評価 ★☆☆☆☆(16点) 全105分
あらすじ 「未曾有の大災厄」によって、収まりがつかない現代。東京に住む青年の浅野スズシロウは、誰にも言うことができない秘密があり、それは自身の思いとは裏腹に周囲の時間を止められてしまうことだった。引用- Wikipedia
左翼映画のなれの果て
本作品はWOWOWオリジナル作品。
監督は神山健治、制作はCRAFTAR。
モノローグ
この作品はWOWOWにて2022年10月に放送され、
2023年3月には劇場公開もされているが、
私は一切知らなかった(苦笑)
こういったサイトを運営しているせいもあってか、
アニメの情報は自然と入ってくるものの、
そんな環境にいるはずなのにこの作品の存在をつい最近まで知らなかったのは
本当に謎でしか無い。
映画冒頭、主人公のモノローグから始まる。
やや古臭さすら感じさせる主人公の語りからは
ふわっとした部分しかわからない。
いわく「あの未曾有の大厄災」があり、精神的にも経済的にも
日本国民が困窮しているらしいのだが、
それが東日本大震災のことをさしているようなのだが
中途半端に濁している
そんな状況でも主人公は新聞奨学制度を利用し上京し、
「止まった時間を脱出するための苔の時間」という
意味不明な時間を過ごしたらしい。
映画の冒頭で作品の内容にピンとこず、
フルCGで描かれている作品特有のキャラクターの
「ぬるぅ」っとした動きは違和感を産んでいる。
新聞を配る中で出会ったおばあさんですらゆらゆら動いてる始末だ。
フルCGは手書きの作画では出来ない動きができることは確かであり、
フルCGはキャラクターを動かしやすい。
そんな動きやすさに制作側がはしゃいでるかのように、
無駄におばあさんをゆらゆらに動かしてしまっている感じだ。
主人公以上にゆらゆら動くおばさんが気になって仕方ない。
どうやら「モーションキャプチャー」を利用しているようなのだが、
それが作品の良さになっていない。
おばあちゃんのユラユラっぷりは本物のおばあちゃんでも
使ったのだろうか…?
冒頭を過ぎても異様なほどに主人公の語りが多い。
彼が働いて住んでいる場所である新聞配達店にいる
キャラクターたちをまるで小説を読んでいるような台詞回しで
説明してしまっている。
新聞配達店にしてはセクシーすぎる店長など、
どこか懐かしい「ラノベ臭」を作品全体から感じてしまう。
時間停止
そんな主人公だが、とある特殊能力を持っている。
彼は「恐怖」や「怒り」など自身に対して理不尽な事が起こると
自分以外の時間が止まってしまう。
任意でその能力を使うこともも出来ず、1度発動すると
どれくらい時間が止まるかもわからない厄介な能力だ。
そんな能力を使って何をするかといえば
「新聞代の集金」である(苦笑)
なかなかお金を払わない厄介な客の前にあえてたち、
理不尽な怒りを受け暴力を振るわれそうになると時間が止まる。
その時間停止の間に彼は勝手に家に上がり込み
新聞代を回収する。
新聞代を滞納していることももちろん悪いことではあるのだが、
それ以上に主人公がやってることは空き巣に近いものがあり、
あまり主人公にも好感が持てない。
この新聞屋パートも特に面白くないのに30分程ある。
ちなみにこの作品は105分しかない。
3分の1が特に面白みのない新聞屋パートだ。
朝ドラだったら反省会が開かれそうなほどグダグダだ。
これで新聞屋さんの奨学制度を利用した大学生の
青春日常物語ならば問題ないかもしれないが、
この作品はそういう作品ではない。
テロ宣言
主人公が盗人行為を繰り返す裏で
「831戦線」という集団が政治家の誘拐というテロ行為を行うと
日本政府に予告している。
停滞し、まるで時間が止まってしまったかのような日本の政治、
そんな日本の政治を夏休みにたとえ、
8月31日を通り過ぎるという意味で「831戦線」を名乗っているらしい。
決して「ヤサイ」ではない(笑)
そんな中で主人公以外にも「時間を止める」能力者の存在を主人公は知る。
時間が止まってる中で、時計の針は止まっているのに
腕時計のタイムストップ機能は使えたり、
電子ロックのようなものがかかっている自転車の鍵は解除できたりと
エレベーターは動いたり、時間停止の影響範囲がいまいちわからない。
おそらく主人公が触れてるものは大丈夫とかなのかもしれないが、
はっきりとしないせいでモヤモヤしてしまうポイントだ。
もう一人の時間停止能力者は一体だれなのか、
主人公が時間停止した世界で動けた少女は誰なのか。
831戦線と主人公がなかなかあわないまま、
時間だけが過ぎていく。
主人公も「日本の政治」と同じく停滞してしまっている。
過去に同級生の罪をチクった結果、
8月31日にそんな同級生が自殺してしまっている。
彼の本当の時間も心もあの頃から停滞している。
そういうことを描きたいのはわかるものの、
主人公がかつての同級生と同じように金を盗んだり、
かつての同級生も生徒会の費用を盗んでいたりと、
キャラクターたちの行動やセリフになにも共感できないため、
いつまでもこの作品に対してみている側が傍観者だ。
そんな物語が中盤に差し掛かろうとするところで
ようやく話が動き出す。
はっきりいって遅い。
そして時は止まる
主人公と同じ能力者が831戦線のリーダーの妹であることが発覚する。
主人公もそんな存在に気づき、同じ能力を持った少女と出会う。
この時点で映画の尺の半分くらい使ってしまっている。
どうでもいい新聞配達員としての日常を描くくらいなら
もう少し出会うまで早めることが出来ないのか?と思わず感じてしまう。
少女の境遇を知り、自身の能力も831戦線に知られてしまう。
自身の「正義」を、「能力」をどう使えば良いのか彼は悩む。
831戦線たちの過去や事情も知ってしまう。
「日本の政治」の犠牲者の若者たちが、
停滞したこの国を動かそうとしている。
彼らの正義をきき、主人公がどういう選択を取るのか。
そういうことをやりたいのはわかるが、
結局は制作側のそういう政治的な思想を描いてるに過ぎない。
簡単に言えば「左翼臭」が漂う映画だ。
今の日本の政治が作り出した社会構造のせいであり、
敗戦国による「洗脳教育」や「報道」のせいだと。
そういうことを描きたいのはわかるが、
尺が短いせいで酷く浅く、どこかで聞きかじったできたての
左翼Twitterアカウントのような主張でしか無い。
そういうメッセージを描きたいなら、
序盤で30分も新聞配達員の日常に使ってる暇はなかったはずだ。
結局105分という尺を上手に使いこなせていない。
それは終盤、如実に現れる。
はぁ?
