映画

エンタメ性を徹底的に排除した結果「がんばっていきまっしょい 」レビュー

2.0
がんばっていきまっしょい 映画
(C)がんばっていきまっしょい製作委員会
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評価 ★★☆☆☆(24点) 全95分

劇場アニメーション『がんばっていきまっしょい』本予告【60秒】|2024年10月25日(Fri)全国公開

あらすじ 美しい自然が広がる愛媛県松山市。三津東高校2年生の村上悦子は、やりたいことも見つからず退屈な日々を過ごしていた。そんなある日、彼女のクラスに転校生の梨衣奈がやって来る。引用- Wikipedia

エンタメ性を徹底的に排除した結果

原作は1996年に発売された小説作品。
1998年に実写映画化、2005年にはドラマ化もされた作品。
監督は櫻木優平、制作は萌、レイルズ

フルCG

この作品はフルCGで制作されている。
いわゆるセルルックスタイルのアニメ調なCGであり、
PV段階ではカクカクとした動きがやや気になったものの、
実際に映画館で見てみるとカクカクとした印象はない。
このあたりはYouTubeのフレームレートの問題かもしれない。

ただCGだからこその違和感は強い。
CGというだけで敬遠してしまう人も一定数いるが、
そんな敬遠してる人の印象を覆すほどのクォリティというわけでもなく、
いかにもなCG感を感じるテカテカの海の描写は違和感があり、
人物の描写もたまに不自然さを感じる時がある。

ほかのフルCGアニメでもそうだが、
キャラクターたちがたっているときにゆらーっとした動きがあり、
その独特な浮遊感のようなものが手書きのアニメにはない、
違和感を生み出している。

ボート

そんなフルCGで描くのはボートだ。
ボート部に所属したメインキャラを中心にした
青春劇を描きつつ、ボートを使った大会にもでており、
いわゆるレースシーンもある。

ただ、作品全体としてきちんと試合が描かれるのは2レースほど。
同じ場所でのレースなだけに、最初と最後では
メインキャラクターたちがきちんと成長していることを感じるほど
オールさばきの統一感の差がきちんと感じられる描写になっている。

このあたりはフルCGだからこそ生み出せたオール裁きともいえるが、
基本的にオールを動かすという動作が同じなため、
技術的にも体力的にも上達していることはわかるものの、
このレースシーンがかなり地味になってしまっている。

これはボートという競技の問題かもしれないが、
基本的に一直線だ。そして特にスピード感があるわけでもない。
だからこそレースシーンでの盛り上がりというのも
生まれにくい状況なのはわかるものの、試合自体の盛り上がりが薄い。

最初の試合はメインキャラクター達も
ボートを始めたばかりだ、だからこそ負けてしまううえに
試合としての盛り上がりがないのもわかる。
しかし、問題はラストの試合だ。

1年以上、メインキャラたちはボートを続け、
技術的にも上昇している。
実際、レースの模様としても盛り上がる感じの内容になっている。
彼女たちにとって最後になるかもしれないレース、
そんなレースの腰を折る。

レース中に唐突に空を映したかと思えば
急に試合後に寝転んでいるメインキャラの絵にかわり、
回想シーンで試合の模様を断片的に思い返しながら、
メインキャラたちが寝転んでいる絵を映す。

素直にレースシーンを描いてくれれば盛り上がるかもしれないのに、
無駄に回想のようにみせるような演出、
ストーリー構成のせいで映画としての盛り上がりが死んでいる。

例えこれがフルCGアニメじゃなくとも、
同じような評価になっただろうなと思う部分が、
レースシーン以外にも数多あるのがこの作品だ。

やる気

主人公はやる気がない女の子だ。
高校の伝統的な文化としてボート部があり、
部活に入らずともクラス対抗戦でボートをやったりする、
そんな高校に入った主人公ではあるものの、
いざボートを漕ぎだしてもやる気がない。

負けると分かった瞬間に漕ぐことをやめてしまうほど、
彼女は「頑張る」ことをやめてしまった女の子だ。
この作品はそんな主人公が頑張ることの意味を見出し、
成長して変化していく物語だ。

