評価 ★★★☆☆(40点) 全4話
あらすじ いろはのもとへと急ぐ魔法少女たちは、兵隊グマのウワサと戦闘を繰り広げる。行く手に天音姉妹が立ちふさがるも、それを制するみふゆ。一方、ねむの力によって、隠された記憶に触れるいろは達。それぞれの願いの為に戦い続けてきた、魔法少女たちの結末とはーー引用- Wikipedia
誰も救えぬ主人公
本作品はマギアレコードの3期。
本来は2021年の年末に放送予定だったが、
2022年4月に放送延期されたうえで放送された。
真実
3期の1話、過去が語られる。
「いろは」の失われた記憶、彼女の忘れてしまったささやかな願い、
3人の入院している幼い少女たち。
「私達が死んでも、街で噂に出会ったら思い出してもらえるでしょ」
幼い少女たちのささやかな願い。
そんな願いを聞いた「いろは」もまた願ってしまう。
その代償を知らず、白い悪魔の誘惑に彼女もまたおちてしまった。
語られる真実は断片的にこれまで描かれており、想像することはできた。
しかし、3期の1話ではそれをきちんと回想として見せている。
いろはが「QB」に願い、魔法少女になったからこそ、
そんな姿を見てしまったからこそ幼い少女たちもまた願う。
QBの無限ループともいえる魔法少女構築システム、
だが3人の幼い少女は賢い子どもたちだったことが救いだ。
いや、地獄の始まりとも言えるのかもしれない。
安易にQBに頼らず、彼女たちは彼女たちのやり方で姉を助けようとしていた。
1話冒頭からシリアスな雰囲気を全開に醸し出し、
作画の不安定さはかなり気になるところでは有るものの、
「魔法少女まどか☆マドカ」の外伝らしいダークな雰囲気を
どっしりと醸し出しながら、少女たちの真実が描かれる。
多くの魔法少女が感情的にQBに願い魔法少女になってきた。
だが、彼女たちは違う。冷静に現状を確認し、
冷静にQBに質問しまくる。
まどか、ほむら、さやか、マミ、杏子、いろは、やちよ。
彼女たちがしてこなかった「事前確認」をする姿は
シリアスな状況なのにどこか笑ってしまう。
契約書に小さい文字で書かれた注意事項、別紙に記載されている
情報までを彼女たちは確認しているようなものだ。
彼女たちより大人な少女たちができなかったことを、幼い3人の少女がやっている。
彼女たちは自分たちで真実に気づく。
だからこそ、ある意味で逆転の発想で姉を救おうとした。
これは彼女たちなりの「叛逆」の物語だ。
QBのシステム自体への介入、管理者としての力、
魔女にならないために魔法少女になった3人の少女の物語だ。
だが、それは理想であって現実ではない。
神に等しい力を幼い少女たちが扱うにはリスクもある。
なぜ主人公の妹である「うい」は忘れられてしまったのか、
ドッペルシステムはどのように作られたのか。
人口魔女とはなんなのか。
2期まで引っ張ってきた謎が綺麗に3期で回収されていくのは心地よい。
ドッペルシステム
真実を知っても、真実を思い出しても幼い二人の少女は止まらない。
ここで止まったら意味がないと思っているからこそ、
「いろは」に止められようとも止まらない。
多くの犠牲を出すことはわかっている、だが、1度失敗したからこそ、
その失敗を無駄にしないためにも止められない。
弱い魔法少女たちは次々と暴走してしまう。
「マギウス」に救いを求めやってきた魔法少女たちの心はもともと弱い。
そんな弱い魔法少女たちを救うために、魔法少女たちが戦うものの、
彼女たちも決して強いわけではない。
彼女たちもまた「マギウス」に救いを求めていた。
弱いからこそ、手を取り合い、助けあおうとする。
調整屋の少女は常に中立でいようとした。
戦う力のない魔法少女はそうするしか生き延びることができなかった。
それは彼女なりの処世術だ。そんな彼女すら「自分」を犠牲にしようとする。
