評価 60点 全12話
あらすじ 春樹は長年にわたり秋彦に恋心を抱いていたが、秋彦は同居人のバイオリニスト、雨月との関係を続けていた。引用- Wikipedia
長い夜があける物語
本作品はギヴンの劇場アニメ作品。
監督は山口ひかる、制作はLerche
テレビアニメの続編となっている。
少し大人の
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
テレビアニメは高校生の二人がメインで描かれていたが、
劇場版ではそんな二人と同じバンドのメンバーの大学生二人が中心だ。
一方は前の恋人への未練を捨てきれず、いまだに同棲し体の関係もある。
一方はそんな彼にずっと片思いしている。
この歯痒いまでの恋愛事情はテレビアニメでも描かれていたが、
劇場版ではそんな歯痒さを解消するようなストーリーだ。
テレビアニメ版の二人の主人公はサブキャラ的立ち位置に下がってはいるものの、
ちょっとしたシーンで彼らのTVアニメ後の関係性を
感じさせるようなシーンも有り、きちんと続編としての面白さを感じる。
テンポ
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
テレビアニメでは1クール使ったことにより間延びしてる部分や
テンポの悪さを感じる部分があったが、
劇場版では60分という限られた尺ゆえに
そんな間延びやテンポの悪さは一切感じない。
むしろテンポの良さすら感じるストーリー構成は
テレビアニメの時からこうして欲しかったと感じるほどだ。
最初から劇場版二部作や三部作で描かれた方が
この作品は良かったのでは?とすら感じる。
特に音響。テレビアニメでもこだわりは感じたが、
劇場だからこその音の圧による表現は本当に素晴らしい。
序盤のヴァイオリンの演奏でこの作品の世界に呑まれ、
終盤のライブハウスでのライブは本当に「ライブハウス」で
聞いているような演出と音響があり、テレビアニメで
これを求めるのは酷であるものの、劇場版でのライブシーンの音を聞いてしまうと、
テレビアニメの9話のあのライブもこの音で聴きたかったと思ってしまうほどだ。
エロス
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
この作品はもともと劇場版向きだった。
だからこそ劇場版でこそこの作品の真髄が見れる。
エロスこの作品は紛れもなくBLアニメだ。
テレビアニメでもキスシーンなどはあったものの、
露骨なエロスを表現するものではなかった。
しかし劇場版は露骨なエロスを感じる(笑)
未練の残る相手を押し倒し、キスし、首筋を味わう。
そんな艶かしいシーンが劇場というスクリーンで美麗な作画で描かれる。
テレビアニメでは抑えていた表現が劇場版で解放され、
そこに制作陣が喜びを感じているかのような行為のシーンの
数々は思わずにやけるほどのエロスだ。
中盤のシーンなどここには書けないような行為をしており、
その反応と「事後」の描写はかなり生々しく、
人によっては受け付けない部分もあるかもしれない。
PG12くらいの年齢制限はかかっていてもおかしくないのだが、
まさかの全年齢対象にやや驚くほどだ。
秋彦
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
彼は音楽というものに対して逃げていた。
自分がやってきたヴァイオリンの才能を「雨月」という天才との出会いで
砕かれ、それと同時に彼に惚れてしまった。
まるで張り合うかのようにヴァイオリンを続けてはいたものの、
「雨月」との別れで、そこから逃げるようにドラムを叩いても居る。
ある意味での現実逃避だ。
「雨月」と別れても、別れ話をしたはずなのに彼らは同棲を続け
関係性を持ち続け、時折ぶつかりあって本当に関係性が終わりそうになるものの、
結局はぐだぐだと関係性を続けている。
相手のことが好きであるがゆえに、
関係性を完全に終わらせることができない。未練だ。
そんな未練が彼の音楽をも停滞させ、いつからか音楽を楽しめずに居た。
そんな自分へのもどかしさ、鬱積した思いは彼を「暴走」ともいうべき
行為へと至らせる。
ぶつけようのなかった想いを「甘え」てぶつけてしまう。
自分への好意を分かっているからこそ、
彼の性格をわかっているからこその甘えだ。
強い後悔と反省は彼を一歩すすめるきっかけにもなる。
春樹
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
彼は他のバンドメンバーと違い、自身に才能はないと思っている。
メキメキと成長する若い二人、そんな彼らに置いていかれているという焦り、
「自分の居場所はここなのか」「自分がここにいてもいいのか」と
自身の存在価値を見定められずに居る。
彼は優しい人だ。周囲を気づかい、自分自身を犠牲にしても周りを助けるような
そんな慈愛に満ちたような存在だ。
だからこそ、そんな彼だからこそ「秋彦」は甘える。
彼への好意があるからこそ、彼の暴走ともいうべき行動を全て受け入れる。
彼のせつない表情を見てしまったからこその受け入れだ。
「お前に言っても同しようもない」
そんな言葉が、その暴走は自分への好意ではなく
違う人への好意だと分かってしまうからこそ、彼は決別しようとする。
凄くベタとも言える決別だ。だが、それもまた彼らしく、
そんな姿を見たからこそ「秋彦」も迷い、戸惑う。
雨月
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
彼は天才だ。だが、天才であるがゆえに孤独とも言える。
才能があるがゆえに天才であるがゆえに、葛藤し、
ふとしたいらだちを相手にぶつけ、
好きだったはずの相手にすら別れ話をしてしまう。
