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「名探偵コナン 黒鉄の魚影」レビュー

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評価 ★★★★☆(78点) 全109分

劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』予告②【4月14日(金)公開】

あらすじ ドイツ・フランクフルトでキール(水無怜奈)は、ユーロポールの女性職員ニーナを追跡していた。キールはニーナを追い詰めつつも彼女を逃がそうとするが、ジンが背後からキールの肩ごとニーナを撃ち抜いて殺害してしまう。引用- Wikipedia

灰原哀、萌え

本作品は名探偵コナンの劇場アニメ作品。
名探偵コナンとしては26作品目の作品となる。
監督は立川譲、制作はトムス・エンタテインメント
なお本レビューには若干のネタバレを含みます。

6年ぶり

本作品は予告編などを見た方ならおわかりの通り
「黒の組織」が出てくる作品だ。
なんと彼らの登場は6年ぶり、殉国の悪夢以来の登場だ。

最近のコナン映画はやや「キャラ映画」としての側面がかなり強くなっており、
安室透や、赤井秀一などのキャラクターがコナンという主人公以上に
人気を博しているがゆえに、そんな彼らがメインになる映画作品が続いていた。
それ自体は悪いことではなく、彼らが絡んだからこそ
「規模感」の大きな物語が展開しているのが最近のコナン映画の特徴だ。

しかし、そんな規模感の大きな映画が続いた中で
6年ぶりに彼らがやってくる。
やはりコナン映画といえば主人公であるコナンが活躍してこそだ。
本来の「敵」ともいえる「黒の組織」がそこに絡むからこその、
緊張感を感じさせてくれるだろうという期待感を冒頭から感じさせてくれる。

ここ数年、私だけかもしれないが「ジン」というキャラの
かっこつけてるわりにはミスが多い感じやボケた感じが
フィーチャーされることが多く、本来は恐れおののく存在でありながら
どこかお茶目さすら感じている。

そんなジンがとある人物を殺すシーンから物語は始まる。
ジンというキャラ本来の悪役としてのかっこよさや
怖さを冒頭でしっかりと感じさせてくれる始まりだ。

八丈島

今作の舞台は八丈島だ。
前作は渋谷や前作は県をまたいで物語が展開していたが、
今作は東京の八丈島から基本的にコナンは動かない。
離島を舞台にしているというとコナン映画の某作品を思い返すが、
今回は宝探しは無しだ。

コナンたちは鈴木園子に誘われ八丈島のホエールウォッチングに参加することになる。
だが、そんな八丈島から少し離れた島でインターポールが
極秘の施設を開設しており、そんな施設の何かを黒の組織が
狙っていることを知ったコナンが捜査していくというようなストーリーだ。

序盤から中盤までは淡々とストーリー展開ではあるものの、
同時に黒の組織の手が灰原哀に徐々に伸びていく様を感じさせ、
緊張感が漂っている。
このあたりは相棒の脚本や、最近のコナン映画の多くを手掛けている
「櫻井武晴」らしい丁寧なストーリー構成と積み重ねで
徐々に盛り上げるお得意のパターンだ。

ガチの黒の組織

今作の黒の組織はガチだ。
古くは鈴木園子を「シェリー」と勘違いしうっかり狙撃しちゃうジンや、
コナンの正体を知った映画オリジナルの黒の組織のメンバーを
殺してしまうジンなど、うっかりミスの多かった黒の組織だが、
今回はガチで「灰原哀」の正体を突き止める展開になる。

彼らが狙っていたのはインターポールが開発した防犯システムであり、
全国の防犯カメラをチェックし、なおかつ顔認識プログラムによって
子供時代の写真さえあれば、成長した大人の顔を予想し、
今現在、その人物がどこにいるかまで突き止めてしまう。

そんなシステムを黒の組織が手に入れた結果、
「シェリー」が「灰原哀」であることを突き止めてしまう。
これで遠くから彼女を狙撃するだけなら、いつもの展開ともいえるが、
今回は「ガチ」であるがゆえに、ウォッカたちが彼女をさらう。

非常に緊張感のある展開だ。
黒の組織に正体がバレるというのはコナン映画では
「嘘予告」で使われ、夢オチでおわるようなこともあったが、
今作は本当にバレて遠くからではなく、実際に目の前に彼らが現れる。

この緊張感の演出は素晴らしく、正体がバレた
「灰原哀」がどうなってしまうのかと見ている最中に
手に汗握る展開が生まれている。

灰原哀

そんな絶体絶命な状況だからこそ、
コナンと灰原哀の関係性がより密接的に、かつ如実に描かれている。
いつ黒の組織に狙われるかわからない、親族と呼べる人物も居ない。
彼女は孤独な存在だ。

