評価 ★★★☆☆(56点) 全12話
あらすじ 商人として日々働いていたバナザは、突然クライロード魔法国という見たことも聞いたこともない異世界に「勇者候補」として召喚される。引用- Wikipedia
平成オタクの同窓会
原作は小説家になろうで連載されていた小説作品。
監督は岩崎良明、制作はJ.C.STAFF
異世界から異世界へ
小説家になろう作品の場合、わたしたちの居る世界から
異世界に転生、または転移するという作品が多い。
それか同じ世界で転生するパターンも見られる。
しかし、この作品の場合は異世界から異世界に転移する。
もともと亜人などが住むファンタジー世界に住んでいた主人公は、
別の世界に「勇者候補」としていきなり召喚される。
異世界召喚者は基本的にチートをもっているらしいのだが、
肝心の主人公は「神の天啓」をもたず、
一般男性と変わらないステータスであることが明らかになる。
同じタイミングで別の人物も召喚され、
彼の方はステータスが999というチートな存在だ。
元の世界に戻す手段もなく、彼は国の外の森に捨てられてしまうという
ところから物語が始まる。
展開自体にそこまで新鮮味はないものの、
主人公の「明るさ」はとにかく特徴的だ。
異世界にいきなり召喚されたのに落ち込む様子も一切なく、
常に明るい、異世界の種族だろうと、亜人種だろうと、
元の世界から彼は別け隔てなく接してきたからこそ、
異世界に転移してもそんな態度は変わらない。
そんな国の外の森でスライムを倒した主人公は
「レベル」があがり、結果的にタイトル通りな
チートなステータスをゲットする。
全ステータスが「無限」だ(笑)
今まで色々ななろう系作品で主人公のチートな
ステータスを見てきたが、記憶にある限り「∞」表記は初めてだ。
ステータスだけならおそらくどのなろう系主人公よりも強い。
そんなチートなステータスの表記が「∞」という記号ゆえに、
主人公は自らの強さを自覚しきれていない。
自覚しきれぬまま主人公はギルドに登録し、仕事をすることになる。
要素や設定自体はベタななろう系作品ではあるものの、
主人公のそこ抜けた明るい性格ゆえに、嫌味な部分がない。
そんな彼が「魔族の少女」と出会うところから
物語が動き出す。
日野聡、釘宮理恵
この作品の最大の特徴はもはや内容ではない。
そもそも「監督」の時点で平成オタクの琴線に触れる。
岩崎良明さんはゼロの使い魔を手掛けた監督さんだ、
そんな平成を代表する作品を手掛けた監督が
令和の時代に「日野聡」を主人公に起用し「釘宮理恵」を
ヒロインに起用している(笑)
もはや意味不明だ。
これが10年、20年前ならあり得た組み合わせだ。
日野聡さんと釘宮理恵さんが主人公とヒロインを務めた作品は
ゼロの使い魔だけでなく灼眼のシャナなどもあり、
黄金コンビとして平成オタクの印象に残っているはずだ。
あれから15年以上の月日が経過し、
日野聡さんは今や「鬼滅の刃」では煉獄さんとして有名になり、
釘宮理恵さんも今もなお多くの作品に出演されている。
ふたりとも大ベテランだ。
声優さんのギャラは「ランク制」になっており、
基本的にキャリアが長くなればランクも上がり、ギャラもあがる。
すると必然的に新人や中堅が主人公やヒロインに起用されやすく、
キャリアの長い大御所の声優が主人公やヒロインに起用されるのは稀だ。
しかし、この作品はなぜか今や大御所声優になった
日野聡と釘宮理恵という二人をあえて起用している(笑)
どちらかだけならまだあり得るかもしれない、
だが、この二人をあえて起用しているのは制作の
強い意図がうかがえる。
そんな日野聡演ずる主人公は魔族である釘宮理恵さん演ずるヒロインと出会い、
彼女と戦うのだが、あえて「隷属魔法」を使わない。
チートな能力をもっているからこそ、余裕で相手を
滅殺することもできれば隷属することもできる。
だが、彼はそんなことはしない。
自らが居た世界では人間以外の種族は奴隷のように扱われており、
それを彼は否定し続けていた。
だからこそ、異世界でもその信念は曲げない。
例えこの世界で魔族という存在が人間にとって忌むべき存在であり、
人間と魔族が戦っていることを知っていても、
彼は魔族を受け入れようとしている。
ある種の「博愛主義」だ。
そんな彼の強さに、心意気にヒロインは自らの種族としての
本能ゆえか惚れてしまう。
なろう系作品によくある展開ではあるものの、
日野聡さん演ずる主人公と釘宮理恵さん演ずるヒロインというだけで
平成オタクの耳が大満足してしまう(笑)
ある種の声優チートだ。
この二人だけならともかく、王女を川澄綾子さんが演じていたり、
勇者に付き従うキャラを高橋美佳子さんが演じていたり、
