評価 ★★★☆☆(54点) 全12話
あらすじ 田舎の山中で暮らしていた少年「ノール」は12歳の時に母を病で失い、天涯孤独の身となる。ノールは幼少時に亡くなった父から聞かされていた冒険者の英雄譚に憧れており、母の遺言「あなたの望む生き方をして」を胸に、冒険者になるべく王都を訪れる。引用- Wikipedia
勘違い男の異世界アンジャッシュ
原作は「小説家になろう」な本作品。
監督は福山大、制作はOLM
孤独
主人公は孤独な少年だ、幼い頃に両親をなくし、
そんな辛い境遇にもかかわらず、彼はたった一人で生活し、
たった一人で大きくなってきた。子供の頃に聞かされた冒険者の話、
その話は彼の心中にのこり「憧れ」となっていた。
世間を知らずに育った少年は初めて街に降り立つというところから物語が始まる。
非常に丁寧な導入だ。
なろう系作品の場合は異世界転生や異世界転移などの設定がある
作品が多いが、この作品はそういった設定はなく
シンプルなファンタジーな世界だ。
そんな世界で孤独な少年が子供の頃の夢を叶えるために街に行き、
冒険者になろうとする。
しかし、冒険者になるためには最低限のスキルが必要だ。
戦う力がなければ冒険者になることが出来ない、
その証が「スキル」であり、特訓したりすれば普通は身につく。
だが、彼が身に着けたのは攻撃を弾く「パリィ」と
初歩ともいえないようなスキルだらけだ。
ローヒール、少しの身体能力向上など、まともな
スキルらしいスキルが身につかなかった少年は冒険者になることが出来ない。
「俺には才能がなかった」
そんな才能を自覚し、彼は努力することを決める。
唯一、戦闘で使える「パリィ」のスキルを朝昼晩、
彼は長年鍛え続けることを決める。
主人公がなぜチートなスキルを持っているのか。
そういった設定の裏付けが「なろう」作品の場合は多い。
しかし、この作品はきちんと努力という裏付けがある。
ただの努力ではない、何時間も、何年も、彼はパリィだけを続け、
パリィを極める。
1000本の木剣を一瞬で弾けるパリィ、
そんな凄いスキルになっているのだが彼自身も世間も
「パリィ」に対する評価は低い。
冒険者になることができるものの
彼は雑用しか出来ない最低ランクの冒険者だ。
それでも夢を叶えた。
彼の冒険者へのあこがれが冒険者への道を開いたものの、
冒険できない冒険者、そこに不満はありつつも、
冒険者という肩書を彼は手に入れている。
そんな彼が出会うのが迷宮内からの助けを求める声を聞いてしまう。
本来は戦ってはいけない、そんな強敵に彼は単身挑み、
鍛え抜いた「パリィ」でひたすらに戦う。
しかし、攻撃スキルはない。守ることしか出来ない。
だが「冒険者」は弱いもののために戦う存在だ。
目の前で怯える少女くらい守りたい、
そんな思いが彼を「冒険者」たらしめんとする。
堅実に、無骨に、丁寧に描かれる導入は素晴らしく、
まっすぐな作品だ。
無自覚
彼が戦った相手は迷宮のモンスターではあるものの、
彼自身は「牛」と認識している(笑)
暴れ牛にすら手間取る自分は冒険者としてはあまりにも未熟、
それは彼が長年、評価されなかったからこその自己肯定感の低さからくる
自己評価だ。
しかし、そんな「暴れ牛」は実はSランクの冒険者すら
手こずるようなモンスターだ。
本当はSランクの冒険者の力を持っているのに、
彼自身も、周囲も彼を評価しない。
「無自覚」な強さを彼は持っている。
彼が「ミノタウルス」というモンスターを倒したことを
彼自身も、周囲も気づかない。
だが、ただ一人「王女様」だけが気づいてくれる。
ミノタウルスに襲われていた主人公が守った少女、
そんな少女が主人公の才能に気づくことで物語が動き出す。
だが主人公は「謙虚」な性格だ。
王女様が助けてもらったお礼を申し出ても彼は断ってしまう。
彼にとって「冒険者」としての活動以外は興味がない、
大金も領地も、身分もそんなものはいらない。
持たざるものだからこそ、多くのものを求めない。
そんな謙虚な主人公だからこそ嫌味というものがない。
権力を得るわけでも、大金を得るわけでも、美女を侍らせるわけでも、
自らの力でイキりちらかすわけでもない。