誰かの犠牲で誰かを救う、誰かの犠牲がなければ誰かを救えない。
弱い魔法少女たちに抗うすべは無い。
弱さを受け入れて支え合うことでしかこの世界では生き延びられない。
己の弱さを認め、他者の弱さを見つめ、受け入れ、支え合う。
人は1人では生きていけない、誰かとつながることで自分を支え、他者をも支えている。
心の弱い魔法少女が心の弱い魔法少女を助ける姿は思わず涙腺を刺激されてしまう。
その果に多くの魔法少女が犠牲になる。
それも幼い少女たちの想定していた結果だ。
大義をなすために、多少の犠牲は考えない。
「魔法少女」というシステムそのものへの介入は世界を改変することと同義だ。
作画
ただ作画はかなり不安定だ。
2期の中盤以降から明らかにスケジュールが間に合っていないのを感じたが、
3期では止め絵の多さ、背景をうつシーンの多さが顕著であり、
戦闘シーンでさえ止め絵でみせることが多く、
止め絵でないシーンの動きにも面白みがなく絵に圧や迫力がない。
せっかくストーリーが盛り上がっているのに
その盛り上がりを作画で後押ししきれていない。
キャラの作画すら危ういシーンも多く、
もともとの放送予定から延期したことも分かるほど
「シャフト」のスケジュール進行のヤバさを感じてしまう。
盛り上がるシーンのはずなのに作画がヘタってしまっているせいで
その盛り上がりに感情が乗っていかない。
非常にもったいない。
黒江
彼女は弱い魔法少女だ。自分よりも弱い魔法少女を助けることもできず、
誰かの手を取ることも出来ない。
誰かを「見捨てる」ことでしか自分を生かし続けられなかった。
このマギアレコードという作品は本編とは違い「弱者」の物語でも有る。
物語の舞台にすら上がれない、上がったところでスポットライトすら当たらない。
そんな「魔法少女」たちはどう生き残れば良いのか。
強者にすがるもの、わずかな希望に望みを賭けるもの、
弱者同士が手を取り合いもの、弱者を見捨てるものも居る。
マギアレコードの主人公たる「いろは」でさえ弱者だ。
彼女は誰も助けられない。
助けたかった妹も、妹の友達も、自分自身の友達も、
救いたかった「黒江」という少女すら助けられない。
手を差し伸べたのに、救おうとしたのに、彼女の真っ直ぐな気持ちは
彼女より弱者である「黒江」には尖ったナイフのように心を抉る。
手を取り合おうとはした、助けようとはした。だが、彼女の選択はすべて間違っている。
「クロエさん、私と一緒に魔法少女になろう」
それは「いろは」にとっては救いの言葉だ。
しかし、「黒江」にとっては呪いの言葉だ。
「ねぇ、たまきさん、私はいつまで魔法少女を続けないといけないの」
弱者は弱者を救えない。
救おうとしたのに、手を差し伸べたのにだれも救えない。
示した希望が希望となるわけでもなく、絶望に代わる。
偽善と正義感、自分自身の価値観を絶対とすら
思っている「いろは」という少女の弱さと脆さが3期では明らかになる。
感情論で否定したマギウスのドッペルシステム、
弱者にとっては救いだったそのシステムでさえ彼女は否定した。
安易
彼女は絶望したはずだった。
ただ、そんな絶望からの復活があまりにも早い。
仲間たちが彼女のところにたどり着いて声をかけたら
あっさりと彼女は絶望の淵から戻っている。
せっかく主人公を絶望の淵に叩き落とし、弱者の物語を描いたのに、
そこからの盛り上げ方がとんでもなく急であり雑だ。
1期からマミさんといい、他のキャラといい、
絶望の淵に落とすまでの展開は悪くないのに、
そこからの救済方法が雑なのは3期でも変わっていない。
そのせいで主人公による幼い二人の少女の説得に説得力が欠けてしまう。
あくまで彼女は弱者であり、多くの魔法少女が救われることよりも
目の前に居る、自分の大切な人を守ることだけで手一杯だ。
彼女にとっては大義より小義だ。