話が進むと堀江由衣さんや、伊藤静さん、田村ゆかりさんに
新井里美さんまで出てくる。
令和の時代とは思えないキャスト陣が、
内容どうこうよりも気になってしまい、
そんな声の魅力に平成からのオタクが久しぶりに会う友達ばかりの
同窓会に訪れたような感覚にすらなる。
この狙ったキャスト陣こそが本作の最大の特徴と言えるかもしれない。
旦那様
主人公に惚れたヒロインは主人公とともに生活することになる。
ギルドに登録し、人族の中で彼女は生きることになる。
そんな中で自らの力を自覚していなかった主人公が
徐々に自分の力を自覚するようになる。
魔王軍の四天王の妹だったヒロインに勝った主人公、
勇者が敵わない敵だけでなく、魔王すら殺せるほどの
力を持っている存在だ。
そんな力を持っているがゆえに大人しく生活はできない。
彼は別に世界を救いたいわけでも、魔王を倒したいわけでもない。
だが、そんな力を持つゆえに多くのものが彼のもとに集まってくる。
元の世界に戻るためになにかするわけでもなく、
淡々としたストーリー展開ではあるものの、
メインヒロインの可愛さもあいまって楽しめる部分がある。
もっとも「釘宮理恵」さんの声による効果はでかい(苦笑)
しかし、それ以上にシンプルにキャラクターとして可愛らしい。
主人公に惚れ、旦那様とよび、世間から正体を隠すために
夫婦と偽りながらも、それを喜びつつ、いつでも笑顔だ。
料理が苦手だったりと人族の生活に馴染めず、
徐々に馴染んでいく姿も可愛らしい。
彼女にとって食事は食材そのまま食らうことだ。
だが、人族は違う、料理という手段がある。
最初はそんな手段を知らなかった彼女が主人公のために
料理教室に通い、料理ができるように努力する姿は
健気で可愛らしいヒロイン像がしっかりと序盤で出来上がっている。
作画のクォリティもしっかりとしており、
特にメインヒロインの「フェンリース」は
シーンによってはきちんとした「フェチズム」を感じる。
序盤は戦闘シーンらしい戦闘シーンは少ないものの、
そんな少ない戦闘シーンもきちんとエフェクトを多用しながら
しっかりとした戦闘シーンを描いている。
最初は声優のインパクトが凄まじいものの、
話が進んでくると段々と作画やストーリーが
意外としっかりとしたものであることを感じられる。
基本的にコメディタッチで明るく描かれており、
サクサクと描かれるストーリーの中でキャラが増えていき、
ワチャワチャ感が増していく。
主人公も自らの力を自覚したからこそ、
人族とも魔族とも戦わないための道を選んでいく。
力で相手を説き伏せるのではなく、
時に「逃げる」ことで問題を解決していく。
あくまで主人公の目的は誰とも争わずに平和に暮らすことだ。
しかし、主人公の持つ力故に狙われてしまう。
魔人
魔人は人の願いを叶える存在だ。
生贄を代償に強大な力で願いを叶える。
そんな願いとして「主人公を殺す」依頼をうけ魔人がやってくる。
主人公は温厚な人間だ、強大な力を持っていても、
そんな力をひけらかしたり、力で相手を屈服させたりもしない。
平和に、温厚に、争いが嫌いな青年だ。
だが、自らが愛するものを、守りたいもののためならば力を使う。
メインヒロインを傷つけられた彼が本気を出す。
チートな力で「イキる」ために使うのではなく、
ヒロインのために使う姿はまさに主人公だ。
ヒロインを救うために、ヒロインのために。
異世界で一人だった自分を理解し、愛してくれた彼女のために
チートを超えたチート、本気を見せる姿はシンプルにかっこいい。
単純に「殴り」「蹴る」だけだ。相手が女性の姿だろうと容赦はない。
多くのなろう系主人公が「力を見せびらかす」ような
シーンが主体になっているが、この作品の場合は、
きちんと主人公が力を使う理由が裏付けされており納得できる。
ヒロインのために力を使い、ヒロインのために強くなる。
だが、人が一人で持つにはあまりにも強大な力だ。
一歩間違えば世界さえ崩壊しかねない。
だからこそ、彼は力の使い所を考え、悩みながらも、
今の生活を、平穏な暮らしを保とうとする。
元の世界に戻ることもできるかもしれない、
だが、それよりも今が、ヒロインであるフェンリースが
彼にとって大事な存在になる。だからこそ、戻らない。
この手の異世界転移ものでありがちな
元の世界に戻る努力をしない理由もきちんと裏付けされている。
魔族と人族の戦争も簡単に解決できる問題ではない。
魔族の中には体内の「魔素」をコントロールできないものもおり、
魔素が溜まる場所は人にとっては有害な場所になってしまう。
そんな世界で自らと自らが愛するものが平和で
穏やかに暮らせるように彼は努力している。
シンプルにチートで俺つえーを発揮すればいいわけでもないのが
この作品のミソにもなっている。
?
