評価 ★★★★☆(64点) 全11話
あらすじ 田舎の産婦人科医ゴローは、自分に懐いていた患者で、12歳の若さで亡くなった少女さりなの影響によりアイドルオタクになっていた。そんな彼の元に、活動休止中の彼の推しアイドル・星野アイが双子を妊娠した状態で現れる。引用- Wikipedia
推しの子
原作は週刊ヤングジャンプで連載中の漫画作品。
監督は平牧大輔、制作は動画工房
完璧なアイドル
この作品の主人公は「医師」だ。
大好きな推しのアイドル、かつて自分が担当していた少女が
推していたアイドルを彼も自然と応援するようになり、
少女が亡くなった後も「アイ」というアイドルを応援し続けている。
そんなアイドルが彼の病院に「妊婦」として訪れるところから
物語が動き出す(笑)
現役のアイドル、しかも16歳、スキャンダル中のスキャンダルだ。
文春が踊り狂うレベルのスキャンダルを
主人公の推しのアイドルが起こしている。
1話は怒涛の展開をひたすら繰り返している印象だ。
アイドルオタクな主人公、そんな主人公の推しが妊娠し、
こっそり出産するために主人公の病院に訪れる。しかも、相手はわからない。
更に双子を妊娠している。
弱小事務所の弱小アイドルのそんなスキャンダルが起これば大問題だ。
アイドルとしても芸能人としても終わりだ。
だが、それでも「星野アイ」というアイドルは
アイドルでいようとしている、子供もうみ、アイドルを続ける。
そのための「嘘」だ。
「嘘はとびきり愛なんだよ」
その言葉の意味は重い。
実在のアイドルも裏で彼氏がいようとも、不倫してようとも、
整形してようとも、もし結婚して子供がいたとしても
「ファン」の前で「完璧なアイドル」であればいい。
その嘘を、その偶像を、完璧なアイドルをファンは求めている。
そんな彼女をファンとして、医師として支えようとした矢先、
主人公は彼女のストーカーに刺され殺されてしまう。
アイドルが妊娠したときに
「今死ねばアイドルの子供に転生できるかもしれない」、
そんなネットの戯言がこの作品では現実のものになる。
タイトル通り、まさしく「推しの子」に主人公は転生してしまう。
スピーディーに物語が進行し、サクサクと衝撃的に描かれる
物語はある意味現代的だ。
グダグダとした展開や要素など1話には一切ない。
刺激的で衝撃的でセンセーショナルな物語を叩き込まれる。
裏
同時に生々しい芸能界も描かれる。
アイドルという笑顔でキラキラな少女たち、
その裏では大人のどす黒い感情が入り乱れている。
だが、それ以上にアイドルという名の嘘をアイは演じ続ける。
誰もが目に留まる、どす黒い大人でさえ騙される、それがアイというアイドルだ。
そんなアイの子供として転生したのは主人公だけではない。
双子の妹「ルビー」もまた誰かの魂が宿った転生者だ。
前世の主人公がかつて看取った少女の魂が
妹に宿ってることを主人公は知らない。
芸能界の裏側、弱小事務所、売れないアイドルの給料事情なども
えがきつつ、同時にコミカルな台詞回しが、
リズムカルなストーリー描写につながっている。
嘘で塗り固められていた「星野アイ」というアイドル、
そんなアイドルが自分の子供に応援されることで、
「本当の笑顔」を手に入れる。
嘘で塗り固められていたアイドルが本当の嘘を手に入れ、
よりアイドル街道を上り詰めていく。
だが、アイドル、芸能の世界は厳しい。
何かしらの一流でなければ生き残れない。
前世の記憶のある他者からは早熟にもみえる主人公は
「子役」として目をつけられる。
アイドルの世界、役者の世界、子役の世界、
アイドルを通じて様々な芸能の裏側を描いていく。
死
この作品の1話は実質4話分の尺がある。
あえてそれをしたのはTVアニメという媒体ゆえにだ。
昔ながら3話きり、最近では1話きりなんて言われることも多く、
