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「ONE PIECE FILM RED」レビュー

4.0
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評価 ★★★★☆(68点) 全115分

『ONE PIECE FILM RED』第2弾予告 Trailer2/8月6日(土)公開

あらすじ 音楽の島「エレジア」。この島で、一人の歌手のライブが開催されようとしていた。その歌手の名前はウタ引用- Wikipedia

やべー女

本泊品はワンピースの劇場アニメ作品。
監督は、制作は
なお、本レビューは一部ネタバレを含みます。

ado

今作の最大の特徴として「ado」さんが出演しているところだろう。
「うっせえわ」などで話題の彼女がワンピースに出る。
この情報が出たあとで一部のファンが
かなりTwitter上で文句をいっていたような印象だ。
ファンも多いがアンチも多い「ado」という歌手。

そんな彼女をあえて歌唱担当として起用したからこそ、
この作品が生まれたとも言える。
鶏がさきか卵がさきかの話になってしまうが、
もしかしたら最初からadoさんを起用する前提で
この作品はつくられているのかもしれない。

それは決して悪い意味ではない。彼女の声、歌唱力は圧巻だ。
人によっては好き嫌いは確かにあるかもしれないが、そこは揺るぎない。
女性ボーカルでありながらドスの利いた低い声を
出したかと思えば、まるでオペラ歌手のような
高音を歌い上げる彼女の歌唱力は流石だ。

余談だが、私はadoさんのファンでもアンチでもやい。
普通だ、曲を何曲かきいたことがあるくらいの立ち位置だ。

閑話休題

この作品はそんなadoさんが主軸の作品と言ってもいい。
adoのMVと言われているのも納得できるほど、
特に序盤から中盤はそんな印象を受けるシーンが多い。
分かりやすく言えばマクロスフロンティアが近い。
戦闘中だろうが基本的には歌が流れる中で行われており、
気になる人は気になるだろう歌の多さがある。

冒頭、世界中から愛される歌姫である
「ウタ」の曲を聞きに来たルフィたち、
多くの観客とともにルフィたちがウタのライブを
見始めるところから物語が始まる。

この冒頭の一曲目はまさにMVだ。
「新時代」という曲に合わせてCGによる演出を
多用しつつも、ウタ自身は手書きで描かれており、
彼女が歌い踊るたびに綺羅びやかな演出が彼女を包む。

これは彼女の能力によるところが大きいのだが、
彼女の歌声に合わせて様々なものが具現化される。
この抽象的なシーンは、ミュージックビデオや、
マクロスFの歌唱シーンのようなイメージが強いものの、
このミュージックビデオらしい演出は二曲目くらいまでだ。

フルで歌うのも一曲目だけであり、
確かにミュージックビデオ的な要素はあるものの、
あくまでもこの作品を構成する一つの要素に過ぎない。

adoのMVという表現はやや過剰に思えるものの、
全編にわたってadoさんの歌声は響き渡っているだけに、
そのあたりの好みは分かれるところだ。
そんな世界中で愛される歌姫がルフィと幼馴染だというところから
物語は動き出す。

ウタ

adoさんに対する好き嫌いの問題もあるが、
この作品はもう1つ問題を抱えている、それが「ウタ」だ。
adoさんが歌声を担当し、名塚佳織さんが声を担当する彼女、
序盤の印象は決して悪くない。

赤髪海賊団に赤ん坊の頃に拾われた彼女は
「シャンクスの娘」として楽しい海賊時代をルフィと過ごしていた。
シャンクスが好きで、海賊に憧れ、ルフィと喧嘩をしながらも、
互いを大事に思い、ともに成長してきた二人。

微笑ましい子供時代のエピソードと、ルフィとの絡みは自然であり、
「映画」という原作やアニメとは別次元「if」の物語であったとしても、
原作やアニメに登場してもおかしくない自然なキャラクターは
見ている側もさっと受け入れられる。

特にある意味での伏線回収といえる要素は、
原作者ある尾田栄一郎さんがプロデュースしている作品だからこそだろう。
原作やアニメの初期のころ、ルフィはなぜか仲間として「音楽家」を求めていた。
まだゾロやサンジが加入するくらいのころから、
医者や航海士よりも先に彼は「音楽家」を求めていた。

それは子供の頃、ウタと出会っていたからだ。
赤髪海賊団の音楽家を名乗り、幼いながらも人を魅了する
「歌」を子供の頃からルフィは聞いていたからこそ、
彼女が子供時代にいつのまにかいなくなってしまっていたからこそ、
彼は「音楽家」を求めていた。

過去の映画作品で唐突にゾロの幼馴染が出てくる作品があったが、
そんな過去の作品のキャラよりも、自然に
「ウタ」という少女がワンピースの世界になじんでおり、
大人になったウタとルフィが子供の頃のように勝負し、
意地を張り合う姿が微笑ましくて仕方ない。

しかし、この女、やべー女である(笑)

海賊やめろ

大人になったウタは海賊を嫌いになっている。
ルフィにも「海賊やめなよ」と何度も叫び、
ルフィが海賊であることを否定し、ライブに訪れていた海賊たちも
彼女の能力によって囚われてしまう。

