アクション

逃げて良いんだ「逃げ上手の若君」アニメレビュー

4.0
逃げ上手の若君 アクション
画像引用元:©松井優征/集英社・逃げ上手の若君製作委員会
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評価 ★★★★☆(70点) 全12話

TVアニメ『逃げ上手の若君』第2弾PV|2024年7月6日放送開始

あらすじ 時は1333年、鎌倉幕府の後継者である少年・北条時行は、武士としての取り柄を持っておらず、武芸の稽古からも逃げ続ける日々を送っていた。しかし、後醍醐天皇と内通した御家人・足利尊氏の突然の謀反により、鎌倉幕府は滅亡する。引用- Wikipedia

逃げて良いんだ

原作は週刊少年ジャンプで連載中の漫画作品。
監督は山﨑雄太、制作はCloverWorks

鎌倉幕府

1話冒頭、まるで大河ドラマのような始まりを見せる。
鎌倉幕府も終りを迎えそうな時代、
そんな時代に元気に家臣から逃げ回る少年が映し出される。
丁寧に描かれた背景描写、その背景を「少年」が
全力の笑顔で走り回るだけで一気に世界観に引き込まれる印象だ。

まるで大河ドラマのような大人な登場人物たちと背景、
しかし、主人公である「北条時行」だけはアニメ的だ。
まるで少女のようにも見える少年、
多くの血が流れ戦によっていつ自らの命が奪われると限らない時代、
そんな時代に彼は「逃げて」「隠れる」人生を歩んでいる。

稽古から逃げるために2日間も隠れたり、家臣から逃げ回る姿は自由だ。
嫌なことからは逃げる、それが彼の血筋であり、彼は平和を満喫している。
戦など彼には無塩だ。
そんな血筋を感じさせるほどの「逃げ」のアクションシーンがたまらない。

ただ逃げ回るだけだ、それなのにそのアニメーションが
ぬるぬると動く、まるでフルCGアニメのようなカメラワークは
贅沢の極みであり「CloverWorks」という制作会社の
底力を見せられるような作画がたまらない。

それだけでなくキャラクター描写も秀逸だ。
主人公もそうだが、未来が見えるという「神官」など
強烈なキャッチーさとキャラの魅力を一瞬で引き出しており、
そんな神官が「ボヤッ」と告げる未来、
2年後に「天を揺るがす英雄」になるとつげられる。

平和な世から戦乱の世へ、時代は移り変わる。
北条家が収めた約100年の平和は終りを迎え、
「室町時代」を迎える。
グロテスクな生々しい戦乱の描写は序盤のキャッチーさとの
ギャップが生まれており、鮮烈だ。

鎌倉幕府が滅亡し、家族も故郷も失った主人公は
「逃げる」道を取ることになる。
腹を切り自害することも、この時代では当たり前だ。
それが武士のほまれだ。

だが、彼は武士の誉ではなく、生きるために逃げることを選ぶ。
誉のために生きることから逃げるのではなく、
誉を捨て生きるために逃げることを選んでいる。

武士としての尊厳よりも、死の淵にたったからこそ、
己の中の「生きながらえる」ことへの本能を目覚めさせる。
多勢に無勢、多くの矢が飛び交う中でも、
彼は「生き残る」才能を持ちえている。

鎌倉幕府の後継者である主人公、
彼は生き残り、逃げ回り、英雄となれるのか。
天下を取り戻す一世一代の鬼ごっこが始まる。

裏切り

この時代は裏切りの世の中だ。
味方と思っていたものが裏切り、敵と思っていたものも裏切る。
大人も子供も関係ない、裏切ることで自らの立場を強くし、
かしこく立ち回ったものこそ出世し、生き残る。それがこの時代だ。

そんな卑劣ともいえる立ち回りをする「大人」が、
主人公の前に敵となって現れる。
兄を敵にさしだし、処刑したものに敵討ちをする。
シンプルなストーリー展開ではあるものの、
キャッチーなキャラクターが刺激的な展開を生んでいる。

