評価 ★★★☆☆(44点) 全12話
あらすじ ミスリル級冒険者を目指して田舎町のマルトで活動するレント・ファイナは、ある時いつものように水月の迷宮を進んでいるなか、まだ誰にも発見されていない隠し通路を発見する引用- Wikipedia
右肩下がりの骨太ファンタジー
原作は小説家になろうで連載している小説作品。
監督は秋田谷典昭、制作はCONNECT
死
1話冒頭、どこか地下の暗い場所で主人公がとんでもないモンスターと出会い
「死ぬ」ところから物語が始まる。
作品の世界観もよくわからない中で唐突に始まる感じではあるものの、
主人公の死という衝撃的展開から始まるのは悪くない。
死んでしまったと思った主人公ではあるものの、
なぜか「スケルトン」の体になってしまっている。
「冒険者」として長らく生きてきた主人公、そんな彼の生い立ちが
モノローグで語られる。かなり説明セリフらしい説明セリフで
冒険者や、この世界についてを淡々と解説しているものの、
なろう系にはありがちな世界観と設定だ。
ただ、なろう系ではあるものの異世界転生や転移といった要素はない。
主人公自体も別にチートではなく、10年以上も冒険者をやっているのに
ランクは下から2番目だ。
ミスリル級冒険者を目指しているものの、夢は遠い。
堅実に生きてきた彼ではあるものの、ある日、
探索し尽くされたはずの迷宮で「隠し通路」を見つけてしまう。
堅実に生きてきた彼なのに、己の中にある「探究心」を抑えきれず、
隠し通路に単身入り込んでしまい、そこで龍と出会い食われてしまう。
だが、食われたはずなのになぜか生きている。
生きているといって良いのかはわからないが、
なぜか「不死」の存在になってしまった主人公ではあるものの、
その姿故に安易に街に戻ることすらできない。
こういった序盤の流れや基本的な設定の説明を
全て主人公のモノローグベースでやっている。
自分で説明し、自分でツッコミと、一体誰に向かって言っているんだと
思うほどのモノローグの嵐だ。
進化
しかし、描かれている内容自体は堅実だ。
スケルトンになったせいで「剣術」はおろか「剣」すら
ろくに震えなくなっている。同じスケルトン相手にすら苦戦するが、
冒険者として培ってきた技を使い、彼は同族すらも倒してしまう。
この世界の魔物は「存在進化」というものをする場合がある。
多くの魔物が経験を積み、殺した相手の気を奪うことで、自らの存在が進化する。
スケルトンだった主人公は次々と魔物を倒していく
序盤の戦闘シーンに派手さというものはない。
当たり前だ、最弱とも言えるスケルトン同士の戦いなのだから
激しい戦闘シーンなワケがない。
だがCGを使いながらもヌルヌルと動く戦闘シーンは
きちんと外連味とメリハリを感じるものになっている。
カメラワークなどにもこだわりを感じる。
ダンジョンという薄暗い場所で、あえて主観視点に切り替えて
主人公の視線をときおり挟んだりすることで
単調な絵面にならないようにしている。
スケルトンになっても彼は夢は諦めない。
10年間修行をし、10年間冒険者をやっても、
彼に冒険者の才能が開花することはない。それは自身がよくわかっている。
不死の体になってしまったからこそ、生きているときのことを振り返り、
それでも諦めず、彼はこんな体でも夢を叶えようとしている。
そんな彼だからこそ「存在進化」に至る。
スケルトンからグールへ、より人の姿に近づいていく。
地味ではあるものの、堅実なストーリー展開は悪くない。
命を失い骨になった主人公はグールになり筋肉を手に入れたことで
「人間」のときよりも強い力を手に入れていく。
だが、心は人間のままだ
出会い
存在進化をする中で彼はとある新人冒険者に出会う。
「グール」の体になったことで喋りにくさはあるものの、
喋ることができる。そんな「言葉」で新人冒険者と言葉をかわしていく。
「オレに服を買ってきてほしい」
シンプルなお願いだが切なる願いだ。
外見を隠せば「人間」の町に入り込むことができる。
不死の存在ではあるものの、心は人間のままだからこそ、
彼は人間として生きようとしている。
新人冒険者は彼に命を救ってもらった恩がある。