この部分だけ見ると面白いところがある。
小学校低学年の時は男子よりも体格がよく、足も速かった。
周囲からもそのことを褒められて、頑張って
体育をやっていた彼女ではあるものの、成長するにすれて
彼女は特別ではなくなってしまう。

自慢だった足の速さもいつのころからか男子より遅くなり、
普通の女の子と変わらない、体力だってない。
頑張っても成果を得られなくなった、
自分が特別ではなくなったことへの無力感。

無力感と特別ではなくなった彼女は
中学のころから頑張ることをやめてしまってすれてしまっている。
そんな彼女がとあるきっかけでボート部にはいり、
徐々にボートの楽しさにハマっていき、
最終的には「頑張る」ことの意味を知る。

結果につながらないかもしれない、しかし、
頑張ったことに意味がある。
みんなで一緒になにかをやりとげた、自分は頑張った、
そんな事実が自信につながり、努力が無駄ではないことを知る。

そういったメッセージ性はきちんと伝わり、
この作品で描きたいことはそこなんだなと強く感じることができる。
最近はタイパだのコスパだのを求める人も多いが、
そんなタイパやコスパとは対極的にある
「結果につながるとはかぎらない努力」への意味を描いている作品だ。

そのメッセージ性は素晴らしいものがあり、
原作やドラマ、映画でもそのメッセージ性は強く変わっていないのだろう。
このあたりは私が原作もドラマも映画もチェックしていないため
未確認ではあるものの、作品の本質はアニメでも伝わる。

しかし、その過程がいろいろと厳しいものがある。。

ガールミーツガール

序盤の流れはいわゆるスポーツアニメ系では
ありがちな部活の始動と部員集めだ。
埼玉からやってきた転校生をきっかけにボート部を復活させる流れになり、
主人公は人数合わせのために強制的に部活に入れられてしまう。

埼玉から来た転校生は若干強引ではあるものの、
主人公と主人公の親友を誘い、
同級生ではあるもののもともとボート部だった男子とともに
ボート部を再興させる。

TVアニメならば1話くらいかけてじっくり描くような
序盤ではあるものの、かなりトントン拍子に部活が復活し、
さらに唐突に二人の新入部員がやってくる。

このあたりの展開の速さは90分ほどの尺しないからこそ
仕方ない部分があるものの、
1クールのアニメだったらしっかりを描かれていたんだろうなと
思う部分が作品全体としてさらっと描かれていることが多い。

展開自体に特に面白みや新鮮味もない。
部活アニメでよく見かける展開でしかなく、
いきなり二人新入部員がやってくるところは新鮮味が
あるといえばあるものの、それが終わるとだらーっと
練習風景が描かれる。

メインキャラ

そもそもキャラクターデザインがあまりよくない。
もともとのキャラクターデザインは
ラブライブなどを手掛けた西田亜沙子さんであり、
描き下ろしのイラストなどでは非常に特徴的でかわいらしい。

しかし、そんなキャラクターデザインがCGになることで死んでいる。
どこかでみたことのあるようなキャラデザで、
どことなくテンプレ感のあるような雰囲気になってしまっており、
せっかくのキャラクターデザインが死んでしまっている。

そんな彼女たちの練習風景が淡々と描かれる。
丁寧といえば丁寧ではあるものの、ボートに関する
専門用語の説明などもなく、レースシーンなどになっても
レースのルールなども紹介されることはない。

そのあたりの説明がかなりざっくりしている割には
練習風景は異様に長い。
きつい練習の中でまたしても頑張ることをやめようとする主人公だが、
部員から言われ、急にやる気を出し、
その瞬間の加速感、ボートの魅力にはまってしまう。

このあたりの展開自体は悪くないものの、
ダイジェストを多用したり、風景や背景、
いわゆる「行間」や心理描写を見せるための演出が非常に多く、
1シーン1シーンがかなり間延びしている印象だ。