彼女は「弱者」のための歌姫だ。
世界中に自分の歌を届ける過程で、世界の声を聞いた。
大海賊時代とよばれる時代、そんな中で多くの犠牲も生まれている。
ルフィたちのように「強者」ばかりではない、
ルフィたちのように「力」のあるものばかりではない。

海賊と海軍の争いの中で、一般人はいつも犠牲になっている。
そんな声をウタは聞いてしまった。
彼女は自分の「存在意義」を求めた結果、弱者の救世主になろうとしている。

誰かに言われた訳では無い。
救世主になってほしいとも、この時代を終わらせてほしいとも、
誰かに望まれて、誰かに背中を押されたわけではない。
「ウタ」が自分自身の存在意義を求めた結果、
彼女は「新時代」を作ろうとしている。

彼女はある意味で罪人だ。
過去に能力がある種の「暴走」を果たした結果、多くの人を犠牲にしてしまっている。
その罪を知り、自分の存在意義が揺らぐ中で、彼女は世界中の声を聞いてしまった。

だからこそ彼女は立ち上がった。
新時代を作ろうと、海賊も海軍もいない、暴力のない、
新しい「世界」を作ろうとしている。
そこに他者の意見が介入する余地が一切ない(笑)

ルフィの意見も、シャンクスの意見も、
自らのファンの意見も彼女は一切聞かない。

「言ったじゃない!私に願ったじゃない!」

彼女のメンヘラ感は凄まじく、
そこに名塚佳織さんの演技が加わることで、よりメンヘラ感がましている。
この作品のストーリーの中で起こる出来事はすべてウタが原因だ。
ウタが原因でウタは海賊が嫌いになり、ウタが原因で全世界が巻き込まれる。
壮大なる世界を巻き込んだ「一人芝居」だ。

ある種の「セカイ系」だ。
たった一人の少女が原因で世界が巻き込まれる。
苦しみのある世界から、自分と世界の人々を開放しようと、
「永遠のライブ」の中に閉じ込めようとする彼女の姿、
00年代のオタクにはたまらない展開だ(笑)

まさか令和の時代に清々しいまでのセカイ系を、
「ワンピース」という王道少年漫画の世界で見せてくれるとは
誰が想像しただろうか。

ウタは自分が思う世界のために、自分の目的のために、ルフィを
「殺そうと」するくらいだ。
ヒロインがメンヘラをこじらせて主人公を殺そうとする展開など、
本当に久しぶりに見て少し笑ってしまったくらいだ。
そんな彼女を止めるために、幼なじみと、そして「父」が動く。

ファン向け

この作品はかなり多くのキャラクターが登場している。
ウタやウタの育ての親などの映画オリジナルキャラだけでなく、
赤髪海賊団、ビッグ・マム海賊団、トラファルガー・ロー、バルトロメオといった
多くの海賊たちが所狭しと登場し、ウタを止めようと動いている。

海賊だけではなく、海軍も動いている。
赤犬、黄猿、藤虎にコビーと、ウタの能力を知る彼らが
ウタの計画を止めるために動いており、
海賊も海軍も関係なく「ウタ」を止める目的のために動いている。

このあたりはファン向けの要素ではある。
最近にワンピースを知らないという人にとっては
「誰?」というキャラクターも非常に多いだろう。

ファンにとっては多くのキャラクターが所狭しと登場する面白さがあるものの、
最近のワンピースを読んでいない、見ていない人にとっては
ややついていきづらい部分はあるかもしれないが、
海賊や海軍とある程度「立ち位置」は理解できるようになっており、
最近のワンピースを読んでいない人も楽しめる作品になっている。

個人的には原作はちょこちょこ読んでいるものの、
アニメはご無沙汰だったこともあり
「黄猿」の声がいつのまにか変わっていたことに驚いたくらいだ。

ルフィ

世界が終わる原因であるウタは基本的に話を聞かない。
ルフィにいくら言われようが、シャンクスにいくら言われようが、
彼女はもう自らの意思では「止める」ことはできない所まで来ている。
それでも、ルフィは彼女を殴らない。
彼は最後まで暴走する彼女を一回も殴らない。

戦う理由がないからだ。
彼にとってウタは悪ではなく、幼なじみであり、仲間だ。
救わなければいけない存在だ。だからこそ、彼は暴力で解決しようとしない。
ウタを殴るチャンスはいくらでもある、だが、彼は強い意志でウタを殴らない。
いくら殴られようとも、いくらボコボコにされようとも。

ワンピースという作品の主人公にふさわしい姿がそこにはある。
あくまでもウタを救うのが彼の目的だ。
彼女を倒して解決することもできるのに、彼は彼女を殴らない。
そんなルフィと、「シャンクス」の声が彼女に届く。

終盤

序盤から中盤は基本的にウタとルフィたちの戦いだが、
終盤からは「ウタ」を止めるためにルフィたちと多くの海賊と
海軍がともに戦う展開になる。壮大な共同戦線だ。
世界を救うために海軍も海賊も関係がない、ウタを止めなければ世界が終わる。

