大人のためのピクサー映画
ピクサー製作のフルCGによるアニメーション映画作品。
見出して感じるのは「アメコミ」っぽいな~という印象だろう。
この世界のヒーローのインタビューから始まり、そんなヒーローの愚痴が冒頭から流れる
そして次のシーンでは彼らの「ヒーロー」としての活躍が描かれる
バットマンカーのような車で変身し、逃げる犯人を捕まえる。
「Mr.インクレディブル」のヒーローとしての活躍の日々は多忙だ
スパイダーマン、バットマンのようなアメコミのヒーローっぽい彼の活躍が
3DCGで画面いっぱいに描写される。
2004年、10年前に放映された作品と思えないほど洗練された3DCG描写は
リアルな描写というよりもアニメ的CG描写であり、気持よく動き、気持よく弾む。
ヒーロー達の身体能力と特殊能力の数々が3DCGという表現と相まって
シンプルに見ている側に伝わるシーンの数々だ
だが、シンプルにストレートにヒーローを描写しつつも「生々しさ」がある。
自殺をしようとした人を助けたかと思えば邪魔したと告訴され、
列車事故を防ごうとしたら自分のせいだと訴えられと
スーパーヒーローたちの「正義のための罪」のせいでヒーローが消える。
アメリカという訴訟大国だからこそ、ヒーローがヒーローでいられなくなる
シンプルにヒーローを描写したかと思えば、とたんにそのヒーローがヒーローでなくなる。
序盤から急激に物語が展開し世界観もキャラクターの印象もわずか15分ほどの間にガラっと変わる。
このたった15分で「キャラクター」と「世界観」にすっかりと入り込むことができ
ピクサーの素晴らしい「脚本力」をわずか15分で感じることができる序盤だ
そんな序盤から今度は家族ものになる。
ヒーローとヒーローが結婚し、ヒーローの力を持った子供が生まれる
だが、彼らヒーローの力は既に「疎まれる」ものになり普通の人間と同じように
社会に溶けこむように努力する。
だが、主人公の「インクレディブル」はヒーローの自分を忘れることは出来ず
過去の栄光をもう1度、今の自分を受け入れきれない。
はっきりいってこの作品は子供向けではない。
序盤の15分は「アメコミヒーロー」という子供でも楽しめる内容だが、
その15分を超えるとこの作品は「ヒーローでいられなくなったものの苦悩」を描いている
人よりも力持ち、人よりも早く走れる、人よりも手足が伸びる。
そんな特殊能力の数々が「ヒーロー」という存在が不要になった社会では疎まれるものでしか無い
過去のヒーロだった自分と今の「保険会社の社員」でしかない自分とのギャップ、
過去の自分と今の自分の違いが受け入れきれない。
家族を守るためにヒーローとしての自分を捨てて会社の命令に従わなければいけないはずなのに
彼はヒーローとしての自分を抑えきれない。
本当は彼は抑えなければならない、自分の家族の生活を守るためにも。
ヒーローとしての自分がバレる度に引っ越しをし、能力を知ったものの記憶を消し、
また「社会」に溶け込まなければならない。
ヒーローがヒーローでいられない苦悩。この苦悩をがっつりとリアルに生々しく描いている。
ヒーローという仮想のファンタジーな存在の描写と社会という生々しいリアルの描写、
この2つを同時に描いているのがこの作品だ、こんな内容が子供向けといえるだろうか(苦笑)
だが子供向けじゃないからといって「面白くない」わけじゃない。
むしろ、こんな生々しい、現実感のあるヒーローものは大人だからこそ楽しめる内容だ
ヒーロー活動をしなくなって中年太りした体、会社を首になったことも言えず主人公は
ひっそりと「ヒーロー」としての自分を認めてくれる人のもとで
高収入のヒーロー活動をする、更には浮気まで疑われる始末(笑)
そして、彼のヒーローは「まがい物」であることがわかる。
起承転結。
物語における大事な要素が手に取るようにわかる。
今物語が始まったんだ、今物語が動きしたんだ、今物語が変わったんだと
そのポイントポイントがしっかりとしており、だからこそ面白い。