だが、それでも阿笠博士や少年探偵団や蘭や園子、
そして「工藤新一」が彼女の心の支えになっている。
状況に応じて彼女は心の声をつぶやいている。
そんな心の声で彼を呼ぶときの呼び方が状況によって変化する。

時には江戸川くんと、時には工藤くんと、
そして「新一くん」と彼女があくまでも「心のなかで」つぶやく。
その心理描写があまりにもいじらしい。
彼女は自分の気持ちを声には出さない、
自分の気持ちを優先している状況ではないからこそ彼女は本音を常に隠している。

しかし、そんな心の声は私達視聴者には届いている。
心細そうに彼の名前を叫び、自分のために命をなげうってでも
行動してくれる彼の行動や言葉の数々に対する思いの数々を
私たちは聞いてしまう。

もう一言で言えばこの映画は全灰原哀ファンに送るための映画だ。
ここ数年のコナン映画では彼女はどちらかといえば、
主人公である江戸川コナンの「相棒」としての立ち位置に収まっている。
だが、今作では「ヒロイン」だ。

特に終盤での彼女の乙女心はニヤニヤしてしまう。
緊急事態だからこその「行為」、そんな行為を惜しげもなく
彼女は彼の命を救うためにする。
だが、自体がおちついたあとにふと、その行為の「重さ」に
年相応の思いを心のなかで我々だけに聞かせてくれる。

もう久しぶりにこの言葉を使いたい。「萌え」だ。
今作で彼女に萌えない人は居ないだろう。
本音を隠し、本音をあえて出さず、自分の思いが叶わないこともしっているからこそ、
その行為を「リセット」する彼女の最後の行動に悶え苦しんでしまう。

久しぶりに彼女がフィーチャーされた作品だけに、
そのフィーチャーぶりが彼女の可愛らしさや魅力を
2000%押し出してるような印象だ。

スケボー

コナン映画にはかかせないものがある、そうアクションである(笑)
毎回毎回、どんなアクションを見せてくれるのかが
コナン映画において重要なポイントの1つでもあり、
前作ではコナンが渋谷を救ったことは記憶に新しい。

今作は海に囲まれた八丈島が舞台だ。
それゆえに私は「スケボー」の出番についてひどく心配していた。
スケボーと水の相性は悪い、博士が万が一にそなえて
水陸両用に改造していてくれないかと期待していたのだが、
今作はそんな期待をいい意味で裏切られた。

なにせ直角である。
コナン映画で超絶アクションの数々を繰り広げたスケボーだが、
今作でも黒の組織を追う中で山の中を走り回ったり、
博士の車から飛び出て当たり前のようにスケボーで走り出したり、
素晴らしいアクションを見せつけてくれる。

更に極めつけは崖から飛び降りる(笑)
意味不明かもしれないが、今作でコナンはスケボーで崖を直角に降りる。
しかも、今作で発覚したのだがスケボーは短時間ならば水に浮くことが可能だ。
まるで飛び石のようにはねるスケボーに思わずワクワクさせられる。

今までの映画ならここで出番は終了だ。
なにせ水に浸かってしまったのだから壊れてしまったと
私は勝手に思いこんでしまっていた。
しかし、博士は防水仕様にしている(笑)

もう出ないと思っていたところでラストにスケボーが再登場したときは
制作側のコナンのスケボーに対する「愛」を深く深く感じられた。

今作で珍しく蘭がピンチになる展開がほぼない。
それどころかめちゃくちゃ好戦的である。
最近のらんねーちゃんは黒の組織やFBIなど周囲のキャラの
戦闘力が上がってしまったがゆえにその影に隠れてしまっていたのだが、
サイヤ人のごとく周囲の戦闘力に影響されて彼女の戦闘力も上がっている。

中盤で灰原哀が深夜に黒の組織にさらわれて、
それに気づいたコナンがあせって助けに行こうとするのだが、
そんな彼よりも早く「2階」から飛び降り、
黒の組織との対人戦に挑んでいる(笑)

もはや彼女は救われる、助けられるヒロインではない。
戦うヒロインなのだといわんばかりの戦闘能力は素晴らしく、
黒の組織のメンバーの一人にほぼ勝利している。素晴らしい戦闘力だ。
彼女の徒手格闘シーンはアクションもゴリゴリに動いており、
繰り広げられる技の数々に恐れおののいてしまう。

今作では灰原哀がメインヒロインとして描かれており、
従来の作品のようなヒロインぶりをあまり感じないのは
やや残念な部分ではある。
特に映画お約束の「らぁああん!」もないのはやや物足りなさを感じる部分だ。
灰原哀をフィーチャーしたがゆえに仕方なくはあるのだが…

