評価 ★★☆☆☆(35点) 全97分
あらすじ 太っていて不細工だが、とても明るい肉子ちゃんは、男にだまされフラれるたびに住む場所を転々と変えながらもひたむきに生き抜いてきた引用- Wikipedia
おめでとう???
本作品の原作は西加奈子による小説作品。
明石家さんまプロデュースと言うかたちで映画は作られており、
公開前にはそのあたりがちょこちょこと話題になっていた記憶がある。
監督は渡辺歩、制作はSTUDIO 4℃
肉
この作品のタイトルにもなっている「肉子」ちゃん。
彼女は38歳の中年女性であり、151cm67.4kgという設定だが、
どうみても100kg位あるような見た目をしている。
冒頭からどこかノスタルジックさを感じる色合いで描かれており、
どことなくだが「じゃりン子チエ」などの雰囲気を感じる。
そんな肉子ちゃんはありとあらゆる男に騙され続けながら
いろいろな場所を転々としている。
そこには彼女だけではなく「小さな子供」もいる。
男に騙され続け、貧乏な暮らしを続ける母の姿を
子供なりに見つめ続けている。
そんな二人が「北陸」の漁港にたどり着くところから物語は始まる。
かなり淡々としたストーリー展開だ。
漁港
冒頭はナレーションで過去を描いており、そこに強いギャグ要素があるわけでも、
なにか大きな出来事が起こるわけではない。
ただ女性が男性に騙され続けているだけだ。
そこにSTUDIO 4℃が描く作品の世界観があるからこそ見ていられる。
各地の街並み、そして彼女たちが暮らす漁港の空気感、
潮風にさらされ続ける港町の景色はリアルではありつつも、
どこか幻想的な雰囲気を身にまとっており、
肌にベタつく海風をピリピリと素肌で受けるような感覚を覚える。
特に「食事」の描写は印象的だ。毎日食べる朝ごはん。
10分もかからずに出来上がってしまう朝ごはんが
とんでもなく美味しそうに見えてしまう。
肉子ちゃんが大阪生まれの大阪人だからこそ、
日常会話にも「笑い」があふれている。
ちょっとした会話がボケを繋がり、言葉尻を捕まえてツッコむ。
娘である「キクりん」も彼女と同じように頭の中でついつい
ボケて突っ込んでしまうくらいだ。
ちょっとした会話が漫才になる、
そんな大阪のノリをこの作品はものすごく強く感じる。
肉子ちゃんが働いている焼肉屋の名前でさえツッコミどころがある。
焼肉屋なのに「うをがし」だ(笑)
船が泊まる岸のそばにあるから合ってはいるのだが、
ちょっとした小ボケも作品の端々に描かれているような作品だ。
たんたんと、そんな暮らしがこの作品では描かれている。
思春期
「キクりん」は小学5年生の女の子だ。
思春期真っ只中の彼女、そんな彼女だからこそ口には出さないものの
「母」の存在をどこか恥ずかしいと感じている。
見た目、これまでの彼女の男歴、彼女の行動や言葉、
口には出さないが「恥ずかしい」と何処かで思ってしまっている。
子供ではあるものの彼女にも「学校」という名の社会がある。
女子特有の「グループ」もそこにはできており、
引っ越してきた彼女はそんなグループにどこか馴染めない。
クラスの女子の仲間はずれや友情など
彼女は何処か何かが「違う」と感じている。
クラスのちょっと変わった男子が気になったり、
女子グループの問題を悩んだり。
このくらいの年齢の特有の女子のちょっと
「センチメンタル」な感情が淡々と綴られている。
映像表現はたしかに綺麗だ。
だが、どこか「オーディオドラマ」を聞いているような感覚になるほど、
異様なまでにモノローグが多く、
小説の文字をそのまま読んで聞かされているような感覚になる。
バトルシーンがあるわけでもない、恋愛要素も強いわけでもない。
淡々と綴られる日常は面白くはあるのだが、
映画としては起伏にかけるストーリーになってしまっている。
終盤
この作品は思春期の女の子の日常を描いている。
父もおらず、男癖の悪い母親に振り回され、各地を転々とし、
彼女はどこか冷めた性格をしている。