なかなか話が進まずダラダラとどうでもいい日常や
面白みのない練習風景が描かれ盛り上がらない。
この作品は最初から最後まで盛り上がり、起伏が薄い作品だ。

日常と練習

序盤を過ぎるとライバルが現れる、
他校のボート部とちょっとした因縁が生まれ、
大会で彼女たちを見返したいという思いが強くなり大会に参加する。

こういう展開になるだろうなという予想通りの展開のまま話が進み、
初めての大会ではあっさりと最下位で終わる。
このあたりの展開もテンプレ的であり、最下位で
負けの悔しさを味わったからこそさらに努力を重ねるという
展開はいい意味で言えば王道なのだが、特に面白みはない。

そしてまた練習が始まる。
5人のメインキャラクターの日常風景なども多く、
これが1クールのアニメならばもっとがっつりと
日常を描きながらボートのレースも描けるんだろうなという思いが
常に頭によぎり、どことなくダイジェスト見ているような感覚だ。

とにかく尺がたりていない。
だからこそ、あえてキャラクターに余計なセリフを喋らせず、
アニメーションによる演技でキャラクターの
心情を描いている部分が多い。
それ自体は悪くないものの、ひたすらに上辺だけを見ている感じだ。

メインキャラは5人で主人公と親友、埼玉からの転校生、
お嬢様な二人であり、そんな二人のお嬢様の友情など
どこか「百合」を匂わせる部分はあるものの、
要素としてはそこまでない。

キャッチーな要素、エンタメ的な要素がひたすらに薄く、
映画としての盛り上がりも足りておらず、
ひたすらに淡々と物語が進み、冗長なシーンが多いため
中盤くらいになると若干眠気すら漂ってくる。

恋愛

時系列がトントン拍子に進んでいき夏になる。
練習を重ねるものの、なかなか上達せず、
主人公はみずからのスタミナ不足という欠点に気づいてはいるものの、
技術的にも体力的にもまだまだ初心者だ。

そんな彼女にちょっとしたアドバイスをするのが
唯一のボート部の男子部員だ。
彼は1年のときにボート部に所属していたものの、
先輩がやめてしまい彼だけになってしまっている。
メインキャラたちとは同学年ではあるものの
ボート歴に1年以上の差がある。

そんな彼が主人公にちょっとしたアドバイスをする。
すると、なにやら主人公の様子がおかしい。
合宿でも二人きりで話した際に、顔が赤くなっているように
見えるようなシーンも有り、唐突に恋愛描写が挟まる。

この男子部員の影は薄い。
唯一の男子部員ではあるものの、
熱心にメインキャラの指導をするわけでもなく、
ときおり現れるだけで、何しているかわからないキャラだ。

そんなキャラがちょっと主人公にアドバイスしただけで、
主人公が惚れるのも意味がわからず、
ちょっと優しくされただけで惚れる主人公のチョロさは凄まじい。
このとってつけたような恋愛描写が最大の問題だ。

中盤でみんなで花火大会に行くことになる。
主人公だけは気合抜群で浴衣を着込んでいるものの、
靴擦れのせいで他の部員と離れてしまう。

ここで男子部員と良い仲になるみたいな展開ならともかく、
男子部員がたまたま埼玉から来た女子とふたりきりになってしまい、
彼女の両親が再婚して転校した事情を聞いている場面がある。
そんな「二人きり」でいるところを主人公は目撃してしまう。

明確にセリフとしては出てこない。
主人公が彼に惚れていることも、主人公が二人きりでいる二人を見て
勘違いしたことも明言されるわけでもない。
だが、見る側はそれを察することができる。
アニメーションの演技はきちんとできている。

しかし、それが面白さにはならない。
恋愛感情のせいで調子がくるい、埼玉からの転校生との関係性が
少しギクシャクし、オールを漕ぐタイミングあわなくなるどころか、
親友に怪我までさせてしまう。

このどうでもいい恋愛展開、とってつけたような恋愛要素が
心底おもしろみにかけ、どうでもいい感じが凄まじい。
そんな見ている側の思いが伝染したのか、
主人公もボートのことがどうでもよくなってしまう。

せっかく頑張ってるのにボートがうまく出来ない、
せっかく恋愛でウキウキしてたのにそれもうまくいかない、
そんな感情を抱えたままでボートをやったら親友に怪我をさせてしまう。
頑張ってたのに結果がついてこないことで、
彼女はボートから離れてしまう。