多くの海賊や海軍がところせましと自らの能力を使いながら
戦うシーンは、ややごちゃごちゃしている感じはあるものの、
大胆なカメラワークとCGによるエフェクトを多用しながら
「魔王」に現実とウタの世界で戦う姿は迫力満点に描かれており、
2つの世界で戦うからこその共同戦線に心が踊ってしまう。

特に「ウソップ」と「ヤソップ」、
父と息子の再開と共同戦線はファンならば感涙の展開だ。
そして「ルフィ」と「シャンクス」、
二人の現実とウタの世界での戦いと最後の一撃の演出の
力の入り具合は凄まじく、さすがは谷口悟朗監督だと言わんばかりの展開だ。

ただ、戦っている相手が「魔王」というよくわからない
抽象的な存在なのはちょっと盛り上がりにかける部分ではあり、
演出のせいもあるのかもしれないが、どこか
「魔法少女まどか☆マギカ」の戦闘シーンのように見える部分すらある。
同じ「セカイ系」の作品として、もしかしたら意識している部分があるのかもしれない。

麦わら帽子

ルフィはシャンクスから麦わら帽子を預けられている。
いつか立派な海賊になり、グランドラインでシャンクスに出会い、
麦わら帽子を返すために、海賊王になるために彼は戦っている。
「麦わら帽子」には多くの意味が込められている。

この作品ではそこにもう1つの「意味」が生まれている。
子供の頃にシャンクスに託された帽子、
今作ではそこに「ウタ」から託された帽子という意味を生んでいる。

「ウタ」は子供の頃、海賊に憧れ、シャンクスとともに
海賊として生活していた少女だ。
もし、何も起きなければ、大きくなってもシャンクスとともに
「海賊」をしていたに違いない。だが、運命が、彼女の能力がそれを許さなかった。
彼女は夢を諦めざる得なかった少女だ。

だからこそ、彼女は自らの意思を、夢を、
「ルフィ」に麦わら帽子という意味で託している。
自身が犯した罪を自覚し、贖罪のために自らを犠牲にする彼女の姿と、
それをわかって涙を流さずに覚悟を決めるルフィの姿。

「海賊王に俺はなる!」

ワンピースではおなじみのこのセリフでこの作品は閉められている。
自らの夢、シャンクスに託された思い、そしてウタの「思い」が
秘められたその台詞はルフィの覚悟を感じさせるシーンだった。

総評:究極のメンヘラ幼なじみ

全体的に見てワンピース映画としてはよくできている作品だ。
自然な流れで原作にいてもおかしくない「ウタ」という幼なじみが登場し、
そんなウタの計画を止めようとルフィやシャンクス、
多くの海賊や海軍たちが戦う姿はいい意味での「お祭り感」がある。

原作者が監修しているからこそ「ウタ」というキャラが持つ、
シャンクスの娘という設定やルフィの幼なじみという設定に違和感がなく、
そんなキャラクターの過去と事件、運命のはてのルフィとの再会から
巻き起こる「悲劇性」がキャラクターの魅力につながっている作品であり、
そんなウタとルフィの悲しい物語がまっすぐに描かれている作品だ。

しかし、その一方で、「ado」さんの歌はたしかに多い。
1曲目や2曲目はMV感が強いシーンになっており、
「ado」さんの歌声が力強いからこそ、全編にわたって
歌の存在感は凄まじく、その存在感故に
疎ましく感じてしまう人は少なくないだろう。

「ウタ」というキャラのメンヘラ感も凄まじい。
その生まれや育ち、過去の事件のせいでこうなっているのは理解できるが、
人の話を聞かず、都合よく解釈し「自己完結」した考えを持っている。
犯した罪の重さに耐えきれず、まるで自傷行為をするかのような行動や台詞は
セカイ系のヒロインにはふさわしいものの、人によっては好みが分かれるキャラだ。

いい意味でadoさんの歌とウタというキャラそのものの
好みが人によって大きく分かれる作品だ。
私は名作は賛否両論が極まれば極まるほど名作だと思っている。
あなたはこの作品を見て「ウタ」というキャラをどう思うのか、
ぜひ、自らの目で確かめてほしい。

個人的な感想:もりだくさん

前評判はちらほら聞こえ、adoのMVという表現に悪い印象を持ってしまったが、
そういった表現が出てくるのも納得できる部分ではあるものの、
おもったよりもMV感は薄かった。

個人的には色々な要素が盛りだくさんすぎて消化するのが大変な作品だった。
多くのキャラクターたち、adoさんの歌、ウタの自己完結メンヘラヒロイン、セカイ系ストーリーと
いろいろな要素がこの作品には盛り込まれている。

終盤の幼なじみ感全開のまま、自らが巻き起こした騒動の幕を
自らの命で閉じる「ウタ」の姿にちょっと涙腺は刺激されたものの、
よくよく考えると全部彼女のせいであり「自己責任」なのでは?と
同時に冷めた感情も生まれる。
見ている側もルフィたちも振り回される究極の「メンヘラ」ヒロインなのかもしれない….

「ONE PIECE FILM RED」は面白い?つまらない?

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