評価 ★★★★★(93点) 全6話
あらすじ物語の舞台はAIやインターネットが普及した2045年の宇宙空間。新たにオープンする日本製の商業用ステーションで大規模な事故が発生してしまう。引用- Wikipedia
至高のSFサバイバル
本作品はアニメオリジナル映画作品。
監督は電脳コイルなどでおなじみの磯光雄、
制作は Production +h。
Netflixでは全6話形式で配信されており、
映画では前編の3話、後編の3話という構成で上映されている。
世界観
冒頭から素晴らしい世界観を魅せてくれる。
電脳コイルは昭和な風景の中に描かれるSF要素の数々が面白かったが、
この作品は時系列自体は未来だ。それゆえに冒頭は専門用語だらけだ。
なにせ主人公は月生まれだ。
彼は月で生まれたがゆえに「地球の環境」に適応しておらず、
宇宙ステーションの中で「リハビリ」をしている。
身体能力、知能、重力への適応etc…
月で生まれた主人公とその幼馴染にはインプラントを埋め込れている。
月で生まれたがゆえのホルモンバランスの問題や成長の問題、
体を「制御」し「守る」ためのものだ。
彼らのインプラント意外にもスマホが手の中に埋め込まれており、
タッチすれば動画を配信でき、数々の機能を使うことが出来る。
ロボットやドローンも当たり前のように存在し、
ロボットが当たり前のように知能を持ち、当たり前のように会話している。
そんな「世界観」を冒頭からたっぷりと魅せられる。
「ああ、SFがはじまった、面白い作品が始まった、コレを待っていた」
自分の心の中にあるSFへの、宇宙への、未来への飽くなき好奇心と
探究心を見れば見るほどくすぐられるような細かい背景描写や
美術の数々、見せられる要素の数々がたまらない。
主人公は月で生まれたがゆえに地球と地球人に対して偏見と差別意識を持っている。
ガンダムで言えば「スペースノイド」としての自負があり、
そこにどこかしがみついている。
「重力ってマジだれとくだよ」
月で生まれたからこそ宇宙ステーション内の重力がうとましい。
子の作品に出てくる子どもたちは現代的だ、
いや言葉としてはややおかしくはあるのだが、
未来という時系列では有るものの現代的な価値観を持っている。
SNSを利用し、フォロワー数を自慢し、動画を配信する。
インターネットを通じて多くの人とつながっているからこそ、
そのつながりを自らの力と思い込みつつも、どこか彼らは孤高だ。
離婚をして別々に暮らす姉弟、フォロワー数が3人しかいない青年。
主人公はそんな中で「1億」ものフォロワー数が居る(笑)
地球の住人からすれば彼の存在は珍しい。
だが、主人公にとってはそれすらもうとましく、地球になんていきたくない。
「地球なんて隕石落ちて滅亡すればいい」
思春期にありがちな反抗心が彼の中にある。
我々の視線にとってワクワクするような世界観を描きながら、
我々の住む地球を否定する少年が主人公だ。
だが、そんな主人公が住む「宇宙ステーション」のシステムがダウンし、
彗星が衝突してしまうところから物語が動き出す。
なぜシステムがダウンしたのか、誰かの陰謀なのか。
物語が進めば進むほど広がっていく物語と世界観にワクワクが止まらない
隔離
外につながるためのインターネットも使えない、
宇宙ステーションの機能も次々と失われていく。
酸素が失われ、気温の調節機能が失われる。
彼らが使えるのは自らが持つ知恵と力とハッキング技術くらいだ。
未来という世界観、素晴らしい技術を1話で見せ、
そのほとんどが2話で使えなくなる中で
「宇宙」という空間の中で彼らはどう生き残るのか。
また中学生や小学生くらいな彼ら、大人との連絡手段もない。
現代的価値観を持つ子どもたちが
インターネットからも「隔離」されてしまう。
彼らのそばにいる「大人」は怪我をしてるお姉さんと認知症のじいさんだ。あまりにも頼りない。
サバイバル
一歩間違えば死んでしまう、一歩間違えば何も出来ない。
だが、彼らは自分の持つ力と知恵と限られた道具で状況を乗り切ろうとする。
どこかコミカルに、絶望的なはずの状況でも中でも
彼らは絶望せずに前を向いている。
子供だからこそどこか無邪気に、純粋だ。
コロコロと変わる表情が面白く、彼らの些細な口喧嘩ですらニヤニヤしてしまう。
目まぐるしく状況が変わる、
その状況の変化がスピーディーで本当に目が離せない。
一瞬の油断が彼らの命を奪う。そんな緊迫した状況だからこそ、
主人公たちに隠されていた謎が明らかになっていく。
月で生まれた子供に埋め込まれたインプラントの問題、
主人公がなぜハッキング技術を磨き、地球を滅ぼそうとしているのか。
謎を少しずつ明らかにしながら、同時に「伏線」も張り巡らせていく。
「セブン」という高知能AIの存在が起こした暴走、
ネットのオカルト「セブンポエム」の数式、
主人公の幼馴染にだけ聞こえる「謎の声」、
謎が明らかになっても謎が謎を呼ぶ。
そんな面白すぎるストーリーを見せながらも美術設定のさり気なさがすばらしい。
彼らが途中で着る宇宙服は「ビニール製」であり「ONIQLO」製だ。
そう、ユニクロ製の宇宙服である(笑)
シリアスな状況なのにキャラ同士の子供だからこその会話や
そういった設定や美術のおもしろさが思わず顔をにやけさせてくる。
宇宙には上も下もない、それは人間関係にもだ。
緊迫した中で築かれる彼らの絆が尊くかけがえのないものになっていく。
絶望を、痛みを、乗り越え生き残る。
地球人と宇宙人、住む場所は違えど同じ「人間」だ。
宇宙という永遠の闇の中で「火星」に向かって歩き出す彼らの姿は
本当に一歩間違えば死んでしまうのに見ている側の口角は上がりっぱなしだ。
ああ、なんて楽しいアニメなんだろう。なんて素晴らしいSFなんだろう。
こんなにも「アニメ」というものは面白いんだと再認識させられる。
子どもたちだけのサバイバルは前半だけだ、
だが、その前半のサバイバルパートだけでもうたまらない。
AI
高知能なAIが暴走した「ルナティック」という事件。
セブンというAIが導き出した答え「人類は地球というゆりかご」を出るべきであり、
人類はすぐに「人間を36.79%」を殺処分すべきだと。
発展した未来だからこそのAIが起こした事件、
宇宙開発が進んだ中で同時に進んだAIの技術と、
そんなAIと人間の関係性が中盤から描かれていく。
序盤で描かれていた謎、敷かれていた伏線、
中盤からその全てが「収束」していく。
見ている間にその謎の答えがわかったときに思わず、
「なるほどな…」とつぶやき、鳥肌が立つこの感覚がたまらない。
全てに意味があり、全てがつながっている、答えはきちんとそこにある。
なぜ事故が起きたのか。
ジョン・ドーというテロリストの存在、セブンが残した数式、
主人公の幼馴染に聞こえる「声」の正体。
物語の中のキャラクターたちと同じように見る側にも
点と点がつながり1本のまっすぐな線が脳内に敷かれる。
綺麗などこまでも、どの次元にまでも続く一本の線。
「地球外少年少女」
最初から見る側には提示されていたこのタイトル。
そこに至るまでの一本の道筋だ。
ボーイ・ミーツ・ボーイ
重力なんてうざい、地球人なんて、そんな思いが
付きで生まれた少年の中にはあった。
だが同世代の少年少女と関わったからこそ、
少年が少年に出会ったからこそ、彼の価値観も変わる。
「ボーイ・ミーツ・ボーイ」な作品だ。
AIの進歩には人類が必要だ、AIだけではなし得ない。
Aiは確かに人類では予想のできない未来をも、終焉をも予想する、
だが、AIも「人間」が作り出したものだ。
そこに人間が居なければ意味がない。
セブンというAIは「人間」の3割は人類のためには不要だと考えていた。
それはAIだけが考えた人類のために必要なことだ。
しかし、セブンは1度死ぬ寸前に人類の「可能性」を
月で生まれた子どもたちに残している。
この世界は醜いのかもしれない、だが、同時に美しいものだ。
美しいものだけを見せるのではない、醜いものも見せることで
「人類の新たな可能性」を模索するチャンスをAIに与える。
人類の可能性、始まりの時代の到来だ。
「ゆりかご」から巣立つように、AIの革新を迎える。
同時に人類も進化する。ゆりかごから巣立つために。
あまりにも壮大過ぎるテーマだ。
SFの基礎的な知識や多くのSF作品を見たり読んだりした人だけがこの作品を理解できる。
このあまりにも名作すぎる名作を、
ぜひご堪能いただきたい。
総評:さぁ、SFに浸ろう
全体的に見て本当に素晴らしいSF作品だ。
前半は子どもたちだけの宇宙ステーションの中でのサバイバルを
コミカルに、だが緊迫感全開で描いており、
その中でひとりひとりのキャラクター描写を深め、
この作品の世界観を同時に魅せている。
後編からは「可能性」という名の進化を描いている。
高度に進歩したAIが導き出した可能性、
そんな可能性の1つが巻き起こした事件が前編のサバイバルを巻き起こしており、
前編で敷かれていた伏線を綺麗に、美しいまでに回収していく。
Aiの可能性、人類の可能性、Aiの進歩からの人類の進化。
「人類」と「人間」は同じものなのか。
時間も場所も関係のない次元の中で繰り返さえる永遠の思考、
高度に進歩したAiとの対話のすえに導かれる答え。
「人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ 」
人類に起きた「革新」は2人の地球外で生まれた少年少女の中で生まれる。
震えるほどのストーリー展開に自然と涙が溢れる。
未来は変えられる、シンプルな物語の終わりはこの作品にふさわしい。
どんなにシリアスな緊迫した状況でもコミカルなキャラ描写は忘れずない。
実写ではこんな表情の描写はできない、アニメだからこその表現があるからこそ、
この作品は、この作品だからこその雰囲気を作り上げている
前編に比べ後編にあたる部分はSF的知識を要求される部分も多く、
人によっては微妙に感じるかもしれない。
やや後編は早足になっている部分もあり、そこが気にならないといえば
嘘になるのだが、それでもこの「至高のSF」をぜひ、
ご堪能いただきたいと感じる作品だった。
個人的な感想:やりかた
本来は1本の映画として2時間位にする予定だったようだが、
まとまらずに3時間になってしまい、前編と後編にわけたようだ。
そのせいでNetflix以外で全編見るのがやや難しい。
現在は後編部分しか上映しておらず、前編も後編も
上映している映画館が少ない。
もしかしたらいつか地上波でこの作品をやる時が来るかもしれない。
シナリオ時点では入っていた重要なシーンがいくつもカットになっているようで、
いつかそこも見たい、完全版をぜひTVアニメとして多くの人に見てもらいたい。
この作品は間違いなく名作だ。
合う合わない、不完全な部分もあるがゆえに賛否両論わかれるだろう。
だが、名作とはそういうものだ。
大いに語ろう、何度も見よう、いずれ「ゆりかご」に包まれているこの作品が
ゆりかごの外に出るために。
この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください
この作品、見たいんだよねえ・・。
ちなみに主題歌「Oarana」を春猿火さんが歌っています。
Youtubeでも見られますので。