評価 ★★★★★(82点) 全13話
あらすじ 大正時代に創立された「紅華歌劇団」は、未婚女性達のみで構成され、美しい舞台で人々の心を魅了する劇団である引用- Wikipedia
青春歌劇
原作は『ジャンプ改』で連載され、現在は『MELODY』で連載中の漫画作品。
監督は米田和弘、制作はPINE JAM
二人の主人公
この物語は二人の主人公がいる。
一人はあり大人気グループに所属していた「元アイドル」だ。
彼女は現在とある事情で男性恐怖症であり人間不信だ。
そんな彼女が「紅華歌劇団」の一次試験に合格するところから物語が始まる。
この作品は分かりやすく言えば「宝塚」をモチーフにしている作品だ。
紅華歌劇団という未婚の「女性」だけが所属する劇団が有り、
そんな劇団に入るためには「紅華歌劇音楽学校」に入らなければならない。
100年続く歴史と高い倍率の学校。
強いあこがれと思いを抱えた少女たちが集う場所だ。
たった40人しか受からない。
だからこそ少女たちの間には緊張感が漂っている。
和気あいあいとする余裕もない、ライバルだ。
だが、もうひとりの主人公である「さらさ」は何も考えていないほど明るい。
しなやなか手足と離れた位置からでもわかる背の高さ、
二人の主人公の身長差、相反する二人、そんな二人の出会い。
宝塚をモチーフにした世界で相反する少女がどんな物語を魅せてくれるのか。
丁寧な物語の導入は本当にわくわくさせてくれる。
この作品に対して期待感しか無い。
若干、作画に関してはのっぺりしている部分があるのは気になる所ではあるものの、
視聴者に媚びないキャラクターデザインと相まって、
この作品だからこその雰囲気が生まれており、
二人の主人公の印象を1話でしっかりつけることで、より愛着が湧く。
「さらさは紅華でオスカルをめざすのです!」
紅華歌劇団のトップをめざす少女のそんな宣言が
38人の生徒に緊張感を醸し出させる。
一方はオスカルを目指し、一方はただ「男性が居ない」からという理由で
この劇団に入ったに過ぎない。
この二人の身長差がまるで二人の温度差を指し示すように描かれている。
女の園
紅華歌劇音楽学校は教師には男性はいるものの、
生徒たちは全て女性だ。しかも、この学校は2年しか通わない。
卒業すれば紅華歌劇団に入ることが決まっている。
ゆえに学校に通ってる段階で彼女たちの役をめぐる戦いは始まっている。
上級生は下級生を教育する係でもあり、それぞれには「お姉様」がいる。
将来輝きそうな、役を獲得しそうな下級生に
露骨な態度をぶつけてくる上級生も居る。彼女たちも必死だ。
いじめのようなことをするわけではない、だが、下級生であれど
少ない「役」をめぐる争いは始まっている。
彼女たちには夢があり、憧れがある。だからこそ、態度に出てしまう。
思春期故に、少女であるがゆえに、まだ何者でもないからこそ、
彼女たちも必死だ。余裕などない。
表面的には仲良くしてくれる上級生もいる、
だが、蹴落とそうとしてくる上級生もいる。
一歩間違えばギスギスとした暗い雰囲気になりかねない。
だが、この作品には「渡辺さらさ」という主人公がいる。
彼女は1度、諦めざるえなかった少女だ。
かつて自分が憧れ、夢をいだき、なると信じていたものに
なれなかった少女。
だからこそ強い。
絶対になれないと言われても彼女はくじけない。
ひたすらにまっすぐと自分がなりたいもの
「オスカル」という役をやるために前向きだ。
馬鹿っぽい明るさではある、だが、決して馬鹿ではない。
強い芯があるからこその前向きさと明るさと、
彼女自身の持つ素直さが周囲のキャラクターにも影響していく。
諦めかけていた自分の夢を、諦めようとしていた憧れを、
彼女のまっすぐな気持で取り戻していく。
大胆な演出でそれを見せるわけでもない。
声優の演技とキャラクターの表情と行動でそれを台詞ではなく見せていく。
主人公を中心に徐々に周囲のキャラクターを掘りさげていくことで、
一人ひとり、紅華歌劇音楽学校に通う生徒たちに愛着を持ち
感情移入してしまう。
その憧れと夢は「奈良田愛」というもうひとりの主人公にも影響していく。
奈良田愛
少女は父を知らず、女優の母に育てられてきた。
小さな頃から「処世術」を身に着け、自分自身を守っていた。
だが、子供であるがゆえにそれは限界がある。
ときには悪い大人の「毒牙」にかかることもある。
それが少女の心を閉ざさせた。
彼女は何も悪くない。大好きな母のためにいい子でいようとし、
大好きな母が好きな人を受け止めようとしただけだ。
まっすぐに少女が受けた「虐待」行為をえがくことで、
奈良田愛という少女を抉るように視聴者の心に植え付けていく。
