評価 ★★★★★(89点) 全92分
あらすじ ニューヨークで配管工を営む双子の兄弟マリオとルイージが、謎の土管を通じて魔法に満ちた世界に迷い込む。引用- Wikipedia
これが世界のマリオだ!
本作品はゲーム、スーパーマリオを原作としたアニメ映画作品。
制作はイルミネーション、監督は アーロン・ホーバス、マイケル・イェレニック
歴史
マリオといえば、知らない人を探すのが難しいほど
世界的に有名なゲーム作品だ。
ファミリーコンピューターで発売されて以来、多くの人に愛され、
今もなお新作が発売されている世界的なゲーム作品だ。
本作品はそんなマリオの映画だ。
ゲームのマリオ自体は有名ではあるものの、映像作品は
2023年現在までほぼ存在しないに等しい。
いわゆる「黒歴史」だ。
1986年にアニメ映画化されたものの、設定の違いや
永谷園の商品宣伝シーンなどもありファンからの評価は高くない。
1993年には実写映画が制作されたものの、
その実写映画がとんでもない作品になってしまい、
実写ドラゴンボール以上に黒歴史扱いされている。
そんなマリオの映像作品、しかもフルCGだ。
期待と不安が入り交じる中での公開になった作品と言えるかもしれない。
90分
そんな不安をよそに、この作品は本当に素晴らしい作品になっている。
尺は92分と映画としてはかなり短い。
だが、この短さがこの映画を誰もが楽しめるものに仕上げたと言ってもいい。
マリオだからこそ子供も大人も、女性も男性も誰しもが知っており、
誰もが見る可能性がある。
だからこそ誰が見ても、飽きさせない、ダレさせないものに仕上げる必要がある。
某作品のキャラクターは作中でこんな事を言っている
「90分以上の映画は観客に優しくない」
現代は「タイパ」なんて言葉も出るほど、時間に追われている。
様々なコンテンツを倍速再生で見ている人も多いほどだ。
そんな現代だからこそ「92分」という尺は
観客に優しい、集中力を保てる尺とも言える。
結果的にそうなったのか、意図してそうなったのかはわからない。
だが、私個人の考えではおそらくこの映画は意図して、
90分ほどの尺に仕上げたのではないだろうか?と
感じさせてくれた。
忘れてた
「スーパーマリオ」という作品自体はしっているものの、
そのキャラクターが深く掘り下げられることはほぼ無い。
コミカライズなどでマリオが喋ることはあっても、
基本的にゲームの中のマリオは「セリフを喋る」ということはない。
毎回、さらわれている「ピーチ姫」を助けにマリオが
困難な道を通りながら、誘拐犯であるクッパのもとへをたどり着き、
クッパを倒してピーチ姫を助け出す。
多くの人の中にあるマリオという作品のストーリーの印象は
それ以上でもそれ以下でもないだろう。
そんな中で、多くの人が忘れていることがある。
マリオは「配管工」であるということだ(笑)
任天堂公式サイトのキャラ紹介でも配管工だったり
「元配管工」になったりと設定がぶれることもあるほど、
配管工であることはマリオというキャラにおいてそこまで重要視されていない。
しかし、この作品はそういった「設定」に忠実だ。
私は事前の情報をほとんど入れずにこの作品をみたのだが、
まさかマリオで「異世界転移」という昨今の日本のなろう系アニメのような
始まりが見れるとは想像もしていなかった。
ブルックリン
マリオとルイージは独立し配管工の会社を立てている。
テレビで自主制作のCMを流し浮かれながら、
二人の兄弟は自分たちにしかできない何かをなそうとしている。
配管工の仕事の依頼が来れば、そこにかけつけて仕事をこなそうとするものの、
うまくいかない。
父からも務めていた会社をやめなければよかったといわれるほど、
彼は父からも周囲からも期待されていない。
そんな状況ではあるものの、彼は諦めずに何かをなそうとしている。
彼が住んでいるのは「ブルックリン」だ。現実世界だ。
特殊な能力があるわけではない、ただの配管工でしかない。
そんな彼がたまたま地下で緑の土管をみつけ、
そこに吸い込まれてしまうところから物語が始まる。
