評価 ★★★★☆(69点) 全12話
あらすじ 近未来の新潟県三条市。昔からもの作りが盛んなこの地は「ものづくり特区」となり、様々な先進技術が市内のあちこちに導入されている引用- Wikipedia
隠れた名作
本作品はTVアニメオリジナル作品。
監督は米田和弘、制作はPINE JAM
せるふ とプリン
1話冒頭から柔らかい雰囲気が漂っている。
どこかのーんびりした主人公は多くのペットに囲まれながら寝ており、
隣に住む幼なじみ「プリン」はそんな彼女に明らかに好意がある。
真面目で優秀なプリンと、のんびりしてあんまり優秀ではない「せるふ」。
この二人の関係性と柔らかい雰囲気にニヤニヤさせられる。
キャラクターデザインはややクセがある感じだ。
最近のアニメというよりは2000年前半くらいの「あずまんが大王」や
「ぱにぽにだっしゅ」のような、あの頃の日常アニメっぽさを感じるデザインだ。
決して「萌え」ではない、あざとさを感じないキャラクターデザインは
老若男女問わずに受けいられるものだ。
作画のクォリティは高い。質感という意味では簡素ではあるものの、
簡略化された表情やキャラクターの等身をシーンごとに
使い分けることで、この作品だからこその「独特の味わい」と
キャラクターの「ぬるぬる」とした動きは、
1枚絵として見たときではなく「アニメーション」としてみたときの
キャラクターの魅力につながっている。
1話冒頭は本当に何気ない日常だ。
朝起きて高校に行って、オフロに入って、ご飯を食べて寝て、また登校する。
そんな主人公の代わり映えのない「日常」を描いているのだが、
その日常の中でのアニメーションのクォリティが高いおかげで、
妙に目を奪われる。
さりげなく、自然に、実際の人間の動きをトレースしたような
ロトスコープっぽさすら感じるヌルヌルとしたキャラの動きは、
シンプルなキャラクターデザインでは考えられないほどの
「作画枚数」の多さを感じる。
そんな世界ではあるものの、この作品の舞台はやや近未来だ。
もろにSFじみた未来ではなく、
私達が生きている「今」から30年か40年くらい過ぎたくらいの
技術の進歩が街並みや背景やキャラクターたちの小道具にさりげなく取り入れられている。
ものをつくろう
そんな主人公がたまたま学校の先輩「くれい」に出会う。
彼女ややや変わりものだ。たった一人で学校のはじっこでものづくりに明け暮れている。
どこでも売っているようなブックスタンド、そんなブックスタンドでさえ
彼女は自らの手で作る。
そんな彼女と出会ったことで主人公の「DIY」への道が開かれる。
非常に丁寧な1話だ。
DIYに興味がなかった女の子がちょっとしたきっかけでDIYにハマる。
この手の「部活」系のアニメではベタな流れではあるものの、
何かを作ろうとするたびにすぎにドジをふんで怪我をする主人公の愛らしさや、
どこかふわっとした雰囲気がストーリー自体はベタなのに
独特の味わいを強く感じさせてくれる。
彼女はその転生の不器用さゆえに子供の頃から「工作」を禁止されている。
長い間、禁止されていたからこそ、本来は胸の奥にあった
「何かを作る」ことへの憧れがまるで漏れ出すように溢れ出してくる。
小さい頃に家にあったベンチ、今はないベンチがあれば
また幼なじみと仲良く過ごせるかもしれない。
そんな思いが彼女をDIYへの道へと進ませる。
幼なじみ
幼なじみである「ぷりん/」は主人公とは違う学校に通っている。
どこかですれ違ってしまった二人、昔は素直に仲良くしていたはずなのに
ちょっとしたきっかけで二人の関係性は以前とは違うものになっている。
価値観の違いもある。
ぷりん は頭のいい学校で最新技術を学び、
「何もしなくていい世界」を作ろうとしている。
技術が進歩した世界だからこそ、そんな世界もどこか現実的なものになっている。
逆に、そんな時代だからこそ「何かを自分の手で作る」というDIYは
「ぷりん」にとっては古臭いものだ。
便利な道具も多く、わざわざ自分で作らずとも優秀な既製品は多い。
そんな中であえて「DIY部」に入部した主人公のことをぷりんは理解できない。
