評価 ★★★★★(90点) 全114分
あらすじ 好奇心旺盛でお話好きな小学1年生のトットちゃんは、落ち着きがないことを理由に学校を退学させられてしまう。東京・自由が丘にあるトモエ学園に通うことになったトットちゃんは、恩師となる小林校長先生と出会い、子どもの自主性を大切にする自由でユニークな校風のもとでのびのびと成長していく。引用- Wikipedia
感動ポルノ? いいえ、名作です。
テレビドラマ化などはされたものの、
初の映画作品でありアニメ作品となる。
監督は八鍬新之介、制作はシンエイ動画
トットちゃん
映画冒頭から主人公である「トットちゃん」が出てくる。
彼女は子供らしい子供で多くの夢を持ち明るい未来を夢描いている。
しかし、そんな彼女は「迷惑」がられている。
彼女は自由だ。
授業中に机で遊び、先生の揚げ足を取り、遊びまくる。
それが「悪いこと」「やってはいけないこと」という認識が彼女にはない。
現代で言えば発達障害やADHDなどと診断されるような女の子だ。
多動などといえばわかりやすいだろう。
しかし、昭和15年にはそういったもの認知はされていない。
そんな子だからこそ普通の学校には通えない。
彼女は「トモエ学園」と呼ばれる学校へと
通うことになるというところから物語が始まる。
そういう子供に必要なのは、理解だ。
周囲がまず、理解しなければ自由に生きていくことすらできない。
現代ならADHDや発達障害への理解が深まり、大人も余裕を持って対処できる。
しかし昭和15年の日本は違う、戦争がせまり、
ADHDは発達障害への理解もない。
トットちゃん、黒柳徹子さんが今もご存命なのは、
そんな理解者が昭和15年のあの時代に居たことが大きいのだろう。
トモエ学園の「校長先生」は良き理解者だ。
自由に様々なことをどばーっと喋りながら動き回るトットちゃんを
しっかりと見つめ、しっかりと話を聞いてくれる。
「どうしてみんなは私のことを困った子っていうの?」
彼女が悪いわけではない、困った子ですらない。
そう生まれただけだ。彼女に何の罪もない。
それを校長先生は理解してくれる
「君はいい子なんだよ」
彼女にとっての救いだ。
前の学校の同級生も先生も自分を理解してくれず、
両親は自分に愛情を向けてくれるものの理解してるとまではいかない。
そんな彼女が出会った初めての理解者である校長先生は
彼女のすべてを受け止めてくれる。
背景
この作品の背景は非常に柔らかい色合いで彩られている。
昭和15年の日本の背景、どこか木と砂の匂いであふれかえるような
あの時代の日本のような空気感をしっかりと漂わせる背景が描かれており、
そこに独特のキャラクターデザインのキャラが生きている。
特に口やほほの描写はかなり特徴的だ。
まるでリップを塗っているかのような口、頬紅を指したような頬の
描写は、かなりクセがあり慣れるまでヤヤ時間がかかる部分はある。
しかし、そんなキャラが生き生きとしている。
ちょっとした背景の描写、あの時代の日本の暮らしの描き方が
どこかジブリ作品を彷彿とさせるような描写だ。
当時の日本人の暮らし、ラジオを聞き、黒電話で電話をし、
冷蔵庫は電気ではなく「氷」を入れることで温度を保っている。
トットちゃんはかなり裕福な家庭で生まれている。
それを感じさせる暮らしぶり、両親やトットちゃんが
着ている服、そういったもので説明せずとも見せて
視聴者に感じさせている。
アニメーションは見て伝える表現だ。
セリフで説明することは簡単だ、しかし、
それをしすぎてしまえばアニメである意味がない。
ちょっとした暮らしぶり、ラジオで流れてくる声が、
時代を、戦争の足音をも感じさせる。
主人公であるトットちゃんの見える世界、
そんな世界の変化や広がりもアニメーションで見せており、
表現があまりにも秀逸だ。
トモエ学園
トモエ学園は自由だ、教室は電車の車体を利用したもので、
授業も自由だ、誰が何をやっても良い。順番に縛られることもない。
算数をやっても良い、国語をやっても良い、絵を描いても、
音楽をしても、怒られない。
やりたいことを、やりたいように好きなときにさせる。
それがこの学園の方針とも言える。
わからないことがあれば自分から先生に聞きに行く、
子どもの得意なこと、不得意なことをはっきりとさせつつ、
才能を伸ばすような教育だ。
トットちゃんだけではない、この学園に通っている子は特別だ。
トットちゃんのような子や小児麻痺を抱えている子供もいる。
トモエ学園はそんな子どもたちの受け皿だ。
子供が助けを求めない限りは大人が説教的に介入することもない。
例えば「トットちゃん」がトイレに財布を落としてしまうシーンが有る、
彼女は1日中、そこで財布を探すのだが、
先生はそれを知りつつも、叱ることも助けることもしない。
彼女が満足行くまで、納得行くまで続けさせる。
それが彼女のような子供にとってベストだと理解しているからだ。
そんな学園だからこそトモエ学園に通ってる生徒は生き生きとしている、
名前は知らずとも、思わず一人ひとりが印象に残ってしまうほど、
背景で描かれるモブキャラでさえ生き生きと細かく、
それぞれがやりたいことをしている描写に思わず目が
画面の端から端まで追ってしまうような感じだ。
劣等感
普通の学校なら問題児扱いされてしまう生徒たち、
そんな生徒たちが自由にできる学園だからこそ、
生徒が生徒を助けることもある。
自由になったトットちゃんは小児麻痺を抱えた少年である
「泰明」の手を取ってくれる。
彼は自分の障害をわかっている、わかっているからこそ