だが、それなのに彼は「秋彦」という存在を近くにおいている。
彼に見せつけるように浮気を重ねるが、出ていった彼が戻って来ると信じている。
ある種の依存、彼の「秋彦」に対する甘えでもある。
彼の気持ちを何度も何度も試すように傷つける。
それは彼を好きであるがゆえの行動だ。
天才であるがゆえに自分の同じ「才能」を感じる
「真冬」に対し自らの気持ちを吐露する姿は共感を求め、
助けを求めるような、そんな彼の心の叫びすら聞こえてくる。
自分の気持ちをわかってくれるのは同じ天才しか居ない。
そんな葛藤と「秋彦」という天才ではない存在への気持ちで揺れる彼の
横顔は憂いを秘めている。
審査
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
バンドとして彼らはとあるオーディションを受ける。
この作品は音楽やバンド活動そのものを恋愛やキャラクターの成長や変化の
比喩として使うことが多く、今作でもそれは同じだ。
1度は決別しよう、自分の気持ちを整理しようとした春樹。
だが、そんな整理しようにも整理できない戸惑い、
才能あふれる若い二人と自分の才能への違いへの苛立ちが彼を焦らせる。
そんな彼に居場所をくれるのが「秋彦」だ。
自分にひどいことをし、怒っているはずなのに「秋彦」の言葉は
居場所がない、自分の存在価値を見定めきれずに居た彼の心を救う。
自分をきちんと見てくれている、彼だからこその言葉、
決別し整理しようと思った恋心は結局捨て去ることはできない。
「秋彦」も同じだ。彼に暴走し甘えてしまった自分、そんな自分を後悔し、
失敗してしまったからこそ「雨月」と本当に別れることを決意する。
このままではダメだ、このままの自分ではダメだと自覚したからこその決意だ。
「雨月」は「秋彦」から決別の言葉を言われるが、止めようとする。
どんなに傷つけても、どんなにひどいことをしても、自分のところに
彼は戻ってくるはずだと。天才が故に、自分に自身があるがゆえに
彼を傷つけるとはわかっていてもそれを繰り返した。
彼の気持ちを確かめるように。だが決別されてしまう。
バンドの審査はまるで、彼らの恋の審査だ。
自分の中の気持ちを見定め、見極め、決める。
今まできちんと審査することのなかった自分の感情を自ら審査する彼らの
心理描写は繊細だ。
これをTVアニメのように6話くらいかけてやってたら台無しだった。
60分という限られた尺の中で繊細に描いたからこそ光る描写だ。
別れと始まり
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
「秋彦」は気付かされる。「真冬」の作った歌が、彼の声、
ギヴンとして「ドラムを叩いている自分」が音楽を楽しんでいることに。
自身の未練にケリをつけようとしたからこそ、「春樹」という存在と出会い、
彼に甘え、彼と一緒に暮らしたからこそ、
もう1度また「音楽」を楽しんでいる自分がいることに。
「真冬」の作った歌詞は彼らの恋愛事情を聞いて作られたものだ。
天才が天才に離した自らの感情、そんな感情を歌にされたからこそ、
「雨月」も客観的に自分の気持ちや「秋彦」の今の気持ちを知れる。
彼は共感もを求めていたのかもしれない。
「真冬」という同じ天才に共感してもらったからこそ、
その共感を才能という歌で聞かされたからこそ、彼もまた決別の気持ちが固まる。
それでも最後の一瞬まで別れを拒もうとする彼の姿は愛らしく、
彼らしい最後の抵抗が「秋彦」への思いを強く感じさせる。
そしてラスト、今作は決別や未練にケリという話を主軸に展開してきた。
だが、物語は幸せなまでのハッピーエンドで終わる。
今から見る人は決して「エンドロール」で劇場を後にしないでほしい。
エンドロールのあとを見てこその今作だ。
総評:綺麗な恋のものがたり
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
全体的に見て60分で非常に綺麗にまとまっている作品だ。
TVアニメで感じた欠点でもある「テンポ」と「ストーリー構成」を
映画では60分にぎゅっと押し込めることで
「ギヴン」という作品本来の魅力を映画という舞台で120%発揮している。
特に音響面、ライブシーンでの楽器の音と声は映画館だからこそ味わえるものであり
これをBDやDVDがでたときに家のテレビとスピーカーでは再現しきれないだろう。
モノローグだけではなく「間」とセリフのないキャラの描写、
季節感を表す背景描写が美しく、それが映画のスクリーンで映える。
この作品はTVアニメでやるべきじゃなかったと今作を見ると
ひしひしと感じてしまう。
ストーリーもよくまとまっており、心地の良い余韻すら感じさせるラストだ。
TVアニメのギヴンを最後まで見ていた人ならば間違いなく、
今作はTVアニメ以上にキャラクターとそれぞれの恋を味わえる作品だ。
個人的な感想:最初から
画像引用元:「映画 ギヴン」本予告より
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
TVアニメのときから感じていたが、前編後編、
もしくは2時間半くらいのストーリー構成でTVアニメの部分を含めた
劇場版として最初から1つの作品として作られていたら、
もっと高い評価ができたのが本当に残念だ。
あくまでもTVアニメ、もしくは原作を見ている前提であり、
TVアニメのレビューでも描いたが、TVアニメはテンポが悪い。
それゆえに最後まで見ていない人もいるだろう。
それだけにもったいないと感じてしまう。
ただ映画作品としての完成度は高いので、
ぜひ原作かTVアニメを見た後にスクリーンでご覧頂きたい。
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