ファンタジー

名もなきモブの冒険譚「ONE PIECE FAN LETTER」レビュー

4.0
ONE PIECE FAN LETTER ファンタジー
©大崎知仁・尾田栄一郎;集英社・フジテレビ・東映アニメーション
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評価 ★★★★☆(70点) 全24分

【特報】TV アニメ『ONE PIECE』25 周年記念作品「ONE PIECE FAN LETTER」

あらすじ 海賊、麦わらのルフィが兄であるエースを失った頂上戦争から2年後のシャボンディ諸島。ナミに強い憧れを持つ主人公の少女は小さな冒険へと出発する。これはワンピースを「追い求めない」人々にスポットを当て、彼らの視点から麦わらの一味の再集結を描く群像劇。引用- Wikipedia

名もなきモブの冒険譚

本作品はTVアニメ「ONEPIECE」25周年記念として
制作された作品。
監督は石谷 恵、制作は東映アニメーション

世はまさに大海賊時代!

この作品はタイトル通り「ワンピース」の世界の物語だ。
ワンピースといえばゴム人間なルフィが海賊として
ワンピースというお宝を求め冒険し、仲間を増やし、
ときにバトルしながらストーリーが進んでいく。

そんな世界ではあるものの、同時に「海賊」と「海軍」が争い、
ときに海賊同士でも争うこともある。
「戦い」にまみれた世界だ。

だが、そんな戦いを求めていないものもいる。
大海賊時代なのに「ワンピース」を求めない。
そんな普通の人たちをメインに据えている。
大海賊時代の被害者、犠牲者ともいえる一般庶民。

それはときにナミに憧れる少女であり、普通の海軍の一般兵だ。
ワンピース本編では名前すら出てこないような名もなきキャラ、
そこにスポットを当てている。

彼女たちは決して物語の主人公ではない。
だが、物語の主人公ではないからこそ、物語の主人公に憧れる。
自分もああなりたい、自分もあんな冒険がしたい、
自分もあんな風に戦いたい。

彼女たちにとってそんな憧れこそが「ワンピース」だ。

少女

ナミに憧れている少女は非常に可愛らしい、
ナミのような髪色、ナミのような髪型と格好で、
「ナミ」のファンであることを感じさせる。

時系列的にはルフィたちがシャボンディ諸島で
再集結するあたりの物語だ。
ルフィが残したメッセージ、そんなメッセージを解読した少女は
ナミへのファンレターを渡すために冒険に出る。
ただの少女にとって一世一代の冒険だ。

そんな少女と同時に海軍の中にいる「チョッパー」ファンなども
コミカルに描かれており、かなりテンポよく物語が展開していく。
おなじみのキャラクターたちも背景に写りつつ、
少女はナミに手紙を渡すために街の中を走り回る。

大海賊時代だからこそ、海賊に憧れるものも多い。
指名手配されているような有名な海賊には「ファン」がおり、
そんなファンたちの日常が賑やかに描かれており、
思わずニヤニヤしてしまう。

一般兵

同時に描かれるのは八百屋の息子たちであり、海軍だ。
名もなき海軍の兄弟、真面目な兄と軽薄な弟、
要領の悪い兄は「あの戦い」で生き延びている。

特殊な力など持たない、覇気も悪魔の力も持たないような
海軍の目線で描かれる「頂上戦争」は
どこか戦争映画でも見ているような気分だ。
あの戦いに巻き込まれた一般兵、戦争に招集された兵士の
戦いは辛辣なものだ。

その中で出会った英雄だ。
海賊である「ルフィ」のおかげで兵士の弟は救われた、
だが、ルフィの兄はあの戦いで死んでいる。
海軍と海賊、敵同士なのに言葉にできない思いを抱えている。

この作品は少女の低い視線で描かれている事が多い。
地に伏した兵士、幼い少女、
そんな低い視線で高いところにいる彼らを見つめる構図は
彼らに対する「憧れ」を示唆しているような構図だ。

ファンレター

力が全ての時代、そんな時代に力あるものに憧れる。
遠いところにいる憧れの存在、そんな存在に少しでも手が届くように。
たった一通の手紙を届けたい。それすら少女にとっては大冒険だ。
一生懸命、彼女への思いを書き記した手紙。
そんな手紙をもがき、走り、必死に届けようとする。

たった一瞬、「波」の間で見える「ナミ」の姿。
大切なファンレター、一通の手紙、一人の名もなき少女が
もしかしたら「彼ら」の冒険を助けているかもしれない。

そんな余韻が素晴らしく、思わず涙腺を刺激されてしまう作品だった。

総評:たった30分の物語

全体的に見て素晴らしい作品だ。
尺的にはわずか30分、アニメの1話分ほどの尺でしかなく、
そのなかで本来なら描かれることのない
「モブキャラ」に物語の焦点があたっている。

大海賊時代で多くの戦いが起こっているなかで、
特別な力を持たない少女、そんな少女がナミにあこがれ
たった一通の手紙を届けようとする。
物語としてはシンプルではあるものの、その見せ方、
流れが本当に完璧だ。

街を駆けずり回りながらおなじみのキャラクターが映ったり、
ときに少女が気づかぬまま彼に出会っていたりしながら、
ナミのもとになんとか辿り着こうとする。
だが、名もなき少女には大冒険だ。

悪魔の実の力があるわけでもない、覇気があるわけでもない。
そんな少女と「海軍」の兵士の物語がたった30分の中で
起承転結スッキリと描かれている。

あくまでメインストーリーには一切影響がない話だ。
だが、ワンピースの世界で生きる名もなきキャラクターを
たった1話でここ稀掘り下げられるのかと驚愕してしまうほど
完璧なまでのストーリーが構築されている。

エンドロールまできちんと「モブ」であることを強調させている。
名もなき少女、名もなき海軍、そんな視線で描かれる
ワンピースの世界は新鮮で、斬新だった。

個人的な感想:アニオリ

一応原案となる短編小説があるようだが、
こういうアニオリエピソードの面白さを久しぶりに味わった印象だ。
ワンピースは現在、半年ほどの充電期間に入っており、
過去の魚人島編をブラッシュアップしたものをその期間、
放送するようだが、以前だったらアニオリ展開になったはずだ。

ここ数年はアニオリ展開が嫌われるようになり、
どんな人気の作品でも2クールか1クールで1期、2期と
ある程度期間を開けて放送されるようになっている。
そんな中で通年のアニメシリーズはもはやワンピースくらいだ。

そんなワンピースも通年でやることが限界に来てしまったからこその、
過去のブラッシュアップによる充電期間だが、
こういうアニオリを見てしまうと、
過去のアニオリシリーズのようなものを最後の通年アニメかもしれない
ワンピースでまた見たくなってしまう。

あえてたった30分だけのアニオリ、
しかも、モブの目線で描く本作品は
ワンピースが25周年以上やってるからこその
世界観だからこそなし得たものかもしれない

色々と味わい深い作品だった。

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  1. 匿名 より:

    「アニメ」の作り方をわかっている巧者の作品だった。
    24分でこの濃度……何周でも見られる清涼感……未来永劫語り継がれる作品かもね。