青春

「夏へのトンネル、さよならの出口」レビュー

青春
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評価 ★★★☆☆(50点) 全83分

『夏へのトンネル、さよならの出口』本予告映像【2022年9月9日(金)公開】

あらすじ 作中の架空の駅、香崎(こうざき)を舞台に起こる物語。主人公の塔野カオルは電車の中で女子たちが噂をしているのを聞いた。引用- Wikipedia

ジェネリック新海誠作品の集大成?

原作はライトノベルな本作品。
監督は田口智久、制作は「映画大好きポンポさん」のCLAP

雰囲気

映画冒頭から主題歌が流れる。
主人公が首から提げている「MP3プレイヤー」を、
彼が下校中に「再生ボタン」をおすことで曲が流れ出し、
スタッフロールとともに雨の下校中の道のりがしっとりと描かれている。

田舎に住む少年が本作の主人公だ。
そんな彼が駅で傘をもっていないずぶ濡れの美少女とであう。
会話らしい会話もなく、電車が送れるというアナウンスに
少女はいらだちを感じる。

この「気まずい空間」と雨の音がこの作品の雰囲気を
しっかりと見ている側に感じさせてくれる。
そんな少女に傘を差し出す。
だが、少女はつっけんどんな態度でそれを跳ね返そうとする。

そんな会話の中で主人公に家族がすでにいなくなったこと、
少女にはそもそも親など居ないことを感じさせる。
余計な説明描写もなく、自然な会話でキャラクターたちの
設定を見ている側に感じさせてくれる。

雨の日の出会い、傘を通じた交流。
このどこか昭和的なラブロマンスな雰囲気に
思わずニヤニヤとさせられてしまう。

登場人物たちが使ってるのはガラケーだ。
互いに「赤外線」で連絡先を交換し、互いの名前を知る。
今どきで言えば「平成サイバー」ともいうべき世界観に、
どこかノスタルジックさを感じつつ、情景が描かれる。

あの時代の、バブルが崩壊し、どこかみんな乾いた空気をまといながらも、
ポケベルからガラケー、そしてスマホと
技術だけが進歩していった時代の、進歩する前のあの時代の空気感を
強く感じる。

転校生

そんな主人公が出会った少女が転校生として主人公のクラスにやってくる。
つっけんどんな態度で、都会からやってきた彼女は田舎の学校に馴染めていない。
他者との関わりを徹底的に自ら排除しており、
自分の領域に勝手に入ってくるものは拳で殴り倒している。
自分以外の「世界」を徹底的に排除している少女だ。

主人公もまた世界から孤立しようとしている。
妹を事故により亡くし、両親は離婚し、父は彼のことを責め立てている。
「お前が殺したんだ」と酒によった父は彼に責めより、
イヤホンで耳を閉ざし世界から離れようとしている。

そんな中で彼は「トンネル」を見つける。
トンネルの先には不思議な世界が広がっており、
どこまでも続くその道の先には何があるのかすらわからない。
現実から隔離した世界で彼は「妹の靴」と死んだはずの「インコ」を見つける。

そこは「ウラシマトンネル」と言われる場所だ。

ウラシマトンネル

この街にはとある噂がある。

「ウラシマトンネルって、知ってる? そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうのー。」

主人公は少しの間トンネルに入っただけだ。
だが、そんな少しの間でトンネルの外では「1週間」も時間が過ぎている。
いわゆるウラシマ効果だ。

重力の強い惑星や場所に人が長い間とどまると、時間のズレが起きる。
様々な作品でこの「ウラシマ効果」は使われている。
入れば欲しい物が手に入る、だが代償にトンネルの外の世界は
どんどんと時間が進んでしまう。
それでも欲しい物を手に入れるために、そのトンネルに入るのか。

レトロな青春恋愛模様、
そこに「ウラシマ効果」というSF要素を舞台装置として組み込むことで、
わかりやすいストーリーではあるものの、
先が読めないストーリー展開が生まれている。

主人公のトンネルの秘密を知るのは転校生の少女だけだ。
二人には欲しい物がある、そのために「トンネル」を攻略する。
共通の目的、二人だけの秘密、これもまた恋愛ストーリーは
かかせないものだ。

検証

二人はウラシマトンネルを検証していく。
トンネルの中のどこで時間の流れがかわるのか、
ウラシマトンネルの中と外はどれくらいの時間が違うのか。

トンネルの中に1時間いるだけで100日も過ぎてしまう。
1日もいれば6年半もすぎてしまう。
トンネル中では電波は届かない、トンネルの出口にはなにがあるのか、
二人の欲しいものは本当にトンネルの中で見つけることができるのか。

