日常

「けいおん!」レビュー

日常
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評価 ★★★★☆(60点) 全12話

けいおん!! アニメ2期紹介PV

あらすじ 田井中律は一緒に入学した幼なじみの秋山澪とともに軽音部の見学に行こうとするが、部員が前年度末に全員卒業してしまったため、4月中に新入部員が4人集まらなければ廃部になると聞かされる。引用- Wikipedia

日常アニメの金字塔

原作はまんがタイムきららで連載していた漫画作品。
監督は山田尚子、制作は京都アニメーション。

4:3

レビュー冒頭から余談になってしまうが、
この作品を約10年ぶりに見返して驚いたことがある。
画面比率だ(笑)

この作品は2009年のアニメ作品であり、
この当時は地上波放送は4:3でBDやDVDなどでは
16:9のハイビジョンになるというのが多かったが、
改めてけいおんを見返して4:3の画面が出てきたときはちょっと驚いてしまった。

それほど「けいおん」という作品が放送してから月日が経ったのだと
どこか感慨深ささえ感じさせてくれる。
今でも「配信サイト」などでは地上波放送版と同じ4:3で配信されており、
フルサイズでみたければDVDを買えという当時の名残を強く感じる。

日常アニメといえば「けいおん!」と代名詞の1つにもなっている作品だ。
そんな日常アニメの代表格の本作品の冒頭はベタ中のベタだ。
高校生な主人公が朝起きて慌てて登校する。
古今東西のアニメ作品においてこれほどベタな始まりはない。
しかも、口には「ジャムトースト」まで加えている。

社会現象になるほど大ヒットしたけいおん、
そんな「けいおん」の始まりはベタだ。
ベタな始まりからのOP、このOPはけいおんの代表曲の1つである
「Cagayake!GIRLS」が流れる。
キャッチーな歌詞とリズムカルな曲は1回聞けば頭にこびりついてしまう。

アニメーションのクォリティも流石の一言だ。
主人公である「平沢唯」の登校シーン、この登校シーンだけで
彼女が「どういうキャラなのか」というのを印象付けている。
長いセリフや説明描写ではなく、キャラクターの「動き」や「表情」だけで
キャラクター一人一人の印象がみているだけで残る。

朝寝坊し、ジャムトーストを加えて投稿するドジな彼女。
そして軽音部に入ろうとしている幼なじみな「秋山澪」と「田井中律」、
この二人の「足」だけをあえて映すフェチズムさを感じさせつつ、
二人のさりげない会話で二人のキャラを印象付ける。

更にもう一人の「軽音部」の部員である「琴吹紬」
彼女はいわゆる「お嬢様」だ。
そんな家庭環境だからこそ普通の高校生として二人と放課後を過ごす姿が可愛らしく、
何も言わずとも彼女が「お嬢様」であることも感じさせてくれる。

細かいキャラクターの表情の描写がキャラクターそのものの印象にもつながる。
京都アニメーションだからこその細かい描写と、
この作品で初監督であった「山田尚子」監督の女性キャラクターの
表現の凄さを1話でひしひしと感じることができる。

そんなアニメーションの凄さを感じさせつつ、
丁寧なストーリーをテンポよく見せてくれる。
学期の経験などまるで無い主人公が、軽い音楽という勘違いで
廃部寸前の「軽音部」にはいるというところから物語が始まる。

ギター

主人公である「平沢唯」は学期の経験もなく、ギターのギの字も知らない。
当然ギターも持っていない。本当に初歩の初歩から彼女は
「ギター」というものをやり始めようとしている。
そんなギターを買うという過程に至るまでも、この作品は遠回りする。

ギターを買いに行くはずなのに買い物をしたりお茶をしたり。
目的を忘れて「日常」を楽しむ姿はこの作品の良さでもあるが、
まどろっこしいと感じる人もいるだろう。

彼女は楽器店で「25万」もするギターに一目惚れする。
お小遣いを前借りしてなんとか5万用意しているものの、
25万のギターなんて到底買えない。
だからこそ、みんなでバイトをしてお金を稼ぐ。

彼女たちが「高校生」だからこそのお財布事情と、
バイトという高校生の日常を描くことで、
よりメインキャラクターたちの印象と視聴者の感情移入を強める展開だ。
今でこそベタな展開だが、昨今の日常部活アニメのテンプレートを
生んだと言っても過言ではない積み重ねる流れだ。

4人の関係性を深めつつ、この4人でバンドをやりたいとみんなが思う。
その過程が微笑ましいものの、ご都合主義は目立つ。
なにせ25万のギターが5万になる(苦笑)
初心者が25万のギターを買うというのも突っ込みどころだが、
それがさらに大幅値引きで5万になるのはかなりのご都合主義感がある。

そういったご都合主義感のある部分は否めないものの、
彼女が始めてギターを手に入れ、アンプに繋いでかき鳴らしたときの
「感動」は見る側にも伝わってくる。

練習?