説明
土管の先は別の世界が広がっている。
きのこが喋り、人間以外の生命体が生きている。
そんな世界に一瞬戸惑うものの、
そんなことよりも彼は一緒に異世界へと来てしまい、
離れ離れになったルイージを助け出すことに必死だ。
この世界がなんなのか、緑色の土管はなぜ異世界につながっているのか。
きのこだらけの世界で人間である「ピーチ姫」がなぜいるのか。
このあたりの説明はほぼない。
この作品は面白いことに意図的に「説明描写」を省いている。
「ご存知ですよね?説明いりませんよね?」といわんばかりだ(笑)
キノコでパワーアップすることも、ファイヤーフラワーに触れれば
火の玉を出せることも、あえて説明セリフで説明することはない。
マリオがキノコを食べれば巨大化してパワーアップし、
ファイヤーフラワーに触れれば火の玉を使える。
そういうものだから、そういうものだとみている人が
知っているからこそ説明セリフで説明する必要性がない。
これは「マリオ」という誰しも知っているからこそ許される、
というよりもできる手法だ。
共通認識、共通の知識としてマリオの世界におけるアイテムを知っている。
終盤でクッパを倒すキーアイテムであるスターをマリオとルイージが触れて、
クッパの攻撃が効かなくなり反撃する展開があるが、
これも別に「スター」がそういうものだとみている人たちがわかっているからこそ、
説明の必要が一切ない。
マリオという「ブランド」の凄さを感じさせる。
これが別のゲームならば説明しなければ「なんで無敵になるの?」と
思うところだが、マリオのスターなら無敵になることは
「当たり前」のものだ。
だからこそ、その当たり前をあえて説明しない。
説明セリフがないからこそストーリーがスムーズに進み、
余計なセリフがなく物語が展開し、アクションを見せまくることができる。
「マリオエアプ」「マリオにわか」の人でも、
スターが無敵になることは知っているだろう。
この作品をマリオというゲームをプレイしたこともみたこともない人が
見る可能性は低い。だからこそ、説明しない。
この脚本の構成がこの作品を誰もが楽しめるものに仕上げていると同時に
「マリオ」というブランドの認知度の恐ろしさをも感じさせてくれる。
横スクロール
マリオというゲームの面白さ。
それは困難な道程をクリアしていくことだと私は感じている。
初期のころのマリオは右スクロールアクションであり、
そこに敵が配置されていたり、なぜかブロックが1マスずつ空いてたり、
触ったら落ちる場所があったり。
そういう道中を死にながら覚えていきクリアする。
それがマリオの楽しみでもある。
この作品はその「道中」をこれでもか!と味あわせてくれる作品だ。
それを感じさせてくれるのが「カメラワーク」だ。
例えば序盤でマリオとルイージが配管工として仕事先に
急いで向かうというシーンが有る。
その道中のシーンをあえて「横スクロール」のように映している。
カメラを引き、マリオたちの体の右側を映しながら、
彼らが道中の障害物を華麗に避けながら右へとかけていく。
私達があの頃プレイしたゲームのマリオの映像そのものが
映画のワンシーンになっている。
彼らが動くだけで面白い、彼らがジャンプし、
「ホゥ!」「ヤッフゥ!」と掛け声を上げながら移動するだけで面白い。
それがマリオというコンテンツの面白さであり、
媒体がゲームからアニメという映像媒体になっても
それを見る側に体験させてくれる。
たかが移動しているだけのシーンだ、それがマリオだからこその
魅力のあるシーンに変わっている。
制作側が意識的に「ゲーム」の追体験をみている側にさせるような、
思わずみている最中に両手でそこに存在しないコントローラーを
握っているようなそんな感覚にさせてくれる映像表現が
この作品にはこれでもかと詰まっている。
マリオというゲームのどこが面白いのか、
その面白い部分をどう映像に落とし込めばいいのか。
それをきちんと考え、媒体が変わってもマリオという作品の面白さを
最大限に見せてくれている。
みている最中に思わずニヤニヤしてしまう。
