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「神々の山嶺」レビュー

3.0
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評価 ★★★☆☆(59点) 全94分

映画『神々の山嶺』予告編

あらすじ メンバー全員が45歳以上で構成される中年のエベレスト登山隊は、2人の滑落死者を出し失敗に終わる。引用- Wikipedia

なぜ山に登るのか、そこに山があるからだ

原作は夢枕獏による小説作品であり、谷口ジロー作画による漫画にもなっている。
本作品はマンガをベースにフランスで制作されたアニメ映画作品。
日本でも吹き替えされ2022年に公開された。
監督はパトリック・アンベール。

キャラクターデザイン

原作の漫画を手掛けているのは孤独のグルメなどで
有名な「谷口ジロー」氏だ。そんな漫画を原作にしているだけあって、
キャラクターデザインはかなり渋い。

フランスで制作されているということもあり、
「日本のアニメ」っぽさはまるでなく、
オタクオタクしたキャラクターデザインでもない。
いい意味でも悪い意味でも「渋さ」を感じるキャラクターデザインだ。

使われてる色合いも海外っぽさ全開だ。
日本の作品ではあまり使われないような淡い色合いは
キャラクターデザインもあいまって独特の雰囲気を醸し出している。

そんな中で主人公はカメラマンだ。
彼は「エベレスト」史上最大の謎といわれる「ジョージ・マロリー」の登頂の謎を追う中で、
失踪したクライマーである「羽生 丈二」を見かけるところから物語が始まる。

淡々と語りながらのストーリーは地味とも言える。
しかし、そんな語りを見せるのが「堀内賢雄」さんの演技だ。
彼の声が淡々と語るストーリーに「命」をふきこみ、
淡々としつつも熱く煮えたぎる彼の心の内を感じさせるような
演技はさすがとしか言いようがない。

「ジョージ・マロリー」は本当にエレベストを登頂したのか、
「羽生 丈二」はなぜ失踪したのか。
どこかミステリーを見ているかのようなストーリーに
徐々に、徐々に飲み込まれていく。

日本

原作が原作なだけにこの作品のメインキャラは日本人だ。
エベレスト周辺の描写も多いものの、
過去回想のシーンでは「日本」が描写されている。
この日本がリアルだ。

海外の映画の場合、アニメに限らず日本の描写が
ファンタジーな感じになることは多いものの、
この作品はかなり繊細に日本を描写しており、
リアルな「居酒屋」の光景だったり、日本の街並みだったり、
海外の作品にありがちな日本の描写の「違和感」がまるでない。

日本で生まれた日本人である彼らが
「エベレスト」になぜ挑むのか。
彼らはなぜ高い山に魅了されているのか。
彼らの山に対する「執念」のようなものすら感じる。

なぜ

本来なら多くの人とともに登る登山。
だが、彼らは少ない人数で、より短時間で、より厳しい環境で、
山を制覇することを望んでいる。
「羽生 丈二」という男はまさに山にとりつかれた男だ。

工事現場で働き、ワンルームの部屋にすみ、決して裕福とはいえない。
だが、自分以外の誰かがたった一人で難しい山に登ったときけば、
彼はすべてを捨てでも「山」に挑もうとする。

「なぜ、山にのぼるのか」

賞金がでるわけでもない、そこにあるのは「名誉」だけだ。
一歩踏み外せばあっさりと命を失う。
神という山に挑むのに人間はあまりにも小さい。
描写としては地味だ、だが、そんな地味な登頂の中で
一歩のミスで小さな人間はあっさりと死ぬ。

いつ死ぬかわからない。
そんなリスクを背負いながらも彼らは山に登る。
なぜそこまでして彼らは山に挑み続けるのか。

そんな「羽生 丈二」という男の過去を探る中で
主人公もまた彼に取り憑かれていく。
どこにいるのかも、今何をしているのかもわからない彼の、
山に挑み続ける男に魅了されていく。

そして「羽生 丈二」という男を主人公は相まみえる。

証明

後輩を失い、指を失い、ライバルを失っても
彼はまだ山を登ることを諦めていない。
無酸素で「単独登頂」という誰も成し遂げていないものを
彼は成し遂げようとしている。

主人公はそんな彼の「証明」になりえようとしている。
たった一人で山に挑む彼に、言葉もかけず、手もかさず、
ただひたすらカメラを通して見守ることしかできない。
「神」という山に挑むものを見届ける。それが主人公の役目だ。
そして同時に見ている私達でもある。

「1度山を覚えたら取り憑かれる、そういうもんだ」

言語化できる言葉は人にはない。
神に挑む、それは人が根底に抱えている高みへの欲望の現れなのかもしれない。
地位を求めるもの、異性を求めるもの、幸せを求めるもの。
皆、人は生きていく上で今の自分よりも高みのあるものを求める。
彼にとってはそれが「山」だっただけだ。

誰よりも厳しい状況で、誰も成し遂げていないことをしたい。
そんな彼を見つめ、追い、撮る。それも至難の業だ。
彼が残した足取りを頼りに主人公もまた「神」に挑む。

神への道

頂上に至る過程は過酷そのものだ。
あっさりと変わる天気、過酷な山壁、
そんな道中を主人公は必死についていくものの、
途中でついていけなくなってしまう。

だが「羽生 丈二」という男はそれでも登り続ける。
本当の意味でたった一人で、彼はそこまで登り続ける。
例え「下山」できなくとも、彼は最後の最後まで山に挑み続けている。
それは彼だけではない、多くのクライマーがそうだ。

言葉にはできない。
山を登り続ける者たちのロマンがこの作品にはつまっていた。

総評:フランスアニメ映画には熱きロマンがあった

全体的にみて海外映画だからこそのキャラクターデザインや
色合いなどの癖はあるものの、94分という尺で
どっしりと「登山家」というものを描いている作品だ。

「なぜ、山にのぼるのか。そこに、山があるからだ」
有名なこの言葉だが、そんな言葉の代名詞のように
「羽生 丈二」という男の人生を描いている。
山に全て捧げた男の生きざま、そんな生き様を主人公を通して見るような、
まるでドキュメンタリー映画のようなストーリー構成だ。

登山のシーンも決して派手ではない。
背景もまっしろな雪山でしかなく、絵面としてはやや地味だ。
美しい光景というよりも、閑散と乾いた空気感すら感じる光景が
より、登山家の精神状態を表すような描写になっており、
派手さこそ無いもののみるとどっしりと作品の世界観に飲み込まれる。

終わりもあっさりとしたものだ。
だが、そのあっさりとした感じが妙に心に残り続ける映画だった。

個人的な感想:おフランス

フランスのアニメ映画というのをおそらく始めてみたのだが、
「フランス!」という感じはあまり感じないのが1番興味深いところだった。
キャラデザや色合いこそ海外味を感じるものの、
それが欠点になっておらず、日本人でもこの作品を素直に楽しめることができる。

調べた所、原作からカットや改変してるところもあるようなので、
この機会に原作も読んでみたいところだ。

「神々の山嶺」は面白い?つまらない?

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