多くのなろう系でありがちな主人公に対する嫌悪感がない作品だ。
無欲で謙虚だからこそ、自分が王女様を助けたことも、
自分自身の力がとんでもないことも彼は自覚しない。
きちんとしたキャラクター描写が主人公を主人公として確立しており、
物語にも説得力が生まれている。
国王から伝説レベルの剣をもらっても
「お古の剣」位の感覚で「側溝の掃除」に使う始末だ(笑)
山で一人で暮らし世間知らずだからこそ、国の事情や
国王や王女様の顔も知らない。
そのあたりの設定の説得力もきちんとある。
自己肯定感が低いうえに歴戦の戦士と模擬戦をしても
「手加減をしている」と勘違いする始末だ、
だが、そんな手加減が続き「もしかしたら強くなっているのかも?」と
一瞬は思うものの、歴戦の戦士の「必殺スキル」をうけて
ぎりぎりかわせたという結果が彼の無自覚を継続させる(笑)
いつ、彼が無自覚から己の強さを自覚するのか。
それがシンプルに気になってくる。
自分はまだ弱い、まだまだ鍛えなければ。
ただえだえ強い彼が自らの強さに甘んじず、高みを目指し続ける。
それゆえに自覚することも難しくなっていく。
才能
主人公は確かに初級のスキルしかもっていない。
ただのプチファイア、ただの身体強化、ただの忍び足、ただのパリイだ。
どれもこれも普通の冒険者にとっては「使えない」ような
初級スキルでしかなく、冒険者としては認められないようなスキルだ。
しかし、彼はずっとそれを鍛え続けている。
ただのプチファイアですら彼は大きな火球にしあげている。
だがあくまで使っているのは初歩のスキルだ、
それゆえに主人公は無自覚なままだ。
それに気づいているのはヒロインたる「王女」だけだ。
そんな王女様と「パーティー」をくむことで
最低ランクな主人公も少し上のランクの依頼も受けることができる。
彼女との出会いが彼の「冒険者」としての道を広げてくれる、
冒険者として普通の人ならばあっさりやるような依頼ですら、
彼にとっては長年の夢だ。
最弱な魔物である「ゴブリン」退治も彼にとっては夢だ。
しかし、奇しくも彼の前に現れたのはゴブリンはゴブリンでも
上級のゴブリンだ、彼にとっては上級も下級もない、
初めて見る最弱の魔物のはずはゴブリンだ(笑)
ゴブリンエンペラーとしらず、戦うシーンは
きちんと盛り上がりどころになっている。
巨大なモンスター相手に巨大な剣でひたすらパリイしつづける、
そんな戦闘シーンをリズムカルに描きつつもキビキビと
アクションを見せることで迫力のある戦闘シーンになっている。
最弱の魔物であるゴブリン、そんなゴブリンに苦戦したと
思い込んでいる主人公の無自覚さは更に極まっていく。
体質
ただ、中盤くらいから無自覚の継続もやや鼻につく部分もあり、
強さのインフレも凄まじい。
主人公は子供の頃から孤独と無知ゆえに毒草なども食べており、
そのせいで毒が効かない体質になっている。
普通なら即死レベルの毒のドラゴン相手にも、その体質のお陰で
問題なく、しかもドラゴンをカエルと勘違いする始末だ。
序盤のミノタウルスやゴブリンなどはうまく「無自覚」であることを
自然に見せる敵だったものの、ドラゴンを蛙と勘違いするのは
流石に無理がある。
周囲がさんざん「黒死龍」といってるのに主人公は気づかない。
だんだんと無自覚にも限界を迎えつつあるのに、
それを無理矢理引き伸ばしている印象だ。
主人公たちがいる国が別の国とのいざこざで
襲われたり、魔族という存在が出てきたりと、
中盤から話自体も壮大になっていく。
そんな国のピンチで超巨大なドラゴンも現れているのに
「あれが龍かー」くらいの、のほほんとした態度な主人公にも
かなりの違和感が生まれてしまっている。
そんなドラゴンを倒しても無自覚は変わらない、
流石に無自覚を続けるのにも無理が出てきている。
それでも序盤から「主人公の目線」と「相対する敵」の
視線を交代で描くことで、アンジャッシュのようなすれ違いコントが
1クールずっと描かれているような印象だ。
最後までそんなすれ違いはそのままで1クール終わってしまい、
ギリギリマンネリや細かい部分が気になる前に終わった作品だった。
総評:なろうらしさもパリイする!?