ステージ構成が同じなわけではない、だが、
新しいマリオのステージを見ながら操作せずとも攻略しているような
そんな「体験」をさせてくれる映画になっている
小ネタ
今作は非常に小ネタの多い作品だ。
任天堂ファン、マリオファンならば、そんな細かい小ネタに
気づくたびに「ニヤニヤ」させられてしまう。
ぜひ本編でそれを探してほしいので、ここでは全てを紹介することはないが、
1つだけネタバレをするならば、冒頭でマリオが
「パルテナの鏡」をプレイしている(笑)
そういう小ネタや、原作再現のようなシーンを見るたびに
ニヤニヤしながら懐かしい気持ちにもなれる。
制作側の「マリオ」、そして「任天堂」という会社に対する
リスペクトと愛を深く感じる描写の数々だ。
ピーチ姫
今作ではピーチ姫は序盤から中盤までマリオのそばにいる。
ピーチ姫といえば何度も何度もクッパに誘拐されていることでお馴染みだが、
今作ではそういう過去はなく、
あくまでクッパという敵役に見初められてしまって狙われているという状況だ。
それゆえに彼女は助け出されるだけの存在ではない。
クッパという悪に立ち向かおうと国の姫として行動し、
彼らの長として他国と協力しクッパに挑もうとしている。
きちんと国の長たる「姫」の役割を彼女は全うしている。
見る前の段階でピーチ姫がそういう役柄ではないことは
PV段階ではわかっていたのだが、
最近の海外の映画にありがちな「ポリコレ」的なメッセージを
含むのでは?と一抹の不安を抱えていたのだが、
その不安がぶっ飛ぶかのようにピーチ姫のキャラクター描写が的確だ。
マリオのそばにいつつも彼女は「ヒロイン」としての存在感があり、
異世界に来てルイージも居ない中で不安になる彼を支えつつ、
彼に修行をつけ、ともに戦うパートナーとして会話を交わしている。
彼女の幼い頃も少しではあるものの描かれる。
彼女は小さな頃、この世界に迷い込んだ人間であり、
そんな彼女をキノコ王国の民は育ててきた。
彼女の両親の存在や、彼女が自分のいた世界に戻るために奮闘するみたいな
展開はなく、あくまでもキノコ王国の姫として描かれている。
そんな中でほのかにマリオとの恋心も募らせている。
二人だけの時間、キノピオを含めた3人の道中は楽しそうで、
二人の距離が徐々に近づいていく過程がほのかに描かれている。
がっつりとしたラブロマンスではない、
だが、そのほのかにただようラブロマンスがほどよく、
ピーチ姫のキャラクターの魅力も強めている。
ときにはマリオよりも戦い、ときには可憐に。
マリオカートやスマブラの中で描かれていた戦う姫の
キャラクターが際立っている描写だ。
クッパ
今作のクッパは完全に「悪」だ。
自分自身の欲望のために他国を襲い、相手の気持ちを考えずに、
自分の気持ちを身勝手にピーチ姫に押し付け、無理矢理結婚しようとしている。
勧善懲悪の作品であり、彼の存在は心地良いまでに「敵」だ。
だが、それと同時に愛くるしい姿も見せてくれる。
ピーチ姫へのプロポーズを練習したり、
時に彼女への愛を込めてピアノを弾き語っている(笑)
敵役であり、絶対的な悪ではあるものの、
そんなクッパの愛くるしい姿が憎めない敵としての描写になっている。
クッパの配下たちもきちんと描写されており、
懐かしいあのキャラやおなじみのあのキャラまで、
私達の「マリオ」の命を奪ってきた名敵キャラの数々が
細かいシーンで存在しており、彼らが出てくるだけで、
そこに存在するだけで楽しくなってしまう。
ドンキーコング
そして今作にはドンキーコングも登場する。
ドンキーコングもアーケードゲームで出た最初はマリオの敵役だ。
そんな彼がスピンオフとしてゲームシリーズ化され、
マリオと同じく愛されるキャラクターになっている。
そんな過去があるからこそ、今作でも登場した時点ではマリオの
敵的な立ち位置にいる。
落ちたら死んでしまうような場所で戦う二人。
ドンキーコングは「樽」を投げつけ強力な力でマリオを叩きのめしてくる。
同時に彼はお調子者だ。
一族の長の息子として一族に慕われ、調子に乗る姿は愛らしく、