そんな中でも「せるふ」という主人公はDIY部を盛り上げようとする。
部員は1話の段階で主人公を含めて二人しか居ない。
一学期の間に5人にならなければ廃部が決まっている部活で、
彼女たちな何をなし、何を作るのか。
非常に丁寧なストーリー運びが心地よく、
メインキャラクターを一人ひとり丁寧に掘り下げながら、
それぞれの立ち位置とキャラの魅力を感じさせながら、
まるで教科書通りのようなストーリー展開を見せてくれる。
DIY
DIYの過程も非常に丁寧に描かれている。「部員を集めるために看板を可愛くする」
そんなふわっとした気持ちから看板を可愛くする過程が細かく描かれる。
タイルに接着剤を塗ってはり、目地材をぬる。
シンプルな過程ではあるものの、目地材の説明などもきちんとすることで、
DIYに対して初心者な主人公とともに視聴者も学べる。
1話1話丁寧に部員を増やしながら、
それぞれがそれぞれのアイデアで作りたいものを作る。
その過程がこの作品全体の「テーマ」そのものをDIYしている。
キャラクター一人一人のエピソードが、キャラクター一人ひとりの思いが
「Do It Your Self」という作品を作り上げている。
物に溢れ、技術に溢れ、便利な世の中。
そんな中で自分の手で、廃材や余ったもので何かを作るDIYの意味を
改めて考えるような内容だ。それはある種の「個性」の「自己表現」だ。
自分で作り上げる喜びを感じ、自分で作り上げたものを褒められる喜びを感じ、
そして自分で作ったものを誰かに「あげたい」と思う。
個性の表現と個性を受け入れられる喜び、
誰かに自分の個性を受け止めてほしいという思い。
DIYというもので彼女たちの深い交流が描かれていく。
中盤になるとメインキャラの殆どがDIY部に入ってDIYを楽しんでいる。
だが主人公の幼馴染である「ぷりん」だけは一緒に遊びにいったりするものの、
DIY部に参加せず、何かを作ったりもしない。
彼女たちに影響されて作ろうとはする、でもしない。
彼女は1話から素直になれないでいる子だ。
だからこそDIYという個性の表現をすることができない。
他の部活系アニメならあっさり序盤で彼女も入部しそうなところだが、
この作品はそうはならない。
ある意味で「ぷりん」はもうひとりの主人公だ。
DIYといえば自分で工作して何かをする意味合いがある。
だが、この作品はそれだけでなく、
自分の意志で「なにか」をすることそのものをDIYと定義づけて
作品のテーマにしている。
自分の意志で、何かをしたい、何かを作りたい、誰かと仲良くなりたい。
そんな行動に至る「気持ち」そのものがDIYなのだと。
序盤はその形が見えてこない。
この作品の方向性、何を描こうとしているのか。
原作がない「TVアニメオリジナル」作品だからこそ、
見ている側の中で、徐々にこの作品の方向性やテーマが積み上げられていく。
序盤から中盤まで丁寧にキャラクターと世界観を掘り下げ、
メインキャラを出し切ったあとの中盤から、
「ツリーハウス」づくりに着手するあたりから
この作品はさらに深いものになっていく。
一人でなくとも
主人公の「せるふ」は不器用な女の子だ。
DIY部が盛り上がってきても、彼女の作品は他の部員の作品と違って
売れず、自分の立ち位置を悩みつつ、自分にできることを模索する。
そんな彼女を支えるのもまた「仲間」だ。
彼女にしかできないこともある。それを他の誰でもない仲間が認めてくれる。
自分にできないことは誰かに任せてもいい。
支え合いながら手に絆創膏をいっぱい貼り付けながら、
彼女が「DIY」に勤しむ姿に心が暖かくなる。
自分にできないことを「できない」と否定されるのではなく、
「できる」ことを認めてもらう。
DIY部に入るという彼女の選択、そんな選択は
「間違ってなかった」「入ってよかった」と噛みしめる。
挫折
みんなで集めた廃材、そんな廃材が終盤で消失してしまうという事件が起きる。
みんなのやる気が一気に無くなってしまう中で、「ぷりん」が動く。
彼女を励ますために「思い出」のあのベンチを持って、
自らの意思で彼女の家に訪れる。
