評価 ★★★★☆(67点) 全108分
あらすじ 「新世界」の「ファウス島」にある海軍基地を、「NEO海軍」と名乗る組織が襲撃する。そのリーダーは、全海賊の抹殺を目論む元海軍大将・ゼット。引用- Wikipedia
男の映画
本作品はワンピースの劇場アニメ作品。
ワンピースとしては12作目の映画作品となる。
本作品も前作に引き続き、原作者の尾田栄一郎氏がプロデュースし、
フジテレビの人気ドラマなどを手がけた鈴木おさむ氏が脚本、
更にオープニングテーマは中田ヤスタカとかなり豪華なメンツで作られている。
監督は長峯達也、制作は東映。
Z
冒頭から本作品のオリジナルキャラクターであり、
ルフィ達の敵である「元海軍大将・ゼット」が高らかに歌っている。
大塚芳忠さんの美声による映画の始まりはなんとも豪華であり、
ミュージカルでも始まるのかな?とすら思わせる。
そんなゼットの戦いを冒頭から見せまくっている。
ムキムキの体格に紫の髪、黒いサングラス、
そして右腕には巨大な武器を装備している。
なんとも怪しげな雰囲気あふれるキャラクターだ。
彼に付き従う部下たちの戦い、
そして「黄猿」も現れる中での戦いは冒頭から
期待感をつのらせてくれる。
黄猿と互角に戦うほどの「ゼット」、
黄猿や彼の仲間が先生と呼ぶゼットは何者なのか。
そんなゼットとルフィたちが出会うところから物語が始まる。
モドモドの実
ゼットは海賊を憎む人物だ。
たとえ自分を助けてくれた存在であろうとも、
「海賊」であるかぎり彼にとっては敵だ。
そのために彼は海楼石の武器を右腕につけ、
「ネオ海軍」を名乗り、海賊を滅するために戦っている。
彼には彼なりの正義がある。
それは彼の仲間たちも変わらない。
彼を先生と慕い、彼の信念のために戦っている。
ゼットだけではなく、彼の仲間の存在感も凄まじく、
特に「モドモドの実」の能力者であるアインは
その能力の強力さが一言でいえばやばい、
彼女の能力は1度触れば、触ったものの時間を12年巻き戻す。
30歳のロビンは18歳になり、ナミやチョッパーは
すっかり子供になってしまう。
映画だからこそ見れるファンサービス的な要素ではあるもの、
自分の年齢以上の時間を戻されてしまえば存在すらなくなるという
チートじみた能力は素直にやばい。
悪魔の実の能力者にとって天敵ともいえる「海楼石の武器」をもつゼット、
触れた者の時間を巻き戻し最後には存在も消す「モドモドの実」、
ルフィたちが苦戦するのも納得できるほどの
強敵感を序盤からきっちりと感じさせてくれる。
また、海軍大将たちも多く登場しており、
今までのワンピース映画が短編の3Dを除けば
海軍はあまり出てこなかったが、今作では
元海軍が敵であるからこそ、がっつりと海軍が出てくる面白さがある。
2度の敗北
ワンピース映画のテンプレとなっている展開の1つとして、
1度敵に負けるもののリベンジマッチで勝つという展開がある。
しかし、今作の場合は1度ならず、2度も負ける。
1度目は仲間たちの年齢を奪われ、サニー号をボロボロにされ、
2度目は純粋に力負けし麦わら帽子も奪われてしまう。
2度も負けてしまう敵に、ルフィはどう勝つのか。
ワンピース映画らしいシンプルな展開ではあるものの、
敵キャラクターの描写がしっかりしているからこそ、
3度目の勝負、2度目のリベンジマッチに自ずと期待感が上がってしまう。
ゼットのバックボーンもきちんと描かれており、
海軍だった彼がなぜ海賊を恨み、海軍に絶望し、
「海」を破壊しようとしているのか。
シンプルな動機ではあるものの、ストレートに見てる側に
「ゼット」にとっての正義が伝わる。
そんなゼットに対し、ルフィが彼に立ち向かう目的もシンプルだ。
シャンクスとの約束通り、帽子を返すためにも、帽子を取り戻す。
海賊だからこそ、ワンピースを求めるルフィだからこそ、
ゼットの正義に、まっすぐにルフィなりの正義をぶつける。
誰かを助けるためでもなく、誰かのためでもない。
「自分自身」のためにゼットもルフィも戦っている。
男のわがままだ、身勝手な、まっすぐな少年のような夢と
大人の願望がぶつかりあう。
海賊や海軍に憧れる少年にルフィはこんなことを囁く