様々な疑問を抱えながらも二人は二人の目的のために、
ウラシマトンネルを攻略しようとしている。
共通の目的、二人だけの秘密が二人の仲を深めていく。
世界から孤立した二人が孤立した同士だからこそ、
同じ秘密を抱えているからこそ距離が近づいていく。

だからこそ、二人が二人にとってかけがえのないものになってくる。
他人には言えなかった二人の過去、それを互いに吐露する。
自分と似たような存在だからこそ、自分の気持ちを理解できるかもしれない。
そんな思いをぶつけあう。

世界から孤立することは人間という社会では不可能だ。
人間は孤立しようとしても、結局はどこかで繋がりを求める。
そんな繋がりのない人間は「ウラシマトンネル」の仕組みを知ってても
簡単にそこを通り抜けることができる。

だが、繋がるのある人間は躊躇する。
現実世界での1日、1週間、1ヶ月、1年、10年。
ウラシマトンネルにいればいるほど、
現実との繋がりがなくなり、戻ってしまえば「浦島太郎」のように
本当に孤立してしまう人間になってしまう。

彼らもまた孤立を感じつつも、つながりがある。
主人公には父が、少女には両親がいる。

少女は両親は居ないといったものの、死んだわけではない。
彼女は自らの夢を自分の両親に吐露し、それを理解してくれず、
結果的に遠く離れたちに追いやられてる。

両親を見返すために、この世界に傷跡を残すために、
彼女は「才能」を求めている。
何でも欲しい物が手に入ると言われているウラシマトンネルで
「才能」という形のないものが本当に手に入るかはわからない。

そんな才能を主人公は認めてくれる。
彼女の「漫画家」になりたいという思い、彼女の「才能」に対する思い、
「トンネルに入らなくても」特別なものは
既に持っているのだと彼女にぶつける。

彼女はすべてを投げ出す覚悟はある。
だが、主人公ほど追い詰められたものではない。
彼女は自らの漫画を出版社に送り、それを評価してもらう人間も現れる。
余計に彼女はウラシマトンネルに入る理由がなくなってしまう。

しかし、主人公の父親は再婚をきめ、
勝手に引っ越しの話まで持ってきている。
彼の父親なりの「死」の受け止め方なのはわかる、
だが、主人公にとって受け入れられない出来事だ。
現実が、世界が、彼をより孤立させる。

ある種の「共犯者」だった彼女が共犯者ではなくなる。
だからこそ、彼は一人で旅立つ。

一人

主人公はただひたすらウラシマトンネルを突き進む。
どこか幻想的なこの空間をひたすら突き進むシーンは
やや退屈ではあるものの、退屈だからこそ残酷だ。
なにもなく、出口がいつ見えるのかもわからない。

たった14時間30分が4年の月日になる。
14時間も何も見つからない焦り、4年という月日の経過の焦り。
変化のない退屈な道のりが主人公を追い詰める。
追い込まれたトンネルの先でついに「妹」を見つける。

そんな中で少女からのメールが届く。
届かないはずのメール、それは時間のズレがあるゆえの時差だ。
外での時間がいくら経過しても少女から彼にメールが届き続ける。
彼女が漫画家になり、連載を持ち、人気な漫画家になっているという現実、
そんな「現実」と「少女の思い」が彼を引き戻す。

この世界にいれば妹のそばに行ける、だが、このままでは彼は止まったままだ。
少女は現実世界で現実を見て前を向いて進んでいる、
だが、主人公は後ろを向き、過去に縛られている。
少女のメールが主人公を現実世界へと向き合わせる。

気になる

少女は大人になった。だが、少年のことを引きずっている。
主人公と同じく「過去」に縛られながらも現実を生きている。
そんな思いが彼女の筆を止めてしまっている。
そんな彼女のもとに彼からのメールがやってくる。
過去のしがらみを乗り越え、二人は現実へと立ち向かう。

たった10秒、だけど6時間半の口づけ。
二人は再会し、時間のズレが二人の思いを強め、
二人は現実で生きていく。話自体は非常によくまとまっている。

ただ気になるところはかなり多い。

影響

原作者の方は『時をかける少女』『ほしのこえ』『七回死んだ男』『刻刻』、
そして『インターステラー』の影響を受けたことを明かしている。
ぶっちゃけそのまんまだ(苦笑)