ファンサービス

今作はファンサービスも多い作品だ。
黒の組織の面々はもちろん、FBIや公安、警視庁のキャラも出てくる。
特に赤井さんと安室 透、いや、
「ライ」と「バーボン」の会話は最高のファンサービスといえるかもしれない。

個人的にはなぜか「高木刑事」が出てこなかったところが
気になるところではあるものの、
黒の組織やそれに付随するキャラクターたちがまんべんなく出ていながらも、
過度に前に出すぎず、あくまでも主人公は「江戸川コナン」として
シーンを構成している。

特にラストのライの狙撃シーンは、赤井さんのシーンではあるものの、
同時に「コナン」だからこそのど派手なシーンにもなっている、
一言で言うならばこういったキャラクターの出し方の
「バランス」の良い作品だ。

ミステリー

今作は映画オリジナルキャラとして「ピンガ」という
黒の組織のメンバーが出ている。
好戦的でジンを陥れることを考えており、
狡猾に手段を選ばない黒の組織らしいキャラクターだ。

そんなピンガが変装して紛れ込んでおり推理要素にもなっているが、
この部分に関してはかなりわかりやすいヒントが盛り込まれている。
シーンをある程度着目していればすぐに気づいてしまう部分だ。

そんな彼が浸かったトリックも「ディープフェイク」という
最新技術を取り込んでいるのは櫻井脚本らしい部分ではあるものの、
殺人事件とそれに付随するミステリー要素は今回はいまいちな部分だ。

スパイだらけ

もう1つ言うならば今作はスパイだらけだ(苦笑)
黒の組織のメンバーの多くが出ているのだが、その半分くらいはスパイだ。
序盤から終盤まで黒の組織のメンバーの一部が潜水艦の中にいるのだが、
ジンが来るまで潜水艦の中にいる黒の組織のメインキャラは
「ウォッカ」以外全員スパイみたいな状況も生まれている(笑)

このあたりのガバガバ感はある種のご愛嬌ではあるものの、
ウォッカが丁寧にスパイな彼女に色々なことを説明したりしているシーンは
ある種のギャグシーンだ。

今作で黒の組織のメンバーは手段を選ばないキャラも多いものの、
コナンや灰原哀に味方をしてくれるスパイやキャラも多く、
特に「ベルモット」は大活躍だ。

お約束

終盤でコナンの正体に「ピンガ」が気づく展開もお約束であり、
そんなピンガをそうとはしらずに「うっかり」殺してしまう
ジンのミスもある種のコナン映画あるあるだ
そういったお約束的なシーンをバランスよく配置している作品だ。

この作品もそうだが、最近のコナン映画はキャラクターに
フィーチャーしたものが多く、それはそれで面白かったのだが、
今作品は原点回帰的にコナン映画あるある要素を盛り込んでおり、
そんなあるあるがある種の王道的な面白さを生んでいる。

「眠りの小五郎」のシーンも思い返せば
「から紅の恋歌ラブレター」以来だ。

そういったあるある要素、ベタやテンプレートな要素盛り込みつつ
原点回帰的な面白さを感じさせてくれる作品だったと
言えるかもしれない。

総評:原点回帰

全体的に見ていい意味で非常にコナン映画らしい作品だ。
黒の組織という名探偵コナン本来の敵を6年ぶりに登場させ、
彼らに「正体がバレる」というお約束要素をガチで描きつつ、
「灰原哀」にフィーチャーし彼女の心理描写を丁寧に盛り込み、
「工藤新一」という主人公のかっこよさを魅せている。

作品全体のバランスが非常に良く、
コナン映画らしいスケボーアクションもみせつつ、
ラストには「待ってました!」といわんばかりの
巨大な建造物の爆発も魅せてくれる(笑)

ファンサービスもふんだんに盛り込んでおり、
最近フィーチャーされることが多かった安室さんや、
赤井さんなども出しつつも、メインにはすえない。
あくまでも工藤新一、そして今作のヒロインたる
灰原哀の魅力をしっかりと感じられる作品に仕上がっていた。

ミステリー部分は若干の弱さを感じる部分であり、
お決まりの「らぁぁあん!」がなかったのは残念ではあるものの、
灰原哀をフィーチャーしたからこその作品であり、
彼女のいじらしいキャラクター描写に終始悶える作品だった。

個人的な感想:戻らへんのかい!

余談だが、今回、コナンが工藤新一の姿に戻るかも?と匂わせるシーンが有る。
久しぶりにその姿を拝見できるのかと一瞬期待したが、
そんなシーンは訪れなかった(苦笑)
あの肩透かしはなんだったのだろうか。

次回作は「浪速」のあいつと「月下の奇術師」がでそうなだけに、
来年にも期待したいところだ。

「名探偵コナン 黒鉄の魚影」は面白い?つまらない?

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