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新進気鋭の和製スチームパンク「クラユカバ」レビュー

3.0
クラユカバ 映画
(C)塚原重義/クラガリ映畫協會
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評価 ★★★☆☆(57点) 全61分

劇場長編アニメーション映画『クラユカバ』本予告:4月12日(金)ロードショウ

あらすじ 探偵社を営む荘太郎は、近頃世間を騒がせている集団失踪事件の捜査に乗り出す。目撃者はおらず、犯人の意図も不明、その足取りには必ず不気味な轍(わだち)が現れる。引用- Wikipedia

新進気鋭の和製スチームパンク

本作品は塚原重義によるオリジナルアニメ映画作品。
2度のクラウドファンディングをへて制作された作品であり、
2024年に塚原重義の長編アニメーション
第2作『クラメルカガリ』と同時に劇場公開された作品だ。
制作はパンケーキ、。チームOneOne

雰囲気

映画を見出して感じるのは独特な雰囲気だ。
キャラクターデザイン自体もアニメというよるは
アドベンチャーゲームっぽい雰囲気があり、
独特なテイストで描かれるアニメーションが癖になる。

画面はどこか霞がかったエフェクトがなされており、
昭和初期のような大正時代のような、
そのどちらでもないような独特な時代感のなかで
「探偵」である荘太郎を主人公に物語が描かれている。
どこか自堕落な彼が「失踪事件」に首をつっこむところから物語が始まる。

「クラガリ」という地下が絡んでいるという噂、
怪しげで危なげな失踪事件、そんな事件に安易に首を突っ込み、
彼が使っている情報屋の少女までも失踪してしまう。

独特な奮起が素晴らしく、最近のアニメとも古いアニメともいえない。
絶妙なニュアンスと煙がかかったエフェクトの画面のお陰で、
スチームパンク的なニュアンスすらも感じる。
非常に芸術的な作品だ。

60分

この作品は尺的に63分ほどしか無い。
だからこそ非常にテンポよく物語が進んでいく、
クラガリで行われるドンパチ、地上以上に煙りがかった感じは
この時代特有の空気の悪さすら匂わせている。

集団失踪事件に関わっている「福面党」、
地下の世界には装甲列車が走る。
テンポがいいせいも合っていまいちストーリーは頭に入ってこないものの、
この独特な世界観に飲み込まれる印象だ。

謎が多いクラガリ、謎の覆面党、
何が目的で失踪事件が起こっているのか。
謎が謎を呼びながら物語は地下へと広がっていき、
その地下世界、クラガリに多くのものが囚われている。

単純に主人公が逃げ回るだけで
この完成された世界観を映しているだけの映像が楽しい。
ころころカメラワーク、頻繁なカット、
目まぐるしいまでに映像というなの情報を叩き込まれる。

地下に広がる大都市、地上の人間が知らない街並み、
失踪事件の謎も深まっていく。
主人公の父、そして「過去」がこの事件に絡んでいく。
そんなストーリーが次々と描かれる芸術的なアニメーションで綴られる。

中盤くらいになると専門用語が頭にはいり、
ストーリーも噛み砕けるようになっていくものの、
黒幕とも言える存在は終盤で急に出てくる印象だ。

好きなものを

とにかくこの作品は監督が好きなものを詰め込んでいる感がある。
昭和レトロ、大正ロマン、スチームパンク、人形劇に紙芝居、
装甲車に、からくりに。
その監督の「好き」という気持ちが200%伝わってくる。

ただ、同時に詰め込んでいるだけともいえる。
取捨選択がしきれておらず、好きなものを60分ほどの尺に
とにかく詰め込みまくる。
その結果、イメージ映像のようなカットや、匂わせるようなカット、
情報をただただ散漫に詰め込んでいるだけの部分も多い。

あのシーンの意味はなんだったのか。
そういう考察をしてもおそらくは無駄だ。答えなど無い。
ただ監督の好きなシーンを詰め込んでいる。
見ている側に創作者の頭の中を伝えるという過程をしきれていない。
というより、はじめからする気など無いのだろう。

とくに終盤はモヤモヤ感も残る、黒幕自体も
倒されずに終わり、解決したような解決していないような、
そんなモヤモヤと消化不良が残る。

そんなもやもやを考察しようとすると、深淵に足を踏み入れてしまう。
本作で多くのものが「クラガリ」に誘い込まれたように、
この作品で描かれていない部分を考えれば考えるほど、
考えている側もクラガリに誘い込まれる。

そのような作品を作り上げたかったのだろうなという
思いは強く伝わる作品だった。

総評:深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ。

全体的に見て非常にアーティスティックな作品だ。
一言で言えば和製スチームパンクともいえる世界観、
明治とも大正とも昭和ともいえるような不思議な世界観の中で
装甲車がドコスコ撃ち合いながら、地下には誰も知り得ない
大きなクラガリが広がっている。

そんな世界で起こっている失踪事件に足を踏み入れた主人公と
調査している組織のキャラクターや、怪しげな組織を描きつつ物語が進み、
ラストはモヤモヤとした感覚で物語が終わる。

とにかくやりたいことを、好きなことを詰め込んだ。
そう感じる作品であり、世界観とアニメーションは素晴らしいものがあるが、
エンタメとしては微妙な部分があり、ストーリーもはっきりしない。
それをはっきりさせようとすると私達もクラガリにとらわれる。

そういう作品の構造にしたいという気持ちは伝わり、
非常にクセがあり挑戦的な作品だ。
決して人に進めやすい作品ではないものの、
刺さる人には刺さる刺激的な作品だった。

個人的な感想:新進気鋭

監督である塚原重義さんは個人制作として
多くの短編アニメを手掛けており、
その作品数だけでもかなりのものがある。
そんな中での初の長編映画がこの作品だ。

日本にもまだまだこういった新進気鋭の
クリエイターが眠っていると考えると、
日本のアニメ業界の未来も明るいのかもしれない。

そう感じるほど刺激的な作品だった。

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