インターステラーでもとある惑星に降り立ってしまった結果、
惑星の外と惑星に降り立った主人公たちとで時間のズレが生まれてしまい、
彼らの帰還を待ち続けている地球で待つ家族などとも
時間のズレが大きく生まれている。

この「ウラシマ効果」を用いた作品はいくつかあるものの、
この作品は「ほしのこえ」の時間のズレによるメールも
ほぼそのまま利用している。
色々な作品の影響を受けて作品を作ること自体は否定しないが、
この作品はあまりにも「そのまんま」な部分が多い。

そのせいで見ている最中は真っ直ぐなストーリーに集中できるのだが、
見終わった後にもう1度頭の中で作品を噛み締めてみると、
影響を受けた作品、そのまんまな要素があまりにもおおく、
そこを濁さずに描いている感じが非常に強い。

『時をかける少女』『ほしのこえ』『七回死んだ男』『刻刻』『インターステラー』
これらの作品を見たことがないという人の場合は、
新鮮な気持ちでこの作品を見れるかもしれないが、
これらの作品をみたことがあるという人は
どうしてもそこが気になってしまうかもしれない。

総評:影響受けた作品そのまんまなのが..

全体的にみて83分という短い尺も合ってスッキリとまとまっている作品だ。
世界から孤立している少年と少女、少年は失ったものを、
少女は手に入れていないものを求めてウラシマトンネルを攻略するための
共同戦線をくみながら、二人だけの秘密と二人だからこそわかる
思いが二人の恋心をも加速させていく。

物語は起承転結スッキリとしており、
平成サイバーというべきか平成レトロというべきかわからないが、
ガラケー時代の懐かしい奮起がノスタルジックさを感じさせ、
「雨の日に傘をかす」という昭和の青春恋愛もののような
ベタベタな展開が逆に懐かしさを感じるほどだ

終盤の展開は予想できる展開に収まるものの、
王道の面白さになっている作品だ。
その一方で気になる部分もかなりある。

声優、特に主人公を演じた方は日常シーンでの
やや棒読みな演技はキャラクター的にそこまで気にならないのだが、
終盤で感情を爆発させ、何度も少女の名前を呼ぶシーンや
叫ぶシーンの演技力は厳しいものがあり、
せっかく感動できるシーンなのにひっかかりがうまれてしまっている。

作画のクォリティに関しては素晴らしいものの、
「ここのアニメーションが凄い!」と特筆すべきものはない。
ウラシマトンネルの中の幻想的な風景は素晴らしく
序盤の「雨」のシーンの描写なども素晴らしくはあるのだが、
映画としての派手さは薄い。

さらに言えば影響を受けた作品そのまんまの要素だ。
特にインターステラーとほしのこえの影響は強く感じ、
この2作品をみてると「そのまんま」な部分もあり、
気になってしまう方は多いかもしれない。

独創性と呼べる部分が少なく、良くも悪くもパッチワーク感が否めない。
創作とは得てしてそういう部分があるものの、
それを好意的に受け止めるのか、否定的に受け止めてしまうのかは、
見る人のこれまでみてきた作品や感覚によって
大きく変わってくるところがおおきく評価に悩んでしまう作品だった。

個人的感想:序盤から中盤は…

個人的には序盤から中盤はそこまできにならなかったのだが、
終盤の色々なシーンで色々な作品があたまによぎってしまい、
素直に物語を楽しみきれなかった感が強い。

やりたいことはわかるが、そのやりたいことが
他の作品でもやったシーンそのままのせいで、
その作品が頭にちらついてしまう。

面白い作品ではあるのだが、そこを見た人がどう評価するのかで
大きく感想は変わってきそうな作品だ。

個人的には序盤くらいしか出番のなかったヒロインに殴れた女生徒など
もう少し話に絡んできても良さそうだったが、
結局何もなかったのは拍子抜けだった。
主人公の父も主人公が行方不明になった後どうなったんだろうかと
細かい部分も気になってしまう作品だった。

「HELLO WORLD」レビュー
評価 ★★★☆☆(59点) 全97分 あらすじ いつも自分の決断に自信が持てず、主体性がないことがコンプレックスの堅書直実は、2027年の京都に住む凡庸な高校生であったが、ある日不思議な三本足のカラスを追いかけた先で、10年後の2037年か

「夏へのトンネル、さよならの出口」は面白い?つまらない?

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