主人公に「武力」といえるものはない。
逃げ延びる力と生き延びる力はあれど、戦う力が彼にはない。
それはこれまでの人生で彼が「戦う」ことから逃げた結果だ。

平和な世ならそれでもいいかもしれない。
しかし、乱世の世で「戦う」ことから逃げることは許されない。
逃げれるところは逃げ、逃げられないところは立ち向かう。

仲間とともに敵討ちをする、そんなシンプルな展開ではあるものの、
CloverWorksの作画が爆発する。
時代劇らしい「殺陣」をしっかりり見せつつも、
アニメというファンタジーらしい「嘘」を織り交ぜることで
実写ではできないような戦闘シーンを描いている。

子どもと大人が本気で戦う。
「生存本能」を刺激された主人公が「刃」から「逃げる」、
生きるか死ぬか、そのギリギリを味わう主人公の魅力は
思わず鳥肌が立つほどだ。

逃げ上手の若君、そんなタイトルを綺麗に回収してくれる。
戦うことから逃げるのではない、死ぬことから逃げるだけだ、
1ミリずれれば致命傷、そんな中での戦闘シーンの静と動を見せる、
逃げることはできる、だが、攻撃することはできない。

敵にしてみれば一生殺せない相手だ。
刀を振るっても振るってもカスリもしない、
そんな相手と戦い続け、一瞬の油断が自らの首を落とすことになる。

仲間

それは戦国の世では才能だ。
敵の将を討ち取れば勝利となる、そんな世界で
主人公の首を打ち取ることができない。
それどころか自ら最前線にたち「囮」にもなる。
これほど敵になったら怖い将はいない。

そして彼の仲間は「信頼」にたる人物だ。
主人公が英雄になる未来を見た神官のもとには信徒がいる。
宗教的概念をもった「兵士」ほど怖いものはない。
理念よりも、友情よりも、愛情よりも、
信者は自らが信じるもののために命すらあっさり捨てる。

命がけで戦ってくれる兵士、将を主人公は集めることになる。
自分と同世代の若者は才能はあるもののまだ子供だ。
主人公とともに仲を深めつつ、目的のために話が進んでいく。

仲間だけでなく敵も鮮烈だ。
主人公の兄を差し出した裏切り者、足利尊氏の家来、
どれもこれもピーキーとも言えるキャラ付けをしており、
そのおかげで登場シーンが少なく、すぐに退場するとしても
その強烈なインパクトのおかげで印象に残る。

そんな強敵との戦いが主人公を成長させる。
逃げることしかできない彼が自らの価値を囮にした
戦いを見に付け、戦うことのできなかった彼が逃げながら
「敵」から戦い方を学ぶ。

きちんと主人公が「成長」していく過程が描かれているのは
ジャンプ作品らしさを感じるところだ。
主人公が肉体的にも精神的にも成長していき、
徐々に仲間も増えていく。

この時代において「信頼」というものはあっさり裏切られる。
だが、主人公は自らからは絶対に裏切らないと告げる、
誰も信じられなかった少年がそんな心からの言葉を信じ、彼の仲間になる。
信じるに値する将だからこそ、部下も彼を信ずる。

ギャグを織り交ぜつつも血しぶき咲き乱れる映像が
刺激的なアニメーションを見せてく、
このコメディとシリアスのバランスが非常に素晴らしく、
特に「足利尊氏」のラスボス感の演出は凄まじい、
笑顔のままであっさりと首を跳ねる、その姿が蠱惑的な魅力を醸し出す。

戦国の世に生まれし、戦国の代名詞。
生きるために立ち向かい、成り上がるために人を殺し、裏切る。
主人公と真逆の存在たるラスボスの存在感が凄まじい。

逃げて切る

そんな仲間を得ることで主人公は成長していく。
逃げることしかできない、逃げることが彼の才能だ、
ギリギリの状況で、刹那の隙間を縫うように
「逃げる」ことで攻撃する技を彼は手にする。

主人公の仲間は基本的に同世代の子供だ。
この戦国の世で大人以上に命が奪われる子どもたち、
10代になったばかりの少年少女が「大人」に一太刀あびせ、クビを落とす。
小さな体で大人を翻弄し、少しずつ、少しずつ追い詰められていく。

