あらすじ 女・成瀬順は、幼い頃に憧れていた山の上のお城(実はラブホテル)から、父親と浮気相手の女性が車で出てくるところを目撃し、それを「王子様とお姫様」の話として母親に話したことにより両親の離婚を招いてしまう。引用 – Wikipedia
甘酸っぱさとほろ苦さ、オレンジみたいな青春アニメ映画
再集結して作られたオリジナルアニメ映画作品。
監督は長井龍雪、脚本は岡田麿里、制作はA-1 Pictures
見だして感じるのは意外と「えぐい」ストーリーだろう。
さすがは「岡田麿里」というか、
この「心が叫びたがってるんだ。」というタイトルや良く変、
キービジュアルからは想像することのできない物語の始まりだ。
なにせヒロインが「親の不倫現場を目撃」するところから始まる。
夢見がちな少女が丘の上にある「お城(ラブホ)」に憧れ、
そこから出てきた「父親」をたまたま目撃し、
それを嬉しそうに母親に報告してしまう。
ラブホテルという場所の意味を知らない
無垢な少女の純粋な気持ちが産んだ不幸、
きっかけは純粋な気持ちだったはずなの両親の離婚につながり、
それは彼女の強いトラウマになってしまい、
声が出せなくなってしまう。
思わず「ズキッ」っとしてしまうようなシーンだ。
少女の純粋な気持ちに対する大人の本音、
ヒロインの心が抉られるのが見ている側にも伝わり、心が痛む。
画面の切替や、カメラアングルによる演出で余計にその心理描写が強くなっており、
ヒロインの過去が開始5分でしっかりと描かれることで、
物語の世界観にすんなりと自然に入り込むことができる。
そして彼女が言葉を失うと同時に
「心が叫びたがってるんだ。」というタイトルが映し出される
この憎い演出はおもわずにやけてしまうほどうまい。
演出の巧さというのをこの作品の冒頭でしっかりと実感でき、
その演出の巧さは作中で何度も感じることができる。
女性キャラクターの何気ない会話の中での視線、
メインキャラクターの名前と紹介の仕方、
声が出せない少女の「文章」による心の叫びの描写、
主人公に恋をする女の子の寂しそうな「うん」の台詞のあとの空の描写etc…
書き出したらきりがないうえに、本当にさりげない演出ではあるのだが、
そのさりげない演出がシーンの中で効果的に作用し、
その演出がより物語への没入感を深め、理解を深め、
素直にストーリーを「受け入れやすく」している
そして、そんなストーリーが甘酸っぱい。
口の中にオレンジをつめ込まれたような「恋愛描写」は
ベタベタではあるのだが、なんとも憎い。
はっきりいってしまえば私は年を感じてしまった、
この映画を見るには私は年老いすぎたと感じてしまうほど甘酸っぱさだ。
主人公が楽器を引きながら即興で歌をうたう、
そんなシーンをたまたま目撃してしまうヒロイン。
放課後の音楽室でピアノを引いている女子に憧れる男子の
逆バージョンのシチュエーションなのだが、
性別が逆だからこその新鮮さと、
主人公の気取らない歌、それを目撃し家で思わず口ずさんでしまうヒロインと
なんとも青春だ(笑)
神社でLINEのようなメッセージアプリで会話をしあう。
そんな光景が恐らくは20代後半以上には甘酸っぱすぎるが、
10代後半から20台前半の人にとってはストレートに
ニヤニヤできるシーンになっている。
同じスタッフの「あの花」は20代後半以上から30代前半くらいが
視聴者のターゲット層だったのだろう。
しかし、この作品はそこから視聴者層を下げることで
1つの「青春アニメ映画」として素晴らしい物に仕上げている。
なんともストレートだ、なんとも甘酸っぱい。
気恥ずかしすら感じかねないシーンとストーリー展開と描写、
それがまっすぐに見ている側に「突き刺さる」演出がされることで、
その甘酸っぱさを感じると同時に
キャラクターたちの心理描写が見ている側に伝わる。
トラウマがきっかけで閉じこもっていたヒロインが主人公と出会い、
交流を深める中で「歌」を通じて声を出せることをしり、
きっかけをくれた主人公に対し恋心を抱く。
序盤から中盤までは「岡田麿里」脚本とは思えないほど、
ストレートで甘酸っぱく自然な青春映画だ。
しかし、そう思わせといて突き落とすのが「岡田麿里」という脚本家だ(笑)
せっかくどストレーだったのに、
せっかくヒロインと主人公の関係性が順調に見えたのに、
せっかくハッピーエンドが見えてきたのに、
「岡田麿里」という脚本家はそんなヒロインを叩き落とす。
ラストに向けてのもう一盛り上がりとしての展開であり、
そういう「伏線」は十分にあった。
しかし、それは「ヒロイン」が自らの殻を破るために必要なことでもあり、
本当に「心から叫ぶ」シーンに繋がる。
全体的に見て素晴らしい作品だった。
ストーリーはまっすぐに青春で、「岡田麿里」という脚本家らしい部分はあるものの、
逆にその「岡田麿里」という脚本家らしい部分があるからこそ、
この作品は単純に甘酸っぱいだけの青春アニメではなく、
ほろ苦さを含んだ映画作品に仕上がっている。
2時間という尺を本当にふんだんにつかっている。
本来は1クールのTVアニメとして描きたいという部分もあったのだろうが、
その「描きたい部分」を1から10まで描写するのではなく、
演出の中で視聴者にさとらせ、ストーリーの中に無駄なく、
制作側がやりたかったことを落とし込んでいる。
見終わったあとにもう1度見返すと、
ラストのあの「オチ」に繋がる伏線がきちんとある。
逆にラストのオチを知って見返すと、
その伏線がしっかりと感じられ、そのシーンでニヤついてしまう。
細かい演出が光り、その演出がストレートなストーリーを
きっちりと「王道」な面白さに仕立てあげ、
細かい演出が合ったからこそ「岡田麿里」という脚本家の癖が、
欠点にならず、効果的に作用していた作品だ。
ただ、「岡田麿里」脚本に叩き落とされたのが納得出来ないという人もいるだろう。
王道のままの結末とはいえない、
この結末がしっくりとこないという人もいるだろう。
「王道かと思った!?残念、一捻りありました!」的な感じは
確かに賛否が別れるところだ。
個人的にはエンドロール中に後日談的なシーンが
少しあればよかったなと感じてしまった。
淡々と出演者やスタッフの情報が流れる中、流れるアイドルの曲というのは
なんともシュールだった(苦笑)
ついでにいえば甘酸っぱくほろ苦い青春映画は
20代前半までだなと若干、自分の年齢を実感させられてしまった。
ある意味で「岡田麿里」脚本展開があったからこそ、
面白かったと最後まで思い続けられたのかもしれない。
最後まで甘酸っぱさ全開だったならば悶絶死していたかもしれない(笑)
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