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全員身勝手、だって猫と人間だもの「化け猫あんずちゃん」レビュー

化け猫あんずちゃん 映画
©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
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評価 ★★★☆☆(41点) 全94分

映画『化け猫あんずちゃん』<特別映像オープニング編>【2024年7月19日公開】

あらすじ 南伊豆・池照町の一角にある草成寺で飼われていた猫、あんずちゃんは、10年、20年経っても死なず、30歳を過ぎて化け猫となっていた引用- Wikipedia

全員身勝手、だって猫と人間だもの

原作は「コミックボンボン」で連載されていた漫画作品、
単行本はわずか1巻しかでておらず、2006年に連載されていた作品だ。
監督は久野遥子、山下敦弘、制作はシンエイ動画、Miyu Productions

ロトスコープ

この作品はかなり挑戦的なことをしている。
日本のシンエイ動画と、フランスのMiyu Producitonsが
共同制作しているという時点でだいぶ挑戦的だが、
ほとんどのシーンを実写で撮影した後にアニメにする、
いわゆるロトスコープを採用している。

一部ではなく、ほぼ全編というのがこの作品の特徴でもあり、
それだけに何気ないシーンでもぬるぬるとした動きを見せている。

この作品は序盤から中盤まで激しいアクションシーンなどが
あるわけではない、田舎での日常だ。
そんな日常の中でのキャラクターのちょっとした動きでさえ
ぬるぬるとしている。

ちょっとした関節の動き、普通の手書きのアニメやCGのアニメなら
省く動きでさえロトスコープで詳細に取り込むことで、
実写のような演技そのままのアニメーションになっている。

ただ、それが利点かと言われると難しいところだ。
確かにぬるぬる動いている、
しかし、ここまでやってしまうとアニメではなく
実写映像そのままのほうが良かったのでは…?と感じてしまう部分もある。

滑らかな動きは素晴らしいものがあるものの、
二人いる監督のうちの一人が「カラオケ行こ!」などを
手掛けた山下敦弘さんだからということもあるかもしれないが、
妙に長回しなシーンが多い。

普通のアニメだったら、ここでカットが入る、
そう感じるシーンがところどころあり、
実写映画的なニュアンスが多分に含まれている。

一部のシーン以外を実写で撮影し、
キャラクターを演ずる声優さんたちにそのまま演技させ撮影し、
その場でセリフも収録しているようだが、
そのせいか録画した場所の「環境」を感じる部分も多い。

木造建築の古い建物の家の中、
そんな場所だからこその「反響」があるせいなのか、
妙にセリフが響いて聞こえてしまう部分もある。
それがリアルともいえるのだが、違和感にも繋がる。

実写映画をアニメ絵に変えた、
かなり挑戦的なことをしているのはわかるが、
挑戦的なことであるがゆえに違和感はかなりある。

化け猫

この作品、ファンタジー色もかなり強い作品だ。
とある田舎のお寺の住職が拾ったネコ、
そのネコはなかなか死なず、いつしか化け猫となり、
二足歩行で歩くようになり喋るようにもなった。

ついでにいえばバイクにも乗るし、酒も飲むし、パチンコもする(苦笑)
見た目がネコだからこそ、37歳という年齢のままの
おじさんな雰囲気が可愛さと面白さを産んでいるものの、
かなりシュールだ。

そんな彼を多くの人が自然に受け止めている。
田舎の村ではもちろん、東京に行っても珍しがられたりするわけでもなく、
唯一、彼に対して違和感を感じているのが
「かりん」という少女だ。

彼女はお寺の住職の息子である「哲也」の子供であり、
3年前に母をなくし、父は借金をおい、実家に頼って此処まで着ている。
父は借金を返すために東京に戻り、
彼女だけが祖父の家に預けられている状態だ。

母の命日までには帰ってくる、そんな父は約束を守らず、
彼女はどこかで捨てられたと感じ、居場所がない。
都会で育った彼女にとって田舎は自分の居場所ではない、
祖父であるはずの住職との仲が深まるわけでもなく、
化け猫との関係性が深まるわけでもない。

幼い少女にとって両親が居ないという状況は厳しいものがある。
なんとかお金をためて、父を探しに行きたい、
母の墓参りをしたいという思いが強まってくる。

そんな彼女だからこそ、どこかひねくれている。
したたかに同い年の子供を操り、
自分の世話係に任命された化け猫をうざがっている始末だ。

東京に行くために電車に乗ってみたり、
化け猫の自転車を捨てたりするものの、うまくいかない。
そんな都会から着た少女が化け猫との出会いや交流を経て
変わっていく物語…かと思いきやそうではない。

中盤からはかなり予想外な展開になっていく。

地獄

化け猫がいる世界だからこそ、色々な妖怪の類や神様なんてものもいる。
化け猫や妖怪は人にも見えるようだが、神様は人間には認識できないようで、
物語中盤で「貧乏神」が彼女に取り付こうとする。

当然、化け猫であるあんずちゃんはそれを止めようとするのだが、
彼女は交換条件を出す。
「もう1度お母さんに会いたい、会わせてくれたら自分に憑いてもいい」
そんな条件を貧乏神は受け入れてしまう。

すると、化け猫と彼女とともに地獄へと向かうことになる。
かなり突拍子もない展開だ。
そもそも、私が記憶する限り、
彼女の母親がなぜ亡くなったのかというのは明言されていない。