多くのアニメが制作、放送されている今はより、
視聴者は「1話」でその後見るかどうかを決めている。
だからこそ、この作品は1話に詰め込んでいる。
アイドルの子に転生する、通常のアニメの20分ほどでは
それだけで終わりだ、だが、この作品は4話分ある。
アイドルの子に転生し、そして、そのアイドルが
ストーカーに刺されて死ぬ。
この作品がただ推しの子に転生して、
アイドル街道を、子役街道を上り詰める物語ではなく、
主人公による「復讐劇」であることを
4話分の尺を1話で放送することで強調している。
嘘で塗り固められていたアイドルが、
嘘の中で作り上げたアイドルとしての姿、
嘘をつき続けながら子供をうみ、本当の愛を知らない。
だが、嘘つきの天才の少女にとって「偶像」というアイドルは天職だ。
愛はわからない、だが、嘘が本当になるかもしれない。
孤独で特殊な環境で育った星野アイという少女は
嘘をつき続けた、自分の子供にさえ愛を呟け無い。
だが、嘘には代償がつきものだ、バレなければ問題がない、
だが、バレてしまえば大きな変化が生まれる。
星野アイという少女は特大の嘘をつき、そしてストーカーに殺される。
彼女の最後の「愛」のことばは真実だ。
嘘をつき付けた少女が最後に愛という名の真実にたどり着く。
この1話の衝撃的な展開、そしてアニメーションによる見せ方は鮮烈だ。
動画工房らしいキャラクター描写も秀逸だ。
髪の毛1本1本まで強調させるような描写、
推しの子における特別な目の描写とキャラクターデザインを
アニメという媒体でより強調し、
アイドルの死というセンセーショナルなシーンを
より印象的なものに仕上げている。
自分を殺し、推しのアイドルであると同時に
自分の母を殺したストーカーに情報を教えたのは
「自分の父親」であることに気づいた主人公は復讐に生きる意味を見出す。
そのために彼は芸能界で成り上がろうとする。
復讐劇の幕が上がる。
復讐劇
2話になると主人公たちは成長し、まもなく高校生になろうとしている。
10年以上の月日が経っていても主人公は
「復讐」を忘れることは出来ていない。
彼の妹であるルビーもまた母のようなアイドルを目指しているものの、
アイドルのオーディションにおち続けアイドルになることができていない。
その裏では主人公が動いている、妹を母のようにはさせない。
だが、ルビーの天性のアイドル性ゆえにスカウトから声がかかる。
この作品は基本的に「芸能界の闇」というものを描いている、
序盤ではアイドルや子役の実情を描き、
2話では地下アイドルの実情を描いている。
綺羅びやかなアイドル、芸能界。
その光の裏には嘘で塗り固められていたものだといいたげな
芸能界の裏側が話が進めば進むほど描かれていく。
狂気的なまでの復讐へのこだわり、
そんなこだわりが彼を役者の世界へ、芸能界の世界へいざなっていく。
久しぶりの表舞台、高校生になった主人公が初めて携わるのは
「クソ実写化ドラマ」だ(笑)
原作改変は当たり前、顔はいいものの演技ができない俳優たち。
見ると共感性羞恥を感じるようなほどのクソ実写化ドラマだ。
そんなドラマに「主人公の父親かもしれない」男も絡んでいる。
主人公の復讐劇と芸能界の闇という要素が
序盤はきれいに混ざり合っており、
そこにヒロインであり、かつての天才子役である
「有馬かな」が絡んでくることでラブコメという要素も生まれてくる。
子役は子役だからこそ評価される部分もある。
天才子役も成長して大人になればただの人だ、
有馬かなもかつては有名な子役だったものの、
今は売れない芸能人に成り果てている。
だが、それでも彼女は演技を磨き、この世界に食らいついている。
そんな彼女のために主人公は動く。
誰も演技など求めていない役者の宣伝のための実写化ドラマで、