好きだった母にも信じてもらえず、彼女は諦めた。
他者を信じることを、自分自身を諦めた。
「男性」という存在そのものを人生から排除しようとした。
その過去を濁さずに描いたからこそ、彼女の今を見ている側も納得できる。
そんな「奈良田愛」が「渡辺さらさ」と出会った。
少しずつ、本当に少しずつ彼女は変わっていく。
彼女なりの精一杯行動は不器用ではあるものの、そんな不器用さが儚く
もうひとりの主人公である「奈良田愛」という少女の魅力につながる。
夢も希望もなかった少女が夢と希望を得ていく、
そんな彼女の物語が染み渡る。
彼女の髪が少しずつ伸びていく姿は、
かつて自ら切った過去のトラウマを乗り越えていくことの証だ。
「渡辺さらさ」が居たからこそ彼女はかわれた。
だからこそ、彼女のそばに、同じ高みへと至りたいと思う。
「あの、私、渡辺さんとお友達になりたいの!」
少女の振り絞った勇気と一歩。
その変化につられて涙腺を刺激されてしまう。
不器用な彼女の「友だち」としての行動も可愛らしくて仕方ない。
山田彩子
この作品のキャラ数は多い。
本科生だけで7人、本科生、先生や家族などを入れれば
15人を超えるキャラクターが1クールででている。
そんななかで「メインキャラクター」の掘りさげが本当に素晴らしい作品だ。
特に「山田彩子」という少女。彼女は普通の女の子だ。
パン屋さんの子供で、子供の頃に紅華の舞台を見て憧れ、
中学生からバレエを初めて17歳でこの学校に入っている
同級生はまるで紅華に入るための家庭環境で育った子が多い。
あるものはバレエの先生、女優、紅華歌劇団だった親のもとで育っている。
才能は残酷だ。家庭環境はそんな才能に少なからず影響がある。
そんな才能と家庭環境に恵まれた少女たちの中で
彼女は決して特別ではない。
最初は紅華歌劇音楽学校に入れただけで嬉しかった。
だが、入れただけで終わりではない。そこには現実が待っている。
決して極端に太っているわけではない、だが、他の子と比べれば
ややぽっちゃりしている。それを指摘され、彼女はどんどんと病んでいく。
痩せなければならない、もっとうまくならなければならない。
時分が特別ではないと自覚しているからこそ、彼女は必死だ。
輝いている同年代の少女を目の前で見ているからこそ、
成績も最下位だという現実を叩きつけられるからこそ
彼女は追い詰められていく。
吐き続け、痩せ続け、歌うことすらままならない。
夢の世界に入れた喜びと、そこで苦しむ自分の「不相応さ」に
悩む彼女の姿は心を締め付けられる。
だが、そんな彼女の背中を押す人物がいる。
ときには家族が、ときには先生が。彼女もまた特別な存在だ。
彼女は選ばれた、彼女の下には選ばれなかった1995人もの女の子がいる。
特別な環境では育っていないかもしれない、
他のこと比べて足りない部分はあるかもしれない。
しかし、彼女のまた「何か」があるからこそ紅華歌劇音楽学校に入れた。
5話のラストで彼女が歌う姿に涙を流してしまう。
自分自身の才能に気づき、認め、諦めずに一歩を踏み出す。
そんな少女の物語をたった1話で描いているのがこの作品だ。
決して主人公達のただのクラスメイトの一人ではない。
彼女もまた「かげきしょうじょ!」という作品では
欠かせないキャラクターの一人だ。
話しが進めば進むほど一人ひとりのキャラクターの印象が深まり、
彼女たちの成長を心ゆくまで楽しんでしまう。
まだ何者でもない少女が、何者になるのか。
彼女たち自身もわからない。
そんな少女たちが抱える不安とプレッシャーは
ときに表に出て相手にぶつけてしまう。
大人なら押し込んでしまう感情の爆発は彼女たち自身の未熟さだ。
そんな未熟さが物語をうみ、キャラクターの魅力につながる。
彼女たちはライバルだ。だが、蹴落とそうとはしない。
感情を、自らをぶつけつつ、彼女達は成長していく。
歌舞伎
かげきしょうじょ!の「か」は歌舞伎の「か」でもある。
この作品は女社会である紅華歌劇団を描きつつ、
男社会でもある歌舞伎の世界を描いている。
似ているようで違う世界の描写は物語の良いスパイスになっている。
渡辺さらさはかつて「歌舞伎」に憧れた少女だ。
才能あふれる彼女は同年代の男の子と比べても優秀だった。
もし、彼女が男なら優秀な歌舞伎役者になっていたであろう。
そう誰もが感じるほどの才能だ。
だが、彼女は女の子だ。
紅華歌劇が女性だけの世界であるように、歌舞伎も男性だけの世界だ。
「助六になりたい」
そう願った少女の夢は現実になることはない。
絶対に叶うことのないという言葉は彼女の心に突き刺さる。
明るく、まっすぐに夢に進んでいる主人公の過去。
