評価 ★★★★☆(62点)
あらすじ 「とうとう俺も潮時かもしれねぇな」――監獄の中で、次元大介はめずらしく人生について考えていた。引用- Wikipedia
彼に捧ぐ送別会
本作品はルパン三世のTVシリーズ作品。
ルパン三世シリーズとしては6作品目のTVシリーズ。
なお、本レビューは「0話」のレビューになります。
人生について考える
0話冒頭、次元のナーレションから始まる。
「小林清志」さんによる語りはまるで次元大介が
自らの人生を振り返るような、走馬灯のように
過去の彼の活躍シーンが入れ代わり立ち代わる。
半世紀、50年以上の長きにわたる月日を
「小林清志」という男は「次元大介」という男を演じ続けた。
ニヒルなハード・ボイルド、そんな今や時代遅れともいえる
キャラクター像を演じ続け、「次元大介」というキャラクターを
多くの人に知らしめた。
彼の声でなければ次元大介ではない、次元大介といえば彼。
そんなイメージが根強く定着するほど「小林清志」さんは
「次元大介」という男を演じ続けた。
あるときは渋く、あるときはおちゃめに、
そんなどこか可愛らしさすらにじみ出ているハード・ボイルドなガンマン。
「ルパン三世」も変化し続けている。
ルパン三世、峰不二子、銭形警部、石川五右衛門。
ルパン三世の代名詞と言えるキャラクターたちの声は
ときとともに代わっていった。
だが、次元大介だけは50年以上変わらなかった。
そんな彼の声が変わる日がやってくる日が来ることなど
想像もしていなかった。
長寿アニメだからこその宿命であり、ドラえもんやサザエさん、
クレヨンしんちゃんも同じように声優が変わっている。
時代の波に、時間の経過というものには逆らえない。
生きるということは「変化」しつづけることだ。
人という生命である以上、年を取り、体が老いていく。
そんな時代と時間の変化についていけなくなることもある。
「引退」だ。
50年変わらなかった声が変わる日がやってきた。
この「0話」はそんな次元大介の、
いや、「小林清志」のためのエピソードだ
投影
まるで次元大介のセリフを「小林清志」さんが書き記したのではないか。
そう思うほど彼からこぼれでる言葉の1つ1つに重みがある。
「もうあいつらの顔を拝むことはねえよ」
「ただ面白いことをやって、うまい酒とうまい煙草を吸えりゃそれでよかった」
ルパン三世の作品の中の世界でも流れている時間、技術の変化、
世間の流れに「次元大介」という男がついていけなくなったエピソード。
この話の中で次元は自分自陣を見つめ直し振り返っている。
長い間ともにした相棒、変化についていけない自分、
声の変わった仲間との会話、銭形警部との会話。
そんな彼らとの会話、うまいはずのウィスキーのはずなのに
なぜか美味しく感じない。何かが違う。
うまい酒ならどこでも飲める、だが、どこで誰と飲むかが重要だ。
変わりゆく時代に、変わりゆく声に、
彼自身もまた「違和感」を感じていたのかもしれない。
次の世代に、もう、自分はこの舞台から降りるべきなのだと。
どこかカラ元気にふざける次元、無理をしている次元。
そんな彼に石川五右衛門は語りかける。
「次元、お主の本心はどこにある。
本気で足を洗うなら某も黙ってはおらんぞ」
まるで「小林清志」さんの引退を引き止めるような言葉だ。
峰不二子も彼に語りかる
「ルパンみたいな男とこれだけ長い間、
ずっと一緒に入られる変人なんて貴方ぐらいなものよ」
初代ルパンである山田康雄の頃から彼はルパン三世という
男とずっと一緒に居た。
「振り返ってみれば随分と長く付き合ってきた
後悔したことは1度もない。」
キャラクター同士の会話が全て何かを匂わし、
見ている側にも感じさせてくる。
仲間たちが次元大介を引き留めようとする中で、
ルパン三世だけは彼を引き留めようとはしない。
長い間、ずっとそばにいてくれた、受け入れてくれた。
変わらずに居てくれた彼の存在。
そんな次元大介の意思を引き止めず、最大限に尊重しようとする
ルパン三世の言葉は「栗田貫一」さんの言葉そのものなのだろう。
変わらない
自分に迷い、酒に酔ってろれつの回らない次元大介。
だが、それでも彼は次元大介だ。
変わらぬ腕前と演技。
「つまらねぇ時代はこっちから笑い飛ばしてやるよ」
ニヒルな笑みとともに彼の腕前が描かれ、
遠くのルパン三世が彼に一言語りかける。
「またうまい酒を飲もうぜ、次元」
彼の手元にあるのは1971年の酒だ。
寝かせに寝かせた50年ものの極上の酒は格別な味がするに違いない。
寝かせたからこその渋みがあり、だが、甘みも感じさせ、
どこかスモーキーな味すらするウィスキー。
50年という月日をかけてその変化と味を、
ちびちびと味合わせてくれた。
二度と味わえないその味は格別で特別なものだ。
総評:送別会
まるで「小林清志」の送別会のようなエピソードだ。
時代の変化を感じ、その変化についていけない次元と、
年をとった「小林清志」さん自身を重ね合わせるような
声優とキャラクター、その2つが合わせ鏡のように投影された
台詞の数々は1つ1つが何かを匂わせている。
50年という月日の重み。
そんな重みから生まれる台詞の1つ1つが響き、
響くからこそ、まだやめてほしくないとすら思ってしまう。
確かに昔に比べれば声の張りはなくなってしまっており、
滑舌もやや悪くなっている。
しかし、それも味だ。
次元大介という男は「小林清志」さんの演技もあって
作られたキャラクター像だ。だからこそ、彼のままで居てほしい。
だが、そんな思いをこの作品では諭すように描かれている。
時代は移りゆき、変化していく。
それを「つまらない」と吐き捨てるのではなく笑い飛ばし、
楽しもうじゃないかと。
この話を堺に「小林清志」さんから「大塚明夫」さんへと
次元大介の声を変わる。それを受け入れてほしい。
だが、自分の声は忘れないでほしい。
そう言われているような作品だった。
個人的な感想:お疲れ様でした
予想以上に「メタ」ともいえる台詞が多く、
ちょっとウルっときてしまった。
ルパン三世もほぼ変わってしまった。
多くの長寿アニメの宿命ではあるものの、
子供の頃から慣れ親しんだ「声」だけに、
その変化が自分自身の時間の流れすら実感してしまい、
どこか寂しさのようなものすら感じてしまう。
ドラえもんの声も私は受け入れるのに時間がかかった。
クレヨンしんちゃんは正直、未だに受け入れられていない。
だが、いつかは受け入れて、また楽しめる日々が来る。
ときには寝かせた酒の味を味わい、
新しい酒の味を楽もうじゃないか。
それが時代の変化と時の流れだ。
「小林清志」さん、
私はあなたの声が大好きです、あなたの演技が大好きです。
あなたの演ずる次元大介が大好きでした。
本当に、本当にお疲れさまでした。
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