の強かった「ツクヨミ」という
存在をリアルなドラマでは排除する、
更に原作でも不要に感じた「コスプレ編」など
ドラマでは一切描かれない(笑)
漫画というフィクションからドラマというフィクションへ
変換する上で自然なカットだ。
有馬かなのスキャンダルに関しても、原作に比べて
「有馬かな」という少女にヘイトが向かないように仕上げている。
総評:原作改変まみれ!?これは完璧な実写化ドラマだ
全体的に観て笑ってしまうほど原作改変しまくりだ。
特に東京ブレイド編は舞台からドラマにかわり、
更に「メルト」が出演していないなど、かなり大胆な改変を行っている。
しかし、それが改悪ではなく、むしろ推しの子という作品を
シンプルに再構築したように感じさせてくれる。
特に東京ブレイド編は原作でもアニメでも、かなりの尺を使って
描かれており、その原因は「メルト」というキャラにもあった。
彼自体はとても魅力的であり、彼の成長ドラマは素晴らしいものの、
本筋である復讐劇には関係のない部分だ。
だからこそ、削ぎ落としてしまっている。
本来は時系列的に原作に存在した「コスプレ編」も、
カットし、推しの子という作品を全8話のドラマでうまくまとめあげて、
映画でやるよていの最終章までの物語を紡いでいる。
漫画やアニメと違って実写化は「フィクション」性を
強めれば強めるほど嘘っぽくなる。
推しの子で言えば赤ちゃんがサイリウムを振ったり、
ツクヨミという神様がでてきたり。
そういった部分を「オミット」しつつ、改変しつつも、
推しの子という作品で描こうとした本筋をきちんと描きつつ、
同時にキャラクター性が失われていない。
特に「有馬かな」に関しては演じている役者の演技も相まって
原作やアニメに負けない、実車だからこその彼女の魅力を
余すことなく感じることができる。
その一方で黒川あかねはややアニメに比べるとインパクト不足であり、
このあたりは難しい表現だったことを感じさせるものの、
全体的に役者の配役はすばらしく、
有馬かなには元子役の女優を、YouTuberにはあのちゃんを、
二世俳優には二世俳優をといった具合に演じている役者自体も
投影するような配役になっている。
ただ、私は原作もアニメも見てしまっているため判断しかねるが、
推しの子という作品を一切知らない状態でこの作品を見ると
転生周りでやや違和感が生まれる部分はある。
前世をあまり描かずにドラマを進めているがゆえに仕方ない部分ではあるが、
このあたりはやや気になるところだ。
しかしながら全体的に非常にうまくドラマ化されており、
映画の方も気になる作品だった。
個人的な感想:原作とは別エンド?
この調子だと映画では原作とは別エンドを迎える可能性もある。
原作の最終回は色々不評だった部分もあり、
最終章は全体とを押して賛否両論だった。
このドラマではそんな賛否両論な部分を削ぎ落としつつ、
シンプルに推しの子という作品を再構築しているような印象だ。
映画でどうなるのか、純粋に楽しみで仕方ない。
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