ラブコメ

最高の負けラブコメ「負けヒロインが多すぎる! 」レビュー

5.0
負けヒロインが多すぎる! ラブコメ
画像引用元:©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会
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評価 ★★★★★(85点) 全12話

あらすじ 自称「背景キャラ」の温水和彦は、ある日偶然クラスの人気女子・八奈見杏菜が同級生で幼馴染の男子生徒に振られている現場を目撃してしまう。そ引用- Wikipedia

最高の負けラブコメ

原作はライトノベルな本作品。
監督は北村翔太郎、制作は A-1 Pictures

語り

1話冒頭、主人公によるモノローグから始まる。
ピアノの旋律ときらびやかな青春映像が流れる。
だが、主人公自身は自分にそんな綺羅びやかな青春が
訪れるなんて思ってもおらず、ラノベのような展開になるとは
思っても見ない。でも、ふと考えてしまう、もしラノベのような主人公ならば。

1話冒頭からどこか懐かしいラノベ原作アニメのノリがあり、
ぬるぬるとした作画と「光」を意識した撮影がかなり印象的だ。
そんな主人公が出逢うのが二人の男女だ、
女は男に好意を抱いているものの、男は別の女が好き。
世の中によくある話だ、自分の好意が必ず相手も受け入れてくれるとは限らない。

この世に「負けヒロイン」は大勢いる。
現実だけではない、創作物の世界でも「一夫多妻」などの
都合の良い設定さえその作品の中に存在しなければ、
そこには必ず「負ける」ものもいる。

この作品はまさに「まけた」ものたちの物語だ。
人生はきらびやかな勝者ばかりではない、無様な敗者もいる。
「八奈見杏菜」という少女は幼馴染の男への想いが叶わず、
そんな思いを完全には諦めきれず幼馴染のストローをすおうとする(笑)

幼い頃からの思いよりもぽっと出の転校生に走った幼馴染、
幼馴染は創作物において「負けフラグ」ビンビンだ(笑)
八奈見杏菜は恋愛という名の勝負に負けている、
無様にストローをすおうとし、無様にバク食いする。
そんな無様な彼女に愛おしさすら感じる。

懐かしいモノローグに加え、懐かしいあのころのラノベアニメのような曲もあり、
背の低い小学生にも見えるような先生が居たり、可愛い妹が居たりと、
いかにもなラノベ感と新しい要素が入り混じっている。

そこにこだわった「光の演出」と頻繁なカット割、
主観視点やハイアングルなどのぬるぬるとしたカメラワークの切り替えが
心地よさすら感じさせる。
カットが頻繁にかかるからこそリズミカルな会話のテンポが生まれる。

この手のラブコメアニメは基本的に会話劇だ。
戦闘シーンのあるアクションアニメと違いアニメーションは平坦になりやすい。
しかし、この作品は違う。
会話劇ではあるもののアニメーションとして
もり立てようとしているのを1話でビンビンに感じてしまう。

八奈見杏菜という少女は負けヒロインだ。
そんな負けっぷりを主人公に知られ、必然と会話をするようになる。
そこから恋愛が急に始まるわけではない、
主人公と、負けヒロインである八奈見杏菜が出会い、
見ていて楽しい敗者たちの物語が始まる。

八奈見杏菜は恋愛において敗者だ、
しかし、好きだった幼馴染とは幼馴染のままだ。
だからこそ普通に遊びに誘われたりする。
目の前でカップルになった幼馴染がイチャイチャする光景を
彼女はひたすら見せられ、やさぐれる様に愛らしさを感じる。

やけ食いしたり、やさぐれたり、ふざけてみたり。
主人公の前で平気なふりをしていても、ふとした瞬間に
彼女は「ふられた」事実に気づいてしまう。
少し時間が経ったからこそ、大好きだった幼馴染が
カップルになっているさまを見たからこそ実感してしまう。

「ふられた」という事実を受け止め消化していく。
それは誰しも青春で1度は味わう出来事だ。
そんな敗者なヒロインは涙を浮かべながらちくわを貪る(笑)
この真面目さと不真面目さのアンバランスが八奈見杏菜という
少女の魅力だ。