天才的な才能を持つ少女の悲しき才能の理由が明らかになることで、
より「渡辺さらさ」という少女への思いが強まる。
助六には絶対になれない。だが、オスカルにはなれる。
「絶対なれない」ものではない。
彼女の子供の頃の夢を背負う幼馴染も居る。
1度夢を諦めた少女が再び夢を目指した。だからこそ、彼女は強い。
進むべき1本の道を彼女はまっすぐ突き進むだけだ。
そのためには時には何かを諦めないといけないこともある。
道を違えることもある。
だが、それでも少女たちは夢という名の銀橋に
ひたすらに突き進む。そのひたむきさと真っ直ぐさ、
一人ひとりの物語が胸を打つ。
彼女達の1年後、3年後、そして10年後の物語が見たい。
そう感じるほどひとりひとりのキャラクターに愛着を感じてしまう。
選ばれる
序盤から中盤まで二人の主人公と、同級生の5人をしっかりと掘りさげている。
そして終盤、そんな彼女達で「競い合う」ことになる。
オーディションだ。
残酷だ、少女たちの現実を描いた後に視聴者にもそんな現実を見せ付けてくる。
選ばれるものと選ばられないものがいる。
序盤から中盤までメインキャラクターにしっかりと愛着を湧かせた後に
そんな残酷とも言える展開を見せてくる。
だが、彼女達は前向きだ。夢のために、選ばれるために、
自分自身を認め過去を乗り越えた少女たちは前を向いている
誰もが選ばれてほしい。
キャラクターの気持ちと見ている側の気持ちが痛いほどにシンクロする。
だが、全員は選ばれない現実に彼女達は立ち向かう。
成長
序盤から中盤、彼女達は葛藤し続けた。
自分自身の環境に、才能に、現実に立ち向かい悩み続けた。
だからこその「成長」だ。
終盤のひとりひとりの演技、それは成長の証だ。
奈良田愛という少女は自分自身の感情を表に出さない子だった。
山田彩子という少女は自分自身に自身がない子だった。
杉本紗和という少女は秀才でありながら天才の影に隠れていた子だった。
沢田千夏、沢田千秋という二人の少女は双子であるがゆえに道になやんだ子達だった。
星野薫という少女は血筋に恵まれながらも努力が結びつかない子だった。
渡辺さらさという少女は1度は夢を諦めざる得ない子だった。
それぞれの少女たちの物語が紡がれ、それが舞台の上で花咲く瞬間。
それぞれが自分自身と向き合い、乗り越えたからこその演技。
蕾が開くその瞬間に自然と涙が溢れる。
誰もが選ばれてほしい。そう強く願ってしまうと同時に、
「結果」を受け止める少女たちの姿にまた胸を打たれてしまう。
選ばれなかった悔しさが、選ばれた喜びが夢の一歩につながる。
今の自分自身を受け止めた彼女達と、その結果の最終話。
素晴らしい「かげきしょうじょ!」の物語を最後の一瞬まで
魅せてくれる作品だった。
総評:まだ何者でもない少女たちの物語
全体的に見て素晴らしい作品だ。
宝塚をモチーフにした女性だけの世界、そんな世界の中で
夢を抱く少女たち、ひとりひとりの物語を丁寧に描いており、
話が進めば進むほど彼女達に感情移入してしまう。
紅華歌劇音楽学校に入った少女たちの青春物語。
一行でこの作品を現すならシンプルなものではあるものの、
そんなシンプルな物語だからこそキャラクター描写が光る。
二人の主人公、そして5人の同級生。
ひとりひとりに愛着が湧いてしまい、何度も泣いてしまう。
1クールのストーリー構成も綺麗にまとまっており、
彼女達が入学してから2課生に上がるまでの1年の物語を
過去回想を交えながらきれいにまとめており、
1本の作品としての満足感も強い作品だ。
だが、ここで終わりではない。
原作はまだ続いており、本科生になった彼女達の物語は続いている。
ぜひ続きをアニメで見たい、彼女達の演技を、歌を、舞台を、未来を。
アニメという媒体で見たいという気持ちにさせてくれる作品だった。
個人的な感想:男性キャラ
基本的に女性の物語ではあるもののそれをときに支え、ときに背中を押す
男性キャラクターの魅力も溢れる作品だ。
とくに「小野寺先生」は何度彼につられて泣いたかわからない。
小野寺先生の存在があったからこそ山田彩子という少女の存在が
より際立ち、彼女の物語が響きまくってしまった。
アニメーションとしてはやや物足りない部分はあるものの、
見せ所はきちんとした演出で見せており、
1本の作品を見おわった満足感も感じられる作品だ。
だが続きがみたい。
原作ストック的に2期があるとしてももう少し先なのが
残念なところではあるが、原作ストックが十分溜まり次第、
2期、そして劇場版を見たいと感じさせてくれる作品だった。
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