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「海辺のエトランゼ」レビュー

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評価 ★★★☆☆(44点) 全60分

あらすじ 小説家の卵でゲイの橋本駿と、物憂げに過ごす高校生・知花実央。引用- Wikipedia

惜しまれる60分尺

原作は漫画な本作品。
監督は大橋明代、制作はスタジオ雲雀。
60分ほどの短編映画作品。

背景


画像引用元:映画『海辺のエトランゼ』ロングPVより
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

目につくのは背景の繊細さだ。
主人公達が暮らす「田舎の家」、そんな田舎の家の木の質感や料理の匂い、
潮風にただずむ少年が座ってるベンチの潮風で少し劣化した質感まで
きちんと目で見て感じることができる繊細な描写だ。

それに対して作品名にも含まれる「海」の描写がいかにもCGなのはやや残念だが
「離島の田舎町」を手書きの背景でしっかりと描くことで、
この作品の世界観と雰囲気から生まれる空気感をしっかりと後押ししている。

何処か静かで、時間がゆっくり流れているような雰囲気。
潮風の匂いとどこかほこりっぽさを鼻腔に漂わせるような
空気感を見て感じることができる。

淡々


画像引用元:映画『海辺のエトランゼ』ロングPVより
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

物語は淡々としている。田舎で暮らす二人の主人公、
一人は小説家の卵の青年、一人は母を失った高校生の少年だ。
母を失った悲しみをまだ拭い去ることができず、
海辺のベンチでひとり物思いに耽る日々だ。

そんな彼に小説家の卵である青年がじっと彼を見つめている。
ある意味で一目惚れとも言える。
少年の物思いに耽る横顔、そんな横顔に彼は惚れたのかもしれない。
彼も彼で「同性愛者」であることに悩んでいる。

哀れみではなく、下心。
そんな下心で彼は少年に接し、少年も彼に憐れみではない彼との交流によって
心を癒やしていく。
静かに淡々と、波音だけがBGMで会話が繰り広げられる。

だが、少年は子供であるがゆえに一人で生きていくことは出来ない。
二人は離れ離れになってしまう。

3年


画像引用元:映画『海辺のエトランゼ』ロングPVより
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

合っという間に3年の月日が流れる。
ただ、この時間の変化が急であり、細かい説明を省いている感じは否めない。
本来はあった「間」の部分がなく、その「間」という過程が大事なのに
この作品は尺の都合上、そんな間と過程を省いてしまっている。

原作既読ならば「脳内補完」しやすいものの、
原作を読んでいない人にとっては展開の急さや、
登場人物の見た目も含めた心情の変化にややついていきづらい部分が多く、
ギスギスとした雰囲気も生まれている。

小説家である青年は締切に追われつつ、
かつて高校生で今はフリーターの少年からのアプローチにとまどい気味だ。
無邪気に彼に接し、無邪気に好意をアピールしてくる。

同性愛者であることに対する悩みを抱える彼にとって
少年のアピールを中々素直に受け取ることが出来ない。
そんな中で彼は言い放つ。

「お前ってほんと何も考えてねーのな」

かなりきつい言葉だ。わざと少年を突き放す言葉や態度であることは分かるものの、
それを「過剰」にやってしまっている部分が多く、
無駄にギスギスしてしまっている。
「60分」という尺にまとめるためにわかりやすく改変しまとめている部分が多く、
そのせいで作品全体に細かい違和感やズレが生じている。

婚約者


画像引用元:映画『海辺のエトランゼ』ロングPVより
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

そんな二人のもとに「元婚約者」が現れる。
同性愛者であることに悩んでいた青年はかつて結婚しようとしていた。
彼女は同性愛者である彼のことが好きであり、その思いをまだ捨てきれずに居る。
その思いを知ってか知らずか、彼も彼女にきつく当たる。

彼は自分の気持ちに素直に向き合うことが出来ない。
「同性愛者である」ことで傷つけてしまった人がいる、
傷つけられたこともあるからこそ、
彼はそんな自分に向き合うことが中々出来ない。

そんな彼に少年はまっすぐに、ひたすらに真っ直ぐに気持ちをぶつける。
3年も考えたからこそ、婚約者が居る事実を知ったからこそ、
考えて色々知ってもなお、彼のことが好きだからこそ
真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれる。

彼への真っ直ぐな思いがあるからこそ婚約者に嫉妬し、
嫉妬した挙げ句の唐突すぎる行為などもあるものの、
それがこの作品の面白さにもつながっている。

彼が好きになったのが少年で良かった、
少年が好きになったのが彼で良かった。
そう思えるような物語が描かれている。

心のつながりを丁寧に描いた後に、体のつながりも描かれる。
キャラクターデザインが可愛らしいせいか、表現自体は生々しいが
そこに二人の可愛らしさもしっかりとあり、そこまで過剰ではない。

「男が好きでもおかしくないよ」

そんな少年の一言に彼は救われる。
二人なら生きていけると感じさせるラストは愛と救いに満ちている。

総評:同性愛を真面目にきれいに描いた作品


画像引用元:映画『海辺のエトランゼ』ロングPVより
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

全体的に見て60分という尺に押し込めるために、
やや展開の急さがあり、本来はそこにあるはずの間や過程がなく
キャラクターの心情の変化がやや唐突になってる欠点はあるものの、
そんな欠点を抱えつつ60分で綺麗にまとめられている作品だ。

「同性愛者」であるがゆえの悩みと生き方を抱える青年と、
母を失った少年。二人が出会い、色々と葛藤し、結ばれる。
この綺麗なストーリーラインは守られており、
二人の心理描写と心情の変化もきちんと感じられる。

ただ、本来はあるはずの間や過程が省かれているせいで
強く感情が揺り動かされることはなく、
二人の関係性の変化と結末にはほっこりとしたものがあるものの、
「感動」するには至らない。

もう一歩、もう少し尺があればと感じてしまう部分が多く、
作画のクォリティは高かっただけに、60分という尺ではなく
80分くらいの尺でしっかりと見たかったなと感じてしまう
惜しさが残る作品だった。

個人的な感想:年齢制限


画像引用元:映画『海辺のエトランゼ』ロングPVより
(C)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会

BLUE LYNXというアニメレーベルが最近、
こういった60分尺のBLアニメ映画を多く制作しており、
あまりアニメ化の機会に恵まれないBL漫画がアニメ化されるのは
いい流れである一方で、いつも年齢制限について気になってしまう。

この作品はPG12だ。
奇しくも「鬼滅の刃 無限列車編」と同じ制限がかかっている。
鬼滅の刃の場合はグロテスクな描写の部分による年齢制限であり、
PG12なのも納得できるものの、この作品の場合は性描写だ。

しかし、一方で性描写のある「ギブン」はなぜか年齢制限がかかっていない(笑)
海辺のエトランゼの表現とギブンの表現、
どっちが年齢制限が必要だったか?と問われれば、個人的にはギブンだ。
同じアニメレーベルから出ているだけに、この年齢制限の違いは
一体何なんだろう?とかなり首を傾げてしまった。

こういった年齢制限は自主規制の一種だ。
BLはそういった自主規制が漫画という媒体でも甘い傾向にあり、
アニメもその傾向に影響されてしまってる部分が少し垣間見えてるのは
やや気になるところだ。

超個人的には幼馴染の元婚約者ちゃんがめちゃめちゃ可愛かったので
彼女にも素敵な相手ができることを願うばかりである。

「」は面白い?つまらない?

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