ラブコメ

未完の名作。永遠の15分をいつまでも「かつて魔法少女と悪は敵対していた。」レビュー

かつて魔法少女と悪は敵対していた。 ラブコメ
©藤原ここあ/SQUARE ENIX・まほあく製作委員会
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評価 ★★★★☆(70点) 全12話

TVアニメ『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』メインPV/2024.7.9 ON AIR

あらすじ 悪の組織の参謀であるミラは組織を統し冷酷で残虐極まりなくあらゆるものを侵略し滅ぼしていた。引用- Wikipedia

未完の名作。永遠の15分をいつまでも

原作は妖狐×僕SSでおなじみの藤原ここあさんによる漫画作品、
藤原ここあさんが2015年に亡くなったことで未完となっている。
監督は大橋明代、制作はボンズ

魔法少女

この作品はタイトルでも分かる通り「魔法少女」ものだ。
本作のヒロインはコンビニでバイト中に街が
謎のドラゴンに襲われているのに気づき、
マスコットな「猫」とともに「変身」をして魔法少女となる。

ベタな魔法少女、テンプレート的な変身バンクが
もはや懐かしさすら感じてしまう。
ボンズらしいキビキビとしたアクションが短いながらも
戦闘シーンを盛り上げており、そんな戦闘の後に
「東京タワー」をバックに悪の組織の参謀と相まみえる。

本来は敵同士な関係性だ。
悪の組織の参謀は優秀な人材であり、王の片腕とまで言われている。
しかし、そんな彼が地上攻略の任務に失敗してしまう。
その最大の原因は彼の恋心にある(笑)

本来は戦わないといけないはずなのに、血の一滴も流さずに、
持参したケーキを片手に紅茶をすする。
悪のエリートだった「ミラ」は魔法少女と出会い、
一目惚れをしてしまった結果、悪のエリートではなくなってしまう。

わかりやすいシチュエーションでリズミカルな会話劇が心地良い。
ミラと魔法少女である深森 白夜、この二人の少しずれた会話劇に
1話早々に飲み込まれてしまう。

「深森 白夜」という少女は孤児院育ちの孤独な少女だ。
貧乏な彼女は孤児院を地上げから守るためにも魔法少女になったものの、
そもそも地上げをしていたのは
彼女を魔法使いにしたマスコットだ(笑)

そんな彼女の事情を知り、悪のエリートであるはずのミラは
スイーツを送り、米を送り、彼女に贈り物をしまくっている。
本来は戦うべき二人がどうなるのか、恋の行方はどうなるのか。
1話でシンプルに先が気になってしまう。

15分

魔法少女ものではあるものの、基本的にこの作品は会話劇だ。
1話1話で起承転結すっきりとした展開が描かれているものの、
これが普通の30分枠のアニメなら間延びしてマンネリが
生まれてしまうかもしれない。

しかし、この作品は15分枠だ。
この二人の敵対する関係性同士の会話劇、
変身の必要がないはずなのに一応は変身し、
一緒にスイーツをたしなみ、逢瀬を重ねる。
重ねれば重ねるほど彼女の事情を知れば知るほどミラは彼女を
どうにかしたいと思ってしまう。

彼女を魔法少女にしたマスコットは金に汚い。
彼女の財産を全て管理し、怪しげな夜の仕事までさせようとしている。
貧乏でかわいそうな魔法少女に惚れてしまったミラは、
自身の立場を危うくしても彼女を倒すことなどできない。

悪の組織の参謀として、部下に示しがつかないとわかっていても、
彼女を傷つけることに罪悪感を感じ、思わず助けてしまう(笑)
それが「恋心」であることを彼はわかっていない。
悪の組織のエリートとして生きてきたからこそ、
「恋愛」という概念が彼の中にはない。

無垢で純粋な「深森 白夜」という少女は、
無垢で純粋であるがゆえにあざとい。
冷酷無比な悪の参謀は彼女の前だけは優しい悪の参謀になってしまう。
恋はときに人を大きく変える、ときには価値観を、
ときには自分の立場を、ときには全てをなげうってしまうものもいる。

「限度額の限り貢ぎたい」
悪の幹部が思わず、そう思ってしまうほど可哀想な状況な魔法少女に
どんどんと彼はハマっていく。

望み

悪の組織の幹部はミラだけではない、
他にも多くの「悪の組織の幹部」がおり、
魔法少女を倒すという任務をなかなか達成しないミラに
徐々に不信感を抱きだす。
魔法少女にほだされたのではないか、組織を裏切っているのではないか。

そんな味方からの疑念の目を逃れつつも、
同時に二人の間に他の誰かが介入することで、
より二人の感情が、二人だけの世界が強まっていく。
だからこそ自分自身を出してしまう。

「深森 白夜」という少女は孤児院育ちであるがゆえに
本心を隠し、己よりも他人を優先してしまう。
本当の気持ちを覆い隠して我慢することが彼女の処世術だった。
そんな彼女の気持ちをミラは察してしまう。
本来は敵対する同士のはずなのに互いを理解し合ってしまう。