しっかりと物語の切り替えポイントをつけることで
「登場人物の心理描写」が分かりやすくストレートに見ている側に伝わる。
ヒーローで居る自分、ヒーローで居られなくなった自分、
再びヒーローとしての栄光を取り戻した自分、ヒーローとしての自分が偽りだと気づいた自分。
ストーリーの中で「主人公」の心理描写、立ち位置がストーリーが進むたびに変わり
見れば見るほど「この先はどうなるんだろう」という期待感と世界観に引き込まれる。
生々しい現実感のある設定と生々しい心理描写があるからこそ
大人がすっかりと「作品の世界観」に取り込まれ「ストーリー」を楽しんでいる
セクシーな要素はないもののこの作品には「R25」くらいの年齢制限をかけたいくらいだ
子どもや学生には伝わりづらい。
社会人だからこそ、大人だからこそ、家族のある立場だからこそ
この作品の主人公「Mrインクレディブル」にしっかりと感情移入できるはずだ
そして終盤、ヒーローはヒーローになる。完璧なストーリー構成だ。
家族のために、悪事を働くものを倒すために、
「序盤の15分」のようなアメコミヒーローのような痛快なアクションシーンで
画面狭しとヒーローたちが飛び回り跳ねまわる様子は、
中盤の「生々しい描写」を吹き飛ばすように清々しいまでに気持ちがいいアクションシーンだ。
家族が家族として、ヒーローがヒーローとして終盤に活躍する様は映画の締めとしてふさわしく
ストーリーの「オチ」もあることで気持よく映画を見終わることができる
全体的に見て大人向けの「ピクサー映画」だ。
ヒーローがヒーローで居られなかったらという設定を現実感のある世界観で描写し
「主人公」であるMr.インクレディブルの苦悩と心理描写を生々しく描くことで
見れば見るほどこの作品の世界観とストーリーにはまっていき、
最後は痛快なアクションシーンで物語を締めている。
だが子供が見ると、この現実感のある大人の苦悩の心理描写は退屈に感じるかもしれない
退屈に感じさせないようにアクションシーンをいれているものの
芯にあるのは「大人向け」のストーリーだ
大人だからこそ伝わる大人の苦悩、父親としての苦悩は子供には伝わりづらそうな部分であり
さらに言えば暴力的と言えるシーンも多い。
ピクサーが製作のディズニー映画ということでそういうシーンがないと思う人も多いかもしれないが、
「血」でるシーンや、戦闘シーンで痛そうなシーンも多く、拷問されるようなシーンも有る。
海外の映画の場合「子供に銃を向ける」という描写は
規制される場合も多いという印象だったが(ETの特別版)
この作品ではヒーローの力があるとはいえ子供に向けて銃を撃っている。
そして、極めつけは「死」の描写だ。
敵にやられたヒーローたちの「白骨死体」、更に敵とはいえ結構残酷な死を迎えている。
大人向けと考えればそこまで気にならないシーンではあるのだが、
ピクサー製作のディズニー映画ということを考えると子供には若干過激な表現だ
そういった点を踏まえてこの作品は「大人向け」であり、「R25」な作品だろう
大人が見れば面白い、子供が見ても面白いとは思うが
子供目線で見ると他のピクサー映画やディズニー映画と比べると面白いとはいえない。
また大人目線でも「死」の描写などが嫌いな方も居るだろう。
ピクサーだからこそ、ディズニーだからこそ「死」の描写が受け入れられない人もいるはずだ
非常に評価に困ったが起承転結のはっきりした映画は素直に面白い。
言葉で言うのは簡単だが「起承転結」というストーリー構成で最も大事な部分を
しっかりと映画の中で感じさせせてもらった作品なだけに高く評価したい作品だ
また続編も決まっている。
きちんと起承転結でまとまった作品なだけに、
ここからどんなストーリーが展開しどんな起承転結をまた見せてくれるのか。
公開が楽しみでしかたありません。
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