この作品の最大の問題点といえるのが練習シーンの少なさだ。
序盤こそコード練習したりしているものの、
序盤をすぎると、そのコード自体を試験勉強のせいで忘れたり、
呑気に合宿しに行ったりと日常が描かれる。

彼女たちは別に目的があるわけではない。
バンドを組んでメジャーデビューしようと思ってるわけでも、
廃校の危機を救うためにバンド大会で優勝しようとかそういう話ではない。
あくまで彼女たちがやってることは部活であり「趣味」だ。
「青春」という限られた日々を謳歌してるに過ぎない。

「武道館公演」という目的を掲げるものの、
彼女たちにとってそれは「夢」であり現実ではない。
しかし、それでも「夢」を見ようとしている。
かつての軽音部のように、バンドとして形にしたい。
不真面目に見えて彼女たちは真面目だ。

日常が前面に描かれているせいもあって
いつのまにかギターの技術が超絶上がっている「平沢唯」など
ご都合主義はかなり気になるところではある。

ただ練習風景を描いても地味なだけだ、あくまでそこは
見えないところでやっていたという「脳内補完」をして、
彼女たちの日常という名の青春を楽しむ作品だ。

この作品は日常部活アニメであって音楽アニメではない。
練習しているシーンよりも
お茶を飲んでいるシーンのほうが印象に残ってしまうほどだ。

学園祭

中盤になると学園祭に出ようという話になる。
その際にゴタゴタは少なからずあるものの、大きな問題にはならず、
基本的にはコメディでサクサクと解決していく。
そんな中でいつの間にか彼女たちのオリジナル曲が出来ている。
いつの間に出来たんだと突っ込むのは野暮である(苦笑)

誰がボーカルをやるのか、歌詞をどうするのか。
軽いノリで決まっていく感じはこの作品らしく、
同時に「ギターを弾きながら歌うことの難しさ」なども描きつつ、
本番を迎えるものの、肝心の主人公は練習のし過ぎで声がガラガラだ(笑)

真面目なんだか不真面目なんだか、見てるこちら側の予測を
キャラクターたちの天然さがふりまわしていく。
彼女たちの初ライブの衣装もややふざけてさえいる。
いわゆる「萌え」な衣装だ。
だが、そんな萌えと同時に彼女たちの成長も見える。

1話の時点ではバンドの形さえ、主人公である唯はギターさえ弾けなかった。
そんな彼女たちが半年の月日を経て「バンド」という形でライブを披露する。
なお一人はハスキーボイスのままである(笑)
1クールの6話という中盤の山場で彼女たちの初ライブが描かれる。

PVのような映像が差し込まれるのはやや謎ではあるものの、
きちんと「オチ」までついた6話は序盤からの
積み重ねが生きており、ある程度の「リアリティ」を捨て、
彼女たちの日常と物語を描くという方向性が中盤から見えてくる。

時間の流れ

この作品は後に出る日常部活アニメと比べると
「時間の流れ」というのがやや早い。
他の日常部活アニメが1クールで1年ほど経過することが多いが、
この作品は中盤の時点で学園祭の秋をむかえ、次にはもうクリスマス、
その次にはもうあっという間に春である。

これは「中野梓」を早く登場させるためのものであることはわかるもの、
この時間経過の速さには驚くところだ。
8話の時点で1年の月日があっという間に経過し、
主人公である「唯」の妹も同じ高校に入学し、更に新年生が入ってくる。
彼女たちに「新入部員」が訪れる。

2年生になった彼女たちのもとに1年生である「中野梓」がはいる。
彼女はある種のツッコミだ。
音楽室でお茶を楽しんでいる状況や、ろくに練習しない彼女たち、
先生すらもその状況を許容している。
視聴者が8話まで感じていたことをまっすぐに突っ込んでくれる。

8話まではツッコミが少ない、秋山澪はツッコミ役とも言えるが
他の3人のボケに流されてしまうことが多かった。
そんなメインキャラにツッコミが更にひとり増えることで、
キャラクターのバランスが整うような印象だ。

しかし、そんなツッコミすら流されてしまう。
この作品は真面目に音楽をする作品ではなく、
あくまでも彼女たちの日常を楽しむ作品ですよと
制作側が伝えるような新キャラの加入だ。

学園祭part2

中盤から更に時間経過が早くなる。
序盤は1話から6話までで春の入学から学園祭に至っていたが、
中盤はクリスマス、正月を描いて更に学園祭までを7話から12話で描いている。
細かい部分の描写やエピソードをガッツリと省きつつ、テンポよく物語を展開している。