病気なのか事故なのかはわからないが、
彼女の母親は生前は悪いことをしないようないい人そうに見える。
しかし、なぜか彼女の母親は地獄で働いている。

地獄で拷問を受けているわけではなく、部屋の清掃などをしており、
天国からの派遣なのかなんなのかわからないが、
貧乏神も特に調べもせずに彼女の母親の場所に連れて行ってくれる。
そんな母と再会するものの、彼女は母を地獄から連れ出してしまう。

色々と展開がぶっ飛びすぎてこのあたりから話についていけなくなる。

地獄から現世に死者を自由につれてきて言い訳がない。
地獄の住民たちが、彼女たちを追ってやってくる。
そんな中での逃走劇がえがかれ、このあたりは
コミカルなアクションシーンが描かれており、
映画の盛り上がりどころにもなっている。

しかし、結局、捕まってしまう。
途中で彼女が出会った妖怪たちも助けに来るのだが、
特に役に立つわけでもなく、捕まったら彼女もろとも
地獄に落とす勢いで地獄の住民は襲ってくる始末だ。

そんな中で彼女の母親が地獄に帰ることを告げる。
ただ帰って、もとの掃除係に戻るわけではない、
母は地獄に帰れば「ひどい目」に合うことが示唆されている。

あの世が刑務所だとすれば、彼女の母親は脱走犯だ。
現世に戻るというルール違反を娘に流されるまま犯し、
結果的に娘を守るために、ひどい目にあってしまう。

これでいいのだろうか?
最後は笑顔でお別れしており、
彼女が母が生前のときにはできなかった
逆立ちをみせて終わるのだが、彼女が母を地獄から連れ去らなければ
母は地獄でひどい目に合うことはなかった。

ものすごいもやもやしてしまう。
しかも、ラストもモヤモヤだ。

え?

彼女の父親は終盤に借金を返し戻って来る。
祖父である寺には一時的に預けてたの過ぎず、元の家に戻ろうとする。
しかし、田舎での生活、化け猫との暮らしに彼女は
自分の居場所を見つけてしまった。
だからこそ、父と離れ離れになる。

ちょっと意味がわからない。
これで高校生くらいの子なら少し早いが自立ともとれるのだが、
彼女は小学生だ、そんな小学生の女の子が
借金を背負って子供を実家に預けるようなクズな父親だとしても、
離れ離れになっていいのだろうか。

父親は彼女を愛していないわけではない、愛してるからこそ迎えに来た。
それなのに一緒に田舎で暮らすならともかく、
離れ離れになって終わるラストはモヤモヤが凄まじい。

父親の借金の原因、母の死因など気になるところも多く、
消化不良で終わってしまう作品だった。

総評:全員身勝手

全体的に見て色々と引っかかる作品だ。
ロトスコープを利用したアニメーションのヌルヌル具合は凄まじいが、
そこにアニメ的な「冷や汗」の演出がのっかってきたり、
実写映画のように妙に長回しなシーンがあったり、
環境によって音が妙に響く部分など気になる所も多い。

ストーリーも消化不良が凄まじい。
亡くなった母親に会いたい女の子が地獄に行く、
このストーリーが中盤から急に展開してしまい、
結果的に彼女が地獄に行ったせいで母親は酷いバツを
受けないといけなくなる。

基本的にメインキャラが自分勝手なクズばかりだ。
主人公の父親は借金を背負い娘を実家において長い間でかけてしまう、
娘は娘で他人の前ではネコを被りながら、
「死ね」などの言葉を多用し、ルール違反を犯し、
母を地獄でひどい目にあわせてしまう。

化け猫である「あんずちゃん」も確かに
シュールな魅力のあるキャラクターではあるものの、
彼女のお金をパチンコで勝手に溶かしたりとクズな面もあり、
どうにも愛着が持てないキャラクターだ。

本来は息子の娘である「かりん」に対して
祖父である和尚ももっと寄り添ってもいいはずなのだが、
妙にドライな感じがある。

詳しく調べた所、原作にはそもそも「かりん」は存在しない(苦笑)
和尚と化け猫であるあんずちゃん、そしてかりんの父である
「哲也」はでてくるものの、哲也はプロレスラーになるといって
家を出たようだ。

そう考えると原作の後日譚的な立ち位置で
作られた作品なのかもしれないが、
原作にはないキャラである「かりん」をメインにしたのはいいが、
化け猫であるあんずちゃんとうまく絡めることができず、
中盤からは地獄という唐突な展開になるのも納得できる部分がある。

やりたいことはわかるものの、
全体的にとっ散らかっている印象も強く、
ロトスコープを使ったリアルな映像表現をしつつ、
妖怪や地獄などのファンタジーな要素も多い、
そのあたりもどっちつかずだ。

アニメではなく実写でやったほうが
話題になった作品ではないかと感じてしまう部分もある作品だった

個人的な感想:ターゲット

ターゲット層はどこを意識しているのだろうか?
大人向けと考えると話のツッコミどころや消化不良な部分も多く、
子供向けと考えると「かりん」の死ねを連呼する言葉遣いなど
気になる部分も多い。

そのあたりもどっちつかずになっている感じが否めず、
オタク層も一般層も家族層もカップル層も、
どの層も取り込めずに終わってしまっているような作品だ。

興行収入的にも厳しい部分があり、
興行収入の正確な数字がでないレベルだ。
そんな興行収入になってしまうことも納得できる部分が多く、
色々と挑戦的な部分はあったものの、
それがうまくハマりきらなかった作品なのかもしれない

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