全体的に見ていい意味でなろうらしさというのが無い作品だ。
異世界転移や転生という要素もなく、一応主人公は規格外の
力を持っているものの、まともな攻撃スキルは持ち合わせず、
「パリイ」のみだからこそ、チートでおれつえーな感じも薄い。
主人公の過去、家庭環境、子供時代の境遇があったからこそ
自らの力に「無自覚」かつ「自己肯定感の低さ」につながっており、
彼が自分の力に気づかないことも納得できるような
説得力がきちんと生まれている。
基本的にコミカルにコメディで描かれており、
毎話毎話、様々なものをパリイしつづける、
毎話現れる事件や魔物がフリになり、
そんな魔物を無自覚のままパリイしつづけることがボケになっており、
視聴者がそれを突っ込みつつすれ違いコントが描かれている。
主人公の能力に気づくものも序盤はヒロイン一人だけではあるものの、
徐々に周囲も気づき始める、しかし、それでも主人公は無自覚なままだ。
巨大なドラゴン相手に戦っても、多勢な敵軍に単身で挑んでも、
彼は最初から最後まで無自覚でいる。
無自覚な主人公の目線での勘違いと、相対する敵の目線、
それが交代で描かれることで「アンジャッシュ」のコントのような
すれ違いコメディ要素を強めており、
しっかりとしたアニメーションで描かれているからこそ、
画面にも締まりが生まれている。
最終話で実は主人公は子供時代から多くの人に素質を
見抜かれていたという事実が描かれているものの、
見抜かれて鍛え上げようとしたときはすでに遅く、
主人公は山ごもり修業に入ってしまっていた。
そんなすれ違いがありとあらゆる場面で起きており、
それにクスクスと笑える作品だ。
ただ、中盤をすぎると「流石に気づかないのは無理がある」
というシチュエーションも生まれており、
1期ではマンネリ感や欠点が顕著になる前に
12話という尺を描ききった印象だ。
2期があるかどうかはわからないが、
2季があった場合、自覚するという展開が描かれるのか、
それともこのまま無自覚なのか。
そこが気になる作品だった。
個人的な感想:丁寧
1話から丁寧な積み重ねがある作品だった。
主人公が己の無力さを噛み締めながらも努力し、
自らの夢を叶えるために努力する。
努力があるからこそ規格外の力にも納得でき、
無自覚なのも子供時代の経験からこそのものだ。
そういった「裏付け」がきちんとしており、
1クール通して物語に説得力がある。
だからこそ、このすれ違いコントを素直に楽しむことが出来た。
安易にハーレム展開にもならず、大金や権力を手に入れる展開にもならない。
主人公は最初から最後まで冒険者のまま、ランクすら変わらない。
そういったなろうらしさがない作品を1クール味わえる作品だった
2期があればマンネリなどもおこりそうだが、
2期があれば見たい作品だ。
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