本を読むくらいしかせず、みんなと遊ぼうとしない。
そんな彼の手を取りながら彼女は言葉を投げかける。
「みんないっしょでしょ」
みんな違うところがある、しかし、みんないっしょだ。
自由になった泰明が楽しく、みんなと一緒に泳ぐ様は、
どこか絵本的でありながらも自由な表現だ。
トットちゃんが居たからこそ彼もまた自由になれた。
ドロだらけになった服、そんな服を見つけた彼の母の涙には
思わず涙腺を刺激されてしまう。
アニメーションも制約に縛られない、
癖のあるキャラデザも、ときおり絵本的になる作画や演出も、
自由だ。自由にこの作品を作り上げている。
このトモエ学園は子どもたちにとって自由だ、
しかし、そんな自由を大人たちは必死に作り上げている。
生徒たちに劣等感を与えないように、自分が駄目なんだと思わないように。
授業中のちょっとした一言から、運動会にいたるまで、
子供はなにかのきっかけで劣等感を覚えやすい。
自分と他人の差を感じるのが学校という場所であり、
そこで自分というものを見定めていくのも学校という場所だが、
トモエ学園に通う生徒たちは特別だからこそ、劣等感を覚えやすい。
ちょっとした配慮や遠慮は子供に伝わってしまう。
だからこそ大人たちは最大元に気を使っている。
そんなトモエ学園の自由な教育をずっと観ていたくなるものの、
現実は残酷だ、昭和17年になり、戦争の足音は近づいていく。
トットちゃん自身も「パパ」と「ママ」という呼び方を禁じられる。
敵であるアメリカのスパイと思われないように。
豪華だったお弁当も質素なものに、贅沢は禁止され、
街からは男性が徐々に居なくなっていく。
自由な学園も、社会が自由を奪っていく。
もっと豊かだったら、もっと平和だったら、
失くなる命も無かったかもしれない。
疎開
戦争の足音は確実に迫っている。
トットちゃんの父は召集され、疎開も始まる。
成長したトットちゃんは頼もしさに溢れている、
父が居ないからこそ、彼女は母と小さな弟を守ろうとしている。
まっすぐに自由に育った彼女は「校長先生」と約束を交わす。
最初から最後まで彼女は「いい子」だ。
だが、時代は変わっていく、戦争が激しくなり、
トモエ学園は戦火につつまれてしまう。
それでも、彼女は変わらない。
余韻を残すラストはどこかどっしりと心に残るものを残し、
栄華の幕が閉じる。
総評:名作に震えろ
全体的に観て素晴らしい名作だ。
原作からして素晴らしい作品ではあるものの、
そこをきちんと汲み取りつつ、アニメーションとしての表現が
あまりにも秀逸だ。
キャラクターデザインこそ、かなり癖はあるものの、
そこさえ乗り切ってしまえば素晴らしいアニメーションによる
「演技」を見せられる。
言葉にしなくても伝わる主人公の家の裕福さ、徐々に忍び寄る戦争の足音、
トットちゃんという主人公や彼女の友達が見えている世界の変化まで
余計な言葉を一切語らずに映像表現として自由に見せている。
ときには戦争の気配を感じさせるために軍人の描写をしつつ、
そんなリアルな大人の世界の中で生きている、
普通とは少し違う特別な子どもたちの自由な生き様、
校長先生や友人という理解者が居たからこその人生観の変化までを
アニメーションできちんと見せている。
ときにはリアルに、ときには絵本のように。
現実と空想の間に生きているような子供だからこその視点を
豊かな色彩と表現でこれでもかと描いている作品だ。
シンプルに観ていて面白い。
ストーリーは、現代ならばもう少し理解者が多い子どもたちの話だ。
ADHDや発達障害、自閉症、身体の障害を持つ子は多くいる。
今ならば親も情報が手に入り、周囲の大人や先生も
きちんと理解しているからこそ、そんな子供に
正しく接することもデキる場合が多い。
しかし、戦争中の日本にはそんな余裕も情報もない。
だからこそ、そんな時代に生まれてきた特別な子どもたちは
生きづらさを感じている。
今も理解こそ深まったものの理解してくれない大人はいるだろう。
それは今も昔も変わらない。
しかし、今も昔もたった一人でも「理解」して、
寄り添ってくれる人が居れば違う。
トットちゃんにとって、それは校長先生だ。
自分はいい子じゃないのかもしれない、普通じゃないのかもしれない、
そんな彼女の、子どもの悩みに校長先生はそっと寄り添ってくれる。
「君はいい子なんだよ」
この一言で救われる子供は多いはずだ。
反戦映画としてのニュアンスもチラホラとはあるものの、
そこまで強く押し出しているわけではない、
この時代で生きる少女の背景に描かれる戦争の気配は
非常に生々しく、特にトットちゃんの父の描写はグッとくるものがある。
この戦争の時代でも軍歌は弾かない、
そんな父の決意を後押しする家族、それでも召集されてしまう父、
戦争の時代を生々しく描いている作品だ。
障害なども描いているため一見、
感動ポルノ作品にも見えるが、そうではない。
そんな感動ポルノ、24時間TVなどでは描けないような
きちんと深いところまで掘り下げた作品だった。
個人的な感想:見過ごした…
こういう作品に限って映画館で観てないのは本当に悔やまれる。
PVの段階で個人的にあまり好きなタイプの作品じゃないかなと思って
忙しかったこともあり映画館には足を運ばなかったが、
これは映画館で観るべき作品だった。
興行収入自体は9.2億円ほどで、目立った感じはなかったものの、
金曜ロードショーなどで上映されれば
もっと多くの人に評価される作品かもしれない。
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