そんなギリギリの勝負に「北条時行」という主人公は楽しんでいる。
太刀だけではなく相手の「血液」からすら逃げ回り、勝利を掴む。
この作品らしい戦闘シーンの見せ方を
CloverWorksによるアニメーションで彩ることで
目が離せない戦闘シーンに仕上げている。

逃がせ

個人として戦う力を手に入れた主人公は
終盤に「軍隊」を逃がす力を手に入れようとする。
たしかに彼は天才的な逃げの才能を持っている、しかし、
それはあくまで彼自身の性格と哲学と生き様があってこそのものだ。
この時代の多くの武士は「逃げる」ことは武士の誉に反する。

生き恥をさらすくらいなら死を選ぶ。それがこの時代の武士だ。
そんな考えを持つものを主人公は逃さねばならない。
そんな武士の生き様をどう変えさせるのか。

ややご都合主義感はあるものの、この時代の武士の考えと
真逆の考えを持つのが主人公だということを
強調させるための終盤のエピソードだ。

戦は1人ではできない、5人でも、10人でもできない。
多くの兵士を率いてこそ、戦ができる。
多くの兵士の信頼を得て、結果を残す将は、
より多くの兵士を率いて戦に挑むことができる。

生き延びることで見える景色がある、
誉より、武士の尊厳より、命があるからこそ
生きているからこそ、逃げているからこそ、幸せだ。
死ぬならば逃げよう、生きるために逃げることを
1クールかけてしっかりと描いている作品だった。

総評:誉れを捨て、生き延びよ

全体的に見てとんでもない作品だ。
「北条時行」を主人公にしつつ、そんな史実をもとにしつつ、
1クール徹底的に「逃げる」という概念を様々な角度で考えながら、
「北条時行」の物語を、歴史を大河ドラマ的に描きつつも、
アニメらしくコミカルにファンタジーも含みつつ描いている。

非常に絶妙なバランスだ。
戦国時代だからこそ、あっさり首をはねられて死ぬものも多い。
だが、そんな時代を生き抜こうとしている少年少女たちを
メインキャラクターにすえることでシリアスが抑えられ、
同時にギャグもえがきつつも、子供でも血は流れる。

そんな子供に対する大人の描き方も素晴らしく、
敵だろうが味方だろうが、もれなく大人はキャラが濃い(笑)
そんな濃いキャラクターを相手に子どもたちがどう立ち向かうのか、
どう逃げるのかという部分でドラマが生まれており、
1クールでまだ序章ではあるものの、先が気になって仕方なくなる作品だ。

逃げちゃだめだと某主人公は何度も連呼していたが、
今は時代が違う、逃げることすら肯定される世の中だ。
逃げずに死ぬくらいなら逃げよう、生き残ることが大事なんだと
いわんばかりのストーリーの描き方は
作品を通してのメッセージのようにも感じる。

アニメーションのクォリティもえげつないまでに素晴らしく、
グリグリと殺陣をみせつつ、
大人の刃をくぐりぬける主人公のアニメーションらしい
構図と見せ方がたまらない。

史実をもとにしつつも、戦闘シーンなどでは
フィクション、嘘を交えてる。
この絶妙なバランスが作品全体の面白さにもつながっている。

史実をベースにしつつも、史実にはない物語や登場人物も多い。
しかし、基本的な部分は史実にのっとっているからこそ、
「北条時行」という人物の最後を史実どおりにするのか、
はたまたそこはファンタジー、フィクションとして嘘を交えるのか。
それも気になるところだ。

2期の制作も決定しており、
このクォリティが維持されたまま2期が制作されることを期待したい。

個人的な感想:笑ってしまうほど

ちょっと笑ってしまうほど作画がすごい作品だ。
シンプルにアニメーションとしての見せ方がすごい。
早く動かすわけでもなく、演出でごまかすわけでもなく、
エフェクトをモリモリにするわけでもない。

そういった演出や撮影技術の凄さというよりは、
シンプルにピタりと決まった構図と、その構図にいたるまでの
動きの面白さが洗練されており、
戦闘シーンなどになるたびに口を開けてみてしまうような
面白みがある作品だった。

2期でもどんなアニメーションを見せてくれるのか、
今から楽しみだ。

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