終盤はわけがわからない。
テロ組織のリーダーとヒロインの父の敵とも言える
現在の首相を時間停止空間の中で誘拐する。
それを利用してテロ組織は「株の空売り」を仕掛けて大儲けし、
大成功だ。
主人公も現状をよく理解していない中で彼は
「新聞配達員」としての日常に戻る。
とくに主人公は何も変わっていない、相変わらず貧乏で、
相変わらず新聞代は踏み倒され続ける始末だ。
事件の後に主人公はネットで色々と調べて
テロ組織のリーダーとヒロインの父になにがあったのかなどを
知るのだが、それも全て映画の冒頭と同じく
主人公のモノローグという名の説明で片付けてしまうため、
まるで頭に入ってこない
テロ組織がおこした行動も日本の政治に大きな影響を与えたわけではない。
結局、テロ組織が大儲けしたくらいだ。主人公にも変化がない。
彼の能力を、自分の能力を何に使えば良いのかもわからず、
テロ組織と首相の会話の動画を持っているものの
ネットで公開するわけでもない。
彼のもとにはテロ組織から分前、仕事の報酬として
「大金」と「拳銃」が送られてくる。
「永遠の8月31日は自分で終わらせろ」
そんなテロ組織のリーダーのセリフに主人公はまた戸惑い、何もしない。
テロ組織のリーダーはまだ何かを企んでいるようだが、
最後は主人公とヒロインが時間停止空間の中で再開して終わる。
「僕はもう1度、自分の意志で時間を動かしてみようと思うんだ。キミと」
意味がわからない(苦笑)
主人公がそう結論づけた心理描写もほとんどなく、
ヒロインとそういう関係になるほど彼女と会話をしていない。
何もかもが中途半端な作品だった。
総評:ハイパー無駄動おばあちゃん
全体的に105分という尺をうまく使いこなせていない作品だ。
過去のトラウマにより時間停止能力を持つ主人公、
そのころからどこか「停滞」している主人公と時間停止というものを
「日本の政治」とかけており、停滞してしまった日本の政治を、
終わらない夏休み状態の主人公と日本の政治を描いている作品ではある。
そういったテーマを描きたいのは分かるが、
尺の使い方が悪いせいでTwitter初めて一ヶ月の左翼アカウントのような
浅い主張しか描けていない。
冒頭の30分ほどはどうでもいい新聞配達員としての日常を描いており、
ここに登場する殆どのキャラクターは居ても居なくてもどうでもいいキャラだ。
中盤でようやく、もうひとりの時間停止能力を持つ少女と出会い、
主人公がテロ組織と関わることで何が起こるのか?と一瞬期待するが、
テロ組織の不幸自慢ばかりで、なんやかんやでテロは成功してしまう。
そんな成功したあとに主人公が何を思い、どう変化するのかという
過程も結果も「ふわっ」としたものになっており、
見たあとに「何だこの映画」というような感想しか浮かばない作品だ。
唯一印象に残ってるのはモーションキャプチャーをフル活用して
ぬるぬるとゆらゆらと動きまくるおばあちゃんくらいだ。
あのおばあちゃんの不気味な動きが妙に印象に残ってしまい、
浅い内容でしか無いこの作品の印象がどこかへとんでいってしまう作品だ。
政治的主張や不満をアニメという媒体で描く作品もあるが、
この作品はそんな作品の中でも酷く浅い。
時間停止能力も、未曾有の災害も、キャラクターも、
なにもかもが脚本の中で生きていない作品だった。
個人的な感想:神山監督
攻殻機動隊や東のエデンなど有名な作品を置く手掛けている神山監督だが、
前作のひるね姫といい、今作といい、
言葉を濁さずに言えば「才能が枯れていく」のを見ているようで
つらくなる作品だ。
この作品と東のエデンも似たようなテイストがあるものの、
東のエデンを物凄く薄くした作品といえばわかりやすいかもしれない。
来年にはロード・オブ・ザ・リングのアニメ映画を手掛けるようだが
果たしてどうなるだろうか…
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