「海賊は正義じゃねぇぞ、好きにやるのが1番だ」
ルフィは自分の好きなように、好きなことをやっているだけだ。
自らの道に立ちふさがる敵をただ倒す。
この作品は、ワンピース映画史上、1番シンプルな映画といえるかもしれない。
リベンジマッチ
3度目の戦いはガチだ。
ルフィとゼットの戦いはかつての子供向けのワンピース映画のような
戦闘シーンではない。
ただただ殴り合う、男と男が己の信念をかけて
互いの拳で語り合うかのように拳を交える。
ゼットは悪魔の実の能力者ではない。
右腕に装備した海楼石の武器くらいであり、
遠距離攻撃はできるものの、
悪魔の実の能力者であるルフィを相手にするためには「触れる」必要がある。
それゆえに接近戦だ。
「お前を倒せない俺じゃ海賊王にすらなれないんだ」
破壊されようとしている海を守るためではない。
仲間を守るためにただただ、ひたすら殴り合う。
ゼットもそれに答えるかのように海楼石の武器をすて、
かつての海軍としての「黒腕のゼファー」として
海賊であるルフィに挑む。
互いが武装色の覇気を身にまとい、
たがいが名前を名乗り、ただ殴り合う。
ルフィも悪魔の実の能力を使わない、悪魔の実の能力者ではない
ゼットに対してだからこそ、ズルはなしだ。
力いっぱい握りしめた拳を渾身の力で相手の顔や腹にひたすら叩き込む、
「壮絶」なまでの殴り合いは思わず見入ってしまうほど素晴らしかった。
終盤の戦闘シーンはワンピースというよりも、
あしたのジョーのほうが近いくらいだ(笑)
明らかに大人向けに作られている。
キャラの顔のアップとキャラクター動きを描写するシーンを使い分け、
メリハリのある「迫力のある戦闘シーン」を描写しており、
技を使う時のカメラワークやキャラクターの動きは
「スクリーンを意識した」演出になっている。
殴り合ったからこそ、ぶつかりあったからこそ、
「ゼット」の気持ちも変わる。
純粋なルフィの気持ちに少年の夢に、汚れ疲れたゼファーの心が救われる。
強敵と書いて友とでも言うべき、ゼットの最後の姿。
ハッピーエンドとは素直に言えない。
この世界の、ワンピースの世界の中で生まれた悲劇が
「ゼット」という男を生み、そんな男の命をかけた戦いが描かれて終わる。
総評:渋い大人のワンピース
全体的にみて大人向けなワンピース映画に仕上がってると言える作品だ。
ストーリーは非常にシンプルではあるものの、
ワンピースという作品の中で、この世界だからこそ生まれた
一人の「男」、新世界に生きた元海軍Zの男の生き様を描いたストーリーであり
これまでの「感動」につなげる展開は無い。
淡々と、「ワンピース」の世界に生きる男を描いたストーリーといえる。
2時間という尺では収まりきらず、
ゼットの部下たちの描写はやや不足している部分はあり、
「モドモドの実」も能力の割には終盤はあっさりと勝ってしまっており、
やや、そのあたりのもどかしさは感じる部分がある。
しかし、終盤のルフィとゼットの殴り合いは圧巻だ。
ゴムゴムのピストルやギアセカンドやギアサードなんて使わず、
互いに武装色の覇気だけを身にまとい殴り合う姿は
「男の」映画であることを感じさせてくれる。
ラストのゼットの末路、最後もあえて移さずに
タイトルロゴが映し出す演出も素晴らしく、
映画を見終わった余韻が強く残る作品だった。
個人的な感想:ぜひそのままで
モドモドの実のチート感はいろいろな意味で凄まじい。
チョッパーは若干小さくなったくらいでそこまで変わらなく、
ロビンは30→18とかなり若返ったものの胸の大きさぐらいしか変化はない、
問題なのはナミだ、彼女は設定上20歳だが、12年引けば「8歳」になる。
物語の序盤でその能力を食らってしまい劇中「8歳」の姿で
過ごすナミは思わず「可愛い」と思ってしまうほど愛くるしく、
個人的な意見だが彼女が元の姿に戻った時がっかりした(笑)
前作、今作あたりからワンピースのファン層が広がり、
同時に年齢層も広まったような印象だ。
ワンピースの年齢層が拡大したからこそ生まれた作品なのかもしれない。
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