そんな恩を返そうとグールである主人公相手に献身的に尽くしてくれる。
だが、そんな献身的な思いが予想外な展開につながる
彼女が用意した顔を隠すための「仮面」は呪いの仮面だ(笑)
不死の身体に、呪いの仮面と不運の連続ではあるものの、
彼の夢への思いが、親切心が縁を作り状況を変えていく。
元人間で冒険者ではあるものの、彼は魔物だ。
そんな魔物のために、自分を救ってくれた彼のために、
新人冒険者は力を貸してくれる。
だが、そんな彼女に甘えっぱなしな主人公ではない。
新人冒険者のためにも彼は彼女の元から去る。
派手な展開やわかりやすい面白さはないものの、
しみじみと染み渡るような面白さを丁寧に見せてくれる作品だ。
友
彼が頼ったのは「魔術師」だ。
人間のときに魔物のことを学んだ友に事情を全て明かすことで、
自分だけではわからない自分の体のことを明らかにしようとする。
自分は本当に人間のとき同じ存在といえるのか、
あのとき自分は死んでしまったのではないか。
そんな疑問はありつつも、彼は夢を諦めきれない。
むしろ不死の存在になったことで彼は夢への一歩を踏み出せたと言ってもいい。
死んでも叶えたいと思っていた夢が、死んでしまって初めて現実的なものになる。
何とも皮肉な話だ。
主人公の現状を告げたのは友人の魔術師だけだ。
この町で10年、彼は冒険者を続けている。
親切で多くの新人を世話していた彼だからこそ多くの人が彼を慕っている。
ギルドの受付嬢が、武器屋が、彼が正体を告げずとも察してくれる。
命を失ったことで、死んだことで初めて自分が愛されていたことを実感する。
生きていたときにはわからなかった他者からみた自分への思いを
この作品は描いていると言ってもいい。
お人好しだからこそ自分のほうが大変な状況なのに
新人冒険者を助けてしまう。だが、それが彼の現状を変えるきっかけにもなる。
非常に丁寧にストーリーが作られており、1話1話しっかりとした
ドラマが生まれている。
本能
心は人間ではあるものの、肉体は魔物だ。
不死者であるがゆえに、グールであるがゆえに彼の体は「血肉」を求めている。
肉体的な本能に彼は逆らえない、理性で抑え込んでも限界が来る。
人間の食事は不要でも、魔物にとっての食事は必要だ。
そんな「食事」をしたことでまた存在進化する。
グールから、屍鬼へ。彼は徐々に人間へと近づいていく。
存在進化はただ魔物を倒すだけではすることはできない、
様々な条件を元に成り立つものだ。
スケルトンだった彼は「人間になりたい」と思ったからこそ、
スケルトンからグールへ、そして屍鬼へと
徐々に人間に近づいていっている。
シンプルだがわかりやすく彼の存在進化で
ストーリーが進行していく事を感じさせてくれる。
いつか人間に戻るために、彼は強い魔物を倒し、
何かしらの受験を満たすことで存在進化をしていく。
地味ではあるものの丁寧にストーリーが積み重ねられているのを感じる。
人の姿に近づいた彼は、夢の実現を目指すためにも、
別人として改めてギルドに登録することになる。
もう1度最初から、10年かけて積み重ねた経歴を無下にしても
彼は夢を再び目指すことを諦めない。
たとえ10年間の経歴を無かったことにしても、
この10年がなかったことにはならない。10年で培った経験が、
縁がこれからの彼の冒険の背中を押してくれる。
深層
彼が1話で見つけたのは探索し尽くされたはずの
迷宮の隠し通路だ。そんな隠し通路の先でドラゴンに出会ったが、
不死者になった後に同じ場所に訪れてもドラゴンはおらず、
先への道があるだけだ。
誰も知らない彼だけの未開領域、そんな領域を彼は捜索していく。
そんな中で謎の人物に出会い「特別な地図」をもらう。
謎の人物はいったいなんなのか、未開領域はなんなのか、
そもそもどうして主人公はアンデットになったのか。
1クールでそのあたりが明かされることはないものの、
物語全体の謎として匂わせてくれる。
話が進めば進むほど彼の事情を知り、
協力してくれるものが増えてくる。
迷宮の中で出会った謎の人物は圧倒的な力を持っている。
1話で出会った龍もそうだ。
もし、また自分が叶わない存在がいきなり現れたら。