どこかで素直になれず、すれ違った二人。
そんな二人が、ぷりんの気持ちが「DIY」を通じて
徐々にもう1度「リメイク」されていく。
若干「百合」テイストすら感じる「ぷりん」の「せるふ」への思いは
いじらしく、可愛らしい。
序盤も、中盤も、彼女は積極的にDIY部に参加しない。
そんな彼女が、終盤でDIYに参加する。
「廃材」は「ぷりん」の素直な気持ちの比喩表現にすら感じる。
いつのまにかどこかへいってしまった廃材、
だけど、例え無くなってしまっても、もう1度集めればいい。
「ぷりん、ねえ、ここにおいでよ。」
せるふのそんな一言、せるふの素直な思いが彼女に伝わる。
ちょっとだけ素直になれず、ちょっとだけすれ違ってしまっただけだ。
彼女たち自身でそれを「DIY」する物語がこの作品では描かれている。
1クール積み重ねて、1クールDIYし続けたからこその
「ぷりん」の変化とそれぞれのキャラクターの成長が
終盤で見ている側にじんわりと伝わる。
1話の段階ではこの感情は決して湧いてこない。
1クールの中で積み重ね、作り上げたものが終盤で形が見え、
完成することでこの作品の面白さも完成する。
みんなで「秘密基地」を作る、そこには色々な思いが詰まってる。
二人の幼なじみの思い、海外から来た少女の母への思い、
たった一人になってしまったDIY部の部長の思い、居場所を見つけた少女の思い。
それぞれの思いが秘密基地につまっていく。
また逢う日まで
ツリーハウス完成までの過程はサクサクと描かれる、
小さなトラブルはあれど、彼女たちの集大成だ。そんな中で「別れ」も訪れる。
海外からの留学生である「じょぶ子」は一学期しか居ない。
たった三ヶ月ほどの時間しか彼女とは過ごしていない。
それでも、かけがえのないものだ。
彼女はまたきっとやってくる。そのための「場所」も残してある。
ラストで描かれる「じょぶ子」のエピソードも、
しんみりとしたものがあり、涙腺を刺激されてしまう。
「ぷりん」と「せるふ」。
二人の、二人だけのラストのDIYは一言「尊い」だ。
思い出のベンチの材料を使い、もう1度、二人で作り上げる。
1話では考えられなかった状況と二人の関係性の再構築が
1クールできれいに描かれている作品だった。
総評:DIYは工作だけじゃない
全体的にみて素晴らしいTVアニメオリジナル作品だ。
近未来の日本を舞台にし、様々な技術が進歩した中で
「自分で何かを作る」というDIYの意味を問いつつ、
そんなDIYを通じて、彼女たち自身の中で一歩を踏み出し、何かをし、
何かを作り上げる物語が1クールきれいに描かれている。
キャラクターデザインはやや癖があり、若干の古臭さは感じる。
しかし、それがこの作品の柔らかく優しい味わいになっており、
簡素なキャラデザになるシーンがあったかと思えば、
ぬるぬると動くシーンがあったりと、
日常アニメで会話劇が基本でありながらキャラの動きに可愛らしさがある。
序盤から中盤まで丁寧にキャラクターと世界観を掘り下げつつ、
そんな中で「せるふ」と「ぷりん」、
二人の幼なじみの関係性の再構築というDIYが描かれており、
1クールの中での二人の変化が最終話の素晴らしい余韻につながっている。
インパクトやキャッチーさという意味では薄く、
序盤で切ってしまう方もいるかもしれないが、
DIYをする気持ちで、この作品の「完成」に至るまで
暖かく見守ってほしい作品だ。
個人的な感想:ダークホース
2022年秋アニメは話題作が多く、いろいろな作品が
そんな話題のある作品の影に隠れてしまった印象がある。
そんな中でこの作品はダークホースだ。
TVアニメオリジナル作品でありながら日常青春モノで、
派手な展開やシリアスなシチュエーションや
ショッキングなシーンがあるわけでもない。
キャラクターデザインも「萌え」な感じでもない。
そういった派手さがないなかで丁寧に、
作品をDIYするように作り上げている。
他の作品にはない独特の味わいと物語を
1クール味わうことのできる作品だった。
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