演技を見せようとする彼女のために、主人公は本気の演技で背中を押す。
人を観察し、映像づくりを学び、天才的なアイドルの母を持つ少年が
本気を出す姿はシンプルにかっこよく、モノローグによる
「演技プラン」の説明と声優による演技が「アクア」という
主人公の魅力をより押し出している印象だ。
彼の思いを、演技を見たからこそ
「有馬かな」という少女が彼に惚れるのも納得できる。
一人の少女が恋をする、その瞬間と表情の描写はさすがは動画工房だ。
そんな有馬かなはルビーとともにアイドルを目指すことが決まり、
主人公は「恋愛リアリティショー」に出演することが決まる。
恋愛リアリティショー
恋愛リアリティショーは現実でも色々な問題がおきた
番組の形式だ。美男美女の若い芸能人が集まり恋愛をする。
そこには嘘と本当が入り混じっている。
演者によってスタンスも違う、本当に恋愛感情が生まれるもの、
あくまでカメラの前での自分を演じているもの、
真面目故に「病んでいく」ものも出てくる。
真面目に頑張れば頑張ろうとするもの「嘘」で
塗り固められてた芸能界におぼれていく。
芸能界は自分を世間にさらすことだ。
ちょっとしたきっかけで叩かれ、炎上する。
それをいちいち気にしていてはこの世界では生き残れない。
真面目な子ほど病んでしまう。
「黒川あかね」という少女は名前も顔も知らない誰かの声に病んでしまう。
そんな少女を救うのは「主人公」だ。
序盤からきちんとキャラ立てしながら一人ひとりのキャラクターを描き、
物語に組み込んでいっている。
有馬かな、黒川あかね、メインヒロインが揃うことで
物語も本格的に動かしていく。
黒川あかね
黒川あかねという少女は恐ろしい。
役者である彼女は知名度を上げるためにも
恋愛リアリティショーに出演したものの、真面目故に病んでしまう。
何かを演じるのではなく、素の自分でTVの前に出たからこその弊害だ。
そんな彼女に主人公は救われ、彼女は仮面を被る事になる。
「星野アイ」という伝説のアイドル、
主人公にとっての好みの女に彼女は演じようとする。
天性のアイドル、嘘で塗り固められていたアイドルを、
演ずることの天才である役者が演ずる。
真面目故に、勉強熱心故に、
演ずるものについて徹底的に調べ上げる「黒川あかね」という
少女の狂気、天才的な役者である彼女が演ずる
「星野アイ」というアイドルの姿は圧倒的だ。
所作の1つ、「声色」から声の出し方、瞳まで
完璧に星野アイを演ずる彼女の狂気に一気に引き込まれる。
これはアニメだからこその描写の仕方だ。
何枚もの原画で作られたアニメーションが星野アイを演ずる
黒川あかねの動きを表現し、声優による演技がそれを助長する。
主人公にとって前世での推し、今生での母。
そんな憧れとも恋心とも、自分の中での感情を
整理しきれない気持ちのままで宙ぶらりんだった主人公にとって
「黒川あかね」の演ずる星野アイの姿は強烈だ。
完璧なプロファイリングの結果の演技をする黒川あかね。
そんな彼女のプロファイリングは主人公の
復讐劇にとっては有益だ。
そんな復讐劇のために主人公は彼女を利用する。
それが複雑なラブコメ模様につながるとしても(笑)
番組の中で恋人関係になった二人、今後もその関係を続けるのか。
嘘で塗り固められた芸能界で嘘で付き合う二人。
そんな二人にヤキモキする「有馬かな」と
ラブコメも盛り上がってくると同時に復讐劇も進んでいく。
星野アイが足を運んでいた劇団、
そこで誰かと出会い彼女は変わった。
それを知った彼女は劇団ララライに近づこうとする。
新生B小町
ルビーたちは母のアイドルグループの名前そのままに
アイドルとしてデビューしようとしている。
誰がセンターをやる中、揉める中で
「有馬かな」がセンターを務めることになる。