負けヒロインは1人ではない

そんな彼女だけが負けヒロインではない。
現実にも、創作物にも勝ちヒロインあるところに
多くの負けヒロインが存在する。

好きな相手に自分の気持ちを伝えたい、
自分の好きという気持ちを受け止めてほしい。
そんな「少女」たちの思いはまっすぐで真剣だ。
「焼塩檸檬」という少女もまた負けヒロインだ。

自分の思いが叶わない、
自分の好きという気持ちが行き場を失ったからこそ溢れ出る涙が、
少女たちの魅力を加速度的に感じさせてくれる。

1話で八奈見杏菜が負けヒロインになり、
2話で焼塩檸檬が負けヒロインになる。
本当にあっさりと告白したわけでもないのに
好きな相手に「彼女」ができたことが発覚してしまう。

恋にタイミングはつきものだ、告白のタイミングを
遅らせれば遅らせるほど、その恋は叶わないかもしれない。
伝えなければ思いが伝わることはない。
タイミングはかればはかるほど、その恋が叶うことはない。

予約のできない恋だからこそ、
「焼塩檸檬」にしろ、「八奈見杏菜」にしろ、
自らの思いを伝える前に、恋の後押しをしてしまったり、
知らず知らず相手に恋人ができたいたりもする。

精一杯に告白しても叶うとはかぎらない。
3話では小鞠知花が恥も外聞もなく、みんなのまえで
自分の思いをどストレートに告白する。
普段は恥ずかしがり屋で奥手な彼女の一世一代の告白。

だが、そんな想い人には幼馴染がいる。
負ける幼馴染もいれば勝つ幼馴染も存在する。
一瞬でも自分のことを考えてくれた、告白は受け入れられなくとも
相手の頭に、心に爪痕を残す行為だ。

この作品における恋愛事情は非常にシビアだ。
そこにドラマやご都合主義など無い、リアルな恋愛観があり、
シビアに少女たちが恋愛の敗者になっていく。
恋する少女の可愛らしさを描き、そんな少女たちが敗者になることで
「負けヒロイン」の魅力、負けたヒロインに対する同情、感情移入が強烈に生まれる。

命短し、恋せよ乙女

その一方でラノベ原作アニメらしいセクシー展開があったり、
八奈見杏菜をはじめとする残念なヒロインたちの
残念感がコメディリリーフとして機能しているのがこの作品の魅力でもある。
話が進めば進むほど「恋に敗れた」少女たちが増えていく、
ヒロインが増える一方で「ハーレム」にはならないのが
この作品の面白さでもある。

主人公の温水は恋に敗れた女の子たちの事情を知り、
ちょっとしたきっかけで友人的な関係に落ち着くものの、
そこから簡単に恋に発展するわけではない。
なぜならば、彼女たちはまだ終わってしまった恋を消化している最中だ。
新たな恋に走るほど気持ちの整理をしきれていない。

そんな恋の消火作業に主人公である温水はそっと寄り添っている。
彼はオタクでイケメンでもない、勉強ができるわけでもない。
だが、人の気持ちを察することができる誠実な青年だ。
だからこそ恋に敗れた少女たちの心に寄り添い、
彼の存在が少女たちの心の傷を癒やしていく。

恋に勝ち負けは確かに存在する、だが、
この作品のキャラクターたちは「誠実」だ。
思いを受け止め、消化し、前に進もうとする。
告白して受け入れられなくとも関係性がこじれるわけではない。

温水和彦

1話から3話くらいの序盤まで温水和彦という男は
物語の中核には存在しない。
3人のメインヒロインがそれぞれ恋に敗れ、温水和彦という男と
友だちになり、仲良くなる、それくらいであり、主人公らしさというものに
ややかけている。

しかし、4話で彼は一歩ひこうとする。
「八奈見杏菜」という少女に対する噂、そんな噂という悪評が
自分のせいで流れたことで彼は一歩ひこうとする。
自分は物語の主人公ではない、ラノベのようなラブコメはできない、
自分の中に恋愛感情があるとは明確には言えない。

だからこそ一歩ひこうとする。
だが、ここから彼は物語の主人公になる。
温水と八奈見の関係性を勘違いした八奈見の幼馴染、
そんな幼馴染が八奈見にたいし「お前には幸せになってほしい」と言ってしまう。

それは優しさであると同時に残酷な台詞だ。
彼女を傷つける言葉に対し温水という男は精一杯、
八奈見という少女をかばおうとする。
精一杯の思い、八奈見という少女がまだ幼馴染を好きという
思いを諦めきれていないことを温水という男が1番知っている。

青臭いまでの青春模様、地味だった男が「主人公」になる瞬間、
そして二人が「友達」になるまでの流れが本当に心地よく、
素晴らしいストーリーの流れだ。

浮気だよ!