そんな彼女の真実が終盤で明らかになる。
どう見ても似てない親子、父の顔も知らない。当たり前だ。
肉子ちゃんは彼女の本当の母親ではない。
妊娠しないからだだと思っていた「母」は
何処の男とも知らない男の子供を生む。
かなり唐突にこの過去が描かれるのだが、
何の脈絡もなく「こういう過去で真実です」という感じの描き方だ。
そんな母親の存在の描き方がえぐい。
彼女は唯一の娘を捨て、お金と手紙を残し、
肉子ちゃんに預けてしまっている。
そんな真実が明らかになると同時に病気になった「きくりん」は
病気を隠そうとしてしまう。
「自分は望まれた子ではない」
そういう思いがあるからこその他人への遠慮が常に彼女にはある。
そんな彼女に肉屋のおじいさんは家族として彼女を愛し、
「お前は望まれて生まれてきたんだ」
というものの、そんな感動的とも言えるシーンと同時に
彼女の母親が彼女を捨てた真実も描かれるため、
どう受け止めていいのかわからない感じだ。
母親
そんな母親も「行方不明でした」なら、まだ話として消化できるのだが、違う。
肉子は彼女の母親と未だに連絡を取っており、週1くらいで電話をしている。
それどころか現在は結婚をしており、きくりん以外にも子供が居る。
あまりにもエグすぎる状況だ。
ちょっとこの展開に私はドン引きしてしまった。
彼女の母親を許す肉子ちゃんの態度もよくわからず、
「ほんまにきくりんのこと大好きやねんで、
結婚してやっと子供できたんやって、
大人になって愛されて子供の大切さがひしひしとわかって、
きくりんのことが大切じゃないわけやなかったんで
ただ、若かったんよあのこ」
そんな弁解をされても、何も納得できない。
逃げたんじゃない、怖くなったわけじゃない、娘は愛していたと。
だから「運動会」をこっそり見に行ったりと、
母親の「エゴ」が凄まじく、感動しようにもできない。
彼女だけは捨てられ、肉子に預けられ、
肉子は肉子で男癖が悪く、彼女のことを考えてるのか考えていないのか
各地を転々とし転校させられ、あげくのはてに
本当の母親は再婚し、自分以外の子供と幸せに暮らしている。
こんな状況を描かれてもムカつきこそすれど感動できはしない。
最後も彼女に生理が来て「おめでとう」と言われて終わりだ、
果たしてそれは「おめでとう」なのだろうか?
身体の成長、おとなになった証ではあるかもしれない。
しかし、こんな状況の彼女がそれを快く受け入れるのだろうか。
話が進めば進むほど物語に引っかかりが生まれてしまう作品だった。
総評:致命的なまでの盛り上がりの無さ
全体的にみてかなり好みの分かれる作品だ。
序盤から中盤までは複雑な家庭環境を持つ小学生の女の子の
センチメンタルな日常が綴られており、
なにか大きな問題が起こるわけでもなく淡々と日常が綴られる。
それ自体は決して悪くなく、STUDIO 4℃だからこその
作画によるアニメーションの表現はすばらしく、
港町の描写や、出てくる料理の数々は没入感を生んでいる。
しかし、終盤からのストーリーはかなり引っかかりを生んでいる。
特に主人公の母親の事情はなんとも身勝手な状況にあり、
そんな身勝手さを小学生の女の子が受け止めて消化している事実は、
やや辛いものがあり、なんども「捨てたわけじゃない」と言われても、
捨てたことは事実に変わりがない。
ラストの「生理が来た」という展開も、
彼女の生い立ちを考えると、素直におめでとうとは言いづらく、
最後の最後までしっくりと来ないまま終わってしまう。
映画全体としてかなり「地味」であり、
興行収入があまり伸びなかったことも納得できてしまう作品だった。
個人的な感想:大阪ノリ
全体に漂う大阪ノリのようなものがどうにも受け入れられず、
笑えるポイントはあるのだろうが、個人的には
1回も笑うことなく、泣くこともなく、
終盤の展開にイラっとしてしまう作品だった。
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