過去に歌で失敗し、センターをやりたくないのに彼女はセンターをやる。
本心を嘘で塗りかため、嘘が口から出る、
子供の頃から芸能界で生きてきた彼女だからこそ、
どこかひねくれている。彼女の本心「モノローグ」が聞こえる私達だからこそ、
彼女の心の声が生々しい。
好きになった男に頼まれてアイドルになったものの、
そんな男は別の女と仕事とは言え付き合っている。
子役時代の彼女にはファンが居た、しかし、今は居ない。
だからこそ自信がない。
そんな彼女をすくい上げるのはルビーであり、アクアだ。
新生B小町の初ライブの描写はさすがは動画工房だ。
上から下から、煽り、舐め回すカメラアングルと
一人ひとりの表情をしっかりと見せている。
新人のアイドルらしいつたなさ、だが、天性の才能、
恵まれた遺伝子によるアイドル性が爆発する。
一瞬の視線、一瞬の笑顔がルビーをアイドルとして輝かせる。
そんな輝きに隠れるのは有馬かなだ。
子役として売れた過去があったからこそ、
彼女は輝くことを、誰かに見られることを求めている。
そんな彼女の目標が1クールの終盤で定まる。
誰かではない「アクア」の推しになる、推しの子になる。
作品のタイトルの意味が二重に回収される1クールが心地良い物語だ。
バチバチの女同士、役者同士の闘いがおこる
「2.5次元舞台編」を匂わせて1期の幕は降りる。
総評:君は完璧で究極のアイドル
全体的に見て非常にバランスのいい作品だ。
「死んでアイドルの子供になる」、そんなヲタクの妄想が
実現した1話の冒頭から、そんなアイドルが殺され、
主人公の目的が定まる1話は90分という長いものだが、
一気に描いているからこそ物語に引き込まれるものになっている。
2話以降は芸能界の裏側を描きながら、
同時にヒロインたちを掘り下げ印象付けキャラ立ちさせている。
天才子役だった有馬かな、真面目な女優である黒川あかね、
この二人の存在感は非常に素晴らしく、
二人のヒロインと主人公を巡るラブコメの盛り上がりもキチンとある。
本筋である復讐劇の進行は遅いものの、
きちんと1つ1つの要素に復讐相手を特定する流れがあり、
それを1つ1つこなしながら徐々に復讐劇に近づいている段階だ。
ストーリー的には序章であり、メインキャラの登場と
キャラ立てに集中している1期という印象だが、
1話をあえて特別編成にすることで
この作品の面白さを際立たている素晴らしいストーリー構成だった。
アニメーションに関してもさすがは動画工房だ。
一時期の動画工房は作画のクォリティがおちていて
心配だったものの、今作ではかつての動画工房を
彷彿とさせるような髪の毛1本までにこだわったキャラ描写や、
瞳や所作まで細かく描き「演じる」キャラクターたちを
アニメーションによる演技でより際立てている印象だ。
特に7話の黒川あかねの覚醒シーンは印象的であり、
力を入れるところは入れ、抜くところは抜いているからこそ、
決めのシーンの印象がより根強く見ている側に残った作品だ。
2期はすでに放送され、そして3期も決まっている。
原作は最終話を迎えて色々と大荒れだったが、
アニメでは今後、どうなるのか気になるところだ。
個人的な感想:ルビー
珍しく原作を読んでからアニメを見た作品だが、
そのせいか「原作と声が違う」という感覚に
一部のキャラが陥ってしまった。
特にルビーと有馬かなは、読んでいる時に頭に流れてきた
声と違う印象を受けたものの、しばらくしたらなれた。
ルビーに関しては原作でも影が薄い部分もあったが、
アニメではよりそれを感じる部分もあったのは
やや気になるところではあるものの、
今から2期を見るのが楽しみだ。
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