中盤になると「焼塩檸檬」が好きだった相手との浮気疑惑が持ち上がる。
本当は幼馴染同士が付き合う運命だったのかもしれない、
ぽっとでのすぎない「朝雲千早」という少女は
幼馴染同士の恋愛の発展を邪魔しただけなのかもしれない。
「焼塩檸檬」が浮気をしているならば友達として止めなければならない。

恋愛の勝者といえど、油断すれば敗者となる。
逆に敗者にも勝者に返り咲くチャンスはある。
勝者になっても歯医者になるかもしれない不安は常にある。
敗者にならないように、勝者でありつづけるために。
敗者には敗者の思いがあるように、勝者には勝者の思いがある。

そんなシビアな恋愛ドラマが描かれている一方で
「八奈見杏菜」というヒロインがおもしれー女として
完全なるコメディリリーフとして機能することで
この作品らしい面白さが全開に溢れ出ている。

「八奈見杏菜」を演ずる「 遠野ひかる」さんの演技も素晴らしく、
シンプルに可愛い声ではなく、かすれたような叫び声で
「浮気だよ!」と叫ぶさまは彼女の演技が合ったからこその
名シーンになっている。

焼塩檸檬

中盤になると恋愛における勝者と敗者が入り交じるようになる。
本来ならシリアスになってもおかしくない、
もっとドロドロしてもおかしくないのに、
この作品は意図的にそこを排除している。

シビアに恋愛を描きつつも重くなりすぎない
爽やかな関係性があり、見ていてストレスにならない。
ギャグをえがきつつ、関係性が複雑になりすぎず、
それでも「恋愛」というものをまっすぐに描いている作品だ。

「焼塩檸檬」が思わず自分の思いをこぼしてしまっても、
もう追いかけてくれる主人公は居ない。
そんな主人公はもう相手を選んでしまっている。
自分は物語の主人公ではない、それをわかりつつも
「温水」という男はほうっておくことができない。

自分は主人公ではない、負けヒロインを勝ちヒロインにする力もない、
だが、寄り添うことはできる。
「焼塩檸檬」という少女のみっともなくも無様で、情けない恋心、
それをさらけ出せるのが温水という男だ。

彼がいるからこそ、友達がいたからこそ、
負けヒロインたちが自分の恋心を消化し、一歩を進む物語が描かれている。
「焼塩檸檬」という少女が自分の思いを伝え、相手の思いを知り、
女の子として好きな相手に扱われる。
たった1つのわがままに思わず涙腺を刺激されてしまう。

そんなシビアな恋愛事情を描いている裏で
「八奈見杏菜」という女は「糖質」や「匂わせ」の
ことばかり考えている(笑)

合宿や学園祭、ラブコメとしてはベタなイベントを消化しつつ、
負けヒロインたちが自分の中の恋心を徐々に消化していき、
時間が経過していく。

小鞠知花

彼女は人見知りで奥手な女の子だ。
そんな彼女が精一杯の思いで告白し玉砕している。
彼女が好きだった先輩は同じく文芸部の先輩と付き合っている。

そんな二人の先輩との日々が楽しかった、
優しくしてくれる先輩が好きだった。
もし、告白しなければ関係性がもう少し違ったかもしれない。
そんな後悔はありつつも、彼女は彼女なりに成長しようとしている。

先輩が居なくなった後に文芸部の部長になる彼女、
先輩に託された、先輩を安心して送り出したい。
二人の先輩も恋愛どうのこうの関係なく、
小鞠知花という後輩を思っている。

そんな思いに応えようとする小鞠知花という少女は可憐だ。
精一杯に学園祭を盛り上げようと、展示をきちんとしようとする、
文章ではない、別の形の「ラブレター」だ。
告白という行為は今までの関係性を0にしかねない行為だ。
それでも自分の気持ちを伝えたい、そんな行為を彼女は行った。

それでも変わらない先輩たちへの思い、自分の中の気持ちへの整理、
1クール通してこの作品は負けヒロインたちの気持ちの整理を描いている。
時間が解決しない問題もある、だが、
時間は気持ちの問題を大抵の場合は解決してくれる。

負けヒロインたちが負けて涙を流し、
自らの気持ちを制していく中でまた涙する。
3人の負けヒロインの心理描写に、強烈な感情移入が生まれる。

3人の負けヒロインと温水という主人公、
この4人の不思議な関係性は失恋がなければ生まれなかったものだ。
ただの傷の舐めあいではない、ときには互いの本心をぶつけ合い、
ときには本気で背中を押し、ときには傷つけ合いながら、
前に進もうとしている。

八奈見杏菜

そんな素晴らしい青春を描いているのに八奈見杏菜という
負けヒロインの代表格が台無しにする(笑)

「私、もしかしたら可愛いかもしれない」

最終話の冒頭で彼女がいつもの調子で
いつもの負けヒロインっぷりを見せつけてくれる。
妄想の彼氏との妄想のデートをし、
匂わせ写真を投稿するために主人公たちを連れ回す。

この作品は本来のラブコメのアフターストーリーだ。
ヒロインの1人が恋愛バトルに負ける。
その後の話だ、そこから新しい恋が始まるかもしれない。
しかし、そんな新しい恋に気持ちを簡単に切り替えられるわけでもない。
1クール通してそんな気持ちの整理を描き、1クールが終わる。

総評:恋に敗れた女の子は愛らしい

全体的にみて素晴らしいラブコメだ。
ラブコメにおける負けヒロイン、そこに着目し、
そんな負けヒロインたちの負け戦を描きながら
負けヒロインの魅力を押し出しつつ、同時に負けヒロインたちの
恋の消化を主人公とともに描いている。

一人ひとりの物語、恋愛の結末、そこからの恋心の消化が
しっかりしており、主人公1人に対してメインヒロイン3人という
組み合わせではあるものの決してハーレム展開にならず、
新しい恋が始まるわけではない。

「恋愛」というものをシビアにえがきつつも、
物語が重くならないコメディリリーフがきちんと機能しており、
そこにラノベ原作アニメらしい要素を合わせることで、
どこか懐かしくも新しいラブコメになっている。

作画のクォリティも非常に高く、頻繁なカット、
光の演出を意識しながら描くことでシンプルな会話劇である
本作品のアニメーションとしての面白さをきちんと意識した
画作りがこの作品にはある。

かつては「シャフト」がこの手のやり方を得意としていたが、
そんなシャフトとはまた違う、最近のはやりでもある写実的な
邦画的ともいえる画作りとラノベらしさ、アニメらしさが合わさることで
「負けヒロインが多すぎる!」という作品らしい表現につながっている。

もしかしたら新しい恋が始まるかもしれない、
3人の負けヒロインが勝ちヒロインになる日もくるかもしれない、
その相手は主人公かもしれないしそうでもないかもしれない。
そんな「余韻」すら感じさせる作品だった。

2期があれば期待したいが、2期がなくとも1期の段階で
完成された物語があり、素晴らしい作品だった。

個人的な感想:負けヒロインは最高です

負けヒロインはラブコメにおける重要な要素だ。
恋愛というものを題材にするラブコメにおいて、
男女問わず「負ける」キャラは存在する。

そんな負けるキャラクターに視聴者は感情移入する。
それは現実の勝率ゆえの問題ではあるものの、
負けて涙を流し、なんとか自分の気持ちに整理しようとする姿に
道場と感情移入が生まれるからだ。

そんな負けヒロインというものをこの作品は非常にうまく扱っており、
1負けヒロイン好きとして大好物な作品だった。
ラノベ的な要素に関しては好みが分かれるかもしれないが、
それを上回る負けヒロインの魅力がこの作品には詰まっていた。

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