ただ終盤はやや謎のストーリー構成になっている。
人族と魔族の紛争に裏で介入しつつ、互いが大きな被害が
出ないように尽力する主人公だが、そんな中で魔王の弟が謀反を起こす。
魔王自体はすでに主人公と交流があり、
なおかつ人族と積極的に戦争する考えもない。
だが、彼の弟は別であり、そんな彼が謀反し、
四天王の一部も彼の考えに賛同してしまう。
その問題が描かれるのが10話だ。
魔王はあっさりと弟に魔王の座を譲り渡し、
主人公たちとの生活を楽しんでいる。
そんな10話が描かれた後、残り2話もある。
この作品は1クール、全12話の作品だ。
残りの2話なにをするか。
温泉旅行である(苦笑)
キャラ全員で温泉旅行でドタバタコメディを繰り広げて終わる。
ただ、ある意味でこの作品らしいラストだ。
シリアスかつ重すぎる展開には絶対にならず、
いくらチートな能力をもっていても、主人公がそれをひけらかすわけでもない。
長い戦争と魔族の体質故に戦争状態だった
魔族と人族、問題は簡単には解決しないかもしれないが、
主人公の存在がきっかけになり、少しずつこの世界の人物も
考えが変わり、世界が変わるきっかけになっていく。
そういう物語を描きたいことは伝わる作品だった。
総評:卑怯すぎる声優チート
全体的に見て起用された声優のインパクトが何もよりも凄まじい作品だった。
まさか令和の時代に日野聡さんと釘宮理恵さんが
主人公とメインヒロインを演ずる作品が見れるとは誰が予想しただろうか。
その二人だけでなく、平成の時代に深夜アニメを楽しんだ人ならば
1度は耳にしたことのある声優さんが多く登場しており、
平成オタクにとって耳が幸せすぎる作品だ。
ストーリー的には序盤はなろうらしい作品っぽさが強いのだが、
徐々にこの作品でやりたいことがわかってくる。
魔族と人族、長い間戦争状態の2つの種族には深い溝がある。
そんな溝を異世界からやってきた主人公が少しずつ埋めていく。
決して力だけで解決するわけではない、
彼の考えに、行動に、言葉に感化されて色々なキャラが
魔族も人族も分け隔てなく接していく。
あくまでも主人公の周りにいるキャラだけだが、
少しずつこの世界の偏見や凝り固まった考えがほどけてきている。
1クールではあくまで解け始めた段階までしか描かれていないが、
ドタバタコメディを描きながらも、
そういうストーリーを描きたいということが伝わる作品だ。
ヒロインの作画はしっかりとしており、
戦闘シーンもそこまで多くはないが、要所要所でしっかりと描いている。
声優のインパクトやOP曲のインパクトは凄まじいが、
作品としての方向性はきちんと決まっており、
1クールでそれを感じさせてくれる作品だった。
個人的な感想:アラサー以上
この作品のターゲットはおそらく、あの時代のアニメを楽しんだ
アラサー以上だろう(笑)
おそらく面白さがきちんと伝わるのもアラサー以上かもしれない。
10代の子に日野聡さんが主人公で釘宮理恵さんがメインヒロインで
起用されている凄さ自体は伝わるかもしれないが、
この「懐かしさ」は感じられないだろう。
平成アニメでメインを張っていた声優が
令和の時代で同じようにメインを張る。
この凄さが同窓会のような懐かしさを産んでおり、
もし2期があり、新キャラが出てくるならば、
もっとこの懐かしさを強調するような声優さんが起用されることを期待したい。
しかし、1クールで意外とストーリーはまとまっており、
人族と魔族の問題は解決していないが、
その可能性を指し示しており、きちんと区切りが生まれている。
なろうというジャンル、テンプレ的な要素を使いつつも
「差別」と「偏見」を描こうとしている。
意外と深い作品だったのかもしれない。
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