「深森 白夜」以外にも魔法少女は存在し、
二人以外のキャラクターが出ることで、
二人がより自らの中にある言語化できなかった感情を自覚していく。

序盤で二人だけの世界できちんと関係性を描き、
中盤でそこにキャラを増やしながら二人だけの世界に
介入させることでワチャワチャ感がましていき、
ラブコメとしての面白みが強まっていく。
そして徐々に二人が「恋」を自覚していく。

だが、二人には悪の組織の幹部と魔法少女という大きな谷がある。
いくら互いが心を通わせていても、しがらみが
二人の関係性を進展させない。
敵同士のはずなのに他の誰かと一緒にいるときには味わえない
「幸せ」を二人は味わってしまう。

未完

聖夜の二人はあまりにもニヤニヤしてしまう。
クリスマスの1日だけ、その日だけは
二人も悪の幹部でも魔法少女でもない。
互いの名前を呼び合う、そんなシーンにニヤニヤが止まらない。

終盤もそんな二人のイチャイチャが描かれている。
なにか変わることも、大きく進展することもない。
それは二人の関係性が本来は敵同士だからこそだ、
進展してしまえば二人の立場の問題に踏み入ることになる。

進展しない二人の恋模様、いつもの繰り返す日常、
それが永遠に続くことはある意味で幸せだ。
全て捨てて二人で生きていく、そんな選択を取ることは
今の二人にはできない。

しかし、いつか決断しなければならない日は来る。
その日まではこの幸せを、
自覚しきれていない恋愛感情を味わっていたい。

この幸せな日々が、そんな日々が続くように。
あえて未完の原作をアニオリエンドになどせず、
未完のままだからこそ永遠に二人が
この日々を味わい続けられる。

最終話のラストカットのENDLESSはにくい演出だ。
続きが見たいと思っても続きが描かれることはもう無い、
未完の作品を未完のままに。

くっつきそうでくっつかない二人の日常を
いつまでも想像できる「余韻」をあえて残すことで
未完だが完全なアニメに仕上げている作品だった。

総評:思わず貢ぎたくなる魔法少女はいかが?

全体的にみて、あえて未完の、しかも10年以上も前の
漫画をアニメ化する意味をきちんと感じられる作品だ。
漫画や小説など未完のままで終わる作品が多い。
原作者が亡くなってしまったり、ご存命でも続巻が出なかったり。
事情は様々だ。

物語を始めたからには終わらせるべきではある。
しかし、終わらせるために物語の登場人物は辛い目に合うことも多い。
逆に終わらせなければ幸せな状況にいるキャラクターは幸せなままだ。
この作品の二人は魔法少女と悪の組織の参謀という本来は
相容れない存在だ。

だが、互いをしればしるほど二人は互いを求めていく。
それを恋愛感情と自覚しないままに、
自分でもどうしようもない感情に揺れ動かされ、
逢瀬を重ねる日々に幸せを感じてしまう。

悪の組織の参謀として罪を重ねた男が見つけた癒やし、
孤児院で育った少女が初めて感じた幸せ。
互いにとって互いといなければ味わえない
「幸せ」を噛み締めている。
そんな日々が未完だからこそ永遠に続く。

幸せなラストと未完だからこその余韻、
約10年前に連載が終わってしまった作品をあえて
約10年たった今アニメという媒体で描くことで、
二人の幸せが永遠に続いているんだと感じさせてくれる1クールだ。

作画のクォリティも高く、ボンズだからこその変身シーンの
気合の入れ方には思わず笑ってしまう部分があり、
可愛らしいヒロインやかっこいい男性キャラの洗練されたデザインと
妥協のない作画で日常を描いているからこそ、
より二人のラブコメに夢中になれる。

コミカルな会話劇の中でのギャグは
人によっては好みが分かれる部分ではある、
特にマスコットキャラの過剰なセクハラや下ネタは
度が過ぎている部分があり、好みが分かれるポイントだ。

一部の悪の幹部などのサブキャラは
やや掘り下げ不足な部分もあるものの、
メインキャラクターの掘り下げはしっかりしている。

1話15分というのもほどよい尺だ。
これが30分ならば間延びしてしまうところを、
15分だからこそ二人の逢瀬にニヤニヤできてしまう。

ベタな魔法少女的な設定の中で描くラブコメ、
この作品はそれ以上でもそれ以下でもなく
奇をてらった要素はないものの、
まっすぐに描かれているラブコメだった

個人的な感想:未完

あえて未完の原作をアニメ化する意味を
きちんと感じられる作品だった。
もう少し複雑な作品だったり、
がっつりとしたストーリーがある作品ならば
未完のままアニメ化してしまうと中途半端な部分はある。

しかし、この作品はラブコメだ。
くっつきそうでくっつかない、そんなドギマギとした
男女を楽しむものであり、ストーリーが進まないということは
それほど重要ではない。

だからこそ未完でアニメ化しても続きが気になる!という
感じにはならず、未完だからこそ永遠にキャラクターの
幸せな関係性が続くことを感じさせられる余韻が生まれている。
1クールで作品としてきちんと形になっており、
未完というエンディングを迎えている。

心地の良い「余韻」の残る素晴らしい作品だった。

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