そしてラストの学園祭。
また「唯」の不調という展開になってしまうのはかったるい部分がある。
話としての盛り上がりを作るために日常の中のイベントとして
「風邪」などが使われるのはあるあるではあるものの、
1回目も2回目も似たようなトラブルに見舞われるのはやや違和感がある。

しかしながら1クールで「平沢唯」の成長と変化、
バンドとして形になったラストは1クールの盛り上がりとまとめを生んでおり、
1話では彼女が「パン」を咥えながら登校していた彼女が、
夢中になれるものを見つけギターを背負って登校する変化。

「みんな唯が大好きだよ」という彼女の一言は視聴者の思いを代弁するかのようだ。

総評:けいおんがなぜ、社会現象になったのか改めて考えてみる

全体的にみて10年ぶりに見返して色々と気付かされる作品だ。
当時は「中身がない」などと批判されることもあった作品だが、
この作品にはキャラクターたちの「日常」という中身がしっかりあり、
1クールで何もなかった「平沢唯」という少女がなにかを手に入れる
ストーリーがきちんと描かれている。

音楽アニメとしてみると楽曲のレベルの高さやキャッチーさは
魅力的である一方でギターを始めたばかりの主人公が弾くには
あまりにも難易度が高い曲も多く、作中での練習風景の少なさもあって、
そのあたりの「リアリティ」はかなり薄い。
技術面でのツッコミや批判があるのも納得できる部分ではある。

ただ、あくまで彼女たちは「部活」として楽しくやってるだけだ。
プロになりたいと思ってるわけでもなく、ただ、部活の活動をしている。
だからこそ、その技術面でのツッコミは野暮だ。あくまでも
青春の1ページ、もしかしたら10年後には楽器を手放してるかもしれない。

それでもいい、今を楽しく、仲間と音楽をやれればいい。
そういうニュアンスであくまでも女子高生なキャラクターたちの
日常の中に「音楽」というものがあるだけだ。そこは本筋であるようで本筋ではない。
だからこそ、この作品はヒットした部分もあるのだろう。

あざとささえ感じる「萌え」は好みが分かれるところだが、
山田尚子監督だからこその女性の視点でも描かれたキャラクター描写と
京都アニメーションによるぬるぬるな作画が、
男女問わず「けいおん!」というキャラクターの魅力を感じさせ、
彼女たちが楽しそうにやっている「楽器」に興味を持つ。

当時はまだニコニコ動画が元気な時期であり、
同じ京都アニメーション制作の「涼宮ハルヒの憂鬱」の中で
描かれたライブシーンの影響もあり、歌ってみたや
弾いてみたの動画が大量に投稿される中で、
この作品がそんな「音楽」そのものに着目したおかげで、
より、その土壌が拡大したような印象だ。

リアルに「音楽」そのものを描いてしまえば、
ここまでヒットしなかっただろう。
リアリティラインを下げて、ライトなノリにすることで、
見ている人がやってみたいと思う「導入」を生み、
曲が大ヒットしMステのランキングに入ってきてタモリさんを困惑させるような
作品に仕上がったのだろう(笑)

「らきすた」で日常アニメの土壌を作り、
「涼宮ハルヒの憂鬱」でライブシーンの魅力を伝え、
「けいおん!」でそれを全開に描いている。この流れもヒットした要員だ。

けいおんが無ければ今現在に続く数々の部活日常アニメは
生まれなかったといっても過言ではないほど社会現象になり、
涼宮ハルヒの憂鬱の声優のソロデビューブームの流れから、
けいおんの声優ユニットデビューブームの流れが生まれ、
アイドルアニメブームにもつながっている。

当時は中身がない、技術面の違和感など色々とあったが、
そのいい意味での中身の薄さや技術の上達の練習をがっつりと
描かなかったからこそ「けいおん!」という作品は
ここまでヒットしたのかもしれない。

もちろん、根本はキャラクターの可愛さという名の萌えだ。
今は「萌え」という言葉自体がやや廃れている印象があるが、
2009年という今から10年以上前の時代だからこそ、
そんな「萌え」な日常アニメが多くな人に受け入れられたのだろう。

個人的な感想:久しぶりに

いま見てもふるさを感じる部分は少なく、
唯一感じるのは画面の比率くらいだ(笑)
久しぶりに見ると楽曲の懐かしさも相まって、
けいおんの面白さを改めて感じられるかもしれない。

この作品がヒットしなければ、後に続くきらら系アニメも生まれず、
令和のけいおんとまで言われた「ぼっち・ざ・ろっく」も
生まれなかったかもしれないと思うと、
感慨深さをひしひしと感じられる作品だった。

今は配信されて普通に見れるが、
個人的には彼女たちが「ライブハウス」に出演する特別回が
好きなだけに、当時、TVアニメの部分しか見ていなかったという人も
ぜひ、特別編の14話を見てほしいところだ。

「けいおん!」は面白い?つまらない?

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