マリオの敵、そしてライバルとして戦う姿は
敵ではあるものの微笑ましさすら感じる。
そんな彼と戦ったあとはもう仲間だ。
クッパと戦うために「レースカー」にのってピーチ城へと
向かうシーンはまさに「マリオカート」そのものだ(笑)
レーシングカーをカスタムし、レインボーロードを通って、
クッパ軍に邪魔されながらもアイテムを駆使し立ち向かう。
ときには「ショートカット」まで駆使する始末だ。
なんてファンサービスに溢れた映画なのだろうかと感動すらしてしまう。
こういう細かいファンサービスの数々、
それが説明せずとも伝わる要素を楽しめるのは
「マリオ」というコンテンツの魅力であり、力強さでもある。
ルイージ
今作のルイージは序盤から終盤までクッパに捕まってしまっている。
彼は愛おしい存在だ。兄を慕い、兄を愛し、兄を信頼している。
そんな弟の信頼を裏切らず、彼を救い、守るために行動するマリオ。
この二人の「兄弟愛」がしっかりと描かれている作品でもある。
そんなルイージはたったひとりでクッパの領地に落ちてしまい、
まるで「ルイージマンション」のように暗闇で怯えながら
逃げ惑う様子は可愛らしく、捕まったら捕まったで、
ドジっ子のごとく兄の情報を漏らしてしまったりしている。
ある意味で「ヒロイン」だ。
だが、同時に彼もマリオとともに長い歴史を歩んできた
もう一人の「主人公」でもある。
ただ、守られるだけじゃない、ただ、助けられるだけじゃない。
彼もまたマリオの弟として、マリオを命がけで守る終盤の姿は
思わず少しだけ涙腺を刺激されてしまったほどだ。
そして最後には二人で戦う。
この作品のタイトルは「スーパーマリオ」ではない
「ザ・スーパーマリオブラザーズ」だ。
だからこそ兄弟がともに立ち向かう。
何もなし得なかった兄弟が人々を街を救い、認められる。
90分で起承転結スッキリとした物語が展開され、
見終わったあとに素直に「面白かった」といえる満足感のある作品だった。
総評:体験型アニメ映画の最高峰
全体的にみて素晴らしい作品だ。
スーパーマリオという誰もが知るゲームをアニメ映画にする。
そんな中で誰もが知っているからこそ余計な説明をせず、
92分で描かれるストーリーに老若男女問わずに
ニヤニヤワクワクできる作品だ。
まるでみていながら自分自身もコントローラーを握っているような感覚に
させられるようなアクションシーンの連続と、そう感じさせる画面構成と
演出の数々は本当に素晴らしい。
行き着く間もないアクションシーンの数々をこれでもか!と見せつけ、
一切ダレることも飽きることもない。
ファンサービスも多く詰め込まれている。
小ネタの数々、さりげない原作再現の数々、
細かいキャラクターまで画面いっぱいに描写しながら描かれている。
同じ制作の「怪盗グルー」シリーズの中に出てくるミニオンは
小さく可愛らしいキャラクターだが、そんなミニオンの描写で培われた
キャラクターの可愛らしさの描写がマリオの世界観でも活きている。
本当に素晴らしい作品だ。欠点らしい欠点と言えるものがほとんどない。
唯一個人的に気になるとすれば「スロー」の演出がやたら
多かったことだが、それは些細な事だ。
最後には「続編」を匂わすシーンも有り、
ぜひ、続編も作って欲しいと、まるでマリオの新作を
待ち続ける子供のような純粋な気持ちを溢れかえらせてくれる作品だった。
個人的な感想:最高のアニメ化
ゲームのアニメ化は失敗しやすい。
限られた尺の中でゲームのストーリーを描き切ることの難しさや、
ゲームでプレイヤーが体験する出来事を映像媒体で
どう見せるのかというのはかなり難関だ。
だからこそゲームのアニメ化は失敗作がかなり多い。
しかし、マリオは見事やってのけた。
想像以上のクォリティと、想像以上の見事なアニメ化だ。
ラストシーンを見る限りシリーズ化も想定してそうなだけに、
続編があるならば期待したいところだ。
この作品をどう思いましたか?あなたのご感想をお聞かせください
見てきました!
ちゃんと「スーパーマリオブラザーズ」で終わった作品でした!
色んなアイテムが活躍して最高でした!