評価 ★★★☆☆(59点) 全17分
あらすじ
空のビール缶・ウィスキーグラスが床に置かれ、部屋の端には画材やエレキギターが並ぶ、少し散らかった「きみ」の部屋。携帯のアラームが鳴って、ぼんやりと起き上がり「きみ」1人の朝が始まる。
引用- Wikipedia
アニメという名の芸術
本作品は山田尚子監督による短編映画作品。
制作はサイエンスSARU、キャラクター原案に水沢悦子を起用しており、
セリフは一切ない。
アニメーション問表現のみで勝負している作品だ。
映像
制作のサイエンスSARUといえば湯浅監督作品など
自由なアニメーションを手掛けることで有名だ。
この作品もそこはかわらない、
サイエンスSARUらしい
カメラワークと色彩は一瞬でこの作品の世界観にのめり込ませてくれる。雑多な部屋で女性がアラームで目を覚ます。
セリフはないが、心地の良いBGMが場面をもり立て、
想像を描き立たせてくれる。
あえて線をブレさせ、ザラっとした鉛筆で書いたような質感を残し、
キャラデザの水沢悦子さんらしい魅力を感じるキャラが
生き生きと朝の準備をしている。
祭と描かれたTシャツだったり、部屋の雑多さ、
スマホがひびわれていたり、酒の缶や瓶が散らばっていたり。
言葉で説明しなくともどんな女性なのかというのが伝わる。
繰り返す朝、特に大きな変化があるわけではない。
ちょっとだけ朝のメニューがかわったり、スマホが変わっていたり。
小さな日常の変化はおきている。その変化を見つけるだけでも楽しい。
変化
雑多な部屋で暮らす女性、そんな女性の感情を
たまに「絵文字」のようなマークで映し出している。
しかし、画面に映る女性の感情とそのマークがずれていることがある。
そのどこか感じる違和感、その違和感の正体は「ボク」だ。
一人暮らしの女性の姿、そんな姿を覗き見るボク。
描かれている感情のマークは「ボク」が彼女を見て湧き上がる感情だ。
それはかつて彼女と暮らしたボクであり、もういないボクだ。
部屋に残されたギター、ウィスキーを飲み干す彼女、
その所々に感じるのは「男の気配」だ。
かつてこの部屋でともに暮らしていた男女、
しかし、男だけはこの部屋にはもう居ない。
だが、彼女だけはまるでともに暮らしていた日々のように
あの頃と同じモーニングルーティンを繰り返している。
その中で小さな変化は起こっている、スマホをかい直したり、
朝ご飯をパンではなくご飯にしたり。
そんな中で夢の中で再会する、もしかしたら夢ではないのかもしれない。
大好き、さよなら。
その言葉は未練を断ち切るセリフであり、別れの言葉だ。
もう彼はそこには居ない、もしかしたら彼女が知らないだけで
天からのぞいているかもしれないが、いつかは吹っ切らないといけない。
がらんとした部屋と新しい住人が彼女の部屋に訪れて終わる。
どこかしんみりとした気持ちが残るラストは
短編映画としてしっかりと印象に残るものになっていた。
総評:これぞ山田尚子の世界
全体的に見て実に山田尚子さんらしい世界観だ。
柔らかい質感はもちろんのこと、女性キャラクターを
女性の視線で写実的に生々しく描く姿は女性監督である
彼女らしいカメラワークと絵コンテともいえる。
あえてセリフがない短編映画だからこそ、
映像で伝えないといけない部分が多い。
それを見ている側が読み解かなければならない、
細かな変化や言葉では説明されずとも映像で見せている部分を
きちんと読み取りきらないとこの作品は楽しみきれない。
私自身も、あのもう一人の女性はなんだったのか
よくわからないまま終わってしまった。
そのあたりの部分を含めて、この作品をどう解釈するかは
見ている人次第だろう。
そのへんの難易度の高さという部分はあるものの、
山田尚子さんらしいセリフではなくアニメーションで
感情や心理を描写しているのは流石だ。
特に女性の感情をアニメという媒体でここまで繊細
表現できるのは山田尚子さんだからこそのものだ。
豊かな色彩表現と自由なアニメーション、
サイエンスSARUという制作会社と山田尚子監督の相性もマッチしており、
そこに水沢悦子さんのキャラデザがのっかることで、
1つの世界観が生まれている。
たった17分45秒しか無い作品ではあるものの、
17分45秒だからこそ、何度も見たくなる。
1回目はストーリーをなんとなく把握し、
2回目で細かい部分を飲み込み、
3回目でようやく100%この作品を味わえた気分になる。
噛めば噛むほど味が出る、噛む人次第で味がかわる。
芸術作品と行っても差し支えのない作品だった。
個人的な感想:17分
たった17分しかない作品ではあるものの、
山田尚子節が爆発している作品だった。
もともとは映画祭などで公開する目的の作品であり、
そういう意味でも「批評家向け」な感じもあり、
TVアニメやアニメ映画以上に尖りまくっている。
いまのところhuluなどの配信サービスで観ることができるので、
もし加入されているサブスク配信サイトで配信されていたら
ぜひチェックしてほしい作品だ。
1度見ると2度みたくなる、そんな味わい深い作品だ。
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