そんな思いが彼の中にはあるからこそ、更に強くなるために
存在進化と己の技を磨いていく。
サブクエスト
ただ中盤を過ぎると新人冒険者を誘拐する謎の人物があらわれ、
容疑者の一人として上がっている主人公は容疑を晴らすためにも
迷宮に行けなくなってしまう。その間に色々なクエストをこなすものの、
見ても見なくてもどうでもいいようなエピソードだ。
早くメインのストーリーを進めてほしいのに、
サブクエストをやっているようなそんな感覚になるストーリーであり、
これが2クールくらいの作品ならば気にならないが、
1クールという短い尺でサブクエストをやってしまうのはややもったいない。
このあたりは原作との兼ね合い、1クールで原作のここまでやるという
企画段階での会議で決まった部分なので仕方ないかもしれないが、
序盤から中盤までしっかりとしたテンポで話が進んでいただけに
中盤は新人冒険者と昇級試験をやったり、サイドクエストをやったりと、
メインストーリーが進まない印象を受ける
人間に
彼はふと考えてしまう、もし、人間に戻ったら
今のこの力はなくなってしまうかもしれない。
彼は人間の頃は冒険者としてくすぶっていた。
魔力、気力、聖力という3つの力を使える特殊な才能はあるものの、
ある種の器用貧乏で3つの力が全て弱かったせいで冒険者としても
上を目指しきれなかった。
だが不死者になったことで、その3つの力も強化され、
存在進化するほど力も強くなっていっている。
そんな自己問答もあったりするが、終盤になっても迷宮に戻らず、
様々な依頼を受けているだけだ。
序盤から中盤までは不死者担ってしまった主人公が
迷宮で試行錯誤し進化をしながら強くなっていく
ストーリーが面白かったのに、中盤からはろくに迷宮に潜らず、
地上でどうでもいいサブクエストばかりを繰り返している。
一応、サブクエストの中でヴァンパイアの血を手に入れて
吸血鬼に存在進化することにはなるものの、
最終話は主人公の過去が語られて終わる。
中盤から話のペースが一気に落ちてしまって終わってしまった印象だ。
2期が決定していたりするならこのペースでも悪くはないが、
序盤から中盤までは面白かっただけに中盤からの
ストーリー進行の遅さが気になってしまう作品だった。
総評:右肩下がりの骨太ファンタジー
全体的に見て色々と惜しい作品だ。
冒険者のトップを目指す主人公が志半ば死に、
不死者になったことで力を手に入れ、もう1度夢を目指す。
そんなストーリー自体は悪くなく、序盤は骨太なハイファンタジーな
ストーリーが染み渡るような面白さを感じさせてくれた。
作画に関してもド派手な戦闘シーンは少ないものの、
きちんとメリハリのあるアニメーションで、
主観映像などのカメラワークの面白さもあり、
地味ではあるものの、凝った映像作りがされていた。
しかし、中盤からは明らかにメインストーリーではない
脇道にそれるような話が多く、
メインストーリーに関連する部分はあるにせよ、
迷宮に潜らずに地上でサイドクエストを繰り返していた印象だ。
序盤から中盤は不死な存在になったからこその
主人公の物語が紡がれていたが、
中盤からはそこもあまり関係なく普通の冒険者の話に
なっている部分が多く、拍子抜け感もある。
もう少しメインストーリーがトントン拍子に進むか、
2クール構成、もしくは2期が決定していれば印象は違ったが、
1期だけの1クールだと右肩下がり担ってしまっている作品だった。
2期があればここから話が進みそうなだけに期待したいところだ。
個人的な感想:惜しまれる
序盤から中盤は悪くない作品だったが、
中盤からはサイドクエストなストーリーばかりでやや飽きが生まれてしまった。
2期があればメインストーリーに戻って面白くなるかもしれないだけに、
2期を期待したいところだが…
コミカライズや原作のストックも十分あるだけに、
2期を予定しているなら、1期の最終話で予告しそうなものだが、
それがないということを考えると、
忘れた頃に2期をやる流れになりそうだが、果たして…
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