また日常

主人公は部活から離れ一ヶ月ほどまた日常が描かれる。
もうグダグダだ、5人のメインキャラクターたちの行き場のない感情という
シリアスなウジウジとしたシーンを淡々と見せられてしまい、
そんな中でライバルとの話や、ボートが好きだということを思い出し、
またボート部に主人公は戻る。

もうこの時点で映画は1時間以上経過している。
ラストのレースに至るまでの展開も非常に長く、
最後のレースは10分も描かれない。

そんなレースの描写に関しても回想シーンで見せるという
よくわからない演出のせいで盛り上がりに欠け、
最初から最後までだらーっと締まりの無い作品になってしまっており、
唐突な恋愛要素などはありつつも、
「こうなるんだろうな」という展開の連続で終わってしまう作品だった。

総評:見る側が頑張らないといけない

全体的に見て薄味な作品だ。
フルCGのクォリティ自体は予告編などから感じていた違和感ほどは感じないものの、
フルCGだからこそのクセなどはかなり強く出ている一方で、
「オール」の動きなどフルCGだからこその統一感やバラバラとした
序盤の動きなどの描写も生まれている。

ただ、その一方で元々のキャラクターデザインから
フルCGにした際に、キャラクターデザインの良さ、個性が
消えてしまっており、どこかでみたようなテンプレ的な
キャラクターデザインになってしまっていることは残念だ。

ストーリーもテンプレかつ王道な展開であり、それ以上でもそれ以下でもない。
しかし、作品全体としてセリフではなく絵、アニメーションで
見せている部分が多く、それを見ている側が察しないといけない。
見る側が察することを頑張らないといけない作品だ。

そういった意味で最近の作品とは真逆ではあるものの、
だからといってそれが面白さになっているとは言い切れず、
作品全体としてだらーっとした冗長なシーンが多く、
テンポの悪さがかなり目立つ。

レースのシーンもきちんと描かれるのは2回のみ。
その2回で成長と変化を感じる部分はあるものの、
ラストのレースなどはすっきりと描かれない演出、カットのせいで、
盛り上がりに欠ける展開になってしまっている。

ボートアニメとして見に行くと肩透かしを食らう部分も多いだろう。
あくまで作品として描きたいのはボートではなく、
「頑張ることを辞めた」少女が再び頑張るまでの物語だ。
結果に繋がらないことを頑張る、そこに意味はあるのか?と
やや哲学的ニュアンスなメッセージ性は面白いものの、
そんなメッセージにストーリーがついて行っていない。

とくに中盤の主人公の恋愛描写は心底どうでもよく、
作中のメインキャラが彼女のことを「自分勝手」と言い放つのも
納得できてしまうほどかなり身勝手な主人公だ。
そんな主人公の好き嫌いも分かれるところだろう。

作品全体としてアニメ映画として盛り上がる部分、
エンタメ性にかけてしまっており、
予告編の微妙さなども相まって興行収入が伸びなかったことも
納得できてしまう作品だった。

個人的な感想:トラペジウム

ちょっと調べると「トラペジウム」と結びつけてる人が
多く見られる。確かにアイドルとボートと違う部分はあるものの、
「アニメーション」で演技をさせてセリフを減らしている部分など、
見せ方として共通している部分は多い。

トラペジウムもアイドルとしてのライブが1回くらいしかなかったりと、
レースシーンが2回くらいしか無い本作とにており、
関連付ける人の気持ちもわかるが、
トラペジウムはきちんとエンタメ性があった。

90分という尺ではダイジェスト感も強い部分があり、
いっそ1クールのTVアニメとして描かれていれば違ったのかもしれない。
それか逆に冗長なシーンをなくし、60分くらいになっていたら
主人公の自分勝手感も強調され、もう少しエンタメ、
1本の映画として面白みが生まれた作品かもしれない。

メッセージ性自体は悪くないものの、
すごく作りて側の「酔った」演出が気になる作品だった。

「がんばっていきまっしょい」に似てるアニメレビュー

原著:敷村 良子, 著:岩佐 まもる, 著:松山市, イラスト:あきづき りょう

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