それが偽善でも身勝手でも、誰かが犠牲になることなんてどうでもいい。
世界の平和よりも身近な人の幸せと命のほうが彼女にとっては大事なのだ。
ある意味で人間らしく、ある意味で生々しい主人公が
「環いろは」という主人公だ。
彼女の魅力、キャラクター性のようなものを3期でようやく感じることができるものの、
もう少し彼女の絶望からの復活が丁寧に描かれていればと感じてしまう。
全人類魔法少女化計画
ただ終盤になるとかなり話を詰め込んでくる。
唐突に遂行されようとする「全人類魔法少女化計画」や、
やちよの中に眠る仲間たちの残滓、主人公とういの対話。
どこか「新世紀エヴァンゲリオン」の終盤みたいな内面的な話が多く描かれており、
主人公自身も自分自身のドッペルと向き合い
「私、魔法少女になれてよかった!」という展開など、
どこの碇シンジくんだよといいたくなるような感じだ。
結局、多くの問題は解決していない。
魔法少女が魔女になる問題はそのままだ、
むしろ「ドッペルシステム」がなくなったことでより深刻になっている。
魔法少女は今後も魔女になるその時まで戦い続けるしか無い。
多くの弱者は救えぬままだ。
結局、ほむらも「ループ」を再開してしまう。
何が救われ、何が変わったのか。
だれも救われず、何も変わらないのかもしれない。
色々と「モヤモヤ」とする部分は多く、
最後にあの「二人」が出てきたのも同解釈すればよいのやら。
詰め込みすぎてどうにもスッキリとしない作品になってしまった
総評:これは絶望と弱者の物語?
全体的にみて3期でここまで引っ張ってきた謎が明らかになったことで
物語の輪郭がきちんと見え、それに伴い、この作品で描きたいことが
よく伝わる作品にはなっている。
この作品は弱者の物語だ、舞台に立てない、立ってもスポットライトの当たらない。
そんなキャラクターたちの物語と言ってもいい。
弱者が生き残るにはどうすればいいのか。
ときには強者に立ち向かうために3人で知恵を出し合い、
ときには弱者と弱者が手を取り合い、
ときには強者にすがり、ときには自分よりも弱いものを見捨てる。
そんな弱者の行き方をそれぞれのキャラクターで描いている。
主人公自身も弱者であるがゆえに救いたいと思う人さえ救えない。
妹も、妹の友達も、自分より弱い魔法少女も。
そんな彼女が選んだ選択は大義よりも小義だ。
世界のどこかにいる大勢の見知らぬ誰かよりも、目の前の愛する人を守りたい。
そんな「環いろは」という主人公の魅力は感じることができた。
その一方で話としてはかなり詰め込んでおり、
4話あたりからはなしについていけなくなる。
唐突に出てくる全人類魔法少女化計画や心の中での対話、
結局どうなったの?と思う要素も多い。
あきらかにスケジュールが間に合っていない。
延期の連続、2期の総集編、3期も作画的には厳しい部分が多く、
せっかく話が盛り上がっても作画の不安定さの方に
思わず目がいってしまっていた。
1期から見ても、キャラクターの多さが欠点になってる部分が多く、
もう少しキャラを削って、更に3期という構成ではなく、
2期で全25話でまとめていたら作品全体の印象は違ったかもしれない。
個人的な感想:ゲームとは…
原作のゲームとはずいぶんとストーリーが違うようで、
あくまでもアニメはアニメでストーリーをまとめるための改変なのは
分かるが、3期の1話や2話はいろいろな謎が明かされ
すっきりとしたものの、結局オチである部分が消化しきれず、
どうなったのかをいまいち解釈しきれぬまま終わってしまった。
コレまで出ていなかった魔法少女たちもさり気なく登場させたりと、
ファンサービス的な要素も多いが、
やはり何度考えてももう少しキャラを削れればと…と思ってしまう作品だった。
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