映画

60分のジュブナイル群像劇「クラメルカガリ」レビュー

3.0
クラメルカガリ 映画
(C)塚原重義/クラガリ映畫協會
スポンサーリンク

評価 ★★★☆☆(58点) 全61分

長編アニメーション映画『クラメルカガリ』本予告【4/12(金)ロードショー】

あらすじ 泰平砿業・日ノ出炭砿は通称「箱庭」と呼ばれていた。零細採掘業者がひしめくこの町で生まれ育った少女カガリは、刻々と変化していく町の様子を絵地図に書き留める地図屋を生業としていた。引用- Wikipedia

60分のジュブナイル群像劇

本作品は塚原重義によるオリジナルアニメ映画作品。
第1作『クラユカバ』と同時に劇場公開された作品だ。
制作は東京テアトル、ツインエンジン

世界観

前作のクラユカバは難解な作品だった。
複雑な世界観、クラガリという謎の地下、
わかるようでわからないストーリーはコアな層には受けるものの、
大衆受けはしにくい作品だった。

しかし、今作はかなりわかりやすい。
冒頭から炭鉱の町である「箱庭」と呼ばれる本作の舞台を描き、
多くの採掘業者がそこで働いている。

そんな街で「謎の穴」があく事件が起こっている。
なぜ穴があくのか、その穴を調査し、探索しているものもいる。
主人公である「カガリ」は多くの炭鉱屋が掘り進めている街、
変化し続けている街を、地下に至るまで地図に書き記している。

前作と同様に独特なキャラクターデザインと作画の雰囲気はあるものの、
かなり見ていてわかりやすい。
1作目の作家性が大爆発な作品から、
2作品目はそんな作家性を多少抑えて大衆うけを狙う。
新進気鋭の監督のやり方の甘さを感じさせてくれる。

冒頭からメインキャラクターを次々と映し出し、
一人ひとりのキャラクターがしっかりと立っている。
このあたりは原案に「成田良悟」さんを迎えているのもあるのだろう、
塚原重義監督が描きたい世界観を「成田良悟」氏がエンタメに、
一言で言えばキャッチーにしたのが今作品だ。

地図

主人公である「カガリ」は子供であることを利用し、
街の地図を作り、それを売って生活している。
幼馴染であるユウヤも同じように地図屋として生活しているものの、
この生活にいつか限界が来ることを感じている。

子供でなくなったら狭い道も通れなくなる、
子供だから通れた道が、入れた場所に入れなくなる。
街には穴が空き続け、この街自体もいつか限界を逢えるかもしれない、
ムジナと呼ばれる地下に潜む賊もいる。

ここではないどこかに、箱庭から抜け出し、日の当たる場所に活きたい。
大人になりかけた少年は複雑な思いを抱えている。
そんなユウヤが行方不明になったところから物語が動き出す。

意図的に虫食いを作っているムジナ、
そんなムジナはなぜそんなことをするのか。
ユウヤを探すためにも主人公は地下を駆け回る。

地面のそこからせり上がる「クラガリ」、
箱庭の中の住人たち、ムジナ、地下深くで反乱を企むもの、
それぞれが、この箱庭の中で様々な思惑を抱えている。
60分という短い尺ではあるものの、きちんと一人ひとりが
キャラ立ちしており、立派な群像劇になっている。

地下世界の中で主人公は様々な人物の思惑を知り、
ときに「からくり」に追いかけ回されながら物語は進んでき、
街の奥底に隠された、忘れされるべき真実にたどり着く。

ドンパチ

そんな真実を巡って街ではドンパチだ。
映画も終盤なだけにわかりやすい盛り上がりのある
アニメーション、アクションシーンが描かれている。
同時に一人ひとりのキャラの過去や真実も明かされる。

情報屋の旦那、修理屋の親父、ユウヤの思い。
そんな思いを知って主人公はどうするのか。
どこかのほほんと何も考えていなさそうな彼女ではあるものの、
彼女は彼女で生きる意味、この街で暮らす中で意義を見出している。

「街」という社会、そんな社会の中で人は自分の価値を、
意義を見出そうとする。
たとえそれが箱庭と呼ばれている街でも変わらない。
他者が多く住めば社会が生まれ、そんな社会で自分がどうするのか、
人は考えなければならない。

あるものはこの街から抜け出そうとし、
あるものは反乱し、あるものは治安を維持しようとし、
あるものは過去を精算しようとし、
あるものはこの街で生き続けようとする。

終盤のとあるキャラの豹変ぶりには思わず笑ってしまうものがあり、
「戦闘能力」などない主人公の周りで、多くのからくりが飛び回る。
からくり技師の生き様はまさにこの作品そのものだ。

ラストもスッキリとしたエンディングになっており、
新進気鋭の監督の進化を感じる作品だった。

総評:作家性を大衆に落とし込む、これぞエンタメだ

全体的に見て前作よりも非常にわかりやすいストーリーになっている。
わずか60分ほどのストーリーではあるものの、
炭鉱の町での群像劇を描いており、それぞれのキャラが生きている。
ある種のボーイミーツガールなストーリーにもなっており、
それがエンタメをエンタメたらしめんとしている部分もある。

ただその一方で60分ほどの尺では群像劇を描くには
尺が足りない部分がある。
匂わせているだけの設定のキャラクターも多く、
もう少しがっつり掘り下げたらもっと魅力的になる、
沿う感じるキャラクターが多く、尺故に掘り下げきれていないのがもったいない。

しかし、完成された世界観と塚原重義監督だからこその
空気感がたまらず、三作目の長編映画がいつか制作されることを
期待したくなる作品だった。

個人的な感想:エンタメ化

1作目ほどの衝撃はなかったものの、2作目は
いい意味でエンタメ化しており、1本の映画として
満足度のある作品に仕上がっている。

新海誠監督もそうだったが、作家性を抑えることで
映画がエンタメになる傾向が強い。
新海誠監督の場合は川村元気プロデューサーが
彼の作家性をエンタメに変換していたが、
今作では塚原重義監督の作家性を成田良悟さんがエンタメに仕上げていた。

そういった意味でももっと色々な脚本家の
原案とした塚原重義監督の作品が見たくなる、
塚原重義監督の今後に期待したいところだ。

「クラメルカガリ」に似てるアニメレビュー

著:塚原重義, 著:彩naTsu, その他:成田良悟, 読み手:塚原重義

「クラメルカガリ」は面白い?つまらない?

この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください