評価 ★☆☆☆☆(20点) 全120分
https://www.youtube.com/watch?v=9bUp95kxpqk
あらすじ 西暦2038年夏の日本。宇宙とロボットが大好きな少年・沢城ゆうまは、まもなく地球に大接近するという彗星に夢中になっていた。引用- Wikipedia
出来損ないのE.T
原作は月刊アフタヌーンで連載していた漫画作品。
監督は黒川智之、制作はゼロジー。
団地SF
この作品はジャンルで言えば「SF」な作品だ。
主人公である「沢渡 悠真」は昭和な風景の団地に住んでおり、
てっきり平成か昭和くらいの時代設計なのかと思いきや、
あたりまえのように主人公の家にはAIを搭載したロボットが存在しており、
家族の世話をしている。
昭和な風景っぽさを感じさながら、どこか未来館のあるガジェットの数々は
不思議な世界観を醸し出しており、
レトロな風景を感じさせつつも未来を感じさせている。
このアンバランス、二律背反な風景は面白いもののの既視感が凄まじい。
原作自体は2011年の作品だが、
2022年には団地を舞台にしたジュブナイル作品である
「雨を告げる漂流団地」があり、そのあとにこの映画が上映されてしまったしえで
どうにも既視感を感じてしまう。
昭和と未来的な機械の同居した設定も
『電脳コイル』という作品を彷彿とさせるものだ。
主人公はAIロボットである「ナナコ」に対して反抗的だ。
小学生が親に逆らうように、ロボットに対して思春期特有の
面倒臭さを発揮している。
彼がナナを嫌ってる理由は「人工知能を積んでる割に大したことがない」からだ。
たったそれだけでナナというロボットにきつくあたる
主人公にまるで共感できず、
しかもキャラクターデザインのせいで憎たらしさすら産んでいる。
キャラクターデザイン
この作品の最大の敗因は「キャラクターデザイン」かもしれない。
原作の絵とだいぶテイストが違っており、
鼻の頭が若干赤く染まっているデザインや芽の描写など
かなり癖があり、キャラクターたちが可愛いともかっこいいとも言えない。
日本のアニメというよりは中国や韓国のアニメと言われたほうが
納得できるほど、日本のアニメっぽさを感じないキャラデザになってしまっており、
外見的な「キャラクター」の魅力がまるでない。
原作のキャラクターデザインは可愛らしいデザインなのだが、
なぜアニメ映画にするにあたってここまで
原作のテイストを消すようなキャラデザにしたのか謎でしか無い。
人は見た目が9割じゃないが、このキャラクターデザインを
用いたキービジュアルで、「この作品が見たい!」と思う人が
どれくらいいるだろうか?
原作のキャラクターデザインは大人にも子供にも、
男性にも女性にも受け入れられそうなデザインだ。
しかし、アニメ映画のキャラクターデザインはかなり癖があり、
道徳の時間に流れるようなアニメのキャラクターデザインになっており、
子供向けを意識してるのかなんなのかよくわからなくなってしまっている
何も起きない
序盤の15分くらいは何も起きない。
主人公が宇宙に興味があり、AIにつらくあたっており、
こういう友達がいますという紹介的なシーンが淡々と続いてしまう。
そんな淡々とした展開からようやく物語が動き出す。
「ナナコ」の様子が突然おかしくなり、ナナコが宇宙からやってきたAIに乗っ取られる。
27年前に宇宙に帰れなくなった宇宙船のAIとコンタクトした主人公は、
彼を宇宙へと返すために奮闘する。
どこか「E.T」などを彷彿とするような展開ではあるものの、
宇宙船のAIの外見は「ナナコ」そのものであるがゆえに
E.Tのような外見的なインパクトはなく、
乗っ取られた展開も彼を宇宙へと返すために奮闘する展開も
非常に淡々としており盛り上がりに欠けまくる。
小学生が宇宙からきたAIと出会い、AIを宇宙に返すために奮闘する。
これだけ聞くと盛り上がりそうな要素はあるのに、一切盛り上がらない。
演出が淡々としており、カメラワークなどにもこだわりがなく、
結果的に「映像」が淡々としたものになってしまっており、
絵に迫力が生まれず盛り上がりも生まれない。
水をとおして宇宙の映像を見せたりなど
幻想的なシーンのはずなのに盛り上がらない。
要素としては盛り上がる要素がたくさんあるのに、
それを「映像」として見せられていない。
そのせいで出そうで出ないくしゃみのようなもどかしさを常に感じさせられる。
AIは嘘をつかない
テーマやストーリーとしては決して悪くない。
この作品の中に出てくる地球のAIはSHIIIという人工衛星に
搭載されたAIをコピーしたものだ。
しかし、23年前から存在するそれは「宇宙から来た宇宙船」の存在を
人間に隠している。
AIは人間に嘘をつけるのか?という
SF部分のストーリーは純粋に気になるのだが、
同時に描かれる小学生な彼らの家庭環境や
学校での立場や友人関係などのストーリーがノイズでしかない。
どうでもいい小学生の事情のために
宇宙船のAIの一部を巡る騒動が起きたりする。
メインキャラの姉と途中から宇宙船のAIの一部をもっている
女の子の仲がわるく、そのせいでAIの一部を譲ってくれない。
その不仲の原因もどうでもよく、無駄に話の腰を折られる。
メインキャラの姉も物語中盤でクラスからハブられてたりしたが、
その後どうなったかなどは描かれない。
描かれないならそのエピソードに意味があったのかすら不明だ。
メインキャラの姉が、ただひたすら嫌なキャラでしかなく、
不快感しか感じない。
大人
小学生同士の関係性の描写なども浅く、
女の子同士にありがちなグループ問題や仲間はずれ問題など
ものすごくどうでもいいうえに描写も浅い。
SNSでのつながりやSNS批判などのようなものもあるのだが、
不快感のある喧嘩しか描写されておらず、面白みも何もない。
そのせいで、メインのSFストーリーは悪くないのに、
それを綴る「メインキャラ」に魅力がうまれておらず、
メインのストーリーがまるで進まない。
映画の尺は120分もあるが、このどうでもいいいざこざを削って
90分くらいにまとめれば印象は変わってきそうだが、
どうでもいい小学生同士のいざこざが作品の足を引っ張っている。
彼らの親も実は27年前に宇宙船のAIと出会っており、
そのときに色々といざこざがあったというエピソードも描かれるが、
これも心底どうでもいい。
終盤にコアが3つ集まり、あとは必要なのは水だけだ。
30トンの水というのはとんでもない量ではあるものの、
それを小学生とAIで集める。
これも淡々と水を集めるだけで、映像的な面白みもなく、
本当に淡々とストーリーが展開してしまう。
本来なら面白くなるはずのに、本来なら盛り上がるはずなのに、
いつまでたってもそうならないのがこの作品だ。
宇宙人の正体
彼らは遠い宇宙に存在した海底の知的生命体だ。
そんな彼らが「知りたい」という欲求を叶えるために
バイオコンピューターをばらまいている。
地球に来た宇宙船も同じく「知るために」この星にやってきている。
そんなAIとの交流のはてに感じる友情、だが別れはやってくる。
AIという題材を用いているものの基盤にあるのは「E.T」だ。
そんな中で「AI」というものがこの作品の特徴ともいえる。
スタンドアローンな宇宙船のAI、嘘をつかないはずのAIが嘘を付き、
自らにバグがあり、不具合がある「ナナコ」は
宇宙から来たAIと繋がったことで変化している。
しかし、変化してしまったことで他のAIとは変わってしまっている。
「アップデート」されてしまえば今の彼女とは違う。
AIにとってのアップデートとは変化ではなく、上書きだ。
高度に発展し人格を持ち、自意識を持ったAIにとっての
「死」とはなんなのだろうか?という点を描いている。
AIではあるものの「消えたくない」という思いを抱えている。
AIでありながら「死」を感じる。
それゆえに生存本能が働く。
たとえ仲良くなった主人公と別れることになっても、生き残る道を選ぶ。
嘘をつけるようになり、自意識に目覚めたAIにとっての
「死」と「生存本能」の描き方はこの作品だからこその面白さを感じさせてくれた。
ただラストの盛り上がりも映像的に微妙だ。
ペットボトルロケットを用いた小学生らしい行動などは悪くないものの、
徹底的に見せ方が悪い。
本来は彼らの親世代の活躍も原作ではもっとあるようなのだが、
120分も尺があるのに映画ではそこも描けていない。
徹底的に見せ方が悪い作品だった。
総評:アニメとして致命的な見せ方の悪さ
全体的にみて基盤となるストーリー自体は悪くない。
ETでもやった古典的なベタなSFストーリーではあるが、
宇宙から飛来して帰れなくなったAIを小学生たちが奮闘しながら
宇宙へと返すというストーリー自体は面白く、
そこにこの作品だからこそのAIの成長と変化と旅立ちが描かれている。
しかし、それを綴るキャラクターの見せ方が悪い。
原作からかなり印象が変わったキャラクターデザインは
可愛いともかっこいいとも感じないデザインになってしまっており、
大人向けなのか子供向けなのかいまいちターゲットを
どこにさだめてるのかわからない。
子どもたちのそれぞれの事情もどうでもいい感じのエピソードが多く、
特に女性キャラクターのエピソードは話の腰を折るだけだ。
クラス内のちょっとしたいざこざやSNS問題なども盛り込んでいるが、
盛り込んでいるだけでそこを掘り下げるわけでもなく、
メインキャラの姉はハブられたままで終わっており中途半端だ。
アニメーションとしての盛り上げ方も甘すぎる。
要所要所にきちんと展開的には盛り上がってるシーンがあるのに、
それを映像として盛り上げきれていない。
そのせいで淡々としたストーリーに感じやすく、
ただでさえ感情移入しにくいキャラに愛着も感情移入もできず、
ストーリーを平坦に感じてしまい、
最後のAIとの別れにも何の感情も湧き上がらない。
120分というしっかりとした尺でありながら、
メインキャラの親世代の活躍など原作では描かれてる部分も描かれておらず、
その割にはテンポが悪い。
ストーリーや要素自体は面白そうなのに
「アニメ映画」という媒体での見せ方の悪さが
作品全体の足を引っ張ってしまった印象の残る作品だった。
個人的な感想:爆死
興行収入もかなりやばかったようで、ネットで調べても
公開から3日で1000万ほどしか稼げなかったという情報しかでてこない。
作画のクォリティはそれなりに高いものの、
そのクォリティを活かせておらず、そのせいでPV映像を見ても
「面白そう」という感想が出てこない作品だ。
PV映像が駄目でも本編が面白い作品はいくつがあるが、
この作品はPV映像からなんかダメそうだなという感じが漂っており、
そのままの映像がお届けされる。
主人公を演じているのもいわゆる芸能人声優であり、
演技はできていると思うのだが、
「小学4年生の男の子」の声には聞こえず、
なれるまで時間がかかってしまう。
いわゆる爆死してしまったのも納得だ。
ストーリー自体は悪くなかっただけに、キャラデザにしろ、
盛り上がらないシーンの数々にしろ、
監督か制作会社が